第122話 ククルクの目的
次話を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりと楽しんでいってください。
あらすじです。
ディオスはアルスートリ大陸ナイトレイド連合帝国で、帝国を恐怖で支配する暴君とその強大な力の存在故に、ゼウスリオンを欲していた現状を知った。
ククルクは王座にて、アーリシアの現状を映した魔導立体画面を見上げていた。
あれもこれも、攫った人物を非難する声ばかりだ。
そして、その攫った人物の特定が進んでいる。
もうじき、自分の名が出るのは時間の問題だろう。
ククルクは静かに目を閉じ、考える。
「ククルク様…」
一人の魔族の老男将軍が近付く。
ククルクは目を開け
「なんだ? シャードル」
魔族の老男将軍シャードルはククルクに頭を下げ
「このシャードル、ククルク様と共に冥府にいく覚悟は出来ております。どうぞ…ご一緒にお連れください」
ククルクは目を細め
「それはダメだ。お前には、妾が全ての責任を負った後に、妹のクリルアを支えて貰わなければならない。妾以外、生き残って前に進め」
シャードルは厚い眉を細め
「ククルク様は、ワシにとって娘か孫です。殺された前王の父君や母君に代わり、傍にいるのが、ワシの使命です」
ククルクは鋭い瞳ではない、優しげな顔で
「シャードル。すまん…だが…」
シャードルは微笑み
「何と言われようとも…ついて行きますぞ」
ディオスは、リシャル国の王城の隣にある研究機関で、ゼウスリオンを作る為の加工技術をリシャル国の技術者達に教えていると、技術者の老人の一人が
「グレンテル様、申し訳ありません。このような事になってしまい…。ですが…これには理由があるのです」
ディオスは眉間を寄せ
「理由とは…」
「こちらへ…」
研究機関の高い展望台へ来るディオス、老人の技術者が
「アレを…」
と、空の方を指さす。
ディオスはその方向を見つめると、そこに黒い傘の骨組みが浮かんでいた。
「アレは…」
と、ディオスは首を傾げる。
遙か上空に浮かぶ、黒い傘の骨のようなそれを老技術者が
「ディスリーラ…五年前に海底に沈められて封印された、忌まわしきナイトレイド連合帝国の遺物です」
ディオスは、老技術者から説明を聞く。
ディスリーラ、全幅千メートル、全高千メートルの漆黒に輝く傘の骨のようなそれは、千年前にあった大きな戦争の時に、このアルスートリ大陸ナイトレイド連合帝国を守る為に作られた超大型魔導要塞戦艦だった。
それにより、ナイトレイド連合帝国は、大きな国防を持ち安定していたが、五百年前に、それを操縦するキュリオロスの王家の一人が暴走して、連合帝国を破壊し始めた。
連合帝国を守る力が、連合帝国に牙を剥いて、大規模な内戦が勃発、多大な犠牲を払ってディスリーラを海底に沈めて封印した。
その海底に沈めて封印された筈のディスリーラを、二年前ナイトレイド皇家の中でもキュリオロスが弱いアグラル・ルド・フォルフが復活させた。
ディスリーラはナイトレイド皇家のキュリオロスを動力と制御系にしているので、キュリオロスが強大な者しか動かせない。
それが、何故、弱いアグラルが動かせたかは、不明だが…アグラルは、起動したディスリーラを使い、このナイトレイド連合帝国を支配した。
表向きは、ボルフ家を頭にしているが、実質はディスリーラに篭もり、このアルスートリ大陸を支配。
自分を止めよとした父親さえも殺して、君臨している。
アグラルの支配は、とても残虐で民をゴミとしてしか見ていない。
逆らう者達は、ディスリーラの主砲にて殲滅、粛清した。
何とか、アグラルの機嫌を取って国を守る王達だったが…まるでアリを潰すかの如き残虐さで、その四人の王達をディスリーラで殺した。
その時にククルアの両親…リシャル王とその妻、母親も…。
その後も、ディスリーラの力を恐れてアグラルに従う恐怖政治状態が今日である。
亡き両親に代わりククルクがリシャル国を治め、何とか信義の厚い臣下達によって維持されてきたが…もう、限界が近い。
ククルクは、このナイトレイド連合帝国を残虐に支配するアグラルを殺す為に、ディスリーラと戦えるゼウスリオンを欲した。
ディオスは静かに目を瞑り考える。
両親と殺された者達の為の復讐とこのナイトレイド連合帝国を救う為にゼウスリオンを…
老技術者が
「どうか…そのお力を…」
ディオスは静かにしていると…警報が鳴る。
遙か上空にあるディスリーラが動いている。
ククルクのいる王座に、ディスリーラからの通信が入る。
魔導立体画面に一人の男が映る。
灰色の髪の人族の男性、年齢は二十歳後半だ。
まるでその口元には、嫌な笑みが浮かんでいる。
アグラルだ。
『やあ…ククルク。元気かい?』
ククルクは顔を鋭くさせ
「何の用だ?」
アグラルは悪戯な笑みを浮かべ
『なんか、君が怪しい事をしようと…企んでいるからね…。その確認』
ククルクはフッと笑み
「はて…? 何かあったかのぉ…」
アグラルは目を鋭くさせた笑みで
『ゼウスリオンを作ろうって魂胆だろう…』
ククルクが怪しい笑みをして
「ああ…バレてしまったか…」
アグラルは、何かを操作する。
『いけないなぁ…。そんな無駄な事をして…』
ククルクは鋭い笑みで
「妾を攻撃するのか? 無駄だぞ…王都には強力な防護結界がある。ディスリーラの主砲を防ぐ程度は出来るぞ…」
『別に王都は狙う必要はない。どこかの町を狙えばいいだけさ。君は残酷だな…僕の機嫌を損ねたんだ。町一つの人々が死んで何も思わないのかい?』
ククルクは笑みを浮かべたまま
「はぁ…やれるのか?」
ククルクは余裕の態度で、右手に顎を乗せ王座に片肘を付く。
だが左手は…固く握られ千切れそうだ。
気持ちを何とか落ち着ける。
ここで焦ったのを見せれば、相手の思う壺だ。
アグラルは主砲の基盤を操作しながら…
『さて…どこを狙おうかなぁ…』
その頃、ディオスはリシャル国の王城の城門の上にいた。
そこから、王都の近く上空に浮かぶ千メータのディスリーラを睨む。
黒い傘の骨の様な千メータの超弩級要塞戦艦にディオスは、ベクトの瞬間移動で迫る。
王の間でアグラルを対峙するククルク。
アグラルは、ククルクの焦る姿みたいのに、その素振りを見せない。
『君がそんな態度なら…』
アグラルは一発、主砲を放とうとするが、そこへ
「おまちください」
クリルアが姿を見せる。
「クリルア!」とククルクは声を荒げる。来るなと…。
クリルアはアグラルの映る立体画面を向いて
「わたくしが、アグラル様の元へ来て使えます。ですから…民への…」
自分を犠牲にして救おうとする妹にククルクが
「下がっていろ!」
怒声を放って下がらそうとするが、クリルアは首を横に振る。
アグラルは、イヤラシい目付きでクリルアを見つめ
『ほぅ…それもいいかもしれませんなぁ…』
ククルクの焦る姿と、クリルアの献身を見れたアグラルは
『その褒美として、一つ…町を消しましょう』
ククルクが「く…」と顔を怒りで歪め。
「お止めください!」とクリルアが叫ぶ。
『では…』とアグラルが主砲の発射ボタンを押した。
ディスリーラの大地に伸びる先から、強烈な光が収束、強大な力を誇る魔導砲が発射される寸前、ディオスがその数キロ下の上空に浮かんでいた。
ディオスはとある魔法を発動させる。
”クリティカル・リフレクト・クワイトロール”
数百キロ規模の空間レンズの底部を形成した。
ディスリーラの主砲が吼え、強大な光線が走るも、ディオスの展開した大規模空間レンズの底部に接触した瞬間、主砲の光線が拡散、威力が輝く光程度までに落ちて、空を輝かせた程度で終わった。
ディスリーラの中央室で、それを見たアグラルは、口を広げて唖然とした。
「誰だ!」
と、アグラルはこの原因を探すと、ディオスを発見した。
アグラルが呼び掛ける。
『キサマーーーー どういう事をしたのか! 分かっているのか!』
ディスリーラから響くアグラルの声に、ディオスは耳を小指でほじりながら、フッとバカにした笑みを向ける。
『バカにしやがってーーーーー』
アグラルはディスリーラの主砲をディオスに向けて放つ。
直径百メータの魔導光線が迫るもディオスは平静として、対処する。
”クワイトロール・ホロウ・クラインポッド”
百メータの魔導光線は、ディオスに接触する前に、ディオスの発動したエネルギーを閉じ込める空間魔法に捕獲され、そして、ディスリーラに打ち返した。
「あああああ!」
怯え焦るアグラル。
ディオスの反射した攻撃は、ディスリーラの傘の骨の様な合間を縫って空に昇り爆発、ディスリーラを揺さぶる。
自分で放った攻撃を自分に返されたというお粗末な事だ。
アグラルが怯え吼える!
『キサマ! 何処かで見たと思ったら、アーリシアの大英雄か! いいのかーーー 内政干渉だぞ』
ディオスはフッと笑み
「はぁ? オレは…ただ、攻撃を反射させる大規模魔法の訓練をしていた。その場にお前がいただけだろうが…」
『誰が許可したんだ!』
「はぁ? 許可なら、この国を治める皇女様に貰ったぞ」
ククルクは、ディオスとアグラルとの会話を聞いてキョトンとしたが…
「ああ…確かに許可したぞ」
と、怪しげな笑みを浮かべた。
アグラルがディオスに吼える。
『これは、この国の問題だ! 他国の王の犬であるキサマが干渉するなんて、ルール違反だ! 我が国に対する侵略だーーーー』
ディオスはフ…と眉間を寄せて呆れた顔をする。
何が侵略だ! 民を殺そうとする愚か者が…何をバカな事をベラベラ言っているんだ!
ディオスは肩をほぐしながら
「これは、許可があった実験です。ですから、問題ありません。偶々、ここに居ただけ。そう、偶々です。ですが…偶々が重なるかもしれませんね。世の中は奇っ怪だ。一度ある偶然が二度も、二度も続いたら三度も、四度もあるかもしれませんね」
アグラルは苛立つ顔で頬を膨らませる。
そう、何度でも攻撃するなら、防ぐという暗喩だ。
『キサマーーーーーー』
アグラルがディオスを指さすと、その後ろに全身をローブに隠した人物が立ち、アグラルの肩に手を置いて、アグラルへ耳打ちする。
アグラルはそれを聞くと、自分の怒りを収め
『まあ、いい。何れ、痛い目に遭わせてやる』
ディスリーラは去って行く。
ディスリーラの中央室、王座のようなそこにいるアグラルの肩を持つ人物は、全身ローブのフードを捲り外す。
そう、奥にあった顔はエニグマのゴルドだった。
「アグラル殿…ここは少々、様子を見ましょう」
アグラルは苛立った顔で
「しかし、ゴルド殿…自分の面子が…」
ゴルドは笑み
「良いのです。後で絶大な力を見せれば、逆らう者など、出てきません」
ゴルドは懐から魔導端末プレートを取り出し、アグラルに渡すとそこにあった物体の名目にアグラルは上機嫌となって
「よーーーーし オレの凄さを見せつけてやる!」
ゴルドはそれを見て
本当にバカな野郎で助かったと…。
ディオスはベクトの瞬間移動でリシャル国の王城へ戻ってくる。
王城の城壁の上に着地すると、そこへククルクが来た。
「すまん。助かった」
大人しいククルクがいた。
ディオスは、ククルクを見つめ
「別に、息子のティリオの身を守る為にやっただけだ」
「それでも…ありがとう」
ククルクは微笑む。
威圧でも、武装した怪しげな笑みでもない。本当の優しい顔だ。
ディオスはその脇を通り過ぎながら
「仕事がある。お前に脅されてやるなぁ…」
と、告げて研究機関へ戻る。
その背にククルクが
「約束する。必ず終わったら、何が何でも息子共々、アーリシアに返すと…」
ディオスは一人、研究室にいた。
イスに座って静かに考える。
どちらに従うべきか…。
この国の問題に首を突っ込むべきか…。
だが、それは内政干渉に当たる。
国の問題は、国にいる人々で解決しないといけない。
他国が干渉してもなんの解決にもならない。
良くする為に、他国の力を借りるのはいい。だが…。
脳裏に、ククルクの臣下であるアンダルとランダルの言葉が過ぎる。
ククルクは、ディスリーラの問題を解決する為に、命を賭けていると…。
ディスリーラを破壊して国を救った後、全ての罪科を背負ってアーリシアに行くと。
アンダルとランダルは、無論、その咎を一緒に受けると言っていた。
ククルクの傍にいる多くの臣下が、ククルクと一緒に咎を受けると…。
ディオスは悩む。
オレはどうしたい?
この気持ち…どう…。
視線が鋭くなる。
「見届けよう…」
そう、全ての事の顛末を最後まで見届ける。
そう覚悟して、ディオスはゼウスリオンの設計を始めた。
魔法立体設計装置を使って、今まである知識を集結させゼウスリオンの設計をする。
その夜、アルスートリ大陸へ一隻の飛空艇が到着する。
その飛空艇の主は、マハーカーラ運輸財団である。
乗客に混じってクレティアにクリシュナ、ナトゥムラ、スーギィの四人が滑走路に降り立ち、そのまま通常なら空港ロービーに向かってチェックを受ける筈が、客とは違う方向へ向かう。マハーカーラ運輸財団の倉庫へ入る四人。
これは極秘の潜入だ。
倉庫に入ると、スーツの数名のシャリカランの者達がお辞儀する。
「お待ちしていました。どうぞ…」
そのまま四人を外に置いてある魔導車に乗せた。
魔導車に乗って移動する四人。
ナトゥムラが余裕に足を組んで
「こんなに簡単に潜入出来るとは…ザルだな…」
助手席にいるシャリカランの者が
「皆様、シャルリル国の王族の方がご対面を…と」
クリシュナが
「これがザルの理由よ。始めから現地の王族が招いていたのよ」
シャルリル国の王宮に来た四人は、現地を治める王子ハルシャルと対面する。
客間でククルクと同じ十六の金髪の人族の王子ハルシャルは、四人へ
「お願いします。ククルクを! ククルクは死を覚悟して…」
ハルシャルの説明を聞いて悩む四人。
ククルクは、このナイトレイド連合帝国を脅かす暴君、アグラルとその暴力である超弩級要塞戦艦ディスリーラを破壊する為にゼウスリオンを必要としていると…。
「クソ…だが、誘拐は誘拐だ」
とナトゥムラは告げる。
クリシュナが
「ハルシャル王子はどうしたいと…?」
ハルシャルは
「ククルクを助けたい。でも…僕には力が足りない…」
クレティアは頭を掻く
「全くダーリンは、本当に面倒な事に巻き込まれるんだから…」
スーギィは額を抱えて
「天性のトラブルメーカーか?」
クリシュナが
「とにかく、夫とティリオの無事を確認するのが先ね。その後は…」
クレティアが
「ダーリンに聞いてみるか…」
翌朝、ディオスが研究室にいて、設計した機体の図面を技術者達に見せる。
立体映像の図面に、技術者達は
「こんなの…本当に出来るんですか?」
ディオスは頷く
「出来ます。必要な技術情報は自分の方から提供します」
技術者達は顔を合わせ
「やってみましょう。そうしなければ…我々に未来は…」
そう、完成しなければアグラルのディスリーラの支配から解放される事はない。
こうして、新たなゼウスリオンの創造が始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。