第108話 一刀の勝負
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あらすじです。
ディオスは一刀と勝負する事になった。特設リングで沢山の観客に見守られて試合が始まった。圧倒的ディオスの攻撃に一刀は…
ディオスは、王都にあるレディアンの屋敷にいた。
レディアンと、レディアンの夫シュリナーダを前にディオスは、一刀との事をどうすれば良いか話し合っていた。
「んんん…」
と、夫のシュリナーダは唸る。
レディアンは眉間を寄せて
「難しい問題だ。ディオスと一刀の望む通り、二人が勝負したとしよう。どっちが勝ってもどちらも問題になる」
そう、ディオスはアーリシアの大英雄で、一刀は曙光国の皇族だ。
どっちの名誉にも傷がつく。
シュリナーダが
「では、ちゃんとルールを決めて戦おう。そうすれば、どっちが勝っても問題はない。それにだ…これが良い切っ掛けにもなる。ディオス殿を狙っての闇討ちが無くなるかもしれない」
ディオスが
「闇討ちがなくなるとは?」
シュリナーダが
「ディオス殿は、様々な武勲がある為にマトモに戦っても敵わないから、倒すには不意打ちして勝つしかないというのが、最近…出回っている巷の考えだ。だが、この一刀君との勝負があれば、正々堂々と戦って勝てる見込みがあるという考えに変わるだろう。そうなれば、ディオス殿を狙った闇討ちが無くなるかもしれない。前にソフィア陛下も巻き込まれたのだろう。だったら、余計にそうするべきだと思う」
レディアンが
「では、どのようなルールを決める? ディオスにも一刀にも公平なルールは難しいぞ。何せ、ディオスはヴァシロウスを倒した男だぞ。それを公平にさせるなら、ディオスに膨大なハンデを設定する事に…それで勝っても、勝ったとは言えないぞ」
シュリナーダは考え
「こういう設定はどうだ?
一、ディオス殿は相手を止める魔法を使ってはいけない
二、決められたリング内でお互いに戦う。
三、ディオス殿の魔法攻撃で死なない為に強力なシールドの魔法を使って良い。
それはディオス殿も同じである」
レディアンは考え
「まあ…確かに複雑なルールを設定するよりは、明確だろう」
シュリナーダは
「ディオス殿は、どう…?」
ディオスは肯き
「そのルールでしたら、問題ありません」
こうして、一刀との勝負に向けて事態は動き出した。
屋敷に帰ったディオスは一刀に、自分と勝負出来る事を話すと
「本当ですか!」
一刀は喜びを見せる。
「ああ…」
と、ディオスは肯き
「正式な勝負なので、色々と準備がある。一週間後に整うから、それまで屋敷で過ごしてくれ」
「はい!」
一刀は大きく頷いた。
こうして、一刀とディオスとの勝負の話が進み、戦う場所は、王都の外れにある平原で、リングの大きさは百メータ四方の四角、その角に防護結界を張る魔法結晶を設置、戦いによる被害を外に拡大させない為の措置を行う。
この勝負の審判は、レディアンが行い。
そして、立ち会いにはバルストラン王のソフィアも加わる。
無論、ディオスの家族も加わり、そして…お祭り騒ぎになる。
沢山の人々がこの勝負を見たくて場所取りが始まり、同時に沢山の露店も出てしまう。
そして、賭け事まで動いてしまう。
公的な賭け事をする組織が、ディオスと一刀のどちらが勝つかという賭けを提示させると、一斉に多くの賭け金が集まる。
7対3でディオスが優勢。一刀は穴馬的な位置であった。
そして、勝負当日。
ディオスの屋敷でお互いに準備をする。
朝食中に一刀が
「グレンテル様、こんな弱輩な自分の為に多くの事をして頂いた事に感謝します。この恩は一生忘れません」
ディオスは一刀と握手して
「互いにがんばりましょう」
「はい」
ディオスは部屋で着替える。
魔力によって防御力を上げる効果を発揮する魔導士ローブを纏う。
この魔導士ローブには、アダマンタイトを糸にした繊維が折り込まれている。
故に、その防御力増幅効果は絶大で、戦艦飛空艇の魔法砲撃でされ耐えられる。
それに無限の魔力を持つディオスのシンギラリティが加わるのだから、あらゆるモノも破壊不可能な絶対の防護である。
だが…不意に、ディオスは予感があった。
もしかしたら…。
そう、一刀の努力を知っているので、もしかしたら、この防護を破って…
一応の念押しの為に、ディオスは黒いアダマンタイトの簡易鎧をローブの下に装備した。
一刀の方は、屋敷の庭で静かに正座して神経を研ぎ澄ませる。
脳裏にはディオスの屋敷で過ごした日々が過ぎる。
暖かく家庭的な、この屋敷での生活に心地よさを感じていた。
そんな優しく受け入れてくれた恩にも報いる為に、一刀は鎧を装備しない。
あるのは、自分が持っている一振りのみ、それに全てを賭ける。
全身全霊を一刀に乗せるのみ!
ディオス達は勝負の場所へ向かうと、花火があがり、お祭り会場だった。
それはそれは、賑やかなお祭りだ。
簡単な場所にしているので客席はないから、地面にランチマットや、簡易なイスを並べて観戦する人達。
それにディオスは
もう…お祭り騒ぎにしちゃってよーーーーー
呆れていると、人々がディオス達に気付き
「きたぞーーーーー」
と、呼び声と共に拍手で出迎えた。
一刀は呆然、ディオスは額を抱えた。
拍手の中で、ディオスと一刀は、戦う場所となった平原へ来る。
リングとして場所を囲む結界用の魔法結晶。
その向こうには沢山の観客。
ディオスは一刀に
「すまん。何かお祭り騒ぎになってしまった」
一刀は微笑み
「いいですよ」
リングの中央には審判のレディアンが立っていて
「両者、こっちに!」
ディオスと一刀は、レディアンの前に来ると
「両者握手」
ディオスと一刀は互いに握手してレディアンが
「ルールを説明する」
ディオスと話し合った三つのルールを説明。
両者に同意を求めると、ディオスと一刀は頷いた。
「では、審判の私が出て、掛け声を行ったら始めだ」
レディアンがリングの外に出て、ディオスと一刀は、互いに視線を交わし合う。
レディアンが、二人を見て右手を上げ
「ではこれより、ディオス・グレンテルと一刀 暁による勝負を始める」
そう全体に掛け声をして
「始めーーーーーー」
右手を振り下ろした。
一刀は素早く刀を抜く、ディオスは、一斉にベクトの瞬間移動を使って空へ昇った。
一刀も飛翔の魔法を使えるので問題はない。
だが、ディオスが距離を、空に昇った理由は…
それを見ていたクレティアとクリシュナにゼリティアが
「うぁ…ダーリン、マジだ」
とクレティアが呟き、クリシュナとゼリティアは頷いた。
ディオスの背後に、百メータのリングの空を埋め尽くす程の魔法陣が展開される。
ディオスの戦術、圧倒的飽和魔法攻撃だ。
”セブンズ・グランギル・カディンギル”
”グラビティ・カノン・フル・オーバー”
”バハ・フレア・オルレイン”
”アイス・ランス・レイン”
”ゼウス・サンダリス”
”ソニック・ウェーブ・ディストラクト”
七色の光の豪雨、超重力の光線、業火の連続爆発、氷の槍の雨、万の雷達、衝撃波の連続破壊エネルギー
どれもが、一撃必殺の飽和破壊魔法攻撃だ。
超個密度の破壊の魔法攻撃が、リングを埋め尽くす勢いで一刀に迫る。
それに、観客達も度肝を抜かれた。
一刀は、直ぐに強力なシールドの魔法を展開、自分の血に伝わる王族の秘技、神器神具も発動、五メータ近い鋼の龍が出現、一刀の周囲を覆って防御態勢へ入る。
同時にディオスの攻撃が到達した。
その威力に、リングの防護魔法結晶が悲鳴を上げる。
衝撃を殺しきれずに、外に漏らす。
近くにいた観客達が吹き飛んだ。
立会人になっているソフィア達は、ディオスの妻達、クリシュナとクレティアとゼリティアの三人が強力な結界を展開させて、その暴威から守る。
ディオスの圧倒的攻撃を前に、観客達は、ディオスの勝利を確信する。
だが、クレティアとクリシュナにゼリティアは違っていた。
そう、一刀はまだ倒れていないと…。
一刀は激流の中に投げ出された攻撃に耐えていた。
地面は消失、空中に浮かび、ディオスの攻撃にひたすら耐えている。
激烈な攻撃の嵐に、何時か終わると一刀は耐えるつもりだが…。
グキっと防護している神器神具の龍が壊れそうになる。
このままでは、自分が先に終わる。なら…
一刀はディオスに向かって飛翔する。
防護シールド魔法に身を包み、神器神具の龍に乗ってディオスへ向かう。
シールドの守りさえ、ディオスの攻撃を殺しきれず、一刀にダメージを与える。
ディオスの魔法攻撃は、それ程の濃密で強威力なのだ。
それが唐突に終わった。
「え…」と思った一刀の先、ディオスが一刀に向かって右手を向けていた。
ディオスの周囲に六つの属性の高密度魔力の球体が浮かんで周回している。
光、闇、炎、水、風、地の六つの超高圧高密度の魔力球体が、ディオスの伸ばしている右手にその魔力を集中させる。
”シックス・センス・フュージョン・カディンギル”
それは、リングと同等の巨大さを誇る七色の光の激流だった。
容赦なく、それに一刀は呑み込まれた。
そう、ディオスは始めから、一刀がこの飽和攻撃を抜けて自分に迫るのを予測していた。
そして、確実に倒す為に、空にいる自分に向かった所を待ち構えてのフィニッシュだ。
一刀は七色の光の奔流に消えた。
それに、勝負は付いたと、クレティアとクリシュナにゼリティアは痛感する。
実は、一刀に勝って欲しかったのだ。
それ程までに一刀の努力は素晴らしかった。
その努力が報われて欲しかった。
でも、それは叶わなかった。
一刀はディオスの強力な攻撃の奔流の中で、
このまま終わると…。
だが、脳裏に今までの事が過ぎる。
弱かった自分を必死に鍛えた日々。
魔法の世界では、剣術も魔法が合わさった攻撃がメインである。
剣術が優れても、魔法が追いついていないと、試合に勝てない日々が続いた。
努力が報われる事はない。結果が伴っていない事が多かった。
それでも、自分を叱責して、剣を振り続けた。
今、アーリシアを救った大英雄と戦っている。
やはり、敵わないのか…。
そう思えば思う程、諦めたくない気持ちが噴出して
「おあああああああああああああ!」
一刀は、無意識に自分を吹き飛ばそうとする奔流へ向かって行った。
負けたくない。
ただ、それだけを思って。
ただ、向かって行くだけ。
ディオスは、これで決まったと七色の激流を見つめるも、何かが昇っているのを感じた。
「まさか!」
ディオスは、更に威力を上げた。
観客が驚きを上げる。
ディオスの攻撃の純度と威力が上がって、リングの魔法結晶が耐えられなくなって爆発した。
とんでもない激震が周囲を揺さぶる。
逃げる観客。
それで、ソフィアは察した。
「まさか!」
威力を高めても何かが一刀が昇ってくるのだ!
ディオスは両手を構えて向けて
「おあぁあああああああああああ」
全力でいった。
七色の激流が、ヴァシロウスを吹き飛ばした光の龍に変わる。
それでも一刀は昇って来た。
そして、一刀は突き抜けた。
「おああああぁぁぁあああああああ」
一刀は、ディオスの凄まじい攻撃を耐えてディオスの目の前に現れたのだ。
ディオスも直ぐに反応した。
”グラビティ・プレッシャー”
一刀を挟むように超重力のエネルギーをぶつける。
だが、一刀の振るう一閃が早かった。
それが、ディオスの左肩から、腹部に向けて振り切った。
一刀一瞬、一刀渾身、一刀魂入
同時に、一刀の愛刀、鬼一刀が粉々に砕け散った。
一刀は、ディオスの魔法に挟まれて倒された。
一刀に魂を乗せた攻撃がディオスに衝撃を与えた。
そう、一刀の攻撃がディオスに届いた。
ディオスの纏っている魔力を防御力に変えるアダマンタイト繊維入りの魔導士ローブが裂かれて、その下にあるディオスの黒い鎧が刀の一閃を受けて凹んでいた。
意識が途絶した一刀を、ディオスは素早く駆け付け抱える。
それを見たレディアンと観客達は、ディオスが勝ったと…。
ディオスは大穴となったそこへ降り立つ。
ディオスの元へ、妻達とソフィアにレディアンと多くが駆け付けた。
レディアンが
「ディオスの勝ちか…」
ディオスは首を横に振って抱える一刀を見つめ
「一刀くんの勝ちだ」
「はぁ?」とレディアンが顔を顰める。
クレティアが、ディオスの様子に気付いた。
「ダーリン、服…」
そう、ディオスの纏う魔導士ローブが裂けていた。
それにゼリティアが
「成る程…勝負に勝ったのは一刀で、結果に勝ったのは夫殿か…」
ディオスは首を横に振って
「いいや、オレは負けた。こうして立っているのは偶然だ」
クリシュナが
「そう…いい結果じゃない」
レディアンは頷いた。
こう上手く行くとは…。
一刀は勝負に勝った。ディオスは結果で勝った。両方が勝ったという素晴らしい結果だった。
一刀が目を覚ますと、そこは天井が見えた。
見慣れた天井、そこはディオスの屋敷だと分かった。
起き上がるとベッドに寝ていた。
その傍にアイカがいた。
「あ…起きた」
一刀は微笑み
「ああ…ここはグレンテル殿の…」
「うん」とアイカは頷いた。
それで察した。自分は負けた。
なんだろう、涙が溢れる。
負けたんだ…。
その手をアイカが触れて
「一刀お兄ちゃん…」
そこへディオスが来た。
「ああ…目が覚めたのか…」
一刀がディオスにお辞儀して
「ありがとうございました」
ディオスはフッと笑み
「動けるか?」
「ええ…大丈夫です」
「なら、一緒に来てくれないか?」
「…どこへ?」
一刀を連れてディオスは王宮に来た。
王宮に入った瞬間、沢山の人々の拍手と共に一刀は迎えられた。
「え…」
戸惑う一刀。
ディオスがその肩を持ち
「さあ…こっちに」
王宮の庭園は大きな会場になっている。
その真ん中にはソフィアとレディアンがいる。
拍手に包まれる一刀に、ソフィアが来て
「一刀 暁。汝の功績を讃えて、これを贈呈する」
一刀の前に台車に乗せられて掲げられる白く輝く巨大な大剣が来た。
「ええ? ええええ!」
戸惑う一刀。
レディアンが
「一刀 暁、君はディオスとの勝負に勝ったのだ」
一刀は額を抱えて
「ええ…だってベッドに…ええ?」
別の物が台車に乗って運ばれる。
それは、一刀の一閃によって裂けたディオスの魔導士ローブと、それによって凹んだ鎧である。
レディアンが
「君がディオスの強烈な攻撃を抜けて、ディオスに一撃を加えたのだ。これが証拠だ。もし、ディオスが鎧を着込んでいなかったら…」
ディオスが一刀の肩を抱き
「君は勝負に勝ったんだ。君の努力がオレを上回ったんだよ」
一刀は口を押さえて
「あああ…ああああああ」
涙した。
ディオスが一刀に贈呈する大剣を掴み
「さあ、これは君の勝利を証明する品だ」
一刀は涙しながら、ディオスから白光を輝く大剣を受け取る。
大剣が一刀を認識すると、形状を変化させる。
大剣から一刀を包む鎧となり、白光と輝く鎧と刀を一刀にもたらした。
ディオスが
「ゼウスリオンを構築しているゼウスインゴットで作られた。君だけの装備だ。君の努力に応じて強くなり変化する。君と共に成長する鎧だ」
涙する一刀がディオスに
「グレンテル殿…自分は…オレは…」
ディオスは微笑み
「そんなに情けない顔をするな! オレに勝った努力の天才よ」
沢山の祝福の拍手が一刀を包み込んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。