第11話 キングトロイヤル 王の誕生
ここまで読んでいただきありがとうございます。
あらすじです。
ディオス達を襲った二人組は、一人はディオス達に保護され、逃れる男ダージーが向かった先には…そうディオスと同じ無限魔力の…殲滅諮問官ユリシーグだった。
キングトロイヤル 王の誕生
ダージーは必死に逃走していた。
「クソ、なんというバケモノだ。一瞬でドラゴン三体を…」
ダージーが逃げる先、そこは丘だった。そこの下に小型飛空艇が隠されいる。
小型飛空艇がある丘に来たダージーだが、次に目にしたのは、爆発だ。
丘に隠していた小型飛空挺が木っ端みじんになり炎上している。
「これは…どういう事だ…」
呆然とするダージーに、炎上する小型飛空艇から人影が現れる。
「これはこれは…ダージー・オンルタ殿…何処へ逃げるつもりですか?」
現れた人影は十代後半の少年だ。黒髪に黒の司祭服、胸元にロザリオを下げる少年の顔は、どこか鋭く不気味だ。
ダージーは身を引き
「…殲滅諮問官…ユリシーグ・ガウラハ…」
ユリシーグはニヤリと大きく不気味に笑み
「目的を達していないのに、撤退とは…いかがなものかと…」
「いや…その…そう、これは戦略的撤退という」
ユリシーグは右手をダージーに向け
「ウソを吐くな、この外道な背徳者が…」
魔法陣が展開され、ダージーの左右から結界が生じ、ダージーを挟んだ。
「ゴオオオオ!」
呻くダージーにユリシーグは嘲笑いを向け
「キサマのような下賤な輩に外道な仕事を任せたが…。結局は、何も出来ず。この失態…許しがたき。神罰を受けるがいい」
ユリシーグが伸ばした右手を握ると、ダージーを挟む結界が狭まり
「アアアアーーーーー」
ダージーは断末魔を上げてプレスされて爆ぜた。
それを後ろで見ていたディオス。
ユリシーグが右手を下ろすと、ダージーだった血の壁が地面に降り注ぐ。
「これはこれは、初めまして…」
ユリシーグが右手を横にしてお辞儀する。
ディオスは、凝視しながら
「お前…何者だ? さっきのヤツの仲間ではないのか…」
ユリシーグはフッと笑み。
「フフ…アハハハハハーーーーー」
高笑いして
「いやはや、先程の下賤な輩と仲間と思われたなら、心外だなぁ…。私はいたって清らかな存在ですよ」
ディオスは眉間を寄せ不愉快に
「簡単に人の命を奪うヤツが、清らかとは片腹痛い」
「誤解がありますな」とユリシーグは手を振り「私が滅したのは人の道を外れた外道なのです。人ではなくなったモノに神罰を下したまで、お分かりかな」
「ほう…外道ね…」とディオスの視線が鋭くなる。
どっちも似たように見える。
ユリシーグは頭を下げ
「あ、そうそう。自己紹介がまだでした。私は、ユリシーグ・ガウラハ…教会の秘匿組織、サルダレスで神罰代行を行っております。殲滅諮問官でございます」
「ふ…なら、こちらも」
と、礼にならって名乗ろうとしたが…。
「いいえ、お構いなく…ディオス・グレンデル殿」
ユリシーグは、ディオスの事を知っている。ダージーを殺した事、自分の所属を名乗った事、つまり…。
「一つ聞きたい。オレはこのまま、帰ってもいいのかな」
と、ディオスは首を傾げる。
ユリシーグは嘲笑で
「これはこれは…意外な事を申される。帰還出来るとお思いとは…」
ディオスは呆れ笑み
「だろうな…。で、どうする。戦うか」
「戦う? これも以外だ。何故ならこれは、神への愛を示す試練なのです」
と、ユリシーグは両手を空へ伸ばす。
「はぁ? 神の愛だと」
何を言っているんだコイツという顔をディオスはする。
「そうです!」とユリシーグは両手を空へ伸ばし「これは、神の愛を示す試練であり、神の罰を行う聖戦なのです。神への愛、そして神の愛を示す。まさにまさに!」
ユリシーグは、ディオスを凝視して
「アナタは、何処の信徒でしょうか?」
脈略もない事を呟くユリシーグをディオスは、頭がハイテンションのおかしなガキと認定し
「信徒もクソもあるか。お前は敵か味方か、どっちだ?」
「はぁ!」とユリシーグはため息を漏らし「そうですか…アナタは神の信徒ではないと…残念だ。では、神の威光を示すとしましょう。アナタの師も込みで」
敵認定、ディオスは右手を素早く掲げ、魔法陣を展開
「業火魔法…」
”バハ・フレア”
ディオスの右手から紅い光線が飛び、ユリシーグの前で巨大な火球に変わる。丘を呑み込み業火の球体が全てを呑み込む。
先手必勝、面倒な事は早めに処理するに限る。だが…
「緩いぃぃぃぃぃぃぃ」
ユリシーグの怒号と共に、火球が割れ、中心には六つの魔法陣を展開するユリシーグがいた。
ユリシーグが右手をディオスに向け
”ヘキサゴン・レイダー”
六つの魔法陣から六色の光線が飛び出し、森を突き抜ける。
ディオスは、ベクトで横に瞬間移動して逃れるも、森を突き抜け囲む山肌に牙を剥いたユリシーグの魔法に眉間を寄せ、このまま地上で避け続ければ、ソフィア達に当たるかもしれんと、察し
”ウィンド”
飛翔魔法を唱えて空へ逃れた。
「逃しませんよ!」
ユリシーグも飛翔魔法で飛び、ディオスを追随する。
空へ昇るディオス、それを追うユリシーグは
”ダウンフォール・バベル”
周囲に展開する六つの魔法陣から無数の光りの筋が飛び、様々な軌道を描いてディオスに迫る。
ディオスは昇りながら、ベクトを使い瞬間移動して光りの筋から逃れるも、その先を逃すまいと、光りの筋が追う。
「チィ」とディオスは舌打ちして、雲を突き抜けそこで静止すると
”オル・シールド”
自分を中心として結界の防護の魔法を張り、その防護壁に光りの筋が衝突、光の爆発を連続する。完全に足が止まったディオス、ユリシーグがその数百メータ先に同じ高さで止まり
「さあぁぁぁ、神罰代行です!」
”セブンズ・ゲート”
展開する六つの魔法陣から七色の光線の雨を発射しディオスを襲う。
ディオスは、次の魔法を展開させる。
”ブラックホール・アビス”
闇属性の魔法は、襲ってくる七色の光りに向けて発射、漆黒の球体が七色の光りに衝突し、その光りを呑み込む。
「ほう…なかなかですね」
と、ユリシーグは楽しげに笑む。
ディオスは苛立った顔して「クソ…」と悪態をつく。
もっと強力な魔法、熱核魔法のグランスヴァインや、極大殲滅魔法のバルド・フレアを使おうかもと考えたが、この高度で使うと、ソフィア達のいる森や神殿までも巻き込んでしまう。
だが、このままでも打ち合いになって事態が動かない。長期戦に持ち込みユリシーグの魔力が切れるまで続けるか?と考えたが…。
「素晴らしい! アナタがここまで出来るなんて予想外です!」
ユリシーグは狂喜乱舞して
”アドレイド・フレイア”
六つの魔法陣から、六属性の力を持つ槍の群体を放出させる。
それにディオスは両手を広げ、三つの魔法陣を連ね、それを呑み込む攻撃魔法を唱える。
”グランギル・カディンギル”
手加減無しの巨大な、百メータの幅を持つ光りの滅殺奔流が、無尽蔵の槍の魔法群と衝突、拮抗する。両者が互いの魔法を放ち続け、同時に終わった後…睨み会う。
そう、どちらも決めての一手が無いのだ。
お互いに打ち合いのまま終わる。それは何故か? ディオスの何らの感覚がユリシーグの中にあるその原因を捉える。
それは、ディオスの中にあるモノと同じモノだと、感覚が告げる。
そう、ユリシーグもディオスと同じ無尽蔵に魔力を発生させる渦を持っているのだ。
初めての同能力者?または、同体質者の対面にディオスは、さて…どうするか?と思案する。
それは。ユリシーグも気付いていた。故に、両者は止まったまま睨み合う。
どう、相手を倒す一手を指すか…。
ユリシーグは、ニタリと怪しげな笑みをする。
そう、自分にはその一手があったのだ。その布石もこの地に眠っている。
”ダウンフォール・バベル”
先程、対処された魔法をユリシーグは使う。
だが、その放出量が尋常ではない。針の穴がない程に数千、数万に及ぶ光りの筋が津波の如く迫る。
ディオスは両手に魔法陣を展開させ
”ブラックホール・アビス”
と、光りの攻撃を呑み込み攻撃する闇の魔法を放つ。両手から放たれた闇の球体は、津波の如き光りの筋を呑み込み、その間、ディオスの動きが止まる。
その光景を崩壊した神殿の入口でソフィア達は見上げていた。
「何なの、アレは…」
ソフィアは、膨大な力の魔法と魔法のぶつかり合いに、唖然とするとなりにクリシュナとクレティアは同じく見上げて黙る。
ナトゥムラは「あの野郎…あんな力を持っていたのか…」と驚き。
「信じられない。何かの間違いか…」とスーギィは呆然と。
マフィーリアとケットウィンは口を開けて見上げる。
猫の様相の精霊ゼルテアは、猫の腕を組み
「流石、渦持ちの戦いは違うねぇ。でも、ちょっとここから離れて欲しいな…。これに影響され邪神の封印が…」
と、心配していると、ユリシーグが神殿の上を飛んでいったのが見えた。
「え、何で?」
ディオスは、全ての光りの筋を闇の球体に呑み込ませ処理した次に、ユリシーグを探す。
この攻撃が時間稼ぎだと分かっていたからだ。
「何処だ?」
見渡すと、神殿の方へ飛ぶユリシーグが見えた。
「あの野郎…」
ソフィアを先んじて襲うつもりか!とディオスはベクトの瞬間移動を駆使して追う。
だが、ユリシーグの狙いは別にあった。
ベクトと連続して、ユリシーグの前に立ちはだかる。そこは丁度、神殿のある山脈の上だった。
「もう、何処にも行かせないぞ」
ディオスが声を鋭くして告げる。
ユリシーグは、ニタニタと怪しげに笑みながら
「アナタと私はどうやら、同じ魔力の体質のようですね」
「ああ…で、それが…なんだ」
「ただ、私とアナタには違いがある」
「はぁ?」
「私は、スキルが使えるのですよ! それも、とんでもなく強力なね!
スキル発動!」
”神操りの舞”
「なに!」とディオスが声を張った次に、ユリシーグの全身から光りの筋が下の神殿に降り注ぎ、封印されている神格を呼び起こす。
その気配を察知して、猫の様相の精霊ゼルテアが全身を震わせ
「いけない。そんな事をして、ダメだぁぁぁぁ」
叫び
ソフィアが
「どうしましたか?」
「ここから逃げるんだ!」
神殿のある山脈の裏にある氷の平原に亀裂が走る。氷の大地が隆起してゼルテアが封印していた邪神が姿を現す。
その姿は、全長が五十メータ前後あり、漆黒の全身と単眼に獣の牙が並ぶ顎、腕は左右に三つ生えた六本の阿修羅。蘇った邪神は
グルギャアアアアアアアア
衝撃波を伴った雄叫びを放ち、見える全てを威嚇する。
「アーハハハハハハハーー」
ユリシーグは哄笑する。
「キサマァァァァァ」
ディオスは声を荒げる。
「驚いたかい。だが、これからが本番だよ」
ユリシーグは右手を上げると、邪神が口を開けディオスに向けた次に巨大な漆黒の光線がディオスに襲来する。
ディオスは「ク…」と構え、ベクトを連続使用してその光線から逃れる。ディオスが避けた漆黒の光線は、通った経路を爆発に包み果てまで前進した。
ユリシーグは避けたディオスを嘲笑い
「私は、このスキルで繋いだ神格を操り人形の如く扱える」
「ウルサい!」
ディオスは魔法を発動させる。
”グランギル・カディンギル”
邪神ごとユリシーグを呑み込む光りの魔法の奔流を放つも、邪神がその光りの奔流を掴み粘土細工の如く纏め、小さくして潰した。
「無駄だよ。上位存在である神格には魔法なんて効かない」
ユリシーグは勝ち誇る。
ディオスは、手詰まった。
魔法が効かない神格を前に、どう対処すべきか考えが浮かばない。
邪神が浮かび上がり、その六つの手の一本をディオスに伸ばし迫る。
このままでは、掴まってやられるだけ、このまま逃げるしかないのか?
このままでは、ソフィア達が殺されてしまう。
どうすれば…と焦燥すると、自分の内側が脈動する。
それは、自分の渦、魔力を無限に供給する場所からの呼び声だ。
渦が脈動する。その渦の中にいる存在が紅い鋭い瞳をディオスに向けている。
明らかに自分を呼べと、使えと言っている。
それに賭けるしかないかもしれない。
それは自分の深い根っこの部分と繋がっていて呼べば持ってかれるという直感がある。
「やるしかない」
ディオスは覚悟を決め、それを呼んだ。渦の中にいるそれは頷いた。
邪神の手がディオスに迫る寸前、邪神の動きが止まった。
「ん? どうした?」
ユリシーグは邪神を見ると、邪神が小刻みに震えている。
「何、怯えているのか?」
ディオスをユリシーグは見つめる。
ディオスは項垂れた次に顔を上げ雄叫ぶ
「オオオオオ」
ゴオオオオオオオオオオオ
別の巨大な獣が放つ雄叫びが大地に響く。
ディオスの背中から空に向かって一陣の光りが昇る。
それはまるで門の入口のようだ。
その天を貫く門の内側から巨大な鉤爪が突き出し、門をこじ開ける。
その門の中にあったのは紅い獣眼だった。
その獣眼から山脈の如き巨大な片腕が出現する。黒い鱗に覆われその巨大さ、神殿のある山脈を遙かに凌駕している。
「ああ…」とユリシーグは視界を超える程の巨腕に驚愕して固まる。
そして、山脈の如き黒き巨腕が、ユリシーグと邪神に向かって拳を振り下ろす。
大気を圧殺して、暴風を巻き起こしながら
「うあああ」
ユリシーグの断末魔が途中のまま、邪神ごと拳が呑み込み地平の果てへ押し殺した。
その下で一連を見ていたソフィア達は、起こっている事実に、考えがついて行けず呆然としていると…そこにディオスが空からゆっくりと降り立つ。
前に降り立ったディオスに「ねぇ…アンタ…」とソフィアが近付こうとしたが、ディオスが顔を上げ
「おお、オオオオオーー」
不気味に雄叫ぶ、その眼は深紅に輝き完全に意識がない。
それに呼応して空の巨門から現れた黒き巨腕が門をこじ開けようとする。
ケットウィンが
「もしかして、あれ…マズイんじゃあ…」
意識が乗っ取られているディオス。
どう対処していいか分からないソフィア達。
だが、クリシュナが自分の右手にあるディオスと自分を繋げる呪印を見つめ「ん…」とディオスに向かって走り出し、ディオスに抱き付くと、あろう事かディオスと口づけをする。
「オオオオオ」と暴走して雄叫ぶディオスの口を無理矢理に、クリシュナは塞いで口づけをしながら、自分の魔力を注ぐ。
ディオスの深紅に染まる瞳が明滅し
「う…うう…く…ふりしゅが(クリシュナ)…」
と呟き気絶してクリシュナに倒れ込む。
それをクリシュナは抱き支える。
ディオスが気絶するご天の門をこじ開けようとする黒き巨腕は門の内側に引き戻り、天の門を閉じて、消えた。
全てが終わり、静かになった所でソフィアが
「何がなんだったの?」
その問いに誰しもが答えないが、猫の様相の精霊ゼルテアが
「いやはや、邪神を滅ぼすなんて…驚きだよ」
と、呟き神殿の奥からズンズンと重い音が響く。そこに現れたのは、奥で凍りづけになっていた巨狼だった。巨狼、ゼルテアの本体に猫の分身が帰り
「君達には、礼を言わないとね…。邪神を倒してくれてありがとう」
ソフィアは顔を顰めて頭を振り
「その…なんていいましょうか…。事態がコロコロと転がり過ぎて未だに混乱中ですが…」
「まあ、いいじゃない。結果はそうなったんだから」
冬の精霊ゼルテアは頭を下げソフィアに近付き
「ソフィア・グレンテール・バルストラン。手を」
「はぁ…」
ソフィアは右手を降りたゼルテアの頭に差し向けると
「君と契約をしよう。この国の民と国を守る時、私の力を貸そう」
ゼルテアが契約を告げると、ソフィアの右手に冬の精霊ゼルテアとの契約の証の紋章が刻まれた。
ソフィアは右手の証を擦り
「ありがとうございますゼルテア様」
「よっしゃぁぁぁぁ」とナトゥムラが両手をバンザイして「新しい王様誕生だな!」
「うんうん」とスーギィは肯く。
「良かったですね」とケットウィンは微笑む。
「うむ、ソフィア陛下。よろしくお願いしますぞ」とマフィーリアは胸を張る。
ソフィアは微笑み
「ありがとう。みんな…」
「で…」とゼルテアが「さっそくなんだけど…その…壊れた神殿…修復してくれないかなぁ…」
『あ…』と一同から声が漏れた。
そこに気絶したディオスを抱え運ぶクリシュナが到着して、ソフィアが硬く拳を握りしめ
気絶しているディオスに
「アンタの所為よ、おバカ!」
腹パンをした。
「う…」と気絶しながらもディオスは唸った。
「死体蹴りなんてやめてよ」とクリシュナが窘めた。
ディオスは夢の中で、黒い渦を前に浮かんでいた。その渦に紅い瞳が輝く、そこから巨大な黒い腕が伸びて、ディオスを捕まえようとする。
来るな!とディオスは叫び、背を向けて逃げようとする先に手が現れる、ディオスは必死にその手を掴んだ所で夢が終わった。
そこは何処かの天井だった。それによって自分がベッドに寝ているのが分かった。
ディオスは視線を泳がせると
「大丈夫? ダーリン…」
とディオスの右手をクレティアが握って心配そうに見つめる。
ディオスは体を起こして
「ここは何処だ?」
問題なさそうなディオスにクレティアは微笑み
「ここは、麓にある精霊族の村だよ。ダーリン」
ディオスはクレティアの顔を見つめ
「ダーリンって何だ?」
「ダーリンは、ダーリンでしょう」
と、クレティアは悪戯な笑みをする。
二・三度ディオスは瞬きした次に、部屋のドアが開きそこからクリシュナが
「大丈夫?」
と、ディオスの元へ来る。
ディオスは深く息を吐き
「クリシュナ…どういう事か説明してくれないか?」
「ええ…いいわ」
クリシュナは一連の事態を説明する。
ディオスが意識を乗っ取られたあの巨大な腕の後、ソフィアは精霊と契約を交わし、ディオスの意識が戻らないので麓の精霊族の村まで運び、寝かせて丸一日が経った。
「ソフィア達は?」とディオスが尋ねる。
「明日、帰るそうだから…まだ、この村落にいるわよ」
クリシュナが答える。
「そうか…」とディオスは返した次にベッドから起き上がる。
クレティアが心配そうな顔で
「ああ…ダーリン。まだ、無理しない方がいいって」
「いや、大丈夫だ。その…お腹が空いた」
腹が減ったディオスをクリシュナとクレティアが連れて食堂へ向かうと、窓から夕日が見えた。
そして、食堂には
「よう…お目覚めかい」とナトゥムラ、スーギィ、マフィーリア、ケットウィン、そして、ソフィアが食事をしていた。
「ご迷惑を掛けました」
ディオスが謝ると、ソフィアがディオスの前に来て
「ねぇ…色々と聞きたい事があるんだけど…」
「ああ…分かる範囲でなら」
ソフィアはディオスの後ろにいるクレティアを指さし
「クレティアの説明だと…。アンタにゲットされたって言っているんだけど」
「え、ゲット…された」
ディオスは暫し呆然となるが…
「ああ…まあ、確かに、そうなりますね」
ソフィアが拳を固め
「お前は! またかぁぁぁぁ」
ディオスに腹パンした。
「グォ!」ディオスは空腹腹にパンチを貰い蹲る。
「ちょっと大丈夫、ダーリン?」
クレティアがディオスに寄り、クリシュナは、またか…という顔で、ディオスの背中を擦る。
その光景にナトゥムラが呆れ笑みで
「なぁ…ディオス…。女を口説く時はもうちょっと情緒的というか、優しくというか…」
スーギィは呆れ顔で
「お前は、どういう男なんだ…」
マフィーリアとケットウィンは苦笑いである。
数日後の午前の半ば、ソフィア達を乗せた飛空挺が王都に到着すると、兵団が並んでいた。バルストランの国旗を掲げ、ラッパを鳴らしソフィアの到着を盛大に迎える。ソフィアを迎える道にダグラスが立っていて
「お帰りなさいソフィア」
ソフィアは微笑み
「ありがとうダグラスさん」
ダグラスは感慨深げに
「もう、ソフィアではなく。陛下と及びしないといけませんね」
「ソフィアで構わないです。ダグラスさん」
契約の帰還を果たしたソフィア達は正装に着替え王城にいた。王城にある民衆を見渡せる演説テラスで、ソフィア以外の全員が並び、奥から王として白いドレスに正装したソフィアが現れ、マイクの置かれた演説台に立ち
「みなさん。初めまして…新たに王となったソフィア・グレンテール・バルストランです」
オオオオオオ
観衆の歓声が響き渡る。
ソフィアは、集まった国民達に手を振り、歓声が静かになるのを待ち
「まずは、皆様にお伝えしたい事があります。
私が王位にいる期間を二十年にさせて貰います。
理由は、私がハーフエルフだからです。
何十年もの間、王位に居座ると必ず良くない停滞が生まれます。
故に、私は期間を設けて王位を続けたいと思います。
私が王となった決意は、この国をもっと様々な種族が融和する国にする為です。
二百年前、魔王ディオスが行った完全種族隔離という時代から二百年経ち、その過ちを正し融和は進んでいるように見えますが…。まだ、未だに不平等が残っています。
私はそのような事を正したい。
もっと皆が平等に正しく楽しく暮らせる国にしたい。
そして、それをアーリシア大陸、全土に広めたい。こんなワガママな理由で王になりましたが、どうか…皆様のお力をお借りしたのです。
こんなワガママな王ですが、どうかお力添えを、そして…この国を良くして行きましょう」
ワアアアアアアアアアアア
観衆の声が王都に響き渡り、こうしてソフィアは王となった。
王執務室で、ソフィアが模造刀を手に跪く六人の側に来る。
跪くのはナトゥムラ、スーギィ、マフィーリア、ディオス、クリシュナ、クレティアである。
ソフィアは一番左にいるナトゥムラの右肩に模造刀を当て「汝に、我の祝福を…」と言葉を贈り、跪く一人一人に同じようにする。その様子を、部屋の隅でゼリティアとダグラス、ケットウィンといった他数名が見つめる。
これは王直属の臣下にするという儀式であり、粛々と行われて六人分の儀式が終了した。そして、ナトゥムラが
「我は、王の剣、盾、槍、魔導、眼、足、耳であります。王に忠誠を誓います」
普段のふざけた口調から想像出来ない程のしっかりした口調で答えた。
ソフィアが模造刀を立て
「汝達、忠義者に祝福を…」
と、こうして儀式が終わり、次にあったのは主従を示すバッチの贈与だ。
ナトゥムラ、スーギィ、マフィーリアは守護騎士。
ディオスは、王直属の魔導士。クリシュナとクレティアはその魔導士に仕える騎士という事に。
ディオスは胸に填まったバッチを見て、新たな旅立ちを感じる。
儀式が終わり砕けた感じになったら直ぐにソフィアがディオスの側に来て
「アンタ…王様の魔導士になったからってのぼせるんじゃないわよ」
腹パンした。
「ウ…」とディオスは屈み。
もしかして…付いてくる相手を間違えたのでは…と思ってしまう。
その背をクレティアが「ダーリン」とクリシュナが「もう…」と擦る。
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次話を出すがんばりになります。