第130話 アフーリアへの潜入
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
とある魔法の力を凄まじく高める宝石が世界の裏社会に流通する。それは、人の命を材料にするエビルの外法によって作られている産物だった。それを追ってディオスはアフーリアに入ったが…
ディオスの子供達の新たな日課が加わる。
ゼリティアの城邸にも行く事は当然だが、同じくヴォルドル、レディアンの城邸にも行く事も増えた。
ティリオ、ジュリア、リリーシャ、ゼティアの仲は良く、お互いに色々と遊び合っていた。
子供達がお出かけして、遊んでくるようになると、ディオスは屋敷で仕事に没頭出来るが…何となく寂しさを感じた。
「はぁ…」
と、何となく溜息を吐く。
レベッカが来て
「順調に捗っておりますね」
ちょっと嬉しそうだ。
「ああ…うん」
と、ディオスは物足りない返事だ。
レベッカはその反応に気付く。
子供がいないと、ディオスは淋しいのだと分かり。
「お仕事が終わり次第、ティリオ様とリリーシャ様にゼティア様のお迎えをお願いしてもよろしいでしょうか」
それを聞いたディオスは目を開き輝かせ
「分かった。直ぐに終わらせる」
「ちゃんとやってくださいませ」
本当に子供と過ごす事が幸せなのだなぁ…とレベッカは呆れるも微笑む。
ディオスは仕事を終わらせて、魔導車で子供達を迎えに行こうとすると
「あ、待ってダーリン。アタシも行くわ」
「ああ…」
と、ディオスが返事をすると、クレティアが別の魔導車に乗る。
「おいおい、一台で十分だろう?」
ディオスの指摘に、クレティアは笑み
「レディアン様の屋敷に行けば分かるから…」
「んん?」
ディオス達は、二台でレディアンの城邸に到着すると、城邸に幾つもの外賓用の魔導車があった。
「ええ…なんだ?」
ディオスは、本館の方へ入ると、本館の広間に沢山の人達が集まっていた。
「今日は何があったんだ?」
首を傾げるディオスだが、その人だかりの中に、ヴァルドの姿を見つめ
「あ、兄上!」
ディオスはヴァルドの元へ走る。
「おお、ディオス」
ヴァルドは微笑んで呼び掛ける。
「兄上、これは…」
「ああ…これか、ヴォルドル家がアーリシアやその周辺国の武家の館に呼び掛けて、色々と武術の指南と開発をしないかと…呼びかけがあったのでね」
そこへ
「なんだ、お前も来たのか?」
背後でアルヴァルドの声がした。
「お、お父様…」
アルヴァルドと、脇に武に長けた二人の息子と娘が付いている。
アルヴァルドの次男坊ウルヴァドが
「お久しぶりですディオス様」
次女アーシュアが
「お顔を見られて嬉しいですディオス様」
ディオスは二人に微笑み
「元気そうで何よりです」
ディオスが全体を見渡して
「しかし、武術の指南と開発とは…以外ですね。アーリシアやその周辺国々が纏まってきて平和になって来たので…防衛としてシステム的な武力は上がっても…個人が持つ武術が盛んになるなんて…」
アルヴァルドは渋い顔をして
「ワシもそう思っていたが…事態はより、面倒な事になっている」
ヴァルドが複雑な顔をして
「国同士の交流が盛んになると、犯罪や不法行為も、国を跨ぎだした。それに、ここ最近、魔法技術の向上もあって、犯罪の質も高くなってきた。それを何とか制圧したり、治めたりするには、個々の武術の力の質を向上しなければならなくなった」
ディオスも渋い顔をして
「平和になったから…更に質の高く強い力が必要になったと…」
アルヴァルドが肯き
「そうじゃ、平和になったからこそ、それを守る為に力が欲される。面倒な事が多くなるからなぁ…」
「やれやれ…」
と、ディオスは頭を掻いた。
「ヤッホー ヴァルド兄」
と、クレティアが来て
「お父様、ご無沙汰です」
アルヴァルドに挨拶した。
「うむ、息災で何よりだ」
アルヴァルドが頷く。
ディオスがクレティアに近付き
「こういう事か…」
ひひ…とクレティアは悪戯な笑みをした。
その後、ティリオにリリーシャとゼティアを迎えに行き、アルヴァルドは、ヴォルドルの当主レディアンと話をする。
孫のティリオがヴォルドルの娘と許嫁になった事に、感謝と今後とのつき合いを…と。
レディアンは、こちらこそ、よろしくお願いする。
二人は握手を交わす。
帰りは、ディオスの運転する魔導車に、子供達とアルヴァルド達を乗せて、クレティアの魔導車にヴァルド達を乗せて、屋敷に帰る。
そして、ゼリティアもセバス達を連れて来て、みんなして屋敷で大騒ぎとなる。
ティリオとリリーシャにゼティアは、アルヴァルドとヴァルド達に一杯遊んで貰い、ディオスが妻達と一緒に歓迎の大きな夕食を作り、大所帯の夕食会にディオスの屋敷は、華やいだ。
子供達とアルヴァルドにヴァルドが一緒に屋敷の大きな風呂に入って、子供達が一緒に眠る大きなキングサイズのベッドに一緒に眠る二人、三人の子供達は、アルヴァルドとヴァルドに挟まれて直ぐに眠りに入った。
ディオスは一人用のソファーに座り、王都の夜景が見える書斎で本を読んでいると、ドアがノックされ、アルヴァルドとヴァルドの二人が入ってくる。
「あ、お父様、兄上」
二人はディオスの傍にある個別のソファーに座って
「いや…かわいいものだ」
と、アルヴァルドが微笑む。
「全くです。目に入れても痛くない」
と、ヴァルドが頷く。
ディオスは立ち上がって
「一杯やりませんか?」
二人は頷いた。
ディオスはお酒を持ってきて二人のグラスに注ぐ。
ディオスのコップには、アルヴァルドが注ぐ。
「あ、ありがとうございます。お父様」
三人してゆったりとお酒を楽しんでいると…アルヴァルドが
「なぁディオス。ヴォルドルの屋敷でヴァルド殿と話していたが…。妙なモノが裏社会で出回っている」
「妙なモノ?」
と、ディオスは眉間を寄せる。
ヴァルドが、懐から一枚の写真を出してディオスに渡す。
「これだ」
ディオスはそれを見つめる。
それは小指の爪の半分サイズの赤い宝石だ。
「何ですかこれは?」
アルヴァルドとヴァルドは視線を交わし、ヴァルドが
「その宝石のようなモノを持っていると、その宝石の力でどんな魔法も数十倍に増幅出来るそうだ」
「はぁ?」
ディオスには全く理解出来ない。
何かの魔導回路のような装置でもない。魔導具の系統か?
アルヴァルドが
「その宝石を、我らが回収して、調べた所に寄ると…人の生命エネルギーを固めた何かである事が分かった」
ディオスはその言葉を聞いて驚愕し、とある事が過ぎったのだ。
人の生命を道具にして使う魔法、エビルの外法が…。
「これをシューティア教のサルダレスに提出してみては?」
ディオスの言葉にアルヴァルドが
「もう、やった。サルダレスの結論は一つ、遙か昔に消えた禁忌の魔法、エビルの外法の産物ではないかと…」
ヴァルドが
「更に…この宝石が出回っている元は、アフーリアの中央にあるベアナハ共和国らしい」
ディオスは口元に手を置き
「まさか…」
そう、アフーリアにはゾルトリアのような凶悪な組織があった。
ゾルトリアは、エビルの外法に通じていた。
エビルの外法が道具を作る時に使う材料、アクワ・ウェーターは人の命が原料だ。
では、そのアクワ・ウェーターは何処から供給されていたのだろうか…。
そして、ゾルトリアはエニグマとも繋がっている。
「お父様…兄上」
と、ディオスは真剣な顔で二人を見つめる。
アルヴァルドは肯き
「すまん。お前の力を借りたい。これを作っている愚か者達を潰したいのだ」
ヴァルドも
「私も協力する。ディオス…」
ディオスは力強く肯き
「当然、力を貸します」
アルヴァルドがディオスとグラスを交わしながら
「正直、お前は頼りになる魔導技術の超エキスパートだ。連中からどんな魔法が飛び出すのか…。それに直ぐに対応出来るお前の力が必要なのだ」
「任せてください」
と、ディオスは微笑んだ。
その後、ソフィア達と相談して、ソフィアは快諾してくれた。
ゾルトリアのような危険な連中を放っては置けない。
ヴァルドと共に、アフーリアのレオルトス王国へ飛んだ。
レオルトスの王宮にてフィリティと合う。
「ようこそ、ディオスさん」
フィリティが微笑む。
もう、会った時から四年が経ち十九になる精悍なフィリティにディオスはお辞儀して
「お邪魔していますフィリティ陛下…」
フィリティは微笑み
「よしてください。自分とディオスさんの仲じゃあないですか…。毎年、誕生日になるとケーキや料理の品を頂くし、色々と相談に乗って貰って、助けて貰っているのは自分の方ですよ」
ディオスは暖かく笑み
「それでも、フィリティ陛下は、陛下です」
「もう…」
と、フィリティは親愛を込めてディオスの肩を小突く。
そして、フィリティは真剣な顔をして
「事情は、シャリカランとサルダレスの使いから聞いています。こちらへ」
外に漏れないように防音と防護が施された会議室に来ると、数名のフィリティの仕官達がいた。
仕官がお辞儀して
「どうもアーリシアの大英雄、グレンテル様。お会い出来て光栄です」
ディオスは頭を下げ
「こちらこそ、今回の事は、色々とありがとうございます」
仕官は笑み
「いえいえ、それでは…」
仕官がディオスをアフーリアの地図を広げたテーブルに誘う。
地図には、幾つもの鋲が打たれ、それにラインが描かれている。
そのラインが、とある国に集まっている。
そう、疑惑のアフーリア中央ベアナハ共和国へだ。
仕官が説明する。
「ここ最近、流通している魔法の力を大幅に増幅するという、あの宝石が流れて来たルートです。ほぼ…ベアナハ共和国に通じています」
ディオスが
「ベアナハ共和国は、何と?」
フィリティが
「全く憶えがないと…」
ディオスは額を小突きながら
「流通ルートは、犯罪組織ですか?」
仕官が肯き
「おそらく、禁忌兵器とされる魔獣が売られるルートと酷似しています」
魔獣、魔物に様々な改造を加えて更に強化した魔導生体兵器である。
レオルトスの内戦の時にディオスも遭遇している。
ディオスは考える。
今回のアクワ・ウェーターの産物が、広まっている事態に、お父様のシャリカランも、おそらく、ユリシーグのサルダレスも動いているだろう。
だとしたら…自分はどう動くべきだろうか?
一人で動いても、ここはアフーリアだ。
アーリシアのように自分のホームではない。
アフーリアに通じている人物のサポートいう形で関わる方が無難だ。
上手く動けそうな面子は…あ!
「フィリティ陛下、ヘルクタル共和国の方と合同でこの事態を捜査したいのですが…」
フィリティは肯き
「今回の事でも、ヘルクタル共和国も重く受け止めていますから、可能でしょう」
「では…」
と、ディオスは指名する人物をフィリティに耳打ちする。
「え、知り合いなのですか?」
「ちょっとね」
ディオスは、次にヘルクタル共和国へ行き、空港でとある人物と合流する。
「よう!」
と、ディオスは気軽に手を上げて返事を向ける人物。
「はぁ…」
と、呆れた溜息を吐くケンジロウがいた。
ケンジロウが悪態を付きながら
「全く、オレ等と合同で捜査しようなんて、どういうつもりだ? アーリシアの大英雄」
ディオスはフッと笑み
「現地に詳しい人物の方が、色々とやりやすいだろう」
ケンジロウは眉間を押さえて
めんどくせぇ…
と、思っていた。
ディオスが
「あれ? あのお嬢さんは?」
「ああ…ヴァアナなら、政府筋でそれに首を突っ込んでいるヤツがいないか、調べる方に回っているぜ」
「ふ…ん。という事は、オレ達は地道に…」
「ああ…地道に聞き込みだ」
ディオスとケンジロウは二人して、経由の飛空艇に乗り、夜になってベアナハ共和国に入った。
「こっちだ」
と、ケンジロウが魔導タクシーにディオスを誘う。
そこへ、一人の花売りの娘が来る。
「お花を買ってください」
「いや、今は…は?」
そう、その娘はラーナの変装だった。
固まるディオスに、ラーナは微笑み
「銀貨二枚です」
「ああ…うむ」
ディオスは銀貨を取り出し、花売りの娘に変装したラーナに渡そうとすると、銀貨を受け取れると同時にその手の中に何かを入れた。
そう、シャリカランが掴んだ情報の入った小型の魔導情報端末だ。
それをしっかりとディオスは握り
「はい」とラーナは握れる程の花の束を渡す。
その花の束の中にも小型の魔導情報端末が入っていた。
ディオスは受け取り
「ああ…ありがとう」
変装したラーナはお辞儀して去って行った。
ディオスが握ったそれを見ようとしたが、ケンジロウがディオスの肩に腕を回して
「おい、行くぞ」
と、取った魔導タクシーへ運びながら
「どうして、まどろっこし真似をして渡したか…理由を考えろ。オレ達は監視されているという事だ」
「ああ、分かった」
と、ディオスは花束と共に、握ったそれを魔導士のローブの中にしまった。
魔導タクシーに乗ったディオスとケンジロウは、ケンジロウが
「なぁ…おっちゃん。ここいらで、怖い連中がたむろする酒場を知らないか?」
魔導タクシーのおじさんが
「お兄さん達、観光に来たんじゃないのか?」
ケンジロウは笑み
「人捜しをしている。まあ…それなりに筋のモンだ」
「んん…」
と、おじさんが渋顔をすると、ケンジロウがその胸ポケットに数枚の金貨を入れて
「これは、迷惑料だ。連れて行ってくれるだけでいい。そしたら退散。なぁ…簡単だろう」
おじさんは項垂れ
「はぁ…こんだけ、弾んで貰ったらなら…仕方ない。あんたら、気をつけなよ」
ケンジロウは、ポンポンとおじさんの肩を叩き
「ありがとうよ」
魔導タクシーは、普通の夜の町から、怪しい光が包む繁華街に来る。
ディオスはそれを見て、らしい雰囲気だなぁ…と思った。
そして、黒いそれらしい雰囲気の酒場に到着する。
なんか、西部劇に登場しそうな雰囲気だ。
魔導タクシーが去った後、店の前にたむろする、それらしい露出が過激な様々な種族の女性達が来る。
「あら、お兄さん…遊びに来たの…」
と、女性達はディオス達に寄りかかり抱き付く。
ディオスの両脇をそれなりの過激な衣装の女性が押さえる。そして、ディオスの魔導士のローブの中に手を入れようとした瞬間、その手をディオスが握る。
「手癖が悪いぞ」
ディオスの目が鋭くなる。
正直、この手の女性に囲まれて良い気分でないディオス。
ケンジロウが
「おい、女を手荒に扱うな!」
と、忠告した後、ケンジロウは近くにいる女性に数枚の金貨を渡して
「泊まれる部屋が欲しい。アンタ達の場所を使わせて貰っていいか?」
女性は、仲間の女性達を金貨を分け合って
「いいわ。でも、アタシ達といい事で遊ぶのは別料金ね」
「分かっているさ」
ケンジロウは笑む。そして、ディオスの肩を持ち
「じゃあ、寝床も確保したし、行くぞ…」
ディオスを連れて、その危険な雰囲気の酒場へ入った。
そこは、西部劇のような外観とは裏腹に、ネオンや光線のライトが激しく動く、クラブのような踊り場だった。
アップテンポの音楽が流れ、人々が男女様々に踊っている。
ケンジロウが
「お前もこういう所で遊んだ事があるだろう…」
ディオスは渋い顔をする。
地球にいた頃も、この世界に来てからも、こんな場所で遊んだ事は無い。
「ないなぁ…」
「はぁ、外見通りの堅物野郎かよ。こっちだ」
ケンジロウを前に、ディオスは続き…お酒を出すカウンターに近い大人数席に座る一団の前に来た。
「よう…楽しんでる?」
ケンジロウが気軽に一団に呼び掛ける。
呼び掛けた一団は、二十代前半の男女達だ。
全員が警戒の視線を向ける。
奥にいる青髪の人族の青年が
「アンタ達、何の用なんだ?」
ケンジロウが気軽に
「ちょっと、年寄りに構ってくれよ。一杯奢るからよ」
ディオスはジーと事態を見つめる。
そこへ、酔っ払った男がディオスにぶつかって
「てめぇ! オレにぶつかってんじゃねぇよ!」
酔った勢いで変な文句を付ける。
「はぁ?」
と、ディオスが不快な顔を向ける。
荒事が起こりそうな予感がした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございます。