幽玄の王 第65話 裏側…
次話を読んでいただきありがとうございます。
思惑の裏側には…
シロッコは、お気に入りのラーメン屋でラーメンを食べていると、隣の席に男が座った。
その男は、あの若いソルジャーの男達が雇った人物で、ドラゴンズネストでシロッコの共同戦線を持ちかけた、その人だ。
シロッコが男を見つめて
「ジグラス…か…」
ジグラスは、シロッコの隣に座ってラーメンを頼み
「悪かった。ドラゴンズネストで面倒に巻き込んでしまって…アイツら…引っ張って行って、帰せば良かった」
シロッコとレイを襲った若いソルジャーの男達の事だ。
シロッコが
「お前は、何時も面倒事を断れないタチだからな…押し付けられたんだろう」
ジグラスは皮肉に笑み
「ああ…全く、親が親だからなぁ…」
シロッコが
「ジグラス…そろそろ、独立するべきだ。年齢も年齢だ。オレと同じ年齢だ。四十代は、組織から卒業する年代でもある」
ジグラスが難しい顔をして
「Sランクでも下っ端の小間使いにしかならないなら…そうかもしれない。でも…さ」
シロッコがフッと笑み
「散々、オレ達の世代を酷使して殺して来た連中が上司のままなんだろう。だったら未練もないだろう」
ジグラスが後頭部をなでて
「今回の事を理由に踏ん切りをしていいかもしれないって思っていたら…それを察知したのか…頭を下げて、辞めないで欲しいって言って来た。これ以上、中間になるオレ達が居なくなると…組織は維持できなくなる。頼むってね」
シロッコが呆れた笑みで
「散々、オレ達を使い潰して、ボロボロにしたクセに…」
ジグラスが
「なぁ…シロ…戻って来ないか? 女王様も口でキツく言っているけど…本心じゃあ戻って欲しいだろうし…それに…。お前を苦しめた上の連中も…自分達がやって来た事の」
シロッコが塞ぐように
「贖罪を始めたから許せって? 許せる訳ねぇだろうが」
と、口調が鋭くなる。
ジグラスが項垂れて
「分かった。これだけは言って置く。あのバカをした若造共の手にあったギアの力を封印する違法な装置の出所は、不明だ。そればかりじゃあねぇ…そのように誘導した連中の事も分からない。これが…どういう意味か…分かるか?」
シロッコが
「大方、オレやジンにレイの三人が、どこかに入るのが面白くない連中が仕組んだ事なんだろう。お陰で…厄介な連中が関わって来なくなって楽になった」
ジグラスが
「いいや、違う。お前等の望みを叶えたんだよ。どうでもいい、ちょうど良いバカ共を利用して、お前達の望み通しにした」
シロッコが
「それに何の得があるんだ?」
ジグラスは
「損得なんて無いんだよ。お前等が生きやすいように…色々と手を回しているって、忖度ってヤツさ」
シロッコが
「フン、バカか…そんな事はない」
ジグラスが
「シロ、時代は変わったんだよ。何時までも、あのヒドかった時代のままじゃあねぇんだよ。だから、戻って」
シロッコが席を立ち上がり
「ジグラス。どんなに時代が進んで良くなった…としても、結局、その時に犠牲になった者達は救われず、今も苦しんでいる。オレもその一人さ。社会に、世界に、現実に、未来に、オレが救われる事はない」
ジグラスが
「じゃあ、ランちゃんの事は、どうするつもりだよ! あの子は、お前の事を!」
シロッコが
「ランは、もう…自分で歩んでいける。オレは必要じゃあない」
ジグラスがドンと店のカウンターを叩き
「そういう事じゃあねぇんだよ! ランちゃんは、お前と一緒にいる事が」
と、その先を言おうとしたが呑み込んだ。
それ以上、言えばシロッコがより拒絶を強めるのを知っているからだ。
シロッコが
「ジグラス、オレも…もうすぐ…役目を終える。それは…天が決めた事だ。その時まで…。そこにランは入っていない」
ジグラスがシロッコの袖を掴み
「その天が決めた事って何だよ!」
シロッコが冷徹に笑み
「それを言った所で、お前も否定する連中と一緒だろう。だから、言う事はない」
ジグラスが
「人は、運命を変えられる力があるぜ!」
シロッコがジグラスの手を振りほどき
「それは、運命を変えられる力を得られた運が良かったヤツだけ、オレには…その運がない。それが真実さ」
と、シロッコは出て行った。
ジグラスは頭を抱えて
「クソ! シロ…なんで、こうなっちまったのか…」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
アナタに幸せが訪れますように…
次回、大きな依頼