幽玄の王 第80話 記憶の意味
次話を読んでいただきありがとうございます。
記憶の続き、その意味が…
エリザスの宮殿に覇遵が訪れ
「エリー 少々、手を広げすぎた。今は…今、あるだけの者達を維持するようにしてくれ」
エリザスであるエリーが
「覇遵、いえ…ハルガ。どうしたの? アナタの目的は」
覇遵が額のサードアイに手を置いて
「我の観測力にも限界がある。あと少しで限界に…」
エリザスが肯き
「なるほど、確かにそれはマズいわね。アナタの超座の観測があるから、様々な問題を解決できているわ。それが限界になると…問題や不備が生じるわね。分かった」
覇遵が肯き
「理解してくれて助かる」
それ以降、時空を広げる戦いが止まった。
カレイド時空帝国は、他の時空を征服させる活動を止める。
肥大化したカレイド時空帝国は、これ以上の巨大化を許せば…崩壊するかもしれない…という民達の思いもあって、それはすんなりと受け入れられた。
カレイド時空帝国は、名を変える。
カレイド時空連邦となり、ここの時空による独立統治をしつつ一つの時空連邦国家としての歩みを始めた。
では、軍備は縮小するのか?
そもそも、軍備は独立統治をしている時空達が持っているのあって、外への覇権は、覇遵が作り出した超座を得た九人、九天君主達が行っていた。
なので、その九天君主達の活動が止まっただけであって、何も変更は無かった。
カケルは、外への覇権が止まった事で安堵していた。
「これで戦う事もない。誰も…傷つける事は無くなった」
そう、喜んでいた。
カケル達、九天君主達は、その有り余る膨大なエネルギーを、領土内に提供する発電所のような業務が日課となった。
それに九天君主達は、誰も逆らわない。
外に覇を唱えた事によって疲弊した内部の回復が最優先であり、もし…このまま拡大を続ければ、間違いなく内部の不満が充満して、それが崩壊の切っ掛けになるかもしれないからだ。
組織や国家とは、外から見れば強大で巨大な打ち倒せない存在に見えるが、内側に入れば…どれだけ脆弱で危ういバランスの上にあるのが見える。
そのバランスを保つ為に、外に敵を作って…不満を逸らそうとすればする程に、崩壊への序章が早まる。
覇遵の決定は正しかった。
カレイド内部は、そういう不満に満ちていて…それが積もっていたのだから。
カケルは、今日も楽しく発電所の業務をする。
全長六十億キロのエネルギー充填星系に全長三十万光年サイズのサルヴァード、レイゼノスがエネルギーを注ぎ込み、それによって周辺の銀河や星系達にエネルギーが分配される。
サルヴァードが放つ一撃のエネルギーは、一個の銀河を数千年も維持できる。
それ程の超絶巨大なエネルギーを生成できるサルヴァードは、どこに行っても重宝された。
カレイドが突如、覇権を止めると…
それを信用できない、侵略されていない周辺時空は、その膨大なエネルギーを寄越せと言って来た。
つまり、侵略しない証としてエネルギーの提供を求めて来た。
それに、カレイド時空連邦の議会は紛糾したが、カケルを始め九人の九天君主達がそれで争いを回避できるなら…了承して欲しいとお願いしたので、議会は渋々、それを了承するも…エネルギー提供の割合は議会によって調節される事になる。
カケルは争いではない事で、別の時空へ行く。
そこには、サルヴァードの力を充填する星系サイズのシステムがある。
そこにエネルギーを注ぎ込む。
戦いから、エネルギーを運搬、配達するのがカケルの仕事になった。
その仕事が続く中、とある人物と出会う。
「初めまして、カレイナ・フェーリスと申します」
と、女性がカケルに挨拶をする。
カケルが
「初めまして、カケル・レイ・神崎です」
カレイナは、カケルがエネルギーを注ぎ込む星系サイズのシステムを作った科学者の一人だ。
カレイナがカケルを見て
「超越存在であると聞いて、どんな強面の人かと思いましたが…案外、普通なんですね」
カケルが微笑み
「はは…自分は、覇遵様の作った超座に偶然、適合しただけですから」
カレイナが
「それでも…これ程までに使いこなせるなんて、出来ないと思いますよ」
カケルが肩をすくめて
「上の兄達の方がもっと…上手く使えますよ」
カレイナが「そうですか…」と告げて話題を変える。
「これが次に…設計した充填システムです。確認を」
と、カケルが次に力を注ぎ込む星系サイズのシステムのデータを渡す。
それをカケルが受け取って見つめて
「へぇ…今度は…超空間ネットワークと繋がって、より分配を広範囲にするんですね」
カレイナが肯き
「はい、超空間ネットワークと繋がる事で、より身近に、より使いやすくする。もし、これが上手く行けば…覇遵様がカレイドの中心にして、広範囲に…自国以外へエネルギーを供給できます」
カケルがデータを見つめて
「つまり、エネルギーの分配を通じて…様々な時空の超空間ネットワークへアクセスできるようになる…と」
カレイナが
「不安ですか? 我々の文明を支える超空間ネットワークが…覇遵様と繋がる事に」
カケルは
「そうはないけど…間接的に見れば…支配の拡大のような…」
カレイナが
「エネルギーの供給だけであって、どうこうする事は出来ないでしょうから…それは…ないと思いますが…」
カケルは僅かな不安を感じた。
別に支配している訳ではない。
上手くエネルギーの分配を行いやすくするだけ
だが…それは、覇遵に、カレイドに依存していくという事だ。
◇◇◇◇◇
レイは、部屋のアラームで目覚めた。
天井を驚きで見つめて
「カケル・レイ・神崎? カレイナ・フェーリス?」
レイは、自分の名前を思い出す。
レイ・フィリックス・神崎…
フェーリスとは、フィリックスの別名で、神崎は…
レイは、そのまま朝食へ向かうと母親と姉のアスカに妹のスイが用意していて
「おはよう」
と、レイは三人に呼びかける。
「おはよう」
「おはよう、レイ」
「おはよう、兄」
と、三人が挨拶をしてくれた。
四人で朝食が始まるとレイが
「母さん、オレと姉さんに妹が、オレと違う苗字の部分があるけど…どうしてなの?」
母アカネが
「ああ…説明してなかったわね」
姉のアスカが
「ウチは、男児が生まれた場合は、フィリックスを付けるの。女の子の場合は、フェーリスって付けるのが慣わしなのよ」
妹のスイが
「へぇ…知らなかった」
母アカネが
「この当たりの古くからの風習でね。まあ、後々に本人が望まないなら…止めるけど。だいたい、みんな…受け入れるから。ずっと続いているのよ」
レイが視線を泳がせて
「その風習って何時から続いているの?」
母アカネが首を傾げて思い出し
「え…と、ウチの本筋に当たる家の人達なら知っているかもしれないわね」
◇◇◇◇◇
レイは、母アカネから本筋の家の人達の話を聞いて、そこを尋ねる事にした。
本筋の家の人達は、自分達が住んでいる町の中心に住んでいて、神仏を象った宗教遺物を管理していた。
本家の大きな平屋の家に来たレイは、玄関のインターフォンで自分の事を説明すると
「ああ…グランくんとアカネちゃんの子かね!」
と、明るい声がして、その後に玄関が開いて、出て来た初老の男性が
「入ってくれて大丈夫だよ」
レイは家に通されると、今で初老の男性と妻の女性が対面で応対し
本筋の家の妻が
「まあ…グランくんとアカネちゃんの両方に似ているわね…」
レイが
「父と母をご存じで?」
本筋の家の男性が
「分家の子達で、二人は幼馴染みだったんだよ。それが…ねぇ…」
本筋の家の妻が
「お互い、とても仲が良かったのよ」
「はぁ…」とレイは少し驚きつつ
「あの…聞きたい事があるのですが…。カケル・レイ・神崎?とカレイナ・フェーリス?という名前に憶えは?」
本筋の家の男性が
「その二人は私達の最初の人達なんだよ。二人が結ばれてね。私達は、君も合わせて、その方の子孫なんだよ」
レイは驚きを向け
「どんな仕事を…やっていたんですか?」
本筋の家の男性が
「五百年前かね…巨大な時空帝国で重要な役職を二人が担っていたらしいけど、その当たりの資料は残っていないんだよ。ただ」
と、立ち上がって家の奥から
「家系図には名前が残っているよ」
と、家系図のデータを持って来て、レイに説明する。
「ほら、ここ」
そこには、カケル・レイ・神崎とカレイナ・フェーリスが結ばれて、カレイナが…カレイナ・フェーリス・神崎となった事が記されていた。
レイは、それに驚きつつ
「何か…他に…残っているモノとか…?」
本筋の家の男性が
「こんなモノが残っていたね」
と、出したのは小さな片手で握れるモニュメントだ。
それは、エリザスが座っていた王座の上にあった瞳の印と同じ、瞳の印だった。
レイは、それを見て驚きにつつまれる。
そう、自分が見ている超座の中にあった記憶は…祖先の記憶だった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
アナタに幸せが訪れますように…
次回、繋がる記憶




