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天元突破の超越達〜幽玄の王〜  作者: 赤地鎌
レオルトス王国編
13/1105

第12話 日々 レオルトス王国

新章を読んでいただきありがとうございます。


ディオスは、王となったソフィアに仕える王都での生活が始まった。ディオスは、ソフィアの王稼業を手伝いながら日々を過ごすが…クレティアの過去が…

日々、レオルトス王国



 この日、ディオスは王が参加する議会の席にいた。王一同専用の議会を見下ろせる席で、議会の法律制定進行を王であるソフィアと仲間達と共に見ていると…あまりにも退屈なので、眠たくなって夢うつつとしているがゴンと後頭部を殴られた。殴ったのはソフィアだった。

「アンタ、いい度胸ね!」

 ものすごく怒り顔のソフィアがいた。


「す、すまん…」

 ディオスが謝ると、ゴンと更に頭を殴り


「ここは議会、敬語で言いなさい。私は、王よ」とソフィアが注意する。


「すみません。陛下…」

 ディオスは訂正した。



 昼前に議会が終わり、ソフィア達は、王執務室に集まり今日、行われた法律の内容を記した書式に眼を通す再度確認の作業をして

「まあ、とくにこれと言っては…」

 ソフィアは王の執務椅子に座り告げる。


 この国での王は、一種の大統領のような地位で、もし…問題がある法律があるなら、制定された後でも再度、撤回させ議論に掛けられる力がある。無論、王からも法律の制定は出来るが、それは議会の承認が必要でもある。

 その辺りの立法は民主主義と変わらない。


「今日の仕事は終わり…」

 ソフィアが背を伸ばす。


 ナトゥムラがお辞儀して

「陛下。これから何処かへ食事に行きませんか?」


 ソフィアは笑み

「ソフィアでいいわよ」


「じゃあ、ソフィア。みんなで何処か美味しい所で飯でも食べようぜ!」

 気軽にナトゥムラが言う。


 ディオスは「すまん…」と

「この後、オルディナイトから魔導石を生成してくれと頼まれていて…」


 スーギィが

「そうですか…残念だ。美味しいお店を見つけたので、是非にと思っていましたが」


 ソフィアがディオスの元に来てパンパンと片肩を叩き

「だって、そういう契約だもんねぇ…。どんだけ美味しかったか、後で教えてあげるからね」

 フフ…と手を口にあて、意地悪な笑みをする。


「はいはい。それじゃあ…」とディオスは執務室から出た。



 そして、ディオスはケットウィンの屋敷に帰って来る。

 門を潜ると、キンキンと金属が擦れ合う音が玄関前の庭園でする。

「んん?」と庭園を見つめると、縦横無尽にクレティアとクリシュナが飛び交い、剣や曲がり刀を交差させ戦っている。


 クリシュナと縦横無尽の駆け巡っていたクレティアがディオスに気付き、ディオスの前に着地して

「お帰りダーリン!」

 剣を腰のホルダーにしまう。


 クリシュナもその隣に着地して

「随分、早い帰りね」

 袖の中に曲がり刀をしまう。 


 ディオスは、クリシュナの袖を見つめ、何時も…どうやって武器を収納しているんだ?と疑問に思うも、それは置いといて

「ああ…スムーズに進んでね。特に問題はなかった。それと二人とも…互いに訓練をするのは構わないが…。真剣で訓練を行うというのは、もし事故があった場合…」


 クレティアは肩を竦め

「ああ…大丈夫よ。本気で切り掛かっている訳じゃあないし、間合いの交差するチョットの部分で触れているだけだから」


「んん…まあ、気をつけてくれ」

 ディオスには、そういう武術の事に疎いので無難に答える。



 その後、三人して昼食を取りながらクレティアが

「ねぇダーリン。いつまでここにいるつもりなの?」


「ああ…そうだな。一応、オルディナイトのディフィーレくんが、魔導石を作るのに適している屋敷を探しているようだから、それが決まるまでは…。まあ、今日の午後に来るようだから聞いてみるさ」


 クリシュナがディオスに

「どんな場所にするの?」


「一応、実験的な事だから、それに耐えられる強度と、被害が少なく済むように建物がない場所をとお願いしている」


 クリシュナは腕を組み

「ふ…ん。そうなると、王都から少し離れるかもしれないわね」


「不便か?」


「まあ、場所次第だけど…」

と、クリシュナは肩を竦めた。



 昼食後、ディオスは地下にある魔導石生成装置の前に立ち、魔力を放出し、生成装置がその魔力を吸収して魔導石の結晶を作る。


 その後ろでイスに座り見つめるクレティアが、放出される魔力のオーロラに目を奪われ

「おおおおお、凄いダーリン」

と、感嘆の声を漏らしている。

一時間して魔導石の結晶が完成し、保管ケースごと装置から外して、魔導石の結晶構造を見られる装置に掛けると


「フ…荒いなぁ」

と、ディオスはポツリ漏らす。結晶構造に安定さが足りない。色々と装置に付いている調節バルブを操作しても、この結晶構造しか生み出せない。

「やはり、実験的な装置だから…これが限界なのだろうな」


 クレティアが近付き、魔導石がある保管ケースを触り

「ねぇダーリン。これってどのくらいするの?」


「ああ…そうだな…。おそらくまあ、金貨三・四万枚くらいが限度だろう」


「へ…今なんて…」と驚きの顔を向けるクレティア。


「ああ…金貨三・四万枚って言ったんだ」


 クレティアがディオスの右腕に抱き付き頬ずりしながら

「ダーリン…お願いが、あるの…。欲しい特殊な魔導剣があって、それが金貨千枚するんだ。欲しいなぁ…」


「ああ…まあ、いいが」


「ホント」

 喜ぶクレティアの首根っこをクリシュナが掴み引っ張り

「アンタ、二本も新しい魔導剣を買ってあげたでしょう。無駄遣いはダメ」

 子猫の如く引っ張れ「ヒャン」と手を上げるクレティア。


「どうもディオスさん」

 ディフィーレがクリシュナの後ろにいた。連れてきたのだろう。


 ディオスがお辞儀して

「やあ…ディフィーレくん。ちょっとこれを見てくれ」

 魔導石と保管ケースが乗る、結晶構造を見る装置の画面を指さす。


 ディフィーレは結晶構造を見て

「ああ…これは抽出分化向きの魔導石ですね」


「そうなんだ…。結晶構造が強力なヤツが出来なくてね。これも装置の限界かもしれない」


「ディオスさん、これ」とディフィーレは腰にあるバックから図面を取り出しテーブルに広げ

「これが、こっちで開発した新たな生成装置です。色々と魔力の流れを調節したりする機能が多いので、これよりもっと硬い結晶の魔導石が生成できるかもしれませんね」


「んん…成る程…」


「それと、丁度良い住居が見つかりましたよ」


「本当か」



 翌日の朝、ディオスとクレティア、クリシュナの三人はディフィーレが運転する魔導車に乗り、王都郊外にある城砦町へ向かう。

 王都の周囲には東西南北の四カ所の城壁が囲む城砦町がある。これは昔、王都を守る為に作れた城砦の町らしく、分厚く堅牢で長い城壁が町を囲っている。

 だが、今の時代では王都が攻められる事もなくなり、この四カ所の城壁は観光地となっていた。

 

 ディオス達は、南側の城砦町フェニックスの門を通り中に入ると、草の平原が広がっている。

 そして、遠くの方に城壁が見える。

 

 ディフィーレは運転しながら

「ここは昔、飛空艇が着陸する場所だったようですが…。今は王都の付近にある専用の空港に飛空艇を取られて、ただの牧草地になっているようですよ」


 道沿いに牧場の柵が見え、その中に牛や馬、羊が飼われている暢気な風景が広がる。

 魔導車は道を進み、とある屋敷に到着する。

 草の平原のど真ん中にある屋敷、保存状態は良いのか外見的には悪い所は見当たらない。

 二階建ての大きな屋敷の前で魔導車を止め、ディフィーレが降りて

「どうですか?」


 ディオスとクリシュナにクレティアも降りる。

 

 クレティアは見上げ「悪くないんじゃない」


 クリシュナは壁に触れ「そうね。かなり頑丈な作りのようだわ」


 ディオスはディフィーレに

「なんの建物なんですか?」


「ここは、昔、飛空挺が降りた場合に乗員が休む場所だったようですよ。作りも相当頑丈なようですし」


「昔、誰か住んでいたのか?」


「それが、ちょっと不便なんですよ。王都から魔導車で十分、城砦町内の町まで五分という所謂、売れない不便物件でして、飛空艇の乗員施設として使われなくなったら、色々な貴族の別荘として回し使われていたようです」


「ほう…」とディオスは屋敷を見上げる。


 ディフィーレは鍵を取り出し

「中を拝見しますか?」

 玄関を開けた。

 匂いはけっしてホコリ臭くない。別荘として使われていたのか、中の状態も良い。


 ディフィーレは中を進み。

「こっちに来てくれませんか。ここをお奨めするにあたって、その理由が」

 玄関ホールの奥、腰くらいの鉄の骨が組み合わさり門となっている部屋にディフィーレが入る。

 それに続いてディオス達も入ると、ディフィーレが脇にある操作盤を指さし

「これ、エレベータで地下に向かうんですよ」

 スイッチを押すと、部屋が動いた。

 ゆっくりとエレベータとして部屋が降りて地下に入ると、そこは大きな倉庫だった。


 ディフィーレが脇にある明かりの魔導石を触れると、暗闇だった倉庫に光りが入り全貌が明らかになる。奥行きが二十メータ、高さが五メータ幅五メータの倉庫に


「ほう…」とディオスは唸る。


 ディフィーレが壁を触り

「ここは、様々なモノを保管する地下倉庫だったらしく、壁も特注で分厚く頑丈に出来ています。地下水や雨水が入った場合は自動で地上にくみ上げて排出するし、空気も設備で入れ替わりしています。ここでなら、魔導石の生成と実験に適していると思いまして」


 ディオスは肯き

「確かにここなら良いかもしれない…」


 ディオスは一緒に連れてきたクリシュナとクレティアに

「二人とも、どうだ?」


 クレティアはニンマリと笑み

「アタシは不満はないわ。でも、足用の魔導車が幾つか必要ね」


「それは、揃える。クリシュナは?」


「そうね。まあ…それ程、不便ではないし…いいと思うわ」

 クリシュナは肯き腕を組む。


「では…」とディオスは「ディフィーレくん。色々とよろしくお願い出来るかな。ここにする」


 ディフィーレは「はい!」と声にした。


 新たな生活の拠点が決まった。



 それから、ディオスはクリシュナとクレティアの三人で魔導車を三台買って、住む屋敷に二台置き、一台の荷物が入る魔導車で、王都を回って生活に必要な品を揃える。

 その間、ディフィーレは、屋敷の地下を改装して魔導石生成施設を作り、ディオス達は同時に荷物を運び込む。

 それが終わる頃は、奇しくもケットウィンとダグラスとのお別れの日だった。 

 ケットウィンは侯爵で、ダグラスも伯爵で屋敷のある領地の事がある。

 キングトロイヤルが終わったら帰るのは必然だった。


 別れは王都の飛空艇空港だった。ディオスはクリシュナとクレティアと連れ、二人に

「色々とありがとうございました。ダグラスさんケットウィンさん」

 二人に握手を交わす。


 ケットウィンは微笑み

「いえいえ、ソフィア殿が王になれたのもアナタの努力のお陰ですよ。それに私の祖父の研究を引き継いでくれて、感謝します」


 ダグラスは悲しそうな顔で

「これでお別れなんて寂しいですよ。何時でも私の元へ遊びに来てくださいね」


「はい…」とディオスは頷く。


 ダグラスはディオスの後ろにいるクリシュナとクレティアに

「お二人とも、どうか彼の事をよろしくお願いしますね」


 クリシュナは「はい」と肯く。


「任せて置いて」とクレティアは微笑む。


『では…』とダグラスとケットウィンは手を振って飛空艇のゲートへ向かい。

 ディオス達三人も手を振って見送った。

 

 ディオスの脳裏に、今までの事が過ぎり感慨深くなる。本当にダグラスさんと出会えて良かった…と、感じ入る。



 その後、新たな屋敷に行き、部屋のカーテンを設置したり、魔導冷蔵庫に食料をしまっていると、ディフィーレが来て「ディオスさーん」とチャイムを鳴らす。

 ディオスが玄関で出迎え

「ああ、ディフィーレくん」


「あの、お探しのモノを持って来ました」

 後ろには大型魔導トラックと数人の業者がいた。


「ああ…じゃあ、こっちに運んでくれ」

 ディオスは、ディフィーレと業者を二階の大きな部屋に通す。

「ええ…この辺でいいかな」

と、ディオスは部屋の真ん中で大きく四角い動きをする。


「わかりました」と業者達がトラックに向かい、載っている荷物を運び込む。


 ディフィーレがディオスに

「三人が余裕で寝られる大きなベッドが欲しいってどういう事です? ディオスさんは寝相が凄く悪いんですか?」


 ディオスは平然と

「いや、三人で寝るから必要なんだ」


「へ、三人で寝る?」

 そこへクリシュナとクレティアも姿を現し


「ああ…本当にあったんだ」とクレティアは少し戸惑い気味だ。


 クリシュナは困惑顔で「本当にそうするの?」


 ディオスは、平然と

「え、いや…問題ないだろう」

 クリシュナとクレティアは自分の右手にある呪印を見る。その呪印はディオスから制限無しに魔力を貰えると、お互いの位置が分かるという効果を持っている。

 まあ…いわば、二人はディオスにゲットされたのだから…。


「まあねぇ…そういう事があっても不思議じゃあないよねクリシュナ」

とクレティアは戸惑い気味に


「う…ん。まあ…そうね」

と、クリシュナも同じ感じだった。


 ディフィーレは、三人を見回し

「ええ…どういう事です」


「どういうもこうも…」

 ディオスは業者が組み立てる三人用大型ベッドを指さし

「ここでクレティア、クリシュナにオレと三人で寝るんだ」


 ディフィーレは………となり

「はぁ……」

と、しか言葉に出来なかった。

 ディフィーレは額を抱えた後、次に

「まあ、良いですが。後で人を連れてきますから」


「人を連れてくる?」とディオスは疑問の顔だ。


「はい、メイドさんを紹介しますね」




 午後半ば程、ディフィーレは一人のメイドを連れてきた。

 赤髪に眼鏡のキリッとした厳しそうなメイドさんだ。

 赤髪のメイドさんはお辞儀して

「初めまして、レベッカ・トワローです」


 ディフィーレはレベッカに手を向け

「ゼリティア様から、こちらを手伝うように派遣されたレベッカさんです」


 屋敷の中でディオス達三人と対面したレベッカは、眼鏡を持ち上げ

「さっそくですが…。貴方様が旦那様でしょうか?」

 ディオスを鋭く見つめる。


 う…とディオスは少し気圧されるも

「まあ…旦那様と言えば、そうかな…」


「よろしくお願いします。旦那様」


 ディオスは自然とレベッカの雰囲気から

「こちらこそ、よろしく頼む。レベッカさん」


 レベッカは眼鏡を上げ「レベッカで」

「いいや、レベッカさんで」


「レベッカで」


「いやいや、レベッカさんで」


「………」とレベッカは沈黙した後「わかりました」と折れてくれた。


「じゃあ、さっそくこれを…」

 ディオスは、一枚の通帳を渡す。


「これは…?」


「ある程度、お金が入っている。定期的にお金を入れますので、これで必要な事をお願いします」


「は、屋敷の資金という事で」


「あと、それと…レベッカさんのお給金について…」


「それは、オルディナイトから出ておりますから構わずに、それと後…二人程、雇い入れたいと思いますが」


「その采配は、レベッカさんにお任せします」


「畏まりました」

 レベッカはお辞儀した次にディオスとクリシュナにクレティアを見回し

「旦那様とその、お二人のご関係はどうのような…」


 ディオスはビックと背筋を伸ばす。ディオスの右にクレティア、左にクリシュナがいて二人は平静としている。

 ああ…そうか…オレとクリシュナとクレティアの関係か…。ああ…アレだ。

「夫婦だ」

 平然と当然の如く告げた。


 凄まじい速度でクレティアとクリシュナは振り向き、ディオスの顔を思いっ切り瞳を開いて凝視する。


 レベッカは平静として

「では、どちらが正で側なのですか?」


 ディオスは自慢げに自信ありげに

「そんなモノはない。どちらも愛してやまない妻だ」


 …………………

 一同が固まる。


 ディフィーレはクリシュナとクレティアの反応に間違いなく、そうではないだろうと察していた。それ程までに二人の驚いている反応が目に見えている。

 それは、レベッカにも分かっている筈だ。この重苦しく固い空気にレベッカが

「畏まりました。では奥方様、よろしくお願いします」

 レベッカはお辞儀して去ると、ディフィーレも

「あの…地下の施設の状態を確認するので…」

 その場から逃げた。


 二人が去っても、ディオスを凝視するクリシュナとクレティア。


「どうした?」とディオスが聞く。二人がディオスの前に来て


「ねぇ…何時、アタシ達は奥さんになったの?」

と、クレティアが腰に手を当て聞き、クリシュナが驚きの顔で

「私も初めて聞いたけど、え、何、愛しているの…私達を?」


 ディオスの方が何を言っているんだという顔で

「何を言っているんだ? 当然だろう」


 クレティアは眉間を押さえ

「どうするよクリシュナ。コイツ…」


 クリシュナはフーとため息を吐き

「そうね。なら、私達が夫婦っていう証をちゃんと立てて貰いましょう」


「だってダーリン」とクレティアは悪戯に笑む。


 ディオスは肯き

「そうだな。夫婦なんだから、そういう事は当然だ。じゃあ、行こう」


 ディオスは部屋を確認しているレベッカに

「レベッカさん」


「はい」


「三人で王都に出かけて来ます。夕食はどうなるか分からないので、後で連絡を」


「気をつけて行ってらっしゃいませ」


 屋敷の裏にある魔導車に三人は乗って王都へ出かける。夫婦の証を立てる為に。




 まず、向かったのが銀行だ。ディオスは今までオルディナイトに売った魔導石のお金の内、金貨五百枚ほどを下ろす。それはものすごい重量だった。銀行員が

「あの…頑丈なバックをお渡ししますのでそれで…」

「すいません」

 黒い強そうなバックに金貨五百枚をしまい銀行を出ると、クリシュナとクレティアの二人を連れて宝石店へ来る。


 この世界では夫婦になる時にプレゼントをする。

 そう結婚指輪なるモノだが、指輪ではなく宝石のブレスレットをプレゼントするらしい。

 

 宝石店へ入り

「ダーリン。これなんてどう?」

 クレティアが手に取り自分に当てる。


 店員が「よくお似合いですよ」と声を掛ける。


 クリシュナは、宝石のブレスレットが並ぶショーウィンドウを見つめ、吟味する。

「クリシュナは、身につけたりしなのか?」

 ディオスが尋ねると、クリシュナは

「自分の誕生石や、相性がよさそうなモノを選ぶわ」


「ダーリン」とクレティアが宝石が沢山ついたブレスレットを手に「これがいいなぁ」


 値札は、金貨五十枚だった。

「フム…」とディオスは肯きクリシュナに「クリシュナ、決まったか?」


「じゃあ、これで」

 クリシュナが指さしたのは、金貨十枚くらいのブレスレットだった。


 ディオスは顔を顰め、クレティアが金貨五十枚なら同じ値段のモノの方がいいな。その方が平等だ。故に

「すいません。これと…これをください」

 クリシュナの示したモノより、上位のブレスレットを指さす。その値段、クリシュナと同じ金貨五十枚だ。


 クリシュナはディオスを凝視して

「そんな、勢いづかなくてもいいのよ」


「いいんだ」とディオスは遮った。

 店員が頼んだブレスレットを宝石箱に入れて持って来た。

 箱は四つある。一つは本物が入っているモノと、もう一つは、銀色の簡単な宝石のついていないブレスレット、所謂、普段用だ。

「こちらになります。お支払いは、小切手ですね」

 ニコニコの店員。


 ディオスは首を横に振り

「いいや、現金直だ」

 バックから、金貨百枚が入った袋を取り出し、店員と隔てるカウンターに置いた。


 店員のニコニコ顔に引き攣りが入り

「少々、おまちください」

 置かれた重い金貨袋を持ち、店の奥へ行き数える。数分後…

「確かに、丁度でございます。ありがとうございました」

 店を出てブレスレットをするクリシュナとクレティア、その二人に挟まれるディオス。


 クレティアは、自分の腕に填まる宝石のブレスレットを見てニヤニヤして、クリシュナはフーと息を漏らす。

「さて、次は…」とディオスは考え「挙式だな」


 まずは、挙式用の衣装を買いに行く。

 大きな衣装屋で、クレティアとクリシュナの結婚衣装を準備する。

 二人は体格がモデル並なので、衣装も合うヤツがあり、それにして現金一括で払う。

 この衣装屋でもニコニコ顔に引き攣りを伴っていた。

 ちなみに挙式衣装二つで金貨五十枚だった。

「さて、挙式場だが…」

 ディオスは考える。この世界というかアーリシア大陸はシューティア教という教会の宗派が席巻している。

 結婚式の挙式は、大体、教会であげるようだ。故に、牧師と教会だが…

「あ!」

 思い当たる人がいた。


 魔導車で三人は、王宮へ向かう。王宮に入り庭園の所で丁度良く見つけた。

「スーギィさん」


「ん、ディオス」とスーギィは向く。


「スーギィさんは、牧師なんですよね?」

 ディオスが尋ねると、スーギィが

「ああ…牧師とはちょっと違うが。まあ、僧爵という教会から司祭を受け持つ事を許された貴族だがね」


「じゃあ、結婚式とかの催事も司れますよね」


「ああ…出来るが…? なんだ。誰か結婚するのか?」


 ディオスは両脇にいるクレティアとクリシュナの肩を抱き寄せ

「オレ達の結婚式をしてくれませんか」


「……はぁ?」

 スーギィは固まる。そこへ


「なんだなんだ?」とナトゥムラと


「どうしたでありますか?」とマフィーリアが


 ディオスは二人に

「丁度良かった。見届け人になってください」


『はぁ?』とナトゥムラとマフィーリアが同時に疑問を声にする。




 王宮にある教会で、祭壇の前にディオスと、ウェディングドレスに身を包むクレティアとクリシュナの二人がディオスを挟む。


 その後ろにある席で、ナトゥムラとマフィーリアは呆然と座り、挙式をあげる三人を見ている。

「なぁ、マフィーリア…何でこんな事になっているんだ?」


「それはこっちが聞きたい」


 左から司祭服のスーギィが現れ、十字架の祭壇の直前に来ると「んん…」と咳払いして

「では、これより三名の挙式を執り行う」

と、言って小さい教典を取り出し、読み上げる。


 汝ら、神に愛されし子らよ。ここに汝らの結びつきを…と教典の祝詞を読み上げ挙式が始まる。


 静かに、ディオスとクリシュナ、クレティアは祝詞を聞き、ナトゥムラとマフィーリアは完全にどうすればいいのか困惑して固まっている。


 では、ここに夫婦の誓いと証を…。

と祝詞が終わると、左から別の人、修道女が大きな皿の器を掲げて現れる。その器には水が満たされている。スーギィが

「これは誓いの聖水である。これを口にして、健やかなる汝達の夫婦の誓いとせよ」


 最初にディオスが口を付け、次にクリシュナ、クレティアと口にした。

「これより汝達は夫婦となった」

と、スーギィが宣言を告げて挙式が終わった。


 ナトゥムラとマフィーリアはパチパチと手を叩く。

 完全に混沌の中だが、一応の慣習なのでそうする。


「んんんん」とクレティアが背伸びして「終わった終わった」


 ディオスはクレティアとクリシュナの二人を見つめ

「これで夫婦の証は終わったのか?」


 クリシュナが肯き

「そうよ。まあ…挙式が終わった後の大きなパーティーで知り合いや友人、両親といった皆でお祝い騒ぎが定番だけど」


「そうか…」とディオスは考える。

 クレティアが

「まあ、その辺は無しでいいじゃない。アタシらの場合はね」


「そうね」とクリシュナが賛同する。


 だが、ディオスはとある事を閃き

「スーギィさん、ナトゥムラさん、マフィーリアさん。この後、何かありますか?」


 スーギィが

「いや…特には…」


 ナトゥムラが「何時もなら、飲み屋へ行く所が、今はこんな状況だがな」


 ディオスは「なら、オレ達に付いてきてくれませんか」

 ナトゥムラが肩を竦め

「何をするんだ?」


「まあ、ちょっとした祝いの席を考えていますから」




 ディオスとクリシュナにクレティアの三人を乗せた魔導車を先頭に、スーギィとナトゥムラにマフィーリアの三人が乗る魔導車が続き、ディオスの屋敷に来る。

「おかえりなさいませ旦那様、奥方様」

 レベッカが迎え、ウェディングドレスのクリシュナとクレティアを見て

「何か…なさいましたか?」


 ディオスはフッと笑み

「ちょっと三人で挙式をしてきた。それと、クレティアとクリシュナの二人のドレスを脱ぐのを手伝って欲しい」


「畏まりました」


 ウェディングドレスを屋敷に置いて、ディオスは簡素なドレスのクリシュナとクレティアを魔導車で連れて近くにある城砦町の町に来た。町中を進み、中心に来ると大きな屋根の建物が見えた。

「何だ? アレは?」

と、ディオスはその建物を凝視すると、看板に

「ハンターギルド…フェニックス…」

書かれた文字を読むと、クレティアが

「ああ…アレ、町外れに平原や山々が多い場所には必ずあって。平原や山々に発生する魔物を狩るハンター達が集うギルドなの」


 ギルドの窓を覗くと沢山の人が何かを飲んだり食べたりして賑わっている。

「ほぉ…中は飲食したりして賑わっているようだが…」


「ああ…」とクレティアが「大体のギルドは酒場や食堂を兼業しているから、ハンター以外に町の人達も利用しているのよ」


「そうか、なら…丁度いい」

 ディオスは魔導車から降りる。それにクリシュナとクレティアも続き


「おい、アイツ…降りたぞ」とナトゥムラも


「何だ?」とスーギィも


「うむ…」とマフィーリアも

 三人も続いた。



 ディオス達は、ギルドのドアを潜ると「いらっしゃいませ」とギルドの受付嬢が声を掛ける。

「どうも…」とディオスはお辞儀して、側にあるカウンターに来ると、ギルド内を一望した。中は大きなホールで、幾つものテーブル席が並び、殆どの席が埋まっている。席にいるのは町民らしき人達と鎧を纏ったハンター達で溢れ賑わっている。


「兄ちゃん、みない顔だな」

と、カウンターにいる屈強なハンターの男が一杯を持ちながら声を掛ける。


「初めまして」とディオスはお辞儀する。


 男は一杯を飲みながら

「何だ。もしかして、ハンター志望か? それとも飲みに来たのか?」

と、ディオスの後ろにいる五人の連れを見る。


「ちょっと飲みに来ました」


「そうか! まあ…ゆっくりしていきな」


「ええ…そうします」

と、ディオスはカウンターに受付嬢に

「すまない。ここは、何時に閉じるんだ?」


「はい、夜中の十二時に終わりですよ」


「そうか…じゃあ…」

 ディオスは右手に持つ黒いバックを置いて、中にある金貨の袋、三つと少しを置いて

「今から、終わりまで貸し切りたい」


「ええ…」と困惑する受付嬢。


「お、おい…兄ちゃん?」とカウンターにいる男の困惑する。


 ディオスはクレティアとクリシュナの手を取り、自分の左右に置き

「すいません。みなさん。すいませーーーーん」

と大声を張る。


 なんだ? なんだ? と店内の客全員がディオス達三人に視線が集中し、ディオスは

「初めまして、最近、ここに引っ越して来たディオス・グレンテルという者です。実は、この二人と今日、結婚式を挙げまして」

 ディオスは右にいるクレティアと左にいるクリシュナの肩を持ち抱き寄せ

「みなさまにお願いがあって来ました。自分達を祝福して欲しいのです。ですから、今からこのギルドが終わる十二時まで、あらゆる飲食が全て無料になります。どうか、祝福をお願い致します」


 オオオオオオオオオオオオ! 店内に客の雄叫びが響き渡る。


 クレティアは顔を頬を引き攣らせた笑みで、クリシュナは額を抱えて呆れた。


 すげーー マジかよ! ウソでしょう! 喜ぶ客の声が響く。


 ディオスは、カウンターの受付嬢に

「超過した分は、ここに請求してください」

 そばにあったメモに自分の屋敷の住所を書いて渡した。


 カウンターにいる男が立ち上がり

「おいおい! みんな、喜ぶのは良いが、分かっているだろう。今日の主役はこの人達だ! みんなで、祝福しようぜーーー」


 客席にいる女性が数名、ディオス達三人の元に来て

「さあ、こっちこっち」

と、ディオス達を主賓の席へ導く。


 その移動中、ディオスがナトゥムラにスーギィとマフィーリアに

「さあ、三人も」

と、言い残しディオス達は、祝福の席へ運ばれた。


 ナトゥムラはへへ…と笑み「行こうか」とスーギィ、マフィーリアを連れる。


 ディオス達は、奥で沢山の人に囲まれ質問攻めだ。


 何処でであったの?

 スゲー綺麗な嫁さん達だけど、どうやって手に入れたんだ?

 兄ちゃん、最高だよ。飲みな飲みな!


 その姿を見つめるナトゥムラ、スーギィ、マフィーリア達は、飲み食いしながら


「んん…」とナトゥムラが唸る。


「どうしたんだ?」

 スーギィが尋ねる。

「いや、あのクレティアだっけ…何処かで見たような記憶があるんだよ。それが思い出せなくて…」


「何処かで?」とスーギィがクレティアを見つめ「いや…自分には憶えがないが…」


「ああ…クソ、思い出せない」

 ナトゥムラは唸りながら一杯を口にする。


 こうして、盛大なディオス達の挙式の祝賀パーティーは更けていった。




 こうして、新しい生活が始まった。屋敷の地下でディオスは、新たな装置と共に魔導石を生成する。出来た魔導石を結晶構造を見る装置に掛ける。

「んん…良い状態だな」

 結晶は前の装置とは比べものにならない程良いが…安定がしていない。

 その為、生成装置に戻して安定化させる為に微弱な魔力流を当てて安定化を図る。

 その安定化の為に丸一日が掛かるので、装置に填められる限界の四つを生成して、微弱魔力流を当て続ける。

 これを朝からやると、持ち込むのに二日後となるので、午後に生成するようにして次の日の昼に完成するようにしたら、午前の時間が余る。

 そんなある日、屋敷の外の庭でクリシュナとクレティアが訓練しているのを見る。

 クレティアは剣を振って舞い、クリシュナは様々な武器を取り出してシャドウと対戦する。

「そうだ…」とディオスは外に出て、クリシュナとクレティアの側に来る。


「あら、ダーリン。どうしたの?」

 クレティアが剣舞を止め


「何か、問題があったの?」

 クリシュナは、出した武器をしまう。


「いや…午前中、暇だから。オレも二人の訓練に参加しようと思って」


「へぇ…じゃあ、ダーリンって剣を使えるの?」


「いいや、扱えない」

 クレティアとクリシュナは顔を見合わせ


「じゃあ、ちょっと待ってて」とクレティアは屋敷に戻り、訓練用の木刀を持ってきた。

「はい、ダーリン。これを振ってみて」


「ああ…」

 ディオスは渡された木刀を両手に素振りする。何度か素振りすると、クレティアとクリシュナは微妙な顔で互いに見合い。


「じゃあ…」とクリシュナが曲がり鉈を取り出し「これを好きに振ってみて」


「ああ…」

 ディオスは、木刀から曲がり鉈を振るう。


「どうだ?」とディオスは尋ねると、クレティアがクリシュナの肩を持ち寄せてヒソヒソと二人して話す。


「どうしよう…よく言えば、それなり…だけど」


「悪く言えばセンスがない。凡夫ね」


「やっぱりダーリンって魔法が超絶得意分野だからそれ以外は…」


「おそらく、普通…。悪く言ってセンスがないのよ。天は二物を与えないわね」


「どうする?」


「そうね…何があるか分からないし、それなりには鍛えて置くのもありじゃない」


「そうするか…」

 クレティアとクリシュナは離れ

「OK、OK、ダーリン。まずは基礎から勉強しよう」


「おお…そうか」とディオスは納得する。


「じゃあ、まずは基本の素振りから」

 クレティアとクリシュナの監視の下、ディオスの訓練が始まる。

「はい、ダーリン。まずは足はここ、そして腹筋に力を入れて、はい、素振り」

 ディオスは言われた通りに素振りをする。

 1・2 1・2とクリシュナが声を掛け、それに合わせて素振りをするディオス。一時間弱も素振りをして次に組み手。ディオスとクレティアは木刀で組み手をする。


 ディオスは、クレティアに向かって振り下ろす。軽やかにクレティアは避ける。

 その後、何度も向かっていくが、全く当たらない。

 その気配さえもない。ちょっと本気になって行くも、全く当たらない。

 そして、気付いた事がある。

 クレティアが全くその場から動いていない。

 半身は逸らせるが、軸足を支点に全く動いていない事に気付く。そして、ある予感が過ぎる。

「クレティア。ちょっと聞いていいか?」


「何? ダーリン」


「オレはそれなりに剣のセンスがあるのか?」


「…その…」


「正直に答えてくれ」


「いや…まあ、普通ってくらいなかぁ」

 ディオスは顔を引き攣らせる。クレティアが焦り

「だ、大丈夫よ。もの凄くないって訳じゃないから。普通くらいだからね」


「………」

 無言のディオスにクリシュナが

「どんな訓練でも無駄じゃないわ。鍛えていて損はないものよ」


「ふ…分かった。続けよう」


 こうして、午前中はクリシュナとクレティアを師に戦闘訓練をして、午後には魔導石の生成を行う。そうしたリズムが出来た頃、レベッカが新たに二人のメイドを雇い入れた。 

 屋敷の玄関ホールでディオスとクレティア、クリシュナを前にレベッカが

「今日からこちらに入ります。ユーリとチズの二人です」


 金の長髪に百六十五前後のレベッカより少し小さい少女ユーリがお辞儀して

「ユーリです。初めまして旦那様、奥方様」


 銀髪三つ編みの表情が硬いユーリより頭一つ小さい少女がお辞儀して

「チズです。旦那様、奥方様。よろしくお願いします」


 ディオスは肯き

「よく来てくれた。二人とも歓迎する」


 眼鏡を上げてレベッカが

「では、二人に屋敷の内情を教えるので、少々…連れて参ります」


「ああ…それと、二人の休日の事だが」


「休日?」とレベッカは首を傾げる。


「そうだ。普段は、レベッカさんと同じく二人は住み込みなんだろう。だから、家に帰る日を」


「旦那様。お二人には帰る家はありません」


「え…」とディオスは固まる。


 ユーリが複雑そうな笑みで

「私と、チズは孤児院で育ちなので…」

 そう、帰るべき家がないのだ。ディオスはマズイ事を聞いたと思い

「すまない。その…込み入った事を聞いてしまって」


「いいんです」とユーリは微笑む。


「そうか…レベッカさん。部屋割りは?」


「はい、ユーリとチズは私と相部屋で」


「レベッカさん。部屋は空いているんだ。個々に個室で良いだろう」


「……畏まりました」


「それと、ユーリにチズ。何か困った事があったらオレや彼女達に相談するんだぞ。手を貸せるなら貸すぞ」


 ユーリは照れくさそうな笑みで

「あ、ありがとうございます」


 チズはお辞儀して

「お気遣い、ありがとうございます」


「それとレベッカさん」


「はい、なんでしょう」


「食事を取る場合はみんなで取ろう。その方が効率的だ」


「は、分かりました」


「食事の内容も皆、平等に同じにだ」


「…旦那様、そのようなお気遣いは」


「無用と言いたいのか。レベッカさん、オレはレベッカさんやユーリ、チズの三人をこの屋敷で暮らす仲間だと思っている。それを分かって欲しい」


「はぁ…」とレベッカはため息を吐き「分かりました旦那様」


 新たに二人が加わり、屋敷の生活のリズムも整い、日々が暮れる。そんなとある日…。


 早朝、新聞が届けられ、テーブルに置かれている。その新聞をクレティアが手にしてジーと見つめていた。その姿をディオスは見つけ

「何か、気になる記事でもあったのか?」


 クレティアはビックと体を震わせ、新聞をテーブルに捨て置き

「ダーリン。別に…」


「そうか…」


「さて…剣の手入れ手入れ」

 クレティアは部屋から出て行った。


 ディオスは、新聞を手にする。見出しには、アーリシア大陸の隣にあるアフーリア大陸レオルトス王国、王立軍が劣勢とあった。


 クレティアの過去は知らない。

 何があって奴隷の呪印をされ、どうしてそうなったのか知りたい気もするが、無理矢理に聞くのは心情が許さない。

 何時か言ってくれるまで待とう。


 その日の訓練、基礎の素振りから始まり、振り方を訓練。武器の特性の講座と終えると、クレティアが

「ねぇ…ダーリン…」

 その顔は何かを訴えているような感じだった。


「何か、あったのか?」

 ディオスは心配げにに尋ねる。


 だが、クレティアは笑みにして

「何でもない。ちょっと呼んだだけ」


「そうか…」

 明らかにクレティアは何かを言おうとしていた。

 無理に聞く事はしないでいようと、ディオスは聞きたい衝動を抑えた。

 


 翌日、この日は王宮に行く日でディオスは、クレティアとクリシュナを連れて屋敷を出て王宮に到着する。王執務室でイスが並び、ナトゥムラ、スーギィ、マフィーリア、ゼリティア、ディオス、その他数名がイスに座り、王の執務デスクでソフィアが書類の束を持ち

「今日は、今度、議会に提出される新法案の精査を行うから」

 皆に新法案の書類が行き渡り呼んでいると、ディオスは隣の席にいるゼリティアに

「なあ、ゼリティア殿」


「ゼリティアで構わん」


「じゃあ、ゼリティア…聞きたい事がある」


「ほう…なんじゃ」


「アフーリア大陸にあるレオルトス王国について聞きたい」


「ほう…あの内戦状態の国か」


「ああ…どういう国なんだ?」

「そうじゃな、魔導石の輸出は…確かアフーリア大陸で三番目に多く、資源は豊富じゃぞ。特に、エンチャン系の特殊金属が良く取れて、その生産高はアフーリア大陸とアーリシア大陸を合わせても一番だったが、内戦で輸出が困難になり、今ではその特殊金属が高騰しておるがな」


「ほうぉ…」

と、ディオスは感心する。前々から思っていた事だが、ゼリティアの知識量は半端ない。非常に参考になり、もし、現オルディナイト財団の理事長が今、亡くなっても彼女が直ぐに継承して問題なく行えるだろうという話は、真実だろうと思える。


「おい、そこ」とナトゥムラが話しているディオスとゼリティアに寄り


「無駄話をしていないで、新法案の内容を精査しろよ」


「ああ…すまない」とディオスは謝る。


「なんの話をしていたんだ?」

 ナトゥムラが尋ねると、ゼリティアが

「コヤツが、レオルトス王国の話を聞きたいと申したからな」


「ああ…あの内戦状態の…」

と、ナトゥムラがふ…んと頷いた次に、ハッと顔を驚きに変えて

「そうだ! 見た事があると思っていたら!」

 突然、執務室を飛び出し、部屋の外の廊下にいたクレティアを指さし

「間違いない! お前、レオルトス王国の剣聖!

 クレティアーノ・ヴァンス・ウォルトだ!」

と、ナトゥムラはクレティアを指さし叫ぶ。


 クレティアは驚きに顔を染め慌てふためいていた。

 それをディオスは横から見て

「クレティア…」

と、クレティアに呼びかけると、クレティアは俯き

「ごめんダーリン」

 そう一言、辛そうに答えた。そう、当たりだった。


 

クレティアは、王執務室の中心に俯いて立っている。

 王の執務机からソフィアが

「ねぇ…クレティア。ナトゥムラの話…本当なの?」


 クレティアは頭を掻きながら

「へへ…はい。そうです。アタシは、レオルトス王国で剣聖をやっていたクレティアーノ・ヴァンス・ウォルト、本人です」


 ソフィアの左右にはスーギィとナトゥムラがいて、ソフィアが二人と顔を見合わせ

「その…剣聖なら、どうして…あんな魔導士の、しかも奴隷なんかになっていたの?」


 クレティアは苦しそうな顔で

「その…二年前…王国陥落の日に、一緒に仲間と戦っていたんですが…。知り合いの子を人質に取られて…それで、ダージーのクソ野郎に捕まって、その後は、奴隷の呪印をされて、至ったという訳なんです」


「そう…分かったわ」とソフィアは頷き「でも、クレティア。剣聖って事は分かっている? アナタ…王国に仕えていた筈よね。剣聖という職務は、とても重く、国を守る為に力を尽くさないといけないのは分かっている?」


「それなんですが…」

 クレティアは、部屋の隅にいるディオスに近付き、ディオスの手を取り

「ダーリン。お願いがあるんだ」


「なんだ」


「アタシと一緒にレオルトス王国を助けるのを手伝って欲しいんだ」

 クレティアの顔は何処か不安げだった。


 ディオスは、前にあったクレティアの様子を思い返す。クレティアはレオルトス王国の記事を見ていたのは、自分に助けを求めるかどうか迷っていたのだ。

 ディオスはクレティアの頬に手を置き

「なぁ…クレティア…。こういう事は早くに言って欲しかった」


「ごめんダーリン。やっぱりダメ?」


「そんな訳ないだろう。オレはクレティアの夫だ。妻を助けるのは当然だ。力を貸そう」


「ちょっと待って」とソフィアが手を上げ

「ディオス、分かっている? これは他国への干渉に当たるわよ」

 ソフィアの顔は鋭い、それは王としての判断だった。


「分かっている」とディオスはソフィアの座るデスクの前に来て胸に填まる。王の臣下である証を手にして「これで、オレはソフィアの臣下ではない。迷惑が掛かる事は無い。何かあっても、オレという存在は無関係だと言い張れ」

 証をデスクに置こうとする右手を、ゼリティアが握り止め

「待て、それは尚早な判断であるぞ」


 ソフィアは額を手で抱え

「全くアンタは…どうしてそういう潔いかなぁ…。ダメだって言っていないじゃん」


 ゼリティアは、ディオスの証を持つ手を下げさせ

「良いか、さっきお主にも話したが、レオルトス王国が内戦の為にエンチャン系の特殊金属の値が高騰しておる。この事態を打破するには、レオルトス王国の内戦を終わらせるしかないのじゃ。故に…のうソフィア殿…」


「ええ…王として、極秘裏にレオルトス王国へ支援をします。無論、支援する側は…王を擁護している王立軍よねクレティア」


「うん」とクレティアは嬉しそうに頷く。


 ディオスは右手を胸に当て頭を垂れ敬礼し「感謝する師匠。いいえ、ソフィア陛下」


 ソフィアは腕組みして

「いい、名目は王の斥候としてレオルトス王国の内戦を観察し報告。でも、実は王立軍を助ける。だから、目立つ動きはしない事、もし武勲を立てても拒否して全て、内密にさせる事、良いわね」


「ご命令、承りました」とディオスは頷く。


「じゃあ…出発しなさい。後で、王立軍にいる王に向けての親書を渡すから」


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