第126話 決戦と結末
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あらすじです。
ディスリーラと戦闘を開始したゼウスリオンのヴァルガ、ディスリーラにはゴルドが用意した蠍型戦艦ゴーレム、アンタレスの艦隊が加わっているが、ヴァルガの力によって圧倒する。
そして、ゴルドは奥の手を使った。それを見越してディオスも奥の手の奥の手を用意していたのだ。
ディスリーラは、アルスートリ大陸ナイトレイド連合帝国の北の海岸線が広がる平原の空中に静止していた。
ディスリーラの操縦王座にいるアグラルは、自身の正面にある画面に映る、海から来る軍団を満足げに見つめる。
北の方角から、五十近くの戦艦飛空艇が迫る。
その大艦隊が、ディスリーラの下にある平原に着地すると変形を開始する。
蠍の光線砲の尾と、地面に食いつく無数の多足。
そう、蠍型戦艦ゴーレムのアンタレス達だった。
アンタレス達は、一斉にディスリーラにコントロールを接続させる。
無論、アンタレス達のコントロールを繋ぐ装置を持って来たのは、アグラルの座る操縦席の王座の隣に立つゴルドだった。
このアンタレスの軍勢も、ゴルドの仕組んだモノだ。
アグラルは怪しく笑み
「これで、オレは…」
そう、オレはこの国で無敵の存在だ。
いいや…この軍事力を持ってすれば…世界さえも…。
下らない欲望に支配されるアグラル。
ゴルドは、ディスリーラと繋がったアンタレス達を見つめて
「さて…どこまで通用するか…」
と、小声でぼやいた。
ククルクは、漆黒のゼウスリオンと二機の補助機を伴って、ディスリーラのある北の海岸へ向かっていた。
ククルクの操縦室では、ディスリーラに集まるアンタレス達の姿が映し出されている。
ククルクは渋い顔をするも、ディオスが
「心配するな、あの程度、ヴァルガの敵ではない」
自信に満ちて告げられ、ククルクはフッと笑う。
ヴァルガの操縦画面にヴァードとヴァーゴの乗るアンダルとランダルの顔が出て
「ククルク様、先行します」
アンダルが告げると、補助機のヴァードとヴァーゴが先に行き、アンタレスの艦隊と交戦する。
黒い人型の鎧ゴーレムのヴァードとヴァーゴは、背中に魔法陣を背負い、両手から魔法の光線、カディンギルを発射した。
それが、アンタレスの一艦に接触、だが、アンタレスはその身にしているエンチャン系の魔法合金の力で弾く。
アンタレス達が、尾部の荷電粒子砲を、ヴァードとヴァーゴに向けて発射する。
ヴァードとヴァーゴは、軽やかに回避する。
そこへ、ククルクとディオスが乗るヴァルガが到着、アンタレスの前に立つと、自身の五倍もある二百メータのアンタレスを持ち上げる。
普通なら、アンタレスの方が圧倒的に質量があるので、持ち上がる筈はない。
数万トン近いアンタレスを持ち上げられる理由は、ヴァルガのバックパックから二枚の翼が伸びている。
その翼には、超重力を発生させる魔法陣が展開されていた。
そう、ヴァルガはアンタレスの数万トンを越える程の超重力のバランサーによって、アンタレスを持ち上げられた。
ヴァルガは、持ち上げたアンタレスを別のアンタレスに向かって投げる。
衝突した二艦のアンタレスは転がって他のアンタレスをドミノ倒しするも、転けたアンタレス達は直ぐに体勢を直す。
ディオスはそれを見て「チィ」と舌打ちして
「頑丈に出来てやがる…」
ククルクが
「ならば、次の手を打つぞ!」
体勢を直したアンタレス達は、ヴァルガに向かって荷電粒子砲を放つ。
放たれた荷電粒子達は、ヴァルガに接触した次に、拡散して周囲を閃光に包む。
ヴァルガの正面に高エネルギーの粒子を拡散させる魔法防壁が張られている。
それを展開したのは、ディオスだった。
ヴァルガと繋がる端末を操作して、経路選択式のシステムを使って、高エネルギーを拡散させる魔法を構築した。
ヴァルガのバックパックが変形する。
両手の肘に巨大な盾のような剣が装備され、脚部に加速用のアシストパーツが装備される。
「いくぞーーーーー」
ククルクが吼えて、操縦桿を押した。
盾の如き巨剣と、加速アシストパーツを装備したヴァルガが、脚部から轟音と赤熱を放ってアンタレスに突進する。
赤き流星のヴァルガが、アンタレスと衝突、アンタレスは拉げバラバラになって破壊された。
ククルクが叫ぶ
「もう一機!」
ヴァルガの突進が別のアンタレスを襲撃、同じく圧し潰されて破壊される。
アンタレス達は、それから守る為に、防壁を展開させる。
四十機近いアンタレスの防壁に弾かれる赤い流星のヴァルガ。
ヴァルガの防御の為に、ヴァードとヴァーゴの警戒が疎かになり、二機は隙間を縫ってアンタレスに襲い掛かり、超高震動の魔法で破壊する。
ディスリーラの操縦席の王座でアグラルが、倒されるアンタレス達を見て
「どういう事だ! 大丈夫ではないのか!」
焦って声を上げる。
隣にいるゴルドが
「落ち着いてください。まだ、戦いは始まったばかりです。それにやられたのは数艦だけです」
「ううう…うむ…」
「そろそろ我々、ディスリーラも攻撃に加わるべきでしょう」
「そ、そうだな…」
アンタレス達が三つに分かれる。
攻撃と防壁、近接攻撃の戦い方に別れる。
そこへ、ディスリーラの主砲攻撃も加わる。
戦術的な戦いを始めた敵に、ククルクとディオスは
「敵が戦い方を変えたぞ」
ククルクが渋い顔を。
「問題ない。想定通りだ」
ディオスが平静に告げる。
ディスリーラの主砲が拡散攻撃に変わる。
攻撃側のアンタレス達の背面が開く。そこには誘導魔法砲撃の砲口が無数に伸びる。
豪雨の如き攻撃がヴァルガに向かう。
だが、ヴァルガの前に補助機のヴァードとヴァーゴが駆け付け、防壁を展開、豪雨の如き攻撃からヴァルガを守る。
ククルクが
「ディオス、次の手は?」
ディオスは、端末を操作して
「こちらは、一撃必殺の戦術モードへ入る」
ヴァルガのバックパックが全て展開される。
背中にX字の翼を伸ばし、両肘に盾の如き巨剣を装備、両足が大地を喰らうような鉤爪を備える大型ブースターが装備され、両手に巨大な花の如きランスが握られる。
ククルクの脳裏に全ての装備の使い方が伝わり、ククルクは楽しげに笑み
「そうか…全く。お前は…本当に恐ろしい男だ」
四枚翼の黒き猛禽類の足を持つ騎士のヴァルガは、ヴァーゴとヴァードを伴ってアンタレスへ走る。
アンタレスは、防壁を展開、それをヴァルガは猛禽類の足を持つブースターで切り裂いて破壊し、花の如きランスをアンタレスへ刺すと、アンタレスが軋み潰され巨大な先端へ変貌する。
ククルクの持っているキュリオロスの力を使って無機物のアンタレスを花形のランスの刃に変えた。
巨大な二百メータもある数万トンの戦艦が圧縮され、二十メータのランスの刃となり、その超質量体をアンタレス達へ向けて発射した。
高回転による質量加速を持つ、超質量のヴァルガのランスの刃は、六機のアンタレスを破壊して地面に突き刺さり巨大なクレータを形成した。
ディスリーラにいるゴルドは渋い顔をする。
現在の残っているアンタレスの数、三十艦。残存60%しか…。
ヴァルガは、別のアンタレスを花形ランスの刃に変えて、アンタレス達に放ち、破壊する。
ディスリーラが、主砲を収束させヴァルガに放つも、それにヴァルガが花形ランスを向け、主砲のエネルギーをランスの刃に変えて、ディスリーラに返した。
ディスリーラの左側に被弾する。
轟音がディスリーラの操縦室の王座を包む。
「あああああああ!」
アグラルが怯えて頭を抱える。
ゴルドだけは、微動だにしない。
ヴァルガのあらゆる攻撃をランスの刃に変える力によって、アンタレス達は破壊され、五十艦あったアンタレスは、一艦となり、その一艦をヴァルガはランスの刃に変えて、ディスリーラに向ける。
二百メータのアンタレスを一気に六艦も破壊出来る力は、一撃でディスリーラを沈めるには十分だった。
ククルクはディスリーラへ通信を開く。
「アグラル、聞こえるか!」
ディスリーラの操縦席の王座にいるアグラルが
「なんだね。降伏でもするのか…」
アグラルは平静にオレが一番だという下らない意地を見せる。
ククルクは静かな視線で
「今すぐ、ディスリーラから降りるなら、命だけは助けてやる」
アグラルは激高し
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ディスリーラの主砲を発射する。
ヴァルガに迫るディスリーラの強力な主砲だが、ヴァルガは空いている左手の花形ランスをその主砲の光線に向けると、主砲の力は全てそのランスに呑み込まれ、自身の刃にされた。
それをククルクは、ディスリーラへ返した。
光線の刃がディスリーラの右に直撃して、ディスリーラの三分の一を破壊した。
「あああああああ」
アグラルは悲鳴を上げて縮こまる。
ククルクが告げる。
「後、一撃で終いじゃ…これが…最後通告だ。アグラルよ。ディスリーラを降りろ!」
ランスの刃がその照準をディスリーラに定める。
ククルクは、これで全てが終わる。
そう確信する。
最後の情けとして、アグラルの退去を促す。
アグラルは、震える。
こんなバカか! こんな事がーーーーーー
今の事態を信じられず。震える。
「アグラル!」
ククルクの通信による怒声が操縦室の王座に響く。
「うぐ…」とアグラルは半泣きになり「分かった…」と操縦席の王座から立ち上がるのを、ゴルドが押さえた。
「え…」
と、戸惑うアグラル。
ゴルドは
「こういう結果になったのは残念ですが…致し方ない」
「はぁ?」
アグラルが首を傾げた瞬間、胸部に衝撃が走る。
「ああ! ぎゃああ! があああ!」
アグラルの胸部にあるディスリーラと繋がる為のコア装置が暴走する。
「ご、ゴルド殿…」
アグラルの体から漆黒の端子が伸びて王座とアグラルが融合を始める。
ゴルドは、変貌するアグラルを背に
「では、さようなら…愚かな男よ。所詮、キサマはその程度の輩だったいう事だ。最後は役に立てよ」
ゴルドは去る。
アグラルは、取り込まれながら
「ど、どう…して…」
どうしてこうなった!と、後悔しながら意識が消えた。
ククルクは、静かにアグラルが出てくるのを待つ。
キュリオロスの心を読む力で、アグラルは必ず出てくると踏んでいた。
だが、ディスリーラから出てきたのは、ゴルドの乗る高速飛空艇だった。
ゴルドが
「やあ…諸君、素晴らしい力だった。私からの褒美だ。受け取ってくれ」
ククルクが「はぁ…?」と顔を戸惑いに変える。
ディオスは、鋭い顔で「チィ」と舌打ちして
「やはり、こうなったか…」
エニグマのやり口を知っているので大凡、想像出来る。
ディスリーラ全体にヒビが広がり漆黒の物体が噴き出した。
「なんだ!」
ククルクは驚く。
ディスリーラだった漆黒のおぞましい物体は、大地にその漆黒の触手を伸ばして大地を浸食する。
溶けた泥のような有機的それは、胸部に輝く何かを持ち
うるるるぅぅぅぅぅうぅぅぅっぅ
と、不気味な生物の咆吼を放つ。
ククルクは、大地を浸食するそれを凝視すると、それがアグラルのなれの果てだとキュリオロスの心を読む力で理解した。
「なんと…バカな男だ」
この現象は、アグラルにあるキュリオロスの力が暴走して起こっている。
アグラルはゴルドによって仕組まれた増幅暴走させる装置の力によってキュリオロスの力を放つだけの装置となった。
このまま、力の暴走による浸食が進むと、アルスートリ大陸は、生物の住めない大地へ変わってしまう。
「ゆるせ、アグラル」
ククルクは、超質量体のランスの刃を、浸食の核となっているアグラルだったそれへ発射する。
暴走する浸食の光る胸部の上にある、核を貫き破壊したが、もう手遅れだった。
アグラルなしで、その浸食の暴走が続くのだ。
ククルクは顔を顰め
「どうすれば!」
ディオスが、何処かへ通信する。
「おい、事態は見ているな」
通信する場所は、ディウゴスのいるボルフ国の王城の王座である。
『はい、しっかりと…』
ディウゴスが出る。
「じゃあ、手筈通りに…」
ディオスの言葉にディウゴスは肯き
『ええ…手筈通りに…』
ボルフ国の王城の王座では、現ナイトレイド連合帝国の皇帝ガルザルがとある書面にサインする。
ディウゴスはそれを確認して
「はい、確かに…」
ガルザルがサインしたのは、包括的大規模破壊魔法の使用制限条約だった。
ディウゴスはパンパンと手を叩き
「では、皆さん。お仕事の時間ですよ」
四機のゼウスリオンがボルフより超音速で飛翔した。
現場にいるヴォルガでは
「ディオス! どうすれば!」
ククルクが後ろの席にいるディオスに呼び掛ける。
ディオスは静かに腕を組み
「お静かに…」
ヴォルガのセンサーに超音速で迫る四つが探知される。
その四つは、大地を浸食する存在を囲む。
二つの白銀、青、紫の四機のゼウスリオン。
青のゼウスリオンに乗るレギレルのヴィクトールが
「来たぞ! ディオス殿」
白銀のゼウスリオンにのるロマリアのアルミリアスが
「ディオス様! 予定通りに」
紫のゼウスリオンはヴェルオルムが、もう一機の白銀には弟のアウグストスが乗っている。
四機のゼウスリオンの右手には、巨大な砲身が備わっている。
この装置は、アインシュ達に託した、四つの鍛造の魔法回路ゼウスインゴットをコアに作られた装備である。
ヴィクトールが
「では、皆の者。参るぞ!」
四機のゼウスリオンは均等に四方向へ広がり、浸食の存在を囲むと、右手に備わる砲身を向ける。
ククルクが、ディオスに
「何をするのだ?」
ディオスは、ヴァルガと繋がる端末を操作して、これから行われる事態の準備をしながら
「簡単な事だ。焼却圧縮させる」
浸食を囲む、四機は右手にある砲身が開き、四機を繋げた巨大な結界防壁にて浸食のそれを閉じ込める。
そして、浸食のエネルギーである光る反粒子炉に狙いを定めると、同時に光線を発射した。
反粒子炉が破壊され、膨大なエネルギーが噴出し、浸食を起こすそれを呑み込んで破壊の力を広げるも、四機によって展開される防壁に広がりを阻まれる。
強烈なエネルギーの奔流が、四角の防壁内で暴れる。
その合間に、ディオスは術式を完成させる。
それをヴォルガに転送する。
「やれーーーーー」
ククルクに叫ぶと、ククルクは
「あああーーーーー」
と、操縦桿を押して、暴威が荒れるエネルギーの地帯へ向かいヴァルガを走らせる。
ヴァルガの花形ランスが、閉じ込めるエネルギーと接触する。
同時に四機のシステムと連携、荒れるエネルギーを圧縮して質量化させる。
エネルギーの相転移を何度も繰り返して、浸食存在の核であり消滅させた膨大なエネルギーを物質へ変換する。
収束、圧縮、核融合と、それを繰り返して、小山ほどの金とプラチナの塊に変えた。
そして、そこは高エネルギーの熱によって巨大な鏡面の地帯と、大きな金とプラチナの塊が鎮座する収束した場になる。
その上空にヴァルガが浮いている。
ククルクは操縦席で、天を見上げ
「終わった…」
目を閉じる。
四機のゼウスリオンがヴァルガに近付き
『ククルク・リシャル・ナイトレイド』
と、ヴィクトールが呼び掛ける。
『汝は、包括的大規模破壊魔法の制限条約に違反し、さらに余罪もある。投降せよ』
ヴァルガを守っているヴァードとヴァーゴが、四機に立ち塞がる。
補助機を操縦するアンダルとランダルが
「ククルク様、お逃げください」
アンダルが
「ここは、我らが!」
ランダルが呼び掛ける。
ククルクは、ヴァルガの起動スイッチを切り、ヴァルガは動きを止め、ゆっくりと大地に着地する。
そして、動力を伝達されているヴァードとヴァーゴも傍に着地する。
『ククルク様ーーーー』
アンダルとランダルは叫ぶ、諦めるな! 逃げろ!と
ククルクは首を横に振って
「もう良いのだ。妾は大人しく汝達に従う」
ククルクは投降した。
これから厳しい裁判が待っているだろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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