第10話 キングトロイヤル 王の選定 その二
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あらすじです。
権利を持つ貴族達の投票で王に選出されたソフィアは、次なる王の試練へ向かうが、その道中で暗躍する者達が…その時、ディオスは…
キングトロイヤル 王の選定 その二
キングトロイヤル最終日、議事会堂で百五十名の貴族を代表する伯爵相当階級達の王を決める投票が始まっていた。投票者の一人一人が議長席の下にある投票箱に一票を投じる。
その直ぐ目の前の席にソフィア、ゼリティア、レディアンと王候補の三名が座り、投票の終わるを待っている。
そこから数歩後ろの席で、候補者の従者達が座り固唾を呑んでいる。ディオスもその席に座り、左隣にはクリシュナがいる。
クリシュナがディオスに耳打ちして
「ねぇ…もし、土壇場でゼリティアが裏切ったらどうするの?」
ディオスは目を閉じ
「そうだな…それなら…土下座でもして、ソフィアを側近に入れるように頼むか…」
冗談のようなそうでないような口調にクリシュナはフフ…と微笑み
「そう、大変ね。あんな師匠を持って」
数時間後、投票が終わり、投票箱が開票される。作業者がその場で用紙に書かれた名前を告げる。
「ソフィア殿。レディアン殿。レディアン殿。ゼリティア殿」
こうして候補者の名前が告げられ、議長席の上にある三名の得票数の数字がカウントされる。
一時間に及ぶ、開票、その結果は…。
ゼリティア、十票
レディアン、六十票
ソフィア、八十票
議長が議会のハンマーを叩き
「キングトロイヤルにて、王の権利を獲得したのは、八十票を獲得した
ソフィア・グレンテール・バルストランである」
議会堂は歓声に包まれ
ソフィアは立ち上がり、周囲に頭を下げる。
レディアンは静かに黙り、ゼリティアは笑みを扇子で隠す。
ソフィアが王の権利を獲得する様を見つめるディオス、その前にいるナトゥムラが
「さあ…第二ラウンドの開始だ」
「ナトゥムラさん」とディオスが呼び。
「何だ?」
ディオスが疑問を口にする。
「第二ラウンドとは?」
「ああ…後で分かる」
と、ナトゥムラは笑み。
ソフィアは仲間を連れて王宮へ向かい、その会議室で王の座る席に着き
「みんな、ありがとう。本当に頑張ってくれたわ…感謝している」
労うのはナトゥムラとスーギィ、マフィーリアにケットウィン、ダグラスとディオスにクリシュナ達だ。そこへノックされ
「失礼するぞ」とゼリティアが入ってくる。
「ソフィア殿、王の権利獲得、おめでとうございます」
軽く会釈する。
「ありがとうゼリティア。貴方の協力が無ければ無理だったわ」
と、言葉を紡ぐソフィア。
ゼリティアは笑み
「なぁ…に、これは約束だからのぉ。ディオス」
と、ゼリティアはディオスを見つめ、怪しく微笑む。
フンとディオスは鼻息を荒げる。
「そうそう…」とゼリティアは袖から一通の手紙を取り出し
「これは、我らオルディナイトの始祖である夏の精霊アグニアに向けた紹介じゃ。これからある四季精霊の契約に役立てておくれや」
ディオスは眉間を寄せ
「そう言えば聞きたい事があった。王になるのではなく、王の権利を得るという事と…その四季精霊とは?」
ソフィアは深く席に座り
「王になるには、まず…投票で選ばれる事、そして…このバルストランの四方にいる四大精霊、四季精霊と呼ばれる強大な四つの精霊の内、一柱と契約する事。それによって王になるの」
「ほぉ…」
ディオスは納得する。面倒クサいシステムだが、それが続いているなら仕方ない。
「ありがとうゼリティア。受け取って置くわ」
ソフィアは、ゼリティアから紹介状を受け取る。
「無論、四季精霊の契約が成功する事は願っておるが…」
ゼリティアは、扇子を広げ口元に置いて
「失敗した場合は、王の権利が剥奪。その後の次のキングトロイヤルで妾が王となったら、ソフィア殿は妾の配下とする。よろしいな」
「ええ…」とソフィアは頷く。
「では…ご武運を」
と、ゼリティアが去ろうとする際、ディオスの隣を通り
「逃がしはしないぞ…」
と、出て行く。
「フン!」とディオスは再び息を荒げる。
ソフィアはナトゥムラへ
「ナトゥムラ、準備は?」
「準備万端だぜ」
スーギィが手帳を取り出し
「では、予定通り、冬の精霊ゼルテアの元へ」
「ええ…契約するなら持ち属性が同じ方が有利だから」
ソフィアは席から立ち上がり
「出発します。みんな、やるわよ」
『は!』と全員が敬礼の右手を胸に当てる。
王都にある飛空挺空港では、一隻の飛空艇が待機状態で待っていた。
ナトゥムラが手配した飛空艇にソフィア達が向かうとそこへ
「どんな手を使った?」
レディアンが家臣と共にいた。
そのレディアンの臣下の一人、老年の男がナトゥムラと視線を交わすと、ナトゥムラと老年の男はお互いに頷き合った。
それをディオスは見て、何か…繋がりでもあるのか?と…。
ソフィアはレディアンの前に立ち止まり「そうね…色々と…」と、濁した。
レディアンはソフィアに近付き
「成功を願っているが…。もし、ダメだった場合は、私が次の王だ」
「それをゼリティアからも聞いたわ」
レディアンは笑んだ次に、ソフィアの後ろにいるディオスを見つめ
「そこのお前、ディオスだったか!」
「何ですか?」
ディオスは淡々と告げると、レディアンはしたたかな笑みを向け
「私が王となった場合は、お前を貰う」
「はぁ?」とディオスは眉間を寄せる。
「無論、ただとは言わん。それなりの条件を呑んでやる」
レディアンとディオスは視線を交差させる。
恐らくだが、ソフィアとゼリティアの契約を知っているのだろう。そういうニュアンスが含まれているような感じだ。
「やれやれ…」とディオスは呆れつつ飛空挺へ向かった。
ダグラスを王都に残してソフィア達を乗せて飛空挺は空港から飛び立つ。ダグラスはソフィアが契約に成功すると見越して、様々な王としての準備をする事になった。
ダグラスは嘗ての英雄の子孫の為に顔が利くので調整役としては適任である。
ディオスは、ゆっくりと浮かぶ飛空艇の様子を船底にある客室から見つめる。
この世界の飛空艇は風の魔導石のお陰で、鋼鉄の固まりであるのも関わらずそれを感じさせない程に風船の如く浮かぶ。
ある程度の高度に達した飛空艇は、プロペラの魔導エンジンを点火して、王都から離れて行く。
その夜景を見下ろしながらディオスは
「ここまで順調に来たな」
隣にいるクリシュナが肯き
「そうね…」
「クリシュナと同じような妨害者が、現れるかもしれないと予測していたが…」
「案外、私のお陰かも…」
「そうなのか?」とディオスはクリシュナを見詰める。
クリシュナは得意げな顔で
「私、けっこう…組織じゃあ有力な方だったのよ。だから、それが味方しているという事は、その組織が後押していると思われているかも…」
ディオスは顎を摩りながら
「成る程、虎の威を借る狐か…」
だが、それ以外もある。クリシュナはソフィアに暗殺者が付かないように警戒もしてくれた。その功績の方が大きいような気がする。
クリシュナは微笑みながら
「そうね。でも、実際は…アナタに奪われたのだけど…ね」
「そうだな…」
ディオスは肯きつつクリシュナに手を伸ばし
「ありがとう。君の、クリシュナの協力がなければ、ここまで無理だったかもしれない。良き相談者であり、ソフィアを守ってくれた守護者だ」
「そう…」とクリシュナは握手して、ディオスを引っ張り
「じゃあ、一杯付き合って」
側にあるテーブル席に運ぶ。
ディオスは言われるまま席に着き、テーブルにあったワインの栓をエンテマイトの震動で開け、クリシュナはグラスを二つ、ディオスと自分に置いた。こうして、ささやかな二人だけの宴が始まる。
クリシュナとの穏やかな時間が過ぎる。
クリシュナとディオスの二人は自然と語り、そして、呼吸が合わさるように互いに飲み交わす。
ディオスは、クリシュナと共にいる時間に心地よさを感じていた。
それはクリシュナも同じだった。
自然とお互いに…寄り添いたいと…。
翌日の朝、一行を乗せた飛空艇は目的地の近くにある空港へ着陸する。
飛空艇から降りたソフィア達は、荷物を魔導車のトラックに積み込み出発、目的の冬の精霊がいる山脈へ。
トラックは助手席にソフィア、運転にマフィーリアと、後のトラックの荷台を改造した席に座っている他の仲間達。
ガタガタと揺れながら荷台の席でディオスが
「なあ、冬の精霊という事は氷の属性に関係する精霊なのか?」
「はい、その通りです」とケットウィンが答える。
「正確には風と水の精霊で、その合体属性である氷を持っているのです。ですから、同じ属性を持つソフィア殿とは相性がいい筈。契約もスムーズに行くと思いますよ」
「でもまあ…」とナトゥムラが「二百年前から、冬の精霊は誰とも契約をしていない」
「何故ですか?」とディオスの問いに
ナトゥムラとケットウィンが顔を見合わせ「さあ…」と二人して答えた。
「まあ…」とスーギィが「行ってみなければ分からん」
昼過ぎ、ソフィア達を乗せたトラックがとある山脈の道を走っていると、それを見下ろす者達がいた。その影は二人。全身をローブに包み一人は金髪のショートにポニテールの女、その側に老年の男が。
老年の男、ダージーが
「アレが例の一行か…」
金髪ショートのポニテールの女、クレティアが
「らしいね…どうするの?」
「そうじゃな…。恐らく、今のペースなら精霊族の村落に着き、直ぐに精霊の神殿に行くか…明日にするか…どっちかだろう。どっち道、ここに留まる筈。夜を見計らって強襲としよう」
「はいはい…」とクレティアは返事をする。
ダージーはクレティアを凝視して
「いいか、クレティアよ。今度、命令に背いたら…分かっておるな」
クレティアはローブの腹部を開け
「分かってますってダージー様。この奴隷の呪印に誓いますから…」
「フッ」とダージーは苦笑して後ろを向くと、クレティアは静かに腰にある剣を抜き、殺気を伴ってダージーを突き刺そうとするが、腹部にある奴隷の呪印が淡く輝き、クレティアは「う…」と頭を抱える。
その前にダージーが現れ「何をしている」と睨んでいる。
クレティアは、悪戯猫のような笑みで「何も…」と…。
ダージーはクレティアの腹部、奴隷の呪印部分を蹴り
「ワシに逆らえば、痛い目を見る事を忘れるな」
「は…はい」とクレティアは腹部を押さえつつも立ち上がる。
午後半ばソフィア達一行のトラックは精霊族の村落へ到着する。ディオスはトラックから降りると、季節は春なのに道の所々には雪が残っていて、尖った屋根を持つ家々がある豪雪地帯特有の風景があった。
「おい、こっちだ」とナトゥムラがディオスを呼び、それにディオスが付いて行く。そして一行が来た場所は、村長の家だ。
ソフィアが玄関を叩き
「すいません。ソフィア・グレンテール・バルストランです。誰か居ますか?」
玄関が開き、村長が
「ようこそ、冬の精霊族の村落へ」
中へ通してくれた。家の中は本当に雪国らしい風景で、暖炉と脇に薪が積まれログハウスのような丸太の壁に覆われている。
ディオスは見回しながら
「ここはどういう村なんだ?」
その問いに村長が
「ここは冬の精霊ゼルテア様の眷属達が暮らす村落ですよ」
ディオスは村長を見つめる。髪は青色で、その後ろ脇に隠れる孫達だろうか、その子達も髪が青い。何となくその眷属であろうと分かる。
村長の誘いで家の広間に通され、ソフィアはソファーに座らされ他の者達はその後ろに立つ。村長はその対面のソファーに座り
「キングトロイヤル、おめでとうございます」
「いえ…」とソフィアは手を振る。
「さっそくですが…ゼルテア様とご契約なさるのですか?」
「はい…そのつもりですが…」
村長は難しい顔をして
「それは難しいかもしれません」
ソフィアは真剣な顔をして
「どうしてですか?」
「その…ゼルテア様から、契約をお願いする者が来た場合は、出来ない事を伝えて返すようにと言われておりまして…」
「理由は?」
「その…知らされておりませんので…」
ソフィアは立ち上がり
「直接、ゼルテア様に聞きますので、神殿へ通じる道の結界を解いて貰えますか」
「でしょうな…分かりました。明日に」
「いえ、今からです」
「ええ…夜は、危ないですぞ。最近、夜になると魔物が出ますから」
「大丈夫」とナトゥムラが胸を張り
「オレ等は、戦闘向けの特殊なスキル持ちばかりだから、魔物の十体や二十体なんてへっちゃらさ」
「はぁ…」と村長は心配げな顔をするもソフィアが
「お願いします」と頭を下げた。
村落の奥にある精霊の神殿に繋がる門の前で、村長が門を触れて結界を解くと門が開き
「くれぐれも慎重な行動をお願いしますよ」
と、村長は念を押す。
「ありがとうございます」
ソフィアはお礼を言って「行くわよ!」と先頭を切る。
それに、ナトゥムラ、スーギィ、マフィーリア、ケットウィン、ディオス、クリシュナと続き、石畳の道を進む。
スーギィが渡された地図を広げ
「大凡、一時間弱で神殿に到着するらしい」
「軽い散歩コースだな」
ナトゥムラは暢気に言う。
ディオスは、石畳の脇の森を警戒で見つめていると、クリシュナが
「さっきから森を見つめてどうしたの?」
「いや、魔物がいると聞いて」
「そう…まあ、これだけ開けている道だから、出てくる時はしっかりと姿を見せるしかないから対処が楽よ」
「まあ…そうだと良いがな」
魔物、通称…魔力生物、世界に満ちる魔力が地形や何らかの作用で吹き溜まり、その魔力を元として生物が誕生する。
多くの魔物は動物の原理で動くが、魔力に邪悪な思念が混ざり凶暴な魔物が誕生する場合がある。そういう魔物は討伐対象とされ狩られる。
「心配すんなって」とナトゥムラが右手を掲げ
「オレやスーギィ、マフィーリアは騎士だから、魔物を狩る経験を何度もしている。安心しろ。それにソフィアもそれなりに冒険を共にした仲間だ。魔物の対処には慣れている」
ディオスは気難しい顔をして
「そういう油断が良くないのでは?」
ナトゥムラがフッと笑みを向け
「お前、こんな森にいる魔物は、精々…猪くらいの大きさが限度だって。もしかして最上位のドラゴンタイプがいるかもってか、いないいない、余程の魔力が渦巻いている強大な力場じゃないといないって」
「だといいがな」
「無駄口、叩いてないで前進、前進」
一時間弱で、一行は山の麓にくる。そこには山の斜面を削り作った神殿があった。
その神殿の玄関を潜り中に入ると…そこは青く光る巨大なドームだった。
ナトゥムラが両腕を持ち
「何か…寒くないか?」
青いドームの壁をケットウィンが触り
「これは凄い、この壁の全てが魔導石で出来ている」
スーギィも青い壁を触りながら
「恐らく、この地域の特産品であろう。氷の属性を持った魔導石だろうな」
ソフィアは奥を見つめ
「この奥に冬の精霊、ゼルテア様が…」
奥に進むソフィア、そこへ
「いらっしゃい」
奥から空を飛ぶ一匹の猫が現れる。その猫はソフィアに近付き
「こんな時間に何の用だね?」
尋ねる空中の猫へソフィアが
「私は、ソフィア・グレンテール・バルストランです。この神殿にいる冬の精霊ゼルテア様に会いに来ました」
「ああ…」と猫は微笑み「ようこそ、では…奥へ」
猫は浮かんだまま、ソフィアを案内しその後に皆が続く。
神殿の奥に来ると、氷山がありの中に青い毛並みをした巨大狼が眠っている。
「ささ…こっちに」と猫が側にある氷の席と机にソフィアを導き、座らせるとその机の上に猫が座り
「で、どんな用なんだい?」
ソフィアは自分の胸に手を置き
「私は、バルストランの新たな王の権利を獲得した者です。王になる為に四季精霊のゼルテア様と契約を結ぼうと参りました」
「へぇ…外ではそんな事になっているんだね…」
猫は感心する。
そんな猫をディオスは見つめる。
この喋る猫からとても深い何かの気配を感じていた。それは氷山の中で眠る巨大狼と同じ気配だ。
ナトゥムラが机をドンとして
「おい、お前…精霊の眷属か使い魔なんだろう。早くゼルテア様に会わせてくれ」
「ああ…」と猫は含み笑みをする。
ディオスが、ナトゥムラの肩を持ち
「落ち着いてください。多分、もう…会ってます」
「はぁ?」とナトゥムラは訝しい顔をする。
ディオスは猫をジッと見つめ
「アナタが、そのゼルテア様なのだろう」
「正解!」と猫、ゼルテアは猫の手を合わせる。
「え!」とナトゥムラや他の三人は驚き、ソフィアは目を丸くする。
猫のゼルテアは浮かび、ディオスの周りを動きながら
「いやはや、君みたいな渦持ちは、相変わらずそういう直感に優れているねぇ…」
ディオスは静かに目で猫のゼルテアを追いながら
「君みたいとは…他にもそういう人物を知っていると…」
「そう…」と猫のゼルテアはソフィアの前に止まり浮かび
「千年前と二百年前にね。千年前のヤツは、確かどっかの魔法大学院の理事長になって、二百年前のヤツは、残念な事に魔王ディオスって悪人になってしまった。君は、どうなるんだい?」
「まだ、未定です」
「そう…」
ソフィアが「ゼルテア様」と立ち上がり
「お願いです。契約をしてください」
「それがねぇ…」と猫のゼルテアは腕を組む。
「どうして契約が出来ないのですか?」
その問いにゼルテアは「んんん…」と口が堅い。
ディオスは、氷山に埋まる巨大狼を指さし
「恐らく、あっちが本体なのでしょう。その体は意識だけを飛ばした分身…」
「正解だよ」と猫のゼルテア、意識だけを飛ばした分身猫は頷く。
更に、ディオスは巨狼の奥を見つめ、その後ろの奥の最奥に何か、黒く渦巻く気配を察知して
「一つ、聞きますが…。もしかして何かを封印しているのでは?」
「え!」とその言葉にソフィアは驚きを向ける。
「やれやれ、バレたか…」と猫のゼルテアは巨狼の方へ分身体を向け
「その通り、私はとある存在をここで封印しているんだよ」
「それはどんな…」とスーギィが尋ねる。
猫のゼルテアは頬を掻きながら
「あまり言いたくなかったけど、バレたら仕方ない。かつて二百年前にこの大陸を席巻した魔王ディオスが作った邪神をね。封印しているんだよ。それに大部分の力を使っているから、この猫の分身体でしかお相手が出来ないんだ」
ソフィアは暗い顔をして
「もし、契約をしたら」
「そう…契約をしたら、それに力を取られて封印が解けてしまう」
スーギィが挙手して
「それなら、その邪神を我らで退治しましょう。それなら…」
猫のゼルテアはフッと苦笑いして
「おいおい、そこらにいる魔物とは格が違うんだ。神格、邪神なんだ。もし、君たちが対峙出来るとしても、その間に邪神は暴れ回ってここを滅茶苦茶にしてしまう。それだけは勘弁だよ。力が尽きるまで封印していた方が無難だよ」
ソフィアは俯くと、猫のゼルテアが近付き
「ごめんね。君は氷の属性を持っているから、確かに私との契約は抜群の相性だけど…出来ないんだ」
「そうですか…分かりました」
と、ソフィアは納得する。
神殿からの帰り道、外は夕暮れを迎え暗くなり初めていた。俯き加減のソフィアにケットウィンが
「大丈夫ですよ。次の精霊では必ず契約が出来ますって」
「そうだそうだ」とナトゥムラは右腕を掲げ「次行くぞ、次」
ソフィアはウンと肯き
「そうね、気持ちを切り替えないと…」
そうだな…とディオスは内心で呟くと、不意に妙な気配を感じる。そして、クリシュナが袖を抓み
「ねぇ…妙な気配がしない?」
ディオスは肯き
「ああ…何だろう…視線なのか? まさか魔物か?」
そう思った次に背後で微かに風を切る音がして、ディオスの体が前に吹き飛んだ。
「うおおおお!」
前に飛び石畳を転ぶディオス。
「え、ちょ!」とソフィアが手を伸ばした次に
ゴオオオオオオオオオオオ
大型獣の雄叫びと共に、飛ばされたディオスとソフィア達の間に巨大な鉤爪が降る。石畳を破壊したその鉤爪の主は、全長が十メートル以上あるドラゴンだった。
白い鱗に覆われた骸骨のようなドラゴンは、鉤爪でソフィアを襲うが、マフィーリアがソフィアの盾になり、サングラスを取って
「スキル!」
”ゴーン・メディアス(制止の石化)”
スキルを発動させる。ソフィアに向かっていた鉤爪がその場で凍ったかの如く止まる。
マフィーリアのスキルは、見つめた対象の動きを完全に止める力がある。
「いくぜぇぇぇぇぇ」
と、ナトゥムラが剣を抜き
「スキル!」
”ソード オブ ザバザ(絶対両断剣)”
ナトゥムラの剣に光が宿る。あらゆる存在を両断できるスキルを発動したナトゥムラはドラゴンに切り掛かるも…。
ゴオオオオオオオオオオ
もう一体の同じドラゴンが出現してナトゥムラを薙ぎ払う。
「クソーーーー」
ナトゥムラは後退する。
二体のドラゴンがディオスと、ソフィア達を両断し、マフィーリアのスキルで動かないドラゴンも強引に動きを取り戻して、ソフィア達を襲う。
倒れていたディオスは立ち上がり、ソフィア達の元へ戻ろうとするが
「おっと、逃がしゃあしないよ」
ディオスの背後にクレティアが現れ、ディオスの首を腕で引っかけ投げ倒した。
俯せに倒れるディオスの上にクレティアは乗っかり、両手にある突撃専用の剣を交差させて突き立てディオスの首を挟む。
ドラゴン越しのクリシュナは、ディオスの危機に駆け付けようとしたが
「クリシュナ!」
ディオスが声を張る。
クリシュナとディオスは視線が交わりアイコンタクトを取る。その言葉、ソフィアを守れだ。クリシュナは苦い顔をするも、直ぐにソフィアの手を取り引っ張る。向かう先は、先程までいた神殿だ。
「ちょ、クリシュナ!」
と、ソフィアは引っ張られて叫ぶも
「今は、貴女の方が優先よ」
クリシュナは答え、ソフィアを引っ張る。
二体のドラゴンは、逃げるソフィアを追い動く。
「コイツ等、ソフィア殿狙いか!」
スーギィは声を荒げ、スキルを唱える。
「スキル!」
”イリュージョン・ナイトメア(幻覚悪夢)”
二体のドラゴンの周囲を飴色の結界が包む。スーギィのスキルはあらゆる五感を狂わせる力だ。ドラゴンは怯んで止まるも、頭を振るわせ雄叫びを放つ。
ゴオオオオオオオオオオオ
衝撃波の伴う雄叫びによって、スキルによる結界が破られ効果が切れる。
「クソ!」とスーギィは悔しがる。
ドラゴンの僅かに動かない隙を狙ってナトゥムラが
「スキル!」
”ソード オブ ザバザ”
ドラゴンを両断しようとしたが、背後から膨大な光線が降り注ぐ。それを避ける為にナトゥムラは、ドラゴンの前に、スーギィとマフィーリア、ケットウィンもナトゥムラの元へ来る。
ゴオオオオオオオオオオ
空から光線のブレスを放ったのは、もう一体のドラゴンだ。これでドラゴンが二体から三体に増えた。三体のドラゴンに圧されて、四人はソフィアに逃げた方へ走る。
その行く寸前にスーギィが
「ディオス! 必ず助けるから耐えろ!」
と、言葉を残した。
三体のドラゴンに圧されてディオス以外は、神殿へ退却する。
ディオスを押さえるクレティアは、クスクスと笑い
「必ず助けるだって。美しい友情ね」
俯せで馬乗りにするディオスを嘲笑う。
ディオスは、フンと鼻で笑い
「その必要はない。何故なら、自力で何とかするからだ」
ディオスは瞬時に全身を高震動する空間の膜に包み、反撃する。
その殺気に反応してクレティアはディオスから飛び退き距離を取る。
倒れていたディオスの周囲の石垣が、高震動で破壊され粉塵を上げる中で、ディオスは立ち上がりクレティアを睨む。
クレティアは嘲笑うような悪戯な笑みで
「まあ…アタシの目的はアンタを連中から離す事と、仕留める事だから。よろしくね」
クレティアの姿が消えた。
何処だ!とディオスは探す頃には、ディオスの足下にいて、一閃をお見舞いする。
クレティアの切り上げは、ディオスの魔導師の服を縦に走るも、魔導師の服の特性である魔力で防御力が上がる性質のお陰で無傷だが、クレティアは凄まじい速度で斬撃を繰り出す。
ディオスは腕を交差させ防御しながら
”オル・シールド”
と、防御壁の魔法を唱え、防護を張ると、クレティアは退いた。
魔導防壁の中でディオスは息を荒げる。
防護壁を展開させる一秒少々の間に、数回も斬撃が走った。致命傷はない。魔力を防御力に変換する魔導師の服のお陰で助かったのだ。
ディオスは額から脂汗が出る程に焦燥する。
クレティアの剣技は、達人の領域であると察した。的確に早く無駄なく急所を狙う技。はっきりいって実力の差は歴然だ。
クレティアは難しい顔をして
「硬いなぁ…。魔導師の服は確か…魔力を防御力に変換するんだったけ。成る程…アンタは厄介だから離して置けってのが分かったわ」
「その口ぶり…他に仲間がいるのか」
「正解」と悪戯に笑むクレティア。
「でも…」とクレティアは切っ先をディオスに向け「お仲間の心配より、自分の心配をしたら」
クレティアの姿が消える。
ディオスが周囲に展開する魔導防護壁に斬撃の筋が入る。幾度となく斬撃は入りながら
「ほらほら、反撃しないと後がないよ」
周囲からクレティアの声が響く。
ディオスは顔を歪める。恐らく、防護壁を攻撃しているのは見えない速度で走るクレティアだろう。そして、防護壁に亀裂が入り始める。このままでは破られる。ならば!
”グラビティフィールド”
闇属性の周辺操作魔法を使う。周囲の重力を操作して重くすると、動きが鈍ったクレティアが現れる。
「そこだァァァ」
ベクトの瞬間移動をして、クレティアに迫り高震動を纏う一撃の突きをお見舞いする。
だが、クレティアは悪戯に笑み、全身を包むローブから腕を出す。
その腕には、白光と輝く手甲が填められていて、それにディオスの一撃が当たると、ディオスとクレティアを包むローブが同時に吹き飛んだ。
ディオスは石畳に転がりながらも体勢を直し立つと、その正面先には、ふてぶてしく仁王立ちするクレティアがいる。
クレティアはローブが剥げ、胸部と両腕手甲、脚部の簡素な鎧と、奴隷の呪印を浮かべる腹部が顕わのビキニアーマー状態を晒した。
クレティアは悪戯に笑みながら
「びっくりした」
ディオスはさっき起こった事を思い返す。クレティアに攻撃を当てた瞬間、強烈な力で吹き飛ばされた。当てた場所は、手甲だ。恐らく…。
ディオスはクレティアの鎧を凝視すると、視線が胸部分に来た次に
「ヤダ…エッチ…」
と、クレティアは大きめの張る胸を両手で隠し嘲笑いながら
「種明かし、してあげる。アタシが纏っている鎧はね。跳ね返しの魔法がエンチャン(付属)された特殊な魔導鋼なの、びっくりしたでしょう。自分が放った魔法が跳ね返って来て。そんで…」
クレティアは剣をディオスに見せびらかし
「この剣も、魔法がエンチャンされた特別製なの」
成る程…とディオスは納得する。恐らく魔導防護壁を壊した原因は、あの剣か…そして…クレティアの両腿にある幾つもの剣ホルダーは、別のエンチャンがされた剣達が収まっている。
「それ以外もあるだろう」とディオスは言葉にする。
クレティアは剣をホルダーに収め投げキッスをして
「正解…。アタシは特別なスキルを持っている。サービスで教えてあげるけど…加速系のスキルなの。だから、目に見えなくて大変だったでしょう」
ディオスは静かに思考を研ぎ澄ませる。
今の状況はとてつもなく不利だ。防護の魔法を展開しても壊され、何か魔法を唱えようとしても、その間に加速系のスキルで詰められ攻撃される。
反撃しても反射の魔法が掛かった鎧で自分に返ってくる。
まさに魔導師の天敵な相手。
この先、生き残れるか怪しい。
そう考えてクレティアを見つめると妙な感覚がちらつく。
それは、あのクリシュナの時と同じように、無性にあの女、クレティアの事が欲しくなるという衝動だ。
何をこんな時に考えているんだと、ディオスは思うも…恐怖より、どうしてあの女、クレティアを手に入れようかというゲスな考えが過ぎる。
そんな思考がある作戦を思いつかせる。それに自身さえ正気かと思うも、やるしかないと決め…まずは時間だと…。
「ねぇ…何か面白い策は浮かんだ?」
クレティアが悪戯に笑み聞く。
ディオスはフッと笑み
「お前…名前は?」
「はぁ?」とクレティアは訝しい顔をする。
「名前はなんだ?」
と、ディオスは問う。
クレティアは、嘲笑いを向け
「クレティアよ。冥土のみあげには丁度いいでしょう」
「そうか分かった。クレティア…」
ディオスは左右に両手を広げ
「オレは決めた。お前をオレのモノにする」
「はぁ?」とクレティアは驚き目を丸くした次にプッと吹き出し
「アハハハハハーー もしかして、勝ち目無くて頭がおかしくなったぁ」
「いいや、本気だ。お前を倒してオレのモノにする」
クレティアはディオスを睨み
「ふざけるなよ。誰がテメェの奴隷なんかになるかよ」
「奴隷? そんな低俗な事をするつもりはない」
「じゃあなんだよ。道具か? 使いっ走りか?」
「そうだなぁ…恋人なんてどうだ?」
自信あるディオスの態度に、クレティアは疑いの目を向ける。
何か秘策があるのかと疑っている。そうして数分が経過する。
これが、ディオスの狙いであり、これにて仕込みが遂行できた。
クレティアは別の剣を両手に取り
「そう、じゃあ…アタシに勝てたらなってやるわ。自分より弱い男なんて無理だから」
クレティアは前屈みになり構える。
「そうか…なら、来い」
ディオスは待ち構える。
クレティアはスキルを使う。
”アクセラレーション(超加速行動)”
スキルを発動したクレティアは疾風の如き動きでディオスに迫る。
ディオスに迫る千分の一秒の間に、ディオスを警戒するが、何もしない!と判断してディオスに剣を突き立てる。その場所はディオスの顔だ。
鼻と右目に剣を突き立て、やった!と感触が伝わったが、その感触がおかしい。確かに突き刺さったのは間違いないが、まるでそう…氷に突き刺したような硬さだ。そう思った瞬間、突き刺した剣が凍結し、その冷たさで剣を放した。
「え、何?」
と、クレティアは後退した次に背後から腕ごと挟み抱えられた。
「オレの勝ちだな」
そう、挟み抱えたのはディオスだった。
「え、どうして?」
クレティアは剣が突き刺さるディオスと、挟み抱えるディオスを交互に見ると、剣が突き刺さるディオスの姿が陽炎の如く歪み消え、そこに現れたのは凍結を始める人型の氷柱だった。
「まさか!」とクレティアは叫ぶ。
そう、ディオスはクレティアとの僅かな会話の間に、空間を歪ませる術を使い、その場に自分の姿の現し身を投影し、そこへ氷柱を置いた。本体は隣で姿を隠して待機、クレティアが現し身の氷柱に剣を突き刺し、剣が凍り付いて離した所を挟み抱き抱えたのだ。
まさか、使えないと思っていた姿を隠す空間の術がここで生きるとは思いもしなかった。
「離せぇぇぇぇ」
暴れるクレティア。
鯖折りのように抱き抱えるディオスの方が力があるので、離さない。
「さて、ここで一つ実験だ。お前の自慢の反射をする鎧は、この密着した状態でも魔法を反射してくれるのかな?」
ディオスは魔法陣を展開させる。
「お前、何を?」と焦るクレティア。
「心配するな、ビリッと痺れて気を失うだけだ。オレも巻き込まれるがな」
クレティアは青ざめる。
「よせ! やめろーーーー」
”サンダリオン”
一筋の雷がクレティアと、挟み抱えるディオスの二人に落ちた。
「が、あ…」とクレティアは気絶し、ディオスはクレティアを抱えたままその場に座る。
「はぁ! 何とか耐えたか…」
ディオスは気絶したクレティアを横に下ろす。
ディオスが耐えられたのは、纏っていた魔導師の服のお陰だ。
全身を覆う魔導師の服の防護で電流が、多少は体に来たが大方は防いでくれて、その流れ弾をクレティアは貰い気絶したのだ。
「さて…」とディオスは暴れられては困ると、土の魔法で出来た拘束具をクレティアの両手足に填め、スキルを使われては面倒と、クレティアの背中にスキル封じの呪印を貼り付けた。
「これでいいか」とディオスはクレティアを左肩に抱え「さあ、ソフィア達の元へ」とベクトの瞬間移動を使って移動する。
消えるディオス、その後を見つめる視線がある
「やれやれ、これは失敗ですかな…」
そう呟くのは黒い司祭服を纏う少年が怪しく笑む。
ソフィア達は神殿に到着し
「クソぉぉぉぉぉ」
ナトゥムラは声を荒げる。三体のドラゴンを前に撤退を重ね。神殿の中へ逃げ込むと「ど、どうしたの?」と冬の妖精ゼルテアの猫が駆け付ける。
ソフィアは、ハァハァハァと息を切らし
「申し訳ありません。追われていて」
ズンと強く重い音が神殿の入口から響く。
「な、何に追われているの?」
と猫である精霊ゼルテアは焦る。
クリシュナは両手の袖から曲がり刀を取り出し、ソフィアを奥にやって構え
「おい、一人で突っ走るな」
とナトゥムラにスーギィが
「全く、厄日か今日は」
ケットウィンが魔導杖を翳し
「いざとなったら、私のスキルを使います」
マフィーリアが棍棒を構え
「それは、ゴメン被りたいですな」
クリシュナをセンターにナトゥムラとスーギィが右に、左にマフィーリアとケットウィンが並ぶ。
ドンドンドンと神殿の入口が歪み、次の衝撃で巨大な孔が空き、そこから三体のドラゴンが入ってくる。
ドームの中でドラゴンと、クリシュナ達五人は睨み会うと
「無駄な努力だ。大人しく殺されろ」
ドラゴン達の奥からダージーが姿を現す。
「そうかな…やって見ないと分からないぜ」
とナトゥムラは不敵に笑う。
ダージーは懐から紅い杭を取り出し
「マジックアイテム発動、マイノリティーアウト」
杭に魔力を込めると、杭が飛び両者の間に刺さると、神殿内の巨大ドームを覆う程の魔法陣が展開される。そしてクリシュナ達五人の体が魔法陣から放たれる光の包まれる。
「なんだコレは?」
とマフィーリアは自分を凝視すると、スーギィが
「まさか、スキル封じのアイテム」
その状態を当てる。
「その通りだ」とダージーは勝ち誇った笑みをして
「キサマ等なんぞ。スキルさえ封じればタダの人も同然。この魔法耐性が強いスクワルドラゴン共に適うはずもないわ」
ダージーが右手を掲げ
「やれ! スクワルドラゴン共よ」
三体のスクワルドラゴンが動くが、ダージーの隣を中が通り過ぎ、ドラゴン達の下も通り、クリシュナの前に現れる。それはディオスだった。クレティアを左肩に抱えたディオスがクリシュナの前にベクトの瞬間移動で到着する。
「すまん。遅れた」とディオスはクレティアを横に下ろし、クリシュナが
「ホント、ギリギリの登場よね」
下ろしたクレティアが目を覚まし「う…ここは?」と上半身を起こし事態を確認する。
「何で、アタシここに」と動こうとするが、両手足を拘束具に掴まれ身動きが出来ない。
ダージーはディオスの側にいるクレティアを睨み
「クレティア…お前、失敗したなぁ」
クレティアに向けて右手を伸ばす。
クレティアは、顔を引き攣らせ
「待って、それは!」
ダージーの右手には呪印があった。それは奴隷の主であるという呪印だった。その呪印が光り、クレティアの腹部にある奴隷の呪印も呼応して光る。
「イガアアアアアアアーーー」
クレティアはその場に転がり激痛に襲われる。
「な、どうしたんだ?」とディオスは跪き、クレティアに触れる。
クリシュナも膝を崩し、痛みに暴れるクレティアの腹部を見て
「これは、奴隷の呪印。まさか、アイツ…」
その呪印の元であるダージーを睨む。
「失敗した罰だ。苦しんで死ぬがいい」
ダージーは呪印の力でクレティアを殺そうとする。
「ど、どうすればいい」とディオスがクリシュナに尋ねる。
クリシュナは、クレティアを見回し、背中にスキル封印の呪印を見つけ
「ねぇ、この背中の呪印ってディオスがやったの?」
「ああ…そうだ」
「じゃあ、この呪印に大量の魔力を送って」
「そうしてどうする?」
「この呪印の力を強めて奴隷の呪印を殺すのよ!」
「分かったやってみる」
ディオスは暴れるクレティアを抱え、背中にある自分の呪印に右手を置き魔力を注ぐ。膨大な量の魔力がクレティアに流れ込むと、クレティアが暴れるのを止める。
「え…」と痛みが消えたクレティアは呆然としていると、腹部にあった奴隷の呪印が周囲から剥がれ消え始め
「オアアアーーー」
今度はダージーが叫びを上げて右手を震わせる。
ダージーの右手にあった奴隷の主の呪印が焼けるように消えた。それと同時にクレティアの腹部の呪印も綺麗に消滅した。
ディオスは、クレティアの手枷足枷を解除して
「大丈夫か?」
クレティアの顔を見つめると、クレティアは綺麗な腹部を擦り
「奴隷の呪印が…消えてる。アンタが…」
ディオスはホッとして
「何とか、大丈夫そうだな…」
ダージーは殺気の睨みで一同を睨み
「おのれぇぇぇぇぇぇぇ」
ディオスは立ち上がり
「うるさい…まあ、いい。後で色々と聞くとしよう」
「殺せぇぇぇぇドラゴン共ーーーー」
ダージーが号令を叫ぶ。
ディオスは静かに右手をドラゴンに向け
「滅光魔法…」
”グランギル・カディンギル”
膨大な光の奔流が、ディオスの右手から放たれ、三体のドラゴンを呑み込み、山に刻まれて作れた神殿の前装を完全に消滅させてドラゴン達を殲滅した。
「アアアアアアア」と猫の様相である精霊ゼルテアは頭を抱え叫び「神殿の前が全部、消えちゃったぁぁぁぁぁぁぁ」
ああ…やり過ぎたとディオスは顔を引き攣らせる頭に
「バカァァァァァァ 威力、考えなさいって」
ソフィアの拳骨が飛んで来た。
殴られた頭を擦るディオスは、逃げるダージーを見つけ
「すまん。逃げるアイツを追うから、じゃあ」
と、ベクトで瞬間移動した。逃げたのだ。
「全く、アイツは…」
怒りで腕組むソフィア。
クリシュナは、床に座り呆然とするクレティアに手を差し向け
「立てる?」
クレティアは手を握り
「あ、ありがとう…」
「その…何でここにいるのか、説明してくれる?」
「ああ…実は」
と、クレティアはクリシュナに事情を説明する。
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