第135話 エニグマになる前、ゴルド
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あらすじです。
これは、エニグマ、ゴルドの前の話である。
彼には記憶がない。
年齢として十四だ。
どこで産まれ、どう育てられたか? その全ての記憶が抹消された。
ここでは必要ないからだ。
彼のいた施設は、遺伝子を操作して強靱で知性が高い戦士を作り出す場所だった。
無論、彼は産んだ母親や父親がいる筈だ。
だが、それは必要ない。
獅子は子を千尋の谷に落とし、這い上がった子を育てる。
やがて育った子は、父親をくびり殺し、母親と姉、妹をレイプして、父親と同じように、レイプした女性から産まれた子を千尋の谷に落とし、父親と同じように殺される。
まさに、獅子となるには、そのような呪いじみた破滅のループの非人道的な行いでしか生み出せない。
まさに、意味の無い事である。
そんな無駄をするより、最初からそれ相応の、強靱な因子を持った子供を作り、強靱に戦士として育てる方が効率的で、精神を痛まないし、トラウマもないので、冷静で知性が高い人物が出来上がる。
彼はその中でも飛び抜けて優秀だった。
彼と同じ子供達は、同じ施設に多くいた。
その規格に外れれば淘汰される事は無い。
その戦士となる子供の得意分野を伸ばし、それ相応の場所へ子供達を導く。
無駄な精神論。
努力すれば、報われるなんて、意味の無い事をしない。
鉄は熱いうちに叩けなんて、人は鉄ではない。愚かな考えだ。
人は才能の存在、可能性の獣、己の適正にあった、適正な戦士になるだけ、何故なら、その子達は、始めから優秀な因子を持っているからだ。
そして、その子達が必要とされる戦争もあった。
そこでその子達は圧倒的な力を発揮する。
全てが順調だった。
そんな子供達の彼、ゴールド、ゴルドも素晴らしい栄誉を上げる。
二十歳になり、戦争の終わりが見えた。
勝利目前で、戦況は盤上が引っ繰り返る事態になった。
全てが超絶に圧倒する力に一蹴され、ゴルド達は敗北した。
栄誉も、名声も、戦う意味さえ没収されたゴルド達だが、最後まで戦い、僅かしか生き残らなかった。
その後、ゴルド達を待っていたのは、社会不適合者としての烙印だった。
勇士と謂われ、褒め称えられたゴルド達は、ただの犯罪者一歩手前の存在に成り下がった。
ゴルド達は散り散りにされ、社会公正という名の監視という飼い殺しが始まった。
ゴルドはとある女性の元へ保護観察という、監視下に入る。
女性は二十歳のゴルドより二つ上のブロンド髪で、仕事は裁判に関する長官の仕事をしていた。
その女性の下で日々を過ごす。
日常の常識、生活の仕方、掃除、家事と、一般社会としての当たり前の生活。
いわば、女性の世話をするヒモ男のような日々だ。
女性はゴルドを保護した目的があった。
ゴルドには、知性も体力も、とにかく優れた因子を持つ遺伝を保有していた。
女性の望みは、自分の子供を作る事。
だが、ただの子供では満足出来ない、自分より優秀な因子を持つ子供。
そんな幻想に囚われていた。
やがて、ゴルドの社会適合の評価が認められ、ゴルドの遺伝子の中で優秀な因子の生殖細胞を取り出し、自分の遺伝と混ぜて、子供を作り妊娠した。
女性にとっては、ゴルドはただの利用できるだけのモノ。
それだけ、出産後は、世話の出来るゴルドに任せればいい。
自分は悠々自適に、エリートのステップと母親という信用を得て、更なる飛躍が出来ると…この時は思っていた。
だから、ゴルドにこんな事を言った。
愛情なんてバーチャルの体験で十分よ。
それを聞いたゴルドには、何の変化もなかった。
いや、心の乱れさえない。
そう、ゴルドは戦士としての人生こそ、生き甲斐なのだ。
このような日常など、生きている感触がしなかった。
だから…チャンスを狙っていた。
子供が生まれた、ゴルドの金髪を持った愛らしい女の子だった。
女性は赤ん坊を得た事で、考えが変わり始める。
今までエリートを生きるのが人生だと思っていた。
だが、赤ん坊がそれを変えた。
赤ん坊にとって両親は絶対に必要なのだ。
両親こそ、一番なのだ。
赤ん坊を通して、今まで出会えなかった事が起こり、多くの代えがたい幸せを手にした。
ゴルドも、赤ん坊の面倒をよく見てくれる。
赤ん坊にとって。とても良い父親だった。
女性は思う。このまま、この幸せが続いて欲しい。
だが、ゴルドだけは、毎日をカウントしていた。
後、四年。
女性は、ゴルドに今、幸せ?と。
だが、ゴルドは、女性が前にいった言葉をそのまま吐いた。
愛なんてヴァーチャルで十分だろう。
女性は恐怖した。
自分がやってきた事へのしっぺ返しが襲ってきたのだ。
何とか、この日常を守ろうと、奔走する。
だが、変わらない。
変えられない。時間が全く足りない。
ゴルドの保護観察が終わるまで後、三年。
ゴルドは待っているのだ自分が解放される日を…。
女性は、必死に家族の時間を作って大事にする。
沢山の思い出を娘とゴルド共に作る。
それで、ゴルドは考え直してくれると…。
後二年。
ゴルドは、良い父親だった。
子供を大切にしていた。
愛情があった。だが、ゴルドにとってそれは生き甲斐ではないのだ。
女性は、幸せな思い出だけを沢山作り。
ゴルドは、ただ…解放される日を待つ。
女性は焦る。
このままでは、ゴルドは確実に何処かへ消える。
なんとかして止めねば。
ゴルドを診察している医師に、ゴルドは異常だと伝える。
医師は頭を横に振る。
そんな事はありません。彼はいたって正常です。むしろ、強靱な方だ。
そう、ゴルドの保護観察は、いわば、政治的な所為で行われていたのを医師は分かっている。
始めから、異常者ではない。
戦士として鍛えられ、強靱な人物であるという、分かっているのだ。
だから、医師は逆に女性に対して精神を安定させる処方をした。
後、一年
女性は、ゴルドに提案する。
もう一人、子供を作ろう。
今度は、人工授精ではない。ちゃんと夫婦として作ろうと…。
だが…愛なんてヴァーチャルで十分だろう。
ゴルドの変わらない言葉、昔、自分が傲り高ぶり、間違った所業のツケだった。
女性は、ゴルドに縋った。
止める為、この日々を守る為に。
自分が間違いだったと
その日は来た。
何時ものようにゴルドは娘を保育園に預け、女性は仕事へ向かった。
仕事場に来た女性は、時間をチェックする。
もう、ゴルドが子供を預けて家にいる時間だ。
家に連絡を入れる。
誰も出ない。
女性は仕事を放りだして、家に帰る。
そこは、ゴルドの荷物だけが消えた場所だった。
ゴルドは荷物を抱えて街中を進む。
自分の行く先なんて幾らでもある。
世界には戦場が、生き甲斐が満ちている。
そこへ、とある男が呼び掛ける。
黒の長髪、碧の瞳の優男、その笑みはまるで残虐な道化師のようだ。
ゴルドは直ぐに男が誰だか分かった。
かつて、自分達を敗北させた人物だ。
優男はゴルドに語る。
君の死に場所たる修羅の戦場があるのだがねぇ…。
ゴルドは笑う。
それこそ、待ち望んでいたからだ。
女性は、必死にゴルドを探す。
警察にも届けて、とにかく、全てを忘れてゴルドを探す。
全く見つからない。
焦燥して、娘を迎えに行くしかなくなり、娘と帰る道がら
「ねぇ…良い子じゃなかったから、パパは、いなくなったの?」
娘の言葉に女性は涙して、娘を抱き締めるしかなかった。
女性の全ての幸せが崩壊した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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ありがとうございました。