第113話 王都大混乱
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あらすじです。
諦めの悪いダラス、ウルア、メディナは、自分達が屋敷から脱獄する気配を探り、そして、飛び出した。
真っ先にディオスの屋敷へ行き、純也を強奪、逃走。この時、ディオスは家族と王都の散策へ出ていたが…さらに事態は混迷する。
ダラスの屋敷、ダラスことラティーナは大人しく日々を過ごしていた。
静かに過ごす娘に両親は、反省していると思って見守っていた。
そして、屋敷の門から出られないが、屋敷の周囲を監視付きで動けるようになったラティーナは計画の為の下見をしていた。
そう、全く諦めていなかった。
そして、バルストランの王都ベンルダンの見えない建物の影にとある魔導具を設置する男がいた。
それの装置は、片手サイズの小さな魔導具の板である。それを設置しながら男は怪しげな笑みを浮かべる。
「これで、アーリシアの大英雄を倒した栄誉をオレが…」
同時刻、ディオスはバルストラン王宮の王宮内庭園にいた。
そこには幕が掛かる全長二十メータの何かがあった。
ディオスは傍にいる作業者からその存在に関する書類を受け取り
「う…ん こんなに早く完成するなんてなぁ…」
そこへレディアンとゼリティアが来て
「ディオス! これが例のモノか!」
レディアンが
「夫殿、早い完成だなぁ…」
ゼリティアが
ディオスが肯き
「ああ…まだ、先だと思っていたが…」
レディアンが
「それなりの量産体制はあるという事か?」
ディオスは首を傾げ
「どうだろう…。コイツは二人用に元の設計からグレードダウンさせているから、それで早かったかもしれない」
ゼリティアが
「それでも、かなりの性能なのじゃろう。夫殿…」
「ああ…十分過ぎるくらいさ」
ディオスは肯き、二十メータの何かの垂れ幕を見上げた。
ディオスは屋敷に帰ると、屋敷の庭で遊んでいる子供達と純也の姿があった。
アイカと純也が、ティリオやリリーシャにゼティアの三人を交互に抱っこしながら、屋敷の傍にある木を見上げていた。
ディオスが魔導車をしまって
「何を見ているんだい?」
五人に近付く。
純也がリリーシャとゼティアを抱っこから下ろして
「ディオスさん。アレを見てください」
「んん?」
ディオスは指さされた木の枝を見ると、幹の部分に鳥の巣箱があって、それに鳥が暮らしていた。
ツバメの番いだろう。一方が卵を温め、もう一方が温める相手に餌を運んでいる。
「そうか…ツバメの家族が住み着いたんだな」
と、ディオスはシミジミ感じ入る。
ティリオを抱えるアイカが
「純也お兄ちゃんと一緒に作ったんだよ」
「ほぉ…」
ディオスは微笑みアイカの頭を撫でた。
「アイカは優しいなぁ…。純也くん、ありがとうな」
純也は微笑み
「いいんですよ。その…お世話になっているし…何か、やってあげたかったんで」
純也も大分、心の傷が癒えてきたのだろう。
悲しい顔を見せる事が無くなってきた。
純也が
「今日は、何の用事で王宮にいったんですか? 何時もの行く曜日じゃあなかったですが…」
ディオスは肩を竦め
「ああ…受け渡しだよ。アリストスで製造されたモノね」
「へぇ…どんなモノですか?」
ディオスは微妙な顔をして
「国の…防衛に関する事だから…おいそれと言えないんだよねぇ…」
「ああ…すいません」
「いいさ、近いうちに分かるだろう」
夜、屋敷の皆で食事をする食堂でディオスが
「明日は、王都に出掛けないか?」
クレティアとクリシュナは目を丸くして
「ダーリン。仕事とかいいの?」
クレティアが聞く。
「ああ…上手い事、魔導石の生成もないし、魔法に関する設計もないんだ…」
と、ディオスが。
アイカが手を上げて
「アタシ、学校…」
ディオスは肯き
「じゃあ、アイカの学校が終わったら、みんなで…」
クレティアとクリシュナは目を合わせて、クリシュナが
「そうね。ゼティアもゼリティアの所へ帰しながら…ね」
「ああ…」とディオスは、純也の方を見て「君も…どうだい?」
純也は戸惑いながら
「自分はいいですよ。家族でみんなで過ごしてください」
ディオスは軽く肯き
「そうか…分かった」
そして…翌日、それは朝方だった。
ダラス、ラティーナがいる屋敷に早朝の朝日が差し込んだと、同時にラティーナはベッドから起き上がってネグリジェを脱ぎ捨てて、ブラジャーとパンツだけの姿になる。
そして、右足に填まる発信器の魔導具の足輪を両手で掴み
”パワー・オブ・ジョイント”
筋力を上げる魔法を発動させると、発信器の魔導具の足輪を壊して外し、部屋の扉を開ける。
その隣には見張りの執事がいた。
執事は、ここ最近、ラティーナが大人しいので、警戒が緩んで眠っていたのだ。
ラティーナは、その執事を無理矢理に引き入れて、部屋の毛布やシーツでグルグル巻きにして拘束。
「んんんんんんーーー」
拘束された執事はシーツの猿ぐつわで叫ぶ。
見張りがいなくなった通路を、ラティーナは走る。
そして、自分のダラスだった騎士装備が仕舞われている衣装部屋に来ると、素早く騎士装備を纏い、今度は魔導車のキーがある部屋に入ると、魔導車のキーを入手。
屋敷を出て、魔導車のある車庫に入り強奪、魔導車に乗って屋敷から飛び出した。
その後、早朝の朝日が差し込む街中を爆走、合流ポイントに向かうと、そこにウルアとメディナがいた。
そこへダラスは魔導車を止めて
「早く乗れ!」
急いでウルアとメディナは魔導車に乗って、町を出た。
二人用の助手席にいるメディナにダラスは
「メディナ、純也のいる場所は分かるか?」
メディナは懐から魔導端末を取り出し
「純也は…あ! いました! アーリシアの大英雄の屋敷にいるみたいです」
純也の私服にダラス達は、小さな発信器を仕込んでいた。
それは、魔導人工衛星、天の目のシステムによって位置が分かる高級品だった。
他にも、ダラスやウルアにメディナ自身の服にも仕込んである。
ウルアが
「どうしよう…アーリシアの大英雄の所にいるって事は…純也を奪還するなんて…」
ダラスが
「弱気になるな! とにかく、行って何とかするしかない!」
そう、この三人は行き当たりばったりな事が多い。
それを純也が何とかして上手く纏めていた。
そして、時間が経ち、午後の二時くらい。
ディオスは、妻のクレティアとクリシュナに、ティリオとリリーシャにゼティアと家族を連れて、学校が終わったアイカと合流して王都の散策に出発した。
ゼティアをゼリティアの元へ帰す時に、どうせ、ゼリティアも合流するだろうとして、セバスに大きめの魔導車を頼んで家族みんなで…楽しいブラリが始まる。
ディオス達を乗せた大型魔導車が、王都の入る前、一台の魔導車と交差する。
その魔導車は凄く急いでいたようだ。
ディオスが不意に、その魔導車の運転席を見ていた。
一瞬だが、何処かで見た事があるような気がした。
「あれ?」
と、ディオスは首を傾げるも…。
まあ…いいか…
気にしないようにした。
だが、ディオスの察知は間違っていなかった。
そう、交差したのはダラス達が乗った魔導車だった。
ダラス達は、とにかく、無謀にもディオスの屋敷の前に停車して、ディオスの屋敷へ突入する。
「うおおおおおおお」
三人は雄叫びを上げて玄関の扉をぶち破った。
なんと、その玄関の大広間に、純也がいた。
突然に玄関を破って入ったダラス達に驚く純也。
ダラスとウルアにメディナは純也の前に来ると、ダラスが
「ディオスは! どこだ!」
純也が
「でぃ、ディオスさんは家族と一緒に王都へ出掛けたよ」
そこへ二階へ昇るエントランス階段からレベッカが顔を見せ
「何ですか! 騒々しい!」
レベッカが、ダラス達三人を見ると
「あ、貴女達…」
ダラスとウルアにメディアは互いに肯き合い。
ウルアが純也の右腕を掴むと
「ごめん、純也」
と、何かを填めた。
「え…」と純也は填められたモノを見る。
それは、魔力の発動を押さえるリミッターの魔導具だった。
「な、なんで?」
と、純也が戸惑っている間に、ダラスが純也の鳩尾を殴り。
「う!」と純也はうめき、蹲るとメディナが
”グラビティ・フィールド・アンチ”
と、反重力魔法を発動させ、純也を浮かせるとそれをダラスが抱えて純也を持ち去った。
それにレベッカが
「待ちなさいーーーーー」
と、声を張って止めようとしたが、ダラス達の方が早く、素早く純也を持ち出し魔導車に乗せて逃走した。
レベッカがそれを見て
「旦那様へ知らせないと…」
ディオスはゼリティアを連れて、アイカの学校の前に来た。
丁度、学校は帰宅する生徒達がいて、その中にアイカがいる。
アイカは女の子の友達と一緒に校門から出て
「パパ…サリカも一緒にいい?」
アイカの友達、サリカが
「どうも…」
と、お辞儀した。
ディオスは微笑み
「じゃあ、サリカちゃん。両親に連絡して」
と、ディオスが懐から小型魔導通信機を取り出してサリカに渡そうとしたら、コール音がした。
「ああ…はい」
と、ディオスが出ると
『旦那様! レベッカです』
「どうしたんだ? レベッカさん?」
『大変です。純也さんが!』
レベッカの説明で、純也がダラス達に誘拐されたと聞いて
「はぁぁあああああああああ」
と、ディオスは驚きの声を放ち、額を抱え
何してんだ! あのバカ娘達はーーーーーー
「分かった。何とか、対処してみる」
『はい。お願いします』
レベッカとの通信を切ってディオスが、王宮へ連絡しようとするそこへ
「アンタが…アーリシアの大英雄か」
ディオスの左に呼び掛ける男がいる。
頭から足下まで、魔導士のローブを纏い、フードで顔を隠している。
ディオスは男を凝視して
「何ですか? 何か、ご用でも?」
自分の事をアーリシアの大英雄なんて呼ぶのだから、自分に用事があるのは間違いない。
男はフードで隠していない口元をニヤリと笑みで曲げ
「オレはアンタを倒して、栄誉を貰う」
ディオスは眉間を渋め
「はぁ? そんな事、今はどうでもいいですから。また、後にしてくれませんか」
クレティアとクリシュナが男の前に立ち
「ねぇ…今、ダーリンは忙しいから、なんなら…アタシ達が、アンタをボコボコにしていいんだよ」
と、クレティアが睨むように笑む。
男は右手を挙げ、クレティアが袖に隠している剣を両手に握り、クリシュナは両手を回して魔導収納にあるククリ刀を握る。
ゼリティアも魔導収納にある自分の槍を手にする。
アイカは、ゼティアとリリーシャにティリオ、友人のサリカを後ろにさせ、スキルのドラゴルクリスを何時でも発動可能にする。
男が上げた右手の親指と中指を擦って指を鳴らす。
その時に男の姿が映像が乱れた残像のように歪む。
ディオスはそれで、男が遠方よりの立体映像の魔法を使っていると…。
男が
「さあ…パーティーの始まりだ」
王都の至る所から、魔法陣が展開されて王都の空を覆った。
「ふふ…ははははははははははは」
と、男は笑って、男を映す立体映像は消えた。
ディオスは首を傾げる。
ゼリティアが空を覆う巨大魔法陣を見上げ
「何じゃこれは…」
ディオスもゼリティアと同じく、魔法陣の空を見上げると、大気がゆっくりと渦に動いて、雲が周回する。
ディオスが不安で空を見上げていると、右手にある魔導通信機がコールした。
それにディオスは出ると
「はい、グレンテルです」
『オレだ。ナトゥムラだ』
「どうしたんですか?」
『今、どこにいる?』
「王都ですが…」
『直ぐに、王宮に来てくれ。嫁さん達も一緒にだ!』
「はぁ? はぁ…」
ディオスは家族を連れて王宮に来て、子供達を王宮の施設に預かって貰い、妻達と一緒に王の執務室へ入ると、王の執務机で魔導通信機で連絡を受けるソフィアがいた。
隣にはナトゥムラにスーギィ、マフィーリア、レディアンがいる。
「どうしたんだ?」
と、ディオスが尋ねると、レディアンが
「これを…」
魔導端末をディオスに渡す。
それをクリシュナ、クレティア、ゼリティアの三人も覗く。
魔導端末には、王都周辺の地図があり、その所に大きな渦を巻く何かが映っている。
ディオスは、それを見てピンとして
「もしかして…この周囲の気象に関する…」
ソフィアが
「その通りよ。王都の上空に魔力の渦巻きが出来て、リーレシアにあるスポイトのような現象が起こっているわ」
レディアンが
「その雲は、そのスポイトの渦に引き寄せられて渦雲を形成している」
ディオスは眉間を寄せて
「まさか…今、王都の空を覆っている魔法陣の効果で…」
「おそらく」
と、レディアンが頷く。
更にナトゥムラが
「それと、バルストラン国内の飛行系の凶暴な魔物の活動が活発になって、この王都へ向かっているらしい」
スーギィが
「各観測所から沢山の報告が上がっている」
ディオスは渋い顔をして
うわぁ…まさか…あの男…オレと戦う為に、こんな事を…。
苦しそうにするディオスに代わってゼリティアが
「すまん。実は…」
ディオスに勝負を挑んできた男がいて、その男の合図と共に、この事態を生み出した巨大魔法陣が展開されたと…伝えて
「ウソ…バカでしょう!」
ソフィアは頭を抱えた。
ディオスが
「とにかく、この事態を何とかしないと…」
そう、純也の事に構っていられなくなった。
ディオスは内心で
何だ? 今日は…色々と…厄日か?
そうぼやいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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