第131話 酒場での遭遇
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ディオスは、酔っ払った男に絡まれて対処していると、なんと追っている物を持つ人物と遭遇した。
「あああ! なんだテメェーーーー」
声を荒げる酔っ払った男。
アップテンポな曲に、ネオンが激しいクラブの酒場で、ディオスは酔っ払いの張り子の虎となっている男を凝視する。
「はぁ…」
と、ディオスは溜息を漏らし
関わるのも面倒クサい。
どうしようと考えていると、ケンジロウが
「いや…すまね。ほら、謝れよ」
ディオスはケンジロウを横見する。
無用な争いを避ける様に手引きしている。
「すまなかった」
と、ディオスは頭を下げる。
これで、終わるだろうと思ったが、張り子の虎となった酔っ払いには通じなかった。
「テメぇぇぇぇ! すかしたツラしやがって、オレを舐めているのか!」
酔って威勢の良い男は、ディオスの襟を掴む。
ディオスは冷静に…
「ああ…つまり、これは…攻撃という判断でいいのかなぁ?」
「ああああ!」
と、男が声を荒げると同時に、ディオスは男の掴む右手を両手で握ってヒネり、男の腕が固められ、体勢が崩れた所に足すかしを喰らわせて、男を転ばせる。
その様子を、最初に話しかけた若者達が見つめている。
倒された男は立ち上がって
「やろう…舐めやがって」
と、魔導銃を取り出した。
ケンジロウが頭を抱える。
「全く、コイツは…」
そう、この男は威勢がいいだけのチンピラだ。
魔導銃さえ出せば、相手を怯えさせて何でも出来ると思っている。
目の前にいる男、ディオスはそれが全く通用しない次元の人物だと知らない。
弱い男ほど、威勢を張る。
弱いから、自分を強く見せる。武器をぶら下げて、相手を威嚇しないと、何も出来ないからだ。
「死ねーーーー」
チンピラは、魔導銃の引き金を引いた。
ディオスは嘲笑いを向け、ベクトルを曲げるレド・ゾルを使う。
そういえば、この魔法を使うのは久しぶりだ。
チンピラが放った魔法弾が、ディオスの足下へ落ちて床を壊す。
何発も連射させるも、その魔法弾は、全てディオスの足下の床に突き刺さるだけだ。
カートリッジの魔力を使い切って
「はいはい。これで終わり。もう…いいだろう」
と、ケンジロウが止めに入る。
魔導銃でも倒せない相手なのだ。敵わない。
どう、おバカなのか、チンピラは魔導銃を捨て
「野郎…バカにしやがって!」
懐からナイフを取り出す。
ケンジロウは頭を抱える。
バカ過ぎてもう、どうしようもない。
ディオスがケンジロウの肩に手を置き
「もう…いいな」
ケンジロウがディオスの前を開けた瞬間、ディオスはベクトの瞬間移動でチンピラの懐に瞬間移動して、超震動の空間膜、エンテマイトを纏い、チンピラの腹に正手した。
チンピラは大砲の弾のように吹き飛び、壁に衝突した。
チンピラを吹き飛ばした手を払うディオス。
そこへ、チンピラの仲間が集まる。
仲間は懐からナイフを取り出し、ディオスを囲む。
ディオスはフッと嘲笑いを向ける。
そして…
”グラビティフィールド”
チンピラの仲間十名を重力魔法で床に叩き付ける。
本来なら、この重力魔法程度など、解除できる魔法を使えるヤツがいる筈が…この連中は、全く魔法が使えないのだ。
十人もいて、誰も魔法を使えるヤツがいないって、どんだけ、低レベルなんだよ。
この世界には魔導士が多い。
そうでなくとも、魔法に関する技術は、ある程度持っている者達が大多数なのだ。
確率の問題としても、十人いれば、闇属性の魔力を持っているヤツは一人や二人はいる筈なのに、その対処を知らない。
なんか、弱いモノいじめのようで、気が引けるディオス。
「さて…」
重力魔法を発動させて、二十秒だろう。
重力魔法にて、酸素も重力で重くしているので、呼吸で取り込めないので、窒息で気を失うには三十秒程度で十分だ。
「あと…」
五秒で三十秒になるところで、魔法が解除された。
一人の獣人の男がグラビティフィールド・アンチを唱えて十人を解放した。
ディオスはその男を見つめ
「やっと、相手が出来るヤツが来たか…」
チンピラの仲間十人は何とか立ち上がって、男の後ろに隠れる。
ディオスはそれに哀れみを向ける。
おいおい、大の男が十人もビビって、一人の後ろに隠れるのかよ! 情けない!
十人が
「やっちまってくださいよ」
「兄貴、頼むぜ」
ディオスを睨む男
「テメェ…覚悟しろよ!」
”レゾ・フレア”
高位魔法バハ・フレアの下位版、中位魔法の炎である。
炎の渦がディオスに迫る中、魔法を唱えた男の首に、例の魔法を増幅させるあの宝石のネックレスが見えた。
ディオスは男を睨み
「神格二式、トールギス」
力の神格を自身にエンチャンさせて、放った炎の渦を右手一本で突き破り、魔法を放った男の襟を掴むと、男をぶん回して壁や床に叩き付ける。
ドン・ドン・ドン・ドーン
男はぼろ切れのように叩き付けられ、意識が途絶寸前である。
「おい!」
と、ディオスは男を釣り上げ、左手で男がしている魔法増幅の宝石ネックレスを掴み
「これを何処で手に入れた?」
その様子を、ケンジロウは隣にある席に座って呆れ顔で見つめる。
「ああ…ああ」
男は虚ろだ。
「ふん」とディオスは男を投げ捨て、ネックレスを引き千切って取った。
十人達は怯えていると、そこに
「おい、アンタ…ウチの連中に何やっているんだ…」
厳ついオーガや獣人の男達が四人近付く。
「大兄…」と十人の男達は告げる。
どうやら、この者達の更に上の者達らしい。
ディオスは、四人を睨む。
四人は、背筋が震える。
ディオスの魔獣やドラゴンさえ怯ませる威圧に、只者ではないと感じる。
ディオスは四人に近付く。
四対一なのに、圧倒的にディオスの方が大きく見える。
ディオスは四人に、男から引き千切ったネックレスを見せ
「コイツに関する情報が欲しい。売ってくれるなら相応の金は出す」
そのやり取りにクラブ内の全員の視線が集中する。
四人は、普通ならディオスを囲んで威圧するが、ディオスの威圧の方が凄まじくその場で耐えるのに必死だった。
そこへ、金髪の曲がり角を持った魔族の女性が来る。
「アンタ達、止めて置きな」
妖艶なスリットスカートの服装に、怪しげな雰囲気の彼女は近づきディオスの肩に手を置いて
「アンタ…もしかして…」
ディオスの顔を見つめた後、フッと笑み
「ああ…そうか…」
四人の内の一人が
「何のつもりだ、ジャニア」
と、魔族の煽動的な女性の名を告げる。
ディオスは黙って事を見つめる。
ジャニアは笑みながら
「アンタ達、コイツを知らないのかい? この人はねぇ…ディオス・グレンテル。アーリシアの大英雄様だよ」
「な!」と四人はざわめく。
そこへケンジロウが「本当だぜ」と告げて立ち上がり
「コイツは、アーリシアの大英雄様だ。証拠を見たいか?」
ディオスはケンジロウを横見した後、懐から魔導士階級プレートを取り出す。
それを四人に向けると、四人の一人がプレートにあるゴールデンフィアに触れて、その魔力抵抗で本物と分かり、唾を飲み込む。
そこへ、十人が来て
「大兄! やっちゃってくださいよ!」
「バカ野郎!」
と、四人は怒る。
ヴァシロウスを倒し、数多の国家間紛争さえも一蹴する、バケモノ オブ バケモノが目の前にいるのだ。
自分達なぞ、一瞬で消し炭にされるのを分かっている。
四人は
「今日はこれくらいに」
「アア!」とディオスは不快そうに声を荒げると、四人は怯み下がって
「行くぞ!」と十人と倒された男を抱えて店から出て行った。
ディオスは頭を掻いた後、カウンターへ行き
「すまん、迷惑料だ」
と、小切手を取り出し、金貨百枚を切った。
マスターは
「いいさ、アイツ等は色々と迷惑な事をしていたんだ。ぶちのめしてくれてスッキリしたさ」
ケンジロウがディオスに近付き「出直すぞ…」と告げた。
「うん」とディオスは頷く。
そこへジャニアが来て
「ねぇ…アーリシアの大英雄様。今日はアタシと遊ばない。きっと快楽天するわよ」
ディオスの首に腕を回す。
フゥゥゥとディオスは溜息を吐いて
「また何時かな…」
と、ジャニアの腕を外すと
「なぁ…アンタ…」
と、ケンジロウが始めに話し掛けた青年のリーダーが話しかける。
一番奥で、全体を見ていた青年、碧髪で鋭そうな青年が
「ウチに来なよ。もしかしたら、欲しい情報が手に入るかもよ」
ディオスは青年を見つめ
「いいのか?」
青年は笑み
「アンタのお陰で楽に仕事が出来た。アイツ等を追い出すのがオレ等の仕事だったんだ。その礼と、それに色々とね」
ディオスはケンジロウを見ると、ケンジロウは頷いた。
「分かった。寄らせて貰う」
ディオスは青年の言葉に従う事にした。
青年は手を差し出し
「オレは、アンジェロ・フォルカ。フォルカ・ファミリーの一人だ」
「ディオス・グレンテルだ」
と、ディオスはアンジェロと握手した。
ディオス達はアンジェロ達と共に、アンジェロの事務所に来る。
ホテル・フォルカ。
一見、十五階建ての大きなホテルのように見えるが…中に入ると、一般人もいるが、チラホラ、その筋の人の姿も見受けられる。
アンジェロは、事務所にしている屋上にディオス達を連れて行く。
その階には、黒服のそれらしい人達が、腰に魔導銃をぶら下げてこの階層をブラブラとしていた。
その階層の一つの部屋、両脇を警備に押さえられるドアにアンジェロが来ると、警備がアンジェロを見て肯き、ディオス達を睨むと、アンジェロが
「この人達は、お客だ」
「どなたで?」
警備が聞くと
「アーリシアの大英雄だ」
警備が驚きの顔を向け、ディオスを見つめると、アッとした顔になる。
「通すよ」とアンジェロはドアを開ける。
「おじいちゃん、お客さんだよ」
部屋の奥の大きなデスクに初老の人族の男性がいた。
葉巻を吹かしている初老が、ディオスの姿を見た瞬間、デスクから立ち上がりディオスに近付き
「アンジェロ…これは…」
アンジェロが
「紹介します。ウチの頭でオレの祖父、ラジュラです」
ここの頭のラジュラはディオスを見るや、驚きで
「本物…か?」
「本物だよ」とアンジェロは微笑む。
ラジュラは頭を下げ
「どうぞ、汚い所ですが…」
丁重にもてなしてくれた。
デスクの前にあるソファー席にディオスとケンジロウを座らせ、高そうなウィスキーを出した。
「どうぞ…」と斜めの席に座るラジュラは薦める。
「ああ…じゃあ」
ディオスは貰うと、むちゃくちゃ美味かった。香ばしい香りが鼻を抜け、上品で奥深く甘いが程良く苦いウィスキーの味が口の中で広がる。
「これ、むちゃくちゃ高いウィスキーじゃあないですか!」
となりにいるケンジロウが
「美味ぇ…上物だ」
ラジュラとその後ろにいるアンジェロが、楽しんでいるディオスの姿に微笑む。
ラジュラが
「アンタには、返しきれない恩がある」
「ええ?」と戸惑うディオス。
ラジュラが
「ワシ等は、十九年前の第四次ヴァシロウス降臨の際にアーリシアから逃げ出した貴族のモンだ。アンジェロとワシに数十名の部下を連れてここに流れた。
第四次の時にアンジェロの両親もヴァシロウスに殺され、ワシ達は永遠にアーリシアに帰る事はないだろうと…思っていたが…。
アンタが、ヴァシロウスをぶっ倒してくれた事と、アーリシアから逃げ出した者達を、アーリシアに戻して欲しいってアーリシアの皆にお願いしてくれたお陰で、ワシとアンジェロに、逃げ出した者達が再び、アーリシアの大地を踏みしめる事が出来た。本当に、感謝している。
返せない恩義がアンタにはある」
ディオスは照れくさそうに
「そんな…普通の事をしたまでですよ」
アンジェロが
「おじいちゃん。アーリシアの大英雄はとある事で情報が欲しいみたい」
ラジュラが
「どんな情報ですか? 何でも手伝いますよ」
ディオスは懐から、あのチンピラ兄貴から奪った魔法増幅の宝石を取り出し
「これの手がかりを探っています」
ラジュラはそれを見つめ
「これは…」
「マズイか?」
と、ディオスは尋ねる。
ラジュラが
「いいや、これにはウチ等も困らされています。どうして…調べているんですか?」
ディオスは鋭い顔で
「世の中の裏に通じているなら、エニグマをご存じな筈。これを作るにエニグマが絡んでいるようなので。オレにとってはエニグマは天敵ですから」
ラジュラは笑み
「はは…エニグマですか。ワシ等も散々、エニグマに辛酸をなめさせられましたからなぁ。協力しますさ」
「お願いします」
ディオスは頭を下げた。
ディオスの丁寧な態度に、ラジュラは困り
「そんな、頭を下げないでください」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。