幽玄の王 第84話 裂かれた絆
次話を読んでいただきありがとうございます。
カケル、最後の記憶とは…
カケルは、妻のカレイナと共に、とある存在を作っていた。
五つの棺のように横たわるケース、そのケースの中には人工生命体の彼ら彼女達が眠っている。
その彼ら彼女達が入ったケースが繋がる先に、五芒星の形をしたシステムがあった。
それを調節するカケルとカレイナの二人
カケルが、ケースの中にいる五人に
「あと…少しだから」
カレイナが
「五人の名前は、どうするつもりなの?」
カケルが考えて
「グラファラス、オルフェウス、イージス、ガンガンチェア、グルファクシで…どうかなぁ?」
カレイナがクス…と笑み
「ずいぶんと角張った名前ばかりね」
カケルが
「神話の神様達の名前だからね」
カレイナが
「これが…新しい宇宙を、時空を支えるシステムとして…」
カケルは
「ああ…最初の雛形だ。もし…これが成功…いや、大丈夫だろう。彼ら彼女達なら、多くの人達と共に未来を紡げる。まずは…ボク達の宇宙で…」
カレイナが
「これが、大きな未来への一歩である事を…」
カケルが
「新たな未来を造る仲間の誕生を…」
コーレル時空のドミネーター達と、エルダーを創ったのは、カケルとカレイナだった。
カケルの超座のデータと、カレイナの持つエネルギーを操作する技術を使って、時空を守れる存在を造った。
征服による広がりではない、時空を守る守護神の広まりを、二人は望んでいた。
◇◇◇◇◇
そして、カケルは…仕事で別の時空へ出張する事になった。
この時、カレイナのお腹にはカケルの子供がいた。
カケルは父親になれる喜びを噛み締めて、仕事に邁進していた。
それを遠くから、高次元の観測から見つめる者がいた。
エリザスだ。
エリザスの視線は鋭い、カケルが移動する時空戦艦が目的地へ到着した。
エリザスが右手を回して円環の空間を作ると、そこに声を送る。
「契約通りに…」
そこには、青年のアルードがいた。
「どういうつもりなのですか? 覇遵の半身様…自ら…一番の武器である超座の超越存在を差し出すのは…」
エリザスが背筋を伸ばして
「我ら九人、ロード オブ ナイン。その九人が揃った事に脅威を感じている者達が配下にいるわ」
アルードが難しい顔をして
「つまり、その脅威の念を消す為に…その一人を差し出すと?」
エリザスが王座へ気だるそうに腰掛けて
「我らカレイド連邦は、大きく成りすぎた。故に…一つに力が集中するのが…恐怖と思う者達が出てくるのは、必然。大丈夫よ。彼が…死んでも、直ぐにその後釜が続くわ」
アルードが首を傾げた後に
「まあ、こちらとしては…構いませんが…契約は守って貰いますよ」
エリザスが笑み
「ええ…大丈夫よ」
アルードと繋がる円環が消えた。
アルード、カレイド時空連邦と敵対するインドラ時空帝国の頂天の一人だ。
エリザスが怪しい笑みで
「ごめんね。あの人…覇遵以外、要らないの…ここは…我が夫、覇遵だけが永遠の皇帝である帝国なのだから…」
◇◇◇◇◇
カケルが乗った時空戦艦が目的地の時空の星系に到着した瞬間、その星系の周囲に五星の星艦が出現し包囲した。
その星艦の一つに、インドラ時空帝国の最強であり頂天のクロード、アルードの兄弟が乗っていた。
カケルが青ざめて
「なんで、ここは…カレイドの領土な筈だ…」
クロードの姿が、カケルのいる中央センターの通信に現れて
「人路皇王、一騎打ちを望む。被害を増やさない事を願うなら…」
カケルは周囲を見渡す。
ここには、研究者しかない。戦闘員は最低限の防衛のみ、その防衛システムのほとんどは無人であり、命令を打ち込み操作する程度。
現れたクロードとアルードは、カレイドが恐れる者。
カケルは
「行きます」
職員が
「待ってください。行けば…」
カケルは微笑み
「大丈夫です」
と、走り宇宙へ飛び出す。
光となって走るカケル。
それに向かって二つの光が、クロードとアルードが向かう。
クロードがカケルの光とぶつかり
「悪いな。これも…戦争なんでな…」
カケルが
「戦いたくはなかった」
三つの光は、遙か宇宙の遠くへ向かい、巨大な爆発となり、三つのサルヴァードを出現させた。
カケルの輝くサルヴァード
クロードの漆黒に煌めくサルヴァード
アルードの紅蓮に燃えるサルヴァード
カケルはサルヴァード・レイゼノスのコアで
「ごめんね。カレイナ…。ボク達の子供…抱きたかったなぁ…」
巨大な宇宙を、時空を半壊させるような戦いが行われて、残ったのはクロードとアルードのサルヴァードだった。
それを遙か遠く、カレイドの中心から観測していた覇遵。
覇遵は、大樹の王座に座禅していたが、立ち上がって拳を大樹に打ち付けた。
その額のサードアイを合わせた三つの瞳には、怒りの炎が宿っていた。
こうして、カケルの記憶は終わった。
長い記憶の夢の旅を終えて、レイは布団から目を覚ますと朝だった。
そして、レイである自分の顔を端末の反射から見つめて
「ボクが…こんな…大切な力を持って相応しいのだろうか?」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
アナタに幸せが訪れますように…
次回、時の記憶の終わりに




