第129話 ティリオの許嫁、ジュリア
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでください。
あらすじです。
息子ティリオの魔力暴走と何とかする為に、レディアンに相談したディオスは、レディアンの推薦で自身の娘ジュリアとティリオが許嫁となる事態になり…
ティリオの事があって次の日、レディアンはゼリティアの城邸にて、ディオスから説明を受けていた。
ティリオの魔力が暴走した事、それが自分の魔導因子が原因という事。
その為には、精霊の主筋で王家とも血が繋がった人物の娘が必要な事。
その全てを深く頷いてレディアンは聞くと
パンとディオスの肩に手を置いて
「任せろーーーー」
気合いの入った声を放った。
ディオスはそれを聞いて逆に不安がこみ上げた。
そのまた次の日、早速、ディオスの事情に見合った娘がいるというので、レディアンがその女の子を連れて来た。
「どうも…」
と、その父親、シュリナーダが挨拶をする。
ディオスはガクッと項垂れる。
そう、レディアンの夫であるシュリナーダが娘を抱えて現れたのだ。
シュリナーダの抱える娘はレディアンと同じ碧髪で、レディアンの強い目元を持つチャーミングな幼女だ。
隣には母親のレディアンがいる。
「ディオス! 連れてきたぞ!」
ディオスは額を抱える。
よりにもよって、自分の娘を連れて来たレディアンに頭が痛くなる。
別に、この事を予想していない訳ではない。
だが…現実味がある想定ではないと、思っていた。
むしろ、ヴォルドル一門の何処かの娘が来るくらいが妥当だと…。
でも、現実は違った。
右斜め45度の勢いで、想定外が来てしまった。
ディオスは眉間を押さえて
「一応、検査はします。それで、合わない場合は…」
レディアンはガッツポーズをして
「絶対にそんな事にはならない。任せろ!」
ディオスは顔を引き攣らせる。
一体、どこからそんな自信が出てくるんだ?
その前に、自分の娘だろう?
いいのか? ホントにいいのか?
ディオスは頭の中でグルグルと思考が巡ってしまう。
そこへ、ゼリティアが肩に手を置いて
「夫殿、一応だからな」
オルディナイトの城邸に入ったレディアン家族は、トルキウス達が検査装置を広げる部屋に来た。
その道中、レディアンの連れてきた自身の娘、ジュリアがティリオと遭遇した。
ティリオは、クレティアの後ろに隠れてジュリアを見つめると、ジュリアがティリオに気付き、シュリナーダの抱っこを拒否して下ろして貰うと、ティリオに近付いた。
ジーとクレティアに隠れるティリオをジュリアは見つめる。
全く、視線を逸らさない。
ティリオが戸惑っていると、ジュリアが手を伸ばす。
その様子にディオスは…挨拶か?と思っていると…。
ジュリアが無理矢理にティリオの手を握った。
そして、ティリオを何処かへ連れて行こうとした。
「ちょ、ちょっと待って…」
ディオスが、ティリオの手を握るジュリアに近付き
「検査の方が先だから…」
ティリオからジュリアを離そうとしたが、ジュリアはジーとディオスを見つめる。
レディアンの力強い目元で何かを訴える。
ディオスの顔が固まる。
え、何? もしかして、離して欲しくないの?
シュリナーダが来て
「ジュリア…後でな」
ジュリアは父親であるシュリナーダを見つめる。
ジーと見て訴える。
シュリナーダは、ジュリアを抱えて何とかティリオから離すと、ジュリアは暴れる。
「な、後で会えるから…」
暴れるジュリアを宥めるシュリナーダ。
そうした事があって、検査場へ来たジュリアは、ソファーに座って腕に魔力波紋を調べる吸盤を付けて検査を受けている。
検査機の画面を見つめるトルキウスとサラナにミリア。
三人は、んん…と唸っていた。
そこへディオスが
「何か、あったんですか?」
トルキウスが、画面をディオスに向け
「これを見てください」
二つの魔力波紋が出ている。
トルキウスが指さして説明する。
「右がティリオの方、左がジュリア様の方です」
ディオスは右の眉間を引き攣らせ
「え…ウソ…」
と、言葉にした。
そう、ティリオとジュリアの魔力波紋は、一致しているのだ。
ほぼ、完全に魔力波紋の位相とタイミングも一致している。
そこへレディアンが来て
「結果は?」
トルキウスが
「抜群です。ディオス殿の妻のクレティア様とクリシュナ様のように、魔力波紋が一致しています。これなら、直ぐにでも互いの魔力暴露を行えます。効果を発揮するのも早いかと…」
レディアンはガッツポーズをした。
それにディオスは、何か釈然としない。
ディオスが、ティリオとジュリアの二人のうなじの所に、お互いの魔力を交換する呪印を描き、これで微量だが…ティリオとジュリアの魔力が交換し合う筈だ。
後は、どうなるか…とディオスは考える。
その後、ジュリアとティリオは、両方の親達が監視の下、遊びを始める。
ジュリアはティリオの手を取り、ジーとティリオを見つめる。
始めはティリオも戸惑っていたが、慣れたようでジュリアの握る手を上下させて遊ぶ、そこへリリーシャにゼティアも来て四人で、色んな玩具を使って遊んだり、城邸の中を走り回ったりした。
四人が遊ぶ姿を見て
「本当にいいのかなぁ…」
と、ぼやくディオス。
そこへクレティアが来て
「まあ、いいんじゃない。ティリオもリリーシャもゼティアも楽しそうだから」
そこへレディアンが来て
「ディオス、という事で私の娘とお前の息子が許嫁になった。よろしく頼むぞ」
力強く言われて、ディオスはガクッとなり
そうだよねぇ、やっぱそうなるよねぇ…。
「ああ…う…はい。でも、これだけは約束してください。どちらかが、犠牲になる関係はダメですから」
レディアンは力強く右腕を上げて力こぶを見せ
「大丈夫だ。絶対にそんな事には成らない!」
「は、はぁ…」
本当にどこから、そんな自信が来るんだ?と、ディオスは頭を傾げる。
そして、一週間ほどの様子見が必要との事で、トルキウスとサラナが残り、ミリアだけが帰国する。
ゼリティアの城邸で、ティリオにリリーシャとゼティア、ジュリアの四人は過ごす。
朝にこの城邸に来て、夕方帰るという四人の触れ合いをさせる。
この日々の中で、ディオスはジュリアの不思議な習慣を見る。
お昼、子供達が食事をする時に、必ずジュリアはティリオの隣に座りたがる。
四人並ぶ、四人の食事が並び、お祈りをして食べようとすると、ジュリアがティリオの食事をスプーンですくって食べる。
自分の分が目の前にあるのに、ティリオのモノを食べる。
ディオスはティリオの方が美味そうに見えるのかなぁ?
まあ、確かに他人が食べているのは、おいしそうに見えるよね。
だが…自分が食べた後、二杯目は、ティリオに食べさせる。
え? 何それ?
ディオスは首を傾げる。
そう、ジュリアはティリオの分を自分とティリオで分け合って食べるのだ。
ティリオの分がなくなると、今度は自分の分をティリオと分け合って食べる。
それが三日も続くと、ティリオとジュリアはお互いにお互いのモノを分け合って食べるようになった。
この不思議な事の説明をジュリアの母親であるレディアンに説明を求めると
「同じ釜の飯を食うという事だ!」
ディオスは眉間を押さえる。
え? どういう事? ええ?
分からないディオスに、夫のシュリナーダが
「自分も昔、妻とこのような経験がありまして…。要するに親愛の情を深める為に、一緒のモノを食べるというのが…重要らしいです。まあ、ヴォルドル家の一種の仲良くなる為の血に流れる性質みたいですよ」
「はぁ………」
としかディオスは言えなかった。
それから、ディオスは二人を観察する。
よく、二人して遊んでいる姿や、何かをしている姿を見る。
まあ…仲がいいなら、それに越したことはないか…。
そして、五日目。
この日は、ディオス達家族と、レディアン達家族で、城邸の周囲を覆う庭でシートを引いてのランチだった。
その最中、ティリオの魔力が暴走した。
ティリオは魔力を放出させて浮かび、それが空へ昇り渦を作る。
ディオスは、魔力をかき分けてティリオに近付く
「ティリオーーーーー」
だが、それにジュリアが来て
「ティリオ! め!」
と、両手をティリオの暴れる魔力に接触した瞬間、ジュリアに向かってティリオの暴れる魔力が吸い込まれ、ティリオの暴走が止まり、着地するティリオの手をジュリアが握り閉めた。
「ティリオ、め!」
と、ジュリアがティリオに告げると、ティリオはバツが悪そうな顔で
「うん…」
と、頷いた。
ディオスは唖然とする。
そう、ディオスの安全弁として力を発揮してくれるクレティアやクリシュナのように、ジュリアがティリオの安全弁として働いてくれる光景に、ただ…呆然とする。
そして、不意にレディアンの方を見ると、レディアンは力強くガッツポーズをしている。
見たか!という感じだ。
六日目、部屋で遊んでいる子供達。
ティリオが魔力を暴走させる寸前に、ジュリアがティリオの手を掴み
「め!」
と、ティリオの魔力の暴走を止めた。
それを確認したトルキウスとサラナは、もう大丈夫ですと太鼓判を押した。
七日目、トルキウスとサラナは問題ないとして、機器を片付けて帰国した。
ティリオの魔力の暴走が起こらなくなった。
普通に平然と四人は城邸で遊んでいる。
ディオスは肩を落としている。
もっと、子供達の人生は自由でいて欲しかった。
それが、まさか…二歳でティリオに許嫁のような、存在が出来てしまって、縛ってしまったような気がして切ない。
そんな時、レディアンが
「うちの…ヴォルドル一門とティリオを顔合わせしたいが…」
「はぁ…分かりました」
ディオスは了承して、ティリオを連れて王都の東にあるヴォルドルの城邸に来る。
碧を基調とした洋風の城邸、ゼリティアのオルディナイトの城邸と同じくらいの規模だろう。
だが、門を潜ると違っていた。
えい!えい!えい!
と、掛け声が聞こえる。
そう、ヴォルドルの城邸には幾つもの修練場があり、そこへ修行に来ている貴族の子息や子女、そして魔導騎士の士官候補生達が汗と掛け声をしている修行の場だった。
ディオスは思った。体育会系…と。
本館に来て、玄関を潜るとそこには九人のヴォルドル家の分家一門の頭の人達が並んでいる。そう、王都であったヴァシロウスを倒した祝賀会の時にいたオルディル・フォー・ヴォルドルもいた。
九人の分家一門の頭達がディオスとティリオに近付き
「ディオス様! ご長男を我ら、ヴォルドルに婿入りさせて頂き、感謝の極みにございます!」
「おお、おう、は、はい」
ディオスは九人に熱く握手される。
もう、完全にティリオはヴォルドルへ行く事になっているようだ。
分家の一人が胸を叩き
「全てのご事情はレディアン様より、聞いております。ご安心なされ、我らヴォルドルは強い力を扱う事に関しての専門の名家でございます。かならずや、ご子息のお力を完璧にコントロール出来るようにさせます」
「は、はい。お願いします」
ディオスは頭を下げるしかない。
そこへ、ヴァンスボルトが顔を見せ
「ディオス殿…」
「ああ…ヴァンスボルトさん」
ヴァンスボルトは微笑み
「話は聞いております。どうですか? ここを回ってみては…」
ディオスとティリオはヴァンスボルトの案内で、ヴォルドルの城邸を見て回る。
あちらこちらで、武器を使った訓練や、体を鍛える運動、精神を整える訓練、何処かの武術の修練場そのモノである。
そんな中、ティリオが剣の素振りをしている一団に近付く。
「ああ…ティリオ…」
ディオスが追う。
ティリオが、剣の素振りをしている団体に来ると、一団がティリオに気付いて
「おや…かわいいお客さんだねぇ」
一団がティリオを囲むと、ティリオがフンフンフンと素振りの動作をする。
それに一団は顔を明るくさせ
「なんだ! 一緒に訓練をしたいのか?」
一団はティリオに小さな子供用の木刀を渡して、ティリオと一緒に素振りをする。
えい! えい! えい!
それに合わせてティリオも素振りをする。
「ああ…」とディオスが声を漏らすと、ヴァンスボルトが
「確か、ティリオ様を産んだのはクレティアーノ様でしたな」
「ええ…偶に、ああやって素振りの真似をします」
「成る程、剣聖の血ですか…」
そこへレディアンも顔を見せ、一団と一緒に素振りするティリオに
「ディオス、見ろ。あの子は、間違いなくヴォルドル家に来るために産まれた子だ。これは、運命だ。案ずるな!」
ディオスはカクッと首を傾げ
まあいいか、本人が楽しそうなら…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。