第119話 王子と皇女の 後編
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あらすじです。
ゼウスリオンに乗ってヴェルオルムとアルミリアスがディオスに助けを求めて来た。ディオスは頭を抱え、二人にお互いが結ばれる覚悟を見せる事が一番として、会見を開いた。そこでディオスは…。
ディオスはソフィアから腹パンを貰った。
「ぐぉおおおおおお」
屋敷の広間でディオスは蹲る。
その背を優しく撫でるクレティアとクリシュナ。
ズンとソフィアはディオスの前に仁王立ちして
「お前はーーーーーー 何でもかんでも大問題にするなぁぁぁぁぁ」
ゼリティアがソフィアの前に立ち、ディオスを守って
「ソフィア…今回はディオスの所為ではないぞ!」
ディオスは蹲って腹を擦りながら
そうだぞ! オレが原因じゃあないんだぞ…。
内心で訴える。
ソフィアは、右を向くと、驚き戸惑うヴェルオルムとアルミリアスがいる。
「はぁ………」
と、ソフィアは深い溜息を吐く。
なぜ、ヴェルオルムとアルミリアスはゼウスリオンでディオスの屋敷に逃亡したのか…。
それは、フランドイル軍とロマリア軍との合同演習にて起こった。
この合同演習にはゼウスリオン同士の交流演習も入っていた。
フランドイルの二機のゼウスリオンと、ロマリアの七機のゼウスリオンの交流演習は、スムーズに進み。
その夜、ヴェルオルムとアルミリアスは密かに逢い引きして、隠れる場所で抱き締めあっていると、フランドイル軍の兵士達が、その隠れている場所に来た。
二人は急いで物陰に隠れてやり過ごす事に。
その兵士達の会話には
「なぁ…議会の話、知っているか?」
「ああ…王を投票で決めるかっていう決議だろう」
「なんでも、ヴィルヘルム陛下が反対しているらしいが…」
「どうかなぁ…国の中じゃあ、もう…バルストランみたいに王を投票で決める方が良いって思っているみたいだし…。それが決まるんじゃないか」
「その方がいいよなぁ。ヴィルヘルム陛下は、真実を見抜くジン持ちなんだろう。その力を恐れて悪い奴らが来ないから、王位や国は安泰だしよ。その力がある…」
「長男のヴェルオルム王子が、次期国王か…。いいかもね」
「ああ…もう、ジンの強さで王位が決まる時代は終わりさ。なんせ、アーリシアの大英雄様のお陰でなぁ」
「そうだな。ゼウスリオン、エンペラード。これがあるしなぁ…。ジンの強さでない、国民が選ぶ王が国王か…良い時代だよなぁ…」
「だけどよ…ヴィルヘルム陛下は反対なら、味方にアーリシアの大英雄を付けるかもよ」
「でも、アーリシアの大英雄は内政には干渉しないタイプらしいぞ」
「そうか、なら…決まりだな」
「おう、決まりだな。王は投票で選ばれて、次期国王はヴェルオルム様で…」
兵士達の会話を聞いてヴェルオルムとアルミリアスはいてもたってもいられなくなり、訓練途中でゼウスリオンに乗ってディオスの屋敷に来てしまった。
ディオスは屋敷の広間でヴェルオルムとアルミリアスから、王を投票で決めるのを防いで欲しいとお願いする。
ヴェルオルムとアルミリアスは広間のソファーに座って、対面に座るディオスに
「お願いします。グレンテル様…」
ヴェルオルムは頭を下げる。
「どうか…お力を…」
アルミリアスも
「お願いします」
二人して頭を下げる様子にディオスは頭を抱える。
どうしよう…。
ディオスの後ろにいるクレティアとクリシュナにゼリティアは、ディオスが苦しんでいるのを察して
「ダーリン、今日は…ね」
クレティアがディオスの肩を擦る。
ディオスは渋い顔を二人に向け
「王子様、皇女様。これは…直ぐには…」
ヴェルオルムが
「議会の決議は、二日後に迫っています。もう…時間が…」
ソフィアが一階の廊下から現れ
「両殿下。本当に問題を起こしてくれましたね。一応、連絡だけは入れて置きましたが…。状況が悪くなるばかりですよ」
ソフィアは怒っていた。
ヴェルオルムは項垂れる。
左にいるアルミリアスがその左手を握り、不安を和らげようとする。
一階の廊下からナトゥムラとスーギィが顔を見せる。
ナトゥムラが渋い顔をして
「もう…とんでもない大問題になっているぞ」
スーギィが魔導情報端末のプレートをヴェルオルムとアルミリアスの二人に渡す。
そこには、速報の記事が載っている。
フランドイル側の記事。
フランドイルのヴェルオルム王子のゼウスリオンと、ロマリアのアルミリアス皇女のゼウスリオンが強奪される。
強奪した犯人を捜索中。
両国に、ゼウスリオンの強奪に関しての亀裂が入る。
ロマリア側の記事
アルミリアス皇女がフランドイルの王子にたぶらかされ、ゼウスリオンを強奪する。
ロマリアは外交問題として、フランドイルに抗議。
両国の改善に亀裂が入る。
ヴェルオルムとアルミリアスは、二国に立ちこめる暗雲に、申し訳なさを感じる。
スーギィが不安な顔をして
「どうする?」
その言葉に解決策はない。
ディオスは鋭い視線でヴェルオルムとアルミリアスを見つめ
「両殿下。このようになるとは想像出来なかったのですか? これは…戦争に発展する事態になるかもしれませんぞ」
戦争になるという言葉を聞いて、アルミリアスが顔を悲しみに染める。
ヴェルオルムはアルミリアスの手を握り締めながら
「そうなるなら、自分が責任を取ります」
ディオスは鋭い視線で
「どのように?」
ヴェルオルムは強い視線で
「王位も何もかも捨てて、アルミリアスの元へ行きます」
「ヴェル…」とアルミリアスは目が潤む。
ディオスは鋭い視線で
「つまり、何モノを変えても、その隣にいるヒトの傍にいると…」
「その覚悟があります」
ヴェルオルムの覚悟にディオスは「はぁ…」と溜息を吐き
「その覚悟、試して見ましょう」
その夜、バルストラン王宮の記者会見場で緊急の会見が開かれる。
会見の壇上で、ソフィアが
「緊急の会見に集まって頂き感謝します」
と、記者達に告げる。
「今日は、とても重要な会見ですので、慎重にお願い致します」
ソフィアが下がると、舞台の袖からディオスが現れる。
記者達は戸惑う、王の臣下が記者会見をするなんて今まで無かった事だ。
戸惑いの中、ディオスが壇上で告げる。
「皆さん、集まって頂き感謝します。今日は、この二人に関してのお話をしたいと…思いまして…さあ」
ディオスが右の袖に手を向けると、ヴェルオルムとアルミリアスが姿を見せる。
ええええ! なんだと! どうして二人が!
記者の驚きの声が広がる。
ヴェルオルムとアルミリアスは、ディオスの隣に来て、ディオスが壇上のマイク机から退いて、ヴェルオルムがそこに立ち
「皆様、大変、ご迷惑を掛けています。この場に立ったのは、自分達の事を伝える為に、来ました。
自分とアルミリアスは…数ヶ月ほど前より、お付き合いをしていました。そして、将来を誓い合いました。
自分がロマリアの方へ行き、アルミリアスを助けたいと…。自分は…アルミリアスを愛しています。どうか…フランドイルの国民の皆様、ロマリアの国民の皆様。自分達に力を貸してください。そして、必ず私達は両国の歩みと繁栄の為に尽くす事を約束します。
ですから…自分達を…結ばせてください」
ヴェルオルムは堂々と言い切って、アルミリアスの右手を左手で握った。
シャッターの嵐が二人を包む。
そして、ディオスがその場に跪き、正座して
「フランドイルの国の皆様…どうか! 愛し合っている二人を離すような無慈悲な事を…しないで頂きたい」
土下座した。
額を床に擦りつけ「お願いしますーーーーーー」とひたすら土下座をした。
それを、記者がフラッシュで囲む。
その場景が、フランドイル国内にも放映される。
アーリシアの大英雄が、ヴェルオルムとアルミリアスの別つことを止める為に、必死にひたすら、土下座をする。
その土下座には、美しさがあった。
それにヴェルオルムとアルミリアスが来て、面を上げさせようとしたが、ディオスは手で振りほどいて、土下座を続ける。
ソフィアが来て
「これで会見は終わりです!」
スーギィ、マフィーリア、ナトゥムラの三人が入り、土下座するディオスを無理矢理に立たせるも、ディオスは暴れて離れ
「お願いしますーーーー どうか! 二人を結ばせてあげてくださいーーーー」
額をこすりつける土下座を続ける。
強制的に、カーテンが掛かってその場は終わった。
フランドイルの情報番組がこの事を取り上げる。
アーリシアの大英雄、フランドイル王子とロマリア皇女が結ばれる事を願って必死の土下座をする。
何故、そこまでするのか?
アーリシアの大英雄に近い町の人達の声は。
「あれが、ディオスさんだって」
「ああ…あの人らしいって」
「そうそう、ディオスさんは優しい人だからね…」
アーリシアの大英雄は本気の思いに答えてくれる人物だと…証言があがる。
ヴァシロウスを倒す時にも、亡くなった人々や痛みを受けた人の事を叫んだ事。
色々と人の為に尽くしてくれる事。
ディオスの周囲を知る人々から、そのような話が出てくる。
二日程度だが、フランドイル国内の雰囲気が変わった。
そして、王を投票で決める決議をする議会で、議員の一人が
「今回の決議は、次期国王の時まで棚上げという事で…」
それに誰も反対する議員はいなかった。
ヴェルオルムとアルミリアスの話もあるが、大きかったのはディオスの、アーリシアの大英雄の面子まで潰してまでも、訴えのお陰であった。
ヴェルオルムとアルミリアスは、フランドイルへ戻り、フランドイル王宮で、ヴィルヘルムとライドルの二人から
『バカ者がーーーーーーー』
と、お怒りを受けた。
二人は萎縮する。
ヴィルヘルムが額を抱え
「全く、ディオスの面子まで潰しおって…」
ライドルが眉間を寄せて
「勢いに任せて動きおって!」
ヴェルオルムが頭を下げ
「本当に申し訳ありません」
ライドルが「はぁ…」と溜息を吐き
「ディオスに貸しが出来たな…」
『え…』とヴェルオルムとアルミリアスは目が点になった顔を向ける。
ヴィルヘルムが
「議会は、決議を次期国王の時まで棚上げにした。ディオスに感謝しろ。あの土下座が効いて、次期国王はジンが強い者が王という事になった」
ヴェルオルムとアルミリアスは顔を喜びに染める。
ライドルが
「気を緩めなよ。これからが大変なのだ。分かったな…」
『はい…』とヴェルオルムとアルミリアスは微笑んで頷いた。
数日後、素早くヴェルオルムとアルミリアスの結婚式がロマリアの皇帝城で行われた。
フランドイルの次期国王候補とまでされた王子と、ロマリアの次期皇帝の皇女とのビックカップルの結婚は世界中に知れ渡る。
そのカップルを結びつけたのは、アーリシアの大英雄、ディオスであるというのも…。
その結婚式には勿論、ディオスもいた。
ディオス達家族がいるテーブル、クレティアとクリシュナにゼリティアは、その両脇にいる人物達にお酌されるディオスを見つめて笑む。
ディオスは、ヴィルヘルムとライドルの二人からお酌を受けていた。
ヴィルヘルムが
「すまん。本当に息子が世話になった」
ライドルが
「申し訳ない。娘の為に土下座までしてくれて…」
ディオスは微笑み
「良いですよ。出来る事をしたまで、ですから」
花嫁姿のアルミリアスと、新婦のタキシードのヴェルオルム。
二人の新郎新婦に贈り物を送る係として、歩き出したティリオとリリーシャにゼティアが小箱を持って歩いてくるが、上手く行くはずもなく、母親達の連れられて新郎新婦の傍に来て、小箱を渡す。
そして中身を開けると、そこに二つのブレスレットが入っている。
それを新郎新婦の二人が左腕に付けると
「手を握り合ってみてください」
と、ディオスが呼び掛け。
二人がブレスレットのある手を握り合うと、そのブレスレットから光のオーラが出て二人の握り合った手の上でハート型の翼を広げた。
粋なディオスからの計らいにアルミリアスは涙して、ヴェルオルムは顔を綻ばせた。
その結婚式中にライドルがヴィルヘルムに
「フランドイルから渡されるヴェルオルムのゼウスリオンの代わりに、新たなゼウスリオンの製造費を全てロマリアが負担する」
「え!」とヴィルヘルムは驚き
「それは…別にいいんだぞ」
ライドルは首を横に振って
「次期国王候補とされた大事な王子を貰うのだ。これくらいはさせろ!」
ヴィルヘルムは
「6:4だ」
ライドルは頑として譲らず。
「全額負担だ!」
ヴィルヘルムは項垂れ
「負けた…分かった。これからもよろしく頼むぞ…ライドル皇帝」
「ああ…こちらからも…フランドイル王よ」
ライドルとヴィルヘルムは固く握手した。
数日後、ヴェルオルムはアルミリアスと共にロマリアでの新たな生活を始め、同時期にアリストス共和帝国にゼウスリオンに使う、ゼウスインゴットの製造をロマリアのライドル皇帝が依頼、了承されて…ゼウスインゴットの必要数の製造に取りかかり、ロマリアでは、ゼウスリオンに使う装甲や装備の製造が始まった。
ゼウスインゴットは修理分までも使い切りの、在庫を一切残さない管理が行われていた。
その盗難を防ぐ為に、使い切りでしか製造されない。
そして、新たな製造の為に、アリストス共和帝国のゼウスインゴットの工場が動いていた。
その知らせをアルスートリ大陸のナイトレイド連合帝国、レブラット王国の王、ククルクがキャッチした。
ククルクは王座にて怪しく笑み
「これは好機だ…」
そう、ゼウスリオン一機分のゼウスインゴットを盗む予定だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ありがとうございました。