第123話 エニグマの影と愚かな男アグラル
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あらすじです。
五年前のアグラルがディスリーラを得たのはエニグマの力によるモノだった。
現在、ディオスはリシャル国で、ククルクと国を助ける為に、その罪を背負おうとしようとする者達と対面する。そして、ゼウスリオンがディオス無しで作れるまでになり、ククルクが
ナイトレイド連合帝国、フォルフ家が治めるフォルフ国の王族出身であるアグラル・ルド・フォルフは、弱い王族の秘技キュリオロスしか持っていなかった。
キュリオロスは、霊神技という万物にある魔力の霊性に働きかけ、様々な形状の動く魔導体を生み出し操作する能力がある。
更に、その力を持って相手に噛み付き、相手の血の中に力を注ぎ込めば、カーストという拘束力を発揮出来て、相手を従わせる事が出来る。
アーリシアにある精霊神獣ジンは、戦術兵器のような力の性質で。
アルスートリのキュリオロスは、戦略兵器のような力の性質である。
そして、このアルスートリでも、やはり王族の血に宿る秘技が強い者が、王家を担う。
アグラルは、嫉妬した。
なぜ、自分だけがこんなに弱いのか!
次期フォルフの王は、自分より力の強い妹が受け継ぐ。
それを理解してから、強い疎外感と苛立ちがつきまとっていた。
外面では、自分は気楽な王族と装い。
一人になれば、クソ!クソ!クソ!と怒り苛立ち嫉妬する毎日だった。
アグラルは、キュリオロスが弱いからと言って、両親からも妹からも、臣下達から疎まれている訳ではない。
ちゃんと、真面目に向き合ってくれていた。
だが、アグラルには余計にそれが自分の弱さの所為で、舐められていると思い込んでしまう。
外見では平気な様相で、内心では嫉妬と憎悪、自分は特別でありたいという、何とも子供じみた考えに染まっていた。
それをエニグマのゴルドは見抜いて接触した。
ゴルドは、封印されていたディスリーラの復活を行い、このアルスートリ大陸の不安定化を狙っていた。
まさに、アグラルは絶好の自分の傀儡に出来る人物だった。
アグラルと共に、海底深くに封印されたディスリーラの復活を行い。
まずは、ナイトレイド連合帝国に従うフリを三年間、続けた。
そうする事によって復活したディスリーラへの警戒を緩めさせ、ディスリーラのコントロールをアグラルに集中させる算段である。
ディスリーラの警戒も甘くなり、アグラルとゴルド達、エニグマだけの運用になった瞬間、牙を剥いた。
ディスリーラの力によって数カ所の町が消え、その暴力にナイトレイド連合帝国は怒り、抗議するも、反抗する者達をディスリーラで粛清した。
王族達は、アグラルを連合帝国の皇帝にするとして、アグラルの暴力を止めようとした。
だが…アグラルのねじ曲がった嫉妬と羨望の心は、皇帝と案じた王達を殲滅する暴挙を行った。
アグラルを止めようとした父までも殺し、アグラルは自分が皇帝でなくとも好きに動かせる傀儡化した連合帝国に満足した。
年に数回、自分が強いと見せつける為に、何処かの都市や町の傍を、ディスリーラで攻撃して脅し、反対する者達をディスリーラで粛清した。
アグラルのねじ曲がった子供じみた自尊心を満足させる為に…連合帝国は玩具にされていた。
ククルク・リシャル・ナイトレイド。
彼女は生まれつきの強いキュリオロス故に、ナイトレイド連合帝国の皇帝継承権第二位の運命を背負っていた。
その自覚は、幼い頃よりあった。
両親とは違い強力で強いキュリオロスの力で数千単位の無機物から出来る魔導体達を正確に操作できる。
そのキュリオロスの拘束力も抜群で、普通程度のキュリオロスのカーストは、四肢の麻痺程度であるが、ククルクは、従わない場合は心臓を掴むような激痛も与えられる。
小さい頃から、次期皇帝という宿命の下で育ち、それに相応しい人物として鍛えられた。
故に、鋭く厳しい性格が備わるも、本来は穏やかで優しい面も持ち合わせている。
次期皇帝の人物は、強くあらねばという教え故に、外面的には高圧な不遜姫を見せている。
だが、気が抜ける家族や臣下の前では、元来の優しい部分を現す。
そんな彼女に人生の動乱が襲い掛かる。
アグラルのディスリーラの暴走である。
アグラルは父を殺し、そして、アグラルを祭り上げて大人しくさせようとした、ククルクの両親、リシャル国の王、父と妃の母、他のフォルフ国、ボルフ国、シャルリル国の王達までも手に掛けた。
アグラルを皇帝にするという交渉の飛空艇に乗っていた両親達が、ディスリーラの主砲で焼き払われた姿を見たククルクは、そのショックからキュリオロスの中に眠るレアな力、読心術の力に覚醒した。
亡きリシャル国の王であった父に代わり、ククルクは十四でリシャル国の王となった。
ククルクは決意する。
必ず、アグラルに鉄槌を、ディスリーラを破壊すると…。
読心術で、何とかアグラルの心を読んで、二年間なんとかディスリーラの脅威から国を守り、その中で様々な力を模索中、アーリシアの出来事が耳に入る。
アーリシアを何度も破壊したヴァシロウスという大悪獣を倒した大英雄ディオス・グレンテル。
そして、ディオスが次々と強力な魔法兵器を編み出していると…。
その中で、ゼウスリオンという王族の血に受け継がれる秘技を動力とする強大な兵器を耳にした。
ククルクは決意する。
自分を兵器として、ディスリーラを…。
現在
アルスートリ大陸のとある上空で待機するディスリーラの中心部の庭園の如き部屋の豪華な王座に座るアグラルが苛立っていた。
アーリシアの大英雄が来てから、全く自分の力を見せていない。
まあ、ディスリーラの力であるが…。
このままでは、自分の権威が下がるだけと、愚かな思考をして、王座にある主砲のスイッチをいじる。
今、アーリシアの大英雄の姿が見えない。
撃っても大丈夫だろう。それにここで、力を見せて置かないと…自分の面子が潰れる。
何とも、お粗末で愚かな考えで、主砲を放とうとしたが…警報が鳴る。
中心室の画面にディオスが近付いて来たのが映った。
「何だよ! アイツはーーーーー」
アグラルは苛立ち髪を掻き喘ぐ。
ディオスは静かに千メータの超弩級要塞戦艦を見上げて腕を組む。
その視線は鋭い。
そこへ
『何だよ! キサマ! 何しに来たんだよ!』
アグラルの苛立つ声が放たれる。
ディオスは顔に呆れを浮かべて
「別に、オレが何処にいようと構わないだろうが…」
『僕の邪魔をしに来たのかよ!』
ディオスはフッと嘲笑いを向け
「オレの行きたい所に、キサマのようなデカ物がいるだけだ」
要約すると、何処へ行こうとも…キサマの邪魔をするという事だ!
『あああああああ!』
アグラルの苛立ちの悲鳴が響いた後、ディスリーラの主砲にチャージが始まる。
ディオルはニヤリと笑った。
そう、ワザと相手を挑発させ、自分を攻撃させる。
そうなれば、後は正当防衛だとして幾らでもどうにでも出来る。
ディオスは、嘲笑いながら、攻撃を待っていると、唐突に主砲のエネルギーチャージが止まる。
「ん?」
首を傾げるディオス。
その正面に巨大な魔導立体画面が出現する。
その画面にいたのはゴルドだった。
「キサマーーーー」
ディオスの頭が一気に沸点を迎える。
ゴルドはニヤリと怪しげに笑み
「いいのか? このディスリーラは、アグラル殿のキュリオロスを反粒子炉の力を使って増幅し動力にしている。下手に攻撃して反粒子炉を破壊すれば…アルスートリ大陸は…」
つまり、下手に攻撃すれば、アルスートリ大陸ナイトレイド連合帝国は消滅するという事だ。
ゴルドは続ける。
「キサマが解決すると、ナイトレイド連合帝国に内政干渉という傷を付けるぞ。そうなれば…世界はどうなるだろうなぁ…」
ディオスは目を瞑る。
エニグマのヤツが言っているのは正しいのだろうか?
ハッタリか?
だが…もし、ここで自分が片付けると、確かに内政干渉という事実を作って世界がおかしくなるかもしれない。
天秤の傾きは…。
ディオスは目を開けると、ディスリーラに背を向けてベクトの連続瞬間移動でリシャル国へ帰還した。
そう、自分が潰す方がリスクがデカいと…。
連続瞬間移動で去るディオスを画面越しにみるアグラルは
「クソ! クソ! クソ!」
と、王座の肘当てを殴っていた。
となりにいるゴルドが
「アグラル殿…後二週間半です。その時になれば…」
アグラルは親指の爪を噛んで
「見ていろよーーーー オレは強いんだ! みんな、オレに跪かせてやる!」
ゴルドはニヤリと笑む。
本当に扱い易いバカな男だ。
ディオスがリシャル国の王城へ戻り、城壁の通路に着地すると、そこへシャードルが来る。
「アーリシアの大英雄様。ありがとうございます」
アグラルを押さえてくれる事に感謝を告げる。
ディオスは、頭を振って
「別に、息子を人質に取られているので、面倒は増やしたくないですから…」
シャードルが痛そうな笑みをした次に
「グレンテル様…こちらへ」
シャードルが案内した場所は、大きな客間だった。
そこへディオスが入ると、客間には、多数男女の各種族のシャードルと同じ七十代後半の者達がいた。
豪華な服装から見るに、貴族のようだ。
シャードルがその一団の前に立ちディオスに向かって
「今回の事件の発端は、我らリシャル国の老中達が、ククルク様をけしかけた為に起こりました。全てが終わった後、我ら全員をアーリシアへ連行し、処罰してください」
その脇にいる老婦人が
「極刑を受ける覚悟は出来ております」
ディオスは呆れた顔をする。
見るからに、ククルクの罪を背負って、自分達だけ犠牲となって、罰せられるだけで全てを済まそうとしているのが、見え見えだった。
「自分達が罪を全ての背負って…」
シャードルは微笑み
「それが、残り寿命の少ない老骨であるわたくし達の役目であります」
シャードル達との話を終えたディオスは、廊下を進む。
隣にある研究機関に向かっていると「グレンテル様」と止める者。
それは、四十代程の貴族の集団だった。
そのリーダーの一人が言う。
「今回の事件を起こした主犯は我らであります。どうか…全てが終わったら、我らを連行してください」
ディオスはガクッと頭を下げる。
本日二度目の、罪科を背負う者達との遭遇だ。
それが終わって隣にある研究機関の前に来ると、集団がいる。
年齢的に自分に近い二十代から三十代の集団。
そのリーダーが告げる。
「事件の発端を作ったのは我々です。全てが終わったら我々の連行を…」
本日、三度目の遭遇だった。
三度の遭遇を経て、研究機関に帰って来たディオスは、技術者と共にゼウスリオンの設計とそれに関する技術の提供を行っていた。
ここに来て三日、ほぼ九割方、ゼウスリオンに関する技術を提供して、自分がいなくてもこの国の力でゼウスリオンは作れるだろう…と。
ディオスは、加工技術のチェックをしていると、ククルクが来た。
「捗っているか?」
ディオスはククルクへ向いて
「まあ…後、もう少しだ」
「そうか…」
ククルクは微笑んだ後、ディオスの左手を握り、右手に片手サイズの注射器を取り出しディオスの左腕に注射した。
ディオスは注射された左腕を擦り
「なんだ? 新手の拘束術薬か?」
ククルクは首を横に振り
「妾のキュリオロスのカーストを打ち消す薬を注射した。これで汝は自由だ。大方、事情は聞いた。後は妾達でゼウスリオンを作れる。ティリオを連れてアーリシアに帰れ」
ディオスは顔を渋くして
「そうなれば、どうなるか…分かっているだろう」
ククルクは微笑み
「分かっている。だが…それで良い。ただ…ディスリーラを破壊するまでは、待っていてくれ。その後は…」
「その後は?」
「妾が責任を取る時じゃ。ティリオは良い子じゃのぉ…僅かだが、一緒に過ごせて楽しかったぞ。最後の良い思い出じゃった。それではなぁ! アーリシアの大英雄よ。迷惑を掛けてすまなかった」
ククルクが去って行く。
その背をディオスは見つめた。
その夜、ディオスは研究機関の研究室のイスに腰掛け考える。
おそらく、エニグマが関係しているなら、今までのゼウスリオンでは…敵わないかもしれない。
脳裏に、三度であった。ククルクと国を救う為に、何の身にもない罪科を背負うという熱い者達が過ぎる。
ククルクの高慢でない本心を見た。
「はぁ…全く…」
ディオスは、イスから立ち上がった。
ディオスは、研究室の装置を動かして、設計の大幅な変更を行った。
翌朝、技術者達はディオスから渡された設計変更を見て驚愕する。
「ウソでしょう。変更って完全に別物になってますよ!」
「こんな、ムリだ! 見た事もない魔導技術が…」
混乱が広がっている。
ディオスは静かに冷静に
「新たな魔導技術に関しては常時、自分が開発して提供します。それで…」
技術者の一人が
「つまり、グレンテル様も…開発に加わると…」
ディオスは静かに頷き
「一週間半後の完成を目指します」
技術者達は顔を見合わせる。不安が過ぎっている。
「本当に、可能なのでしょうか?」
ディオスは鋭い視線で力強く
「出来る事を出来ると言って、何が悪いんですか」
ディオスの圧倒的確信に、何故か技術者達も出来る気がして
「分かりました!」
こうして、ディオスの新たなゼウスリオンの開発が始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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