第134話 崩壊
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あらすじです。
エニグマのキャロルの施設だったここで、ディオス達はキャロルと対峙する。
緊張の両者、そして戦いの火蓋が切られる。
エニグマ、キャロルの根城だった、人の命を材料にする死刑執行施設で、ディオス達、ディオス、ラーナ、ユリシーグ、ケンジロウの四人は、キャロルと睨み合う。
キャロルは残虐な笑みを浮かべて四人を威圧する。
誰か一瞬でも、動けばここは修羅場と化す。
キャロルの最悪な魔導生体実験場のここで、一瞬で全てが灰燼になる戦いが始まる前である。
誰一人、指一つさえ動かさない。
沈黙が数分続く。
その間にも、自動で動く施設の機械達は淡々と作業をこなす。
マジックハンドに掴まれて、死刑囚から取り出した命を結晶化させた、次なるアクワ・ウェーターが実験場の中核の台座に填まった瞬間、全てが動いた。
ディオスは
”グラビティフィールド・オーバー”
と、実験場全域を重力に包み、キャロルの動きを止めようとしたが、キャロルは、飛翔して両手足に黒い糸を束にした獣爪を纏い、天井に張り付く。
ラーナがそこへ、ククリナイフを投げると同時にケンジロウがドラゴンを生成して、キャロルに向ける。
キャロルは両手を交差させて、黒い糸の束を生成すると、その糸をドラゴンへ放つ。
中級サイズのドラゴンが黒い糸の雨に貫かれ消失する。
その隙に、ディオスとユリシーグがキャロルの両脇に達して、超重力の塊でキャロルを挟み撃ちにしようとしたが…キャロルは落下して、二人の攻撃がぶつかり、周囲に超重力の力を放って圧殺を起こす。
機械達が、二人の重力攻撃の余波によって壊れ、その残骸がキャロルに降り注ぐ。
そんな中でキャロルは着地したそこにあった、アクワ・ウェーターの入るケースへ獣爪を突き立て
「では、諸君、生きていれば…また会おう」
アクワ・ウェーターを暴走させた。
アクワ・ウェーターの暴走によって無機物が有機物のように振る舞い、金属という金属が歪な魔物へ変化する。
「待てーーーーーー」
ディオスが追いかけようとするも、実験場が傾き巨大なティラノサウルスのように変貌する。
「はぁはははははははははは」
と、キャロルの高笑いが響いて、キャロルは消えた。
そして…
ゴギャアアアアアアアアアア
実験場だったそこが、歪なティラノサウルスとなって吼える。
ラーナはケンジロウが発生させた翼手のドラゴンに乗り、ケンジロウと共にそこから離れる。
飛翔魔法で浮かぶディオスは忌々しい顔をしていると、ユリシーグが同じ飛翔魔法で近づき
「もうここは…」
「おい!」
と、翼手ドラゴンに乗るケンジロウ、その後ろに同じく乗るラーナ
「ディオス様!」
ラーナの声にディオスは
「分かった」
と、天井へ右手を挙げて
”グランギル・カディンギル”
極太の光線魔法を放って天井を突き破り大穴を開けた。
そこから、四人が脱出すると、上空から変貌する施設を見つめる。
六角形の施設は、卵の殻のように天井が破れ、そこから無数の歪な巨大魔獣達が溢れてくる。
まるで、地獄の底から這い出てくる悪獣達のような様に、ケンジロウが
「これはもう…ダメだな…」
そう、この凶悪な魔獣達を外へ広げてはいけない。
ディオスは
”クワイトロール・ホロウ・オクタゴン”
魔獣達が這い出てくるそこを、八角形の空間防壁で囲い閉じ込めた。
「ああ…始末する」
と、ディオスが告げて、誰も反対しない。
”バルド・フレア”
極大殲滅魔法にて、施設を完全に消滅させる。
膨大な閃光と衝撃波、超高熱によって、施設は、発生した魔獣達ごと、蒸発した。
超高熱によって地面は融解して鏡面のようになっているそこを見つめながら
もしかしたら…キャロルは最初から施設を放棄するつもりだったのでは?…と。
施設への潜入、そして、このような事態になるまでの時間の短さ。
どこか想定されていたような感覚がある。
「エニグマの手の上か…」
ディオスは自分達が先手を打てない状態に苛立った。
ディオスは、アンジェロ達、フォルカ・ファミリーのホテルの事務室にいた。
アンジェロとラジュラと前に、事の全てを説明する。
ラジュラは
「そうですか…」
ディオスは渋い顔で
「幾ら、情報があっても肝心の施設がもう…この世にないとなると…このベアナハ共和国の上層部を攻めて、エニグマとの繋がりを探し出す事は難しいだろう」
アンジェロが
「ディオスさんは、どうします?」
「施設から取った情報を持ち帰って、色々とやるさ。エニグマから先手を取れれば上出来といった具合だ」
ソファーに座り向き合うそこへ、ディオスの右の空間が円形に切れる。
「はぁ…」
ディオスは溜息を漏らす。
これに憶えがある。
切れた円形の空間から、彼女、アルディルが姿を見せる。
「やっほー」
空間を切って転移をする大鎌を片手に挨拶する。
アンジェロとラジュラが構えるも、ディオスが
「待ってくれ、知り合いだ」
アルディルがディオスに近付き
「さっそくだけど、アンタがあの施設から抜き取ったデータ、頂戴」
ディオスは頭を掻いて
「アンタ達にも当然分ける。だが…ここじゃない。各国の代表に集まって貰って、そこで分ける。それで良いだろう」
アルディスは鋭い顔をして
「ダメ、それじゃあ…この国が潰れる。その為にも、データから然るべき事をやってから、開示させる。アンタも国の機関に属しているなら分かるわよね。まずは、自罰させる。それで、ダメなら…外から圧力を加える。それが順当よ」
ディオスは額を掻いて
「確かに道理には適っている。だが、やはり…エニグマの脅威を知らせる為にも、まずは、国の代表にこれを知らせる。それが必要だ」
アルディルは鋭い顔をして
「どうしても渡せない…」
ディオスは無言でアルディルを鋭く見つめる。
互いに無言で鋭い視線を交わした後、アルディルが
「分かったわ。後で楽しみにしてなさいよ」
と、大鎌を振って空間を切って転移して消えた。
「はぁ…」
と、ディオスはソファーに寝そべり
万年皇帝ね…。そうやって、世界の平定を治めてきたのかねぇ…
帰る時、空港でケンジロウとジャニア、アニアを前にディオスが
「世話になった。達者でな」
アニアが営業スマイルで
「また、来たら言って。サービスしてあげるから」
「ははは…」とディオスは堅い笑みをして
「なぁ…アンタは、帰らないのか?」
ケンジロウを見つめる。
ケンジロウは得意げに笑み
「この事件が終わった事に対する休暇だ。ちょっと楽しんでから帰るさ」
と、ジャニアの肩を抱いた。
「アンタも楽しめばいいのに…」
と、ジャニアは残念そうだ。
ディオスは肩を竦め
「まだ、仕事が残っている。やるだけさ」
「そう…」とジャニアは告げた。
ケンジロウは「堅物が…」と。
こうして、三人に見送られてディオスはバルストランへ帰国した。
帰国して直ぐ、王宮へ向かい今回の事件の顛末を報告にソフィアの執務室へ入る。
「ソフィア陛下…今、戻りました」
鬼のような形相のソフィアが立っていた。
「え?」
ディオスは意味が分からなかった。
ソフィアは足腰を入れて思いっきり
「この浮気者ーーーーーー」
ディオスに腹パンした。
「え! えぁ、ぁ、ああ」
深く入ったソフィアのパンチに悶えるディオス。
ソフィアはディオスの後ろに回って、ディオスを腰から抱き締め
「この、最低野郎がーーーーーー」
バックドロップされた。
ディオスは後頭部から落ちて
えええええええええ!
目を剥いた。
そして、その視線の先には、なんとディウゴスがいた。
ディウゴスが
「茶番は終わりましたか?」
ディオスは正座させられ、とある写真をソフィアから突きつけられた。
「はぁーーーーーーー」
ディオスはその写真を見て声が裏返った。
その写真には、自分とアニアが腕を組んで歩いている姿を上から撮ったモノだ。
ソフィアが声を荒げ
「アンターーー 調査に行って、現地で浮気ってどういう事よーーーーー」
ディオスは立ち上がり
「ちょっと待てーーーーー」
何で、こんな写真があるんだ? てか、いつ撮ったんだ?
いや、その前に、どうしてこの写真が…。
ディオスは、ディウゴスを見る。
ディウゴスは静かに事態を見ている。余裕そうに眼鏡の付け根を上げる。
ディオスはアルディルの言葉を思い返し…。
まさか…!
ディウゴスが
「このような大英雄の醜聞。広まれば、どうなるでしょうね…」
ディウゴスは余裕な顔で
「きっと、奥様達も悲しみますよ」
ディオスの額に青筋が浮かぶ。
コイツ等…。
「ソフィア、聞いてくれ…これは」
パチンとソフィアは、ディオスの頬を叩き
「今更、言い訳するな! 醜いわ!」
完全に聞いてくれない。
ディオスは項垂れる。
ディウゴスが
「この秘密は、今回の事件でディオス様が得た情報とトレードという事で、こちらも帳消しにしますので…」
クソ!とディオスは苛立った。
結局、ディウゴスの言う通りになって、データは持って行かれるわ。
その後、ソフィアはディオスを連れてディオスの屋敷に行くと、妻達クリシュナ、クレティア、ゼリティアの三人の前でディオスを土下座させて、床に頭を擦りつけさせながら。ワンワンと泣いて、ディオスが浮気したとか、アタシの監視が甘かったとか喚く。
クレティア、クリシュナ、ゼリティアは瞬きして、ディオスに事の顛末を聞く。
そして、何故か、ソフィアの腹パンがディオスに入り
「アンタが悪い!」
「ゴフ…」
と、ディオスは理不尽を感じた。
クリシュナ、クレティア、ゼリティアは、三人して「はぁ…」と溜息を漏らして項垂れた。
ディオスからデータを回収したディウゴスは、アインデウス皇帝の前に来る。
アインデウスは、一番下の子の八歳の男の子と女の子の相手をしている。
アインデウスが息子と娘に
「すまん。ちょっと用事が入った。また、後でな」
「うん」と二人は頷いて離れた。
アインデウスとディウゴスは
「ディウゴス、首尾は?」
「はい、仰せの通りに…」
「そうか…まだ、世界がエニグマの事を知るのは早い」
「アインデウス様、僭越な事を申し上げますが…。エニグマの事、世界に広まるのは時間の問題だと思われます。ディオス・グレンテルの影響によって、世界が上手く纏まりつつあります。そうなれば、必然に国を跨ぐ非道に対処するのは自明の理でございます」
アインデウスは腕を組み
「だが、まだ…まだ、揃っていない。今代のアインデウスで、その欠片が揃ったなら、アインデウスの…世界の秘知を自ら開示させる」
ディウゴスはお辞儀して
「その時が来る事を我々、アインデウス様に使える72名の聖隷も心よりお待ちしております」
アインデウスは自分の右手を見つめ
「杉田 勇志郎…ディオス・グレンテルよ。お前は我の所まで届くか?」
それはディオスへの希望を込めた問いかけだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。