幽玄の王 第57話 ジャバラスと対峙
次話を読んでいただきありがとうございます。
ついにジャバラスと対峙するレイ、その戦いは?
全長三十万光年の獅子型サルヴァード・シシラス
惑星級のサルヴァード・セロのゼノギアラス
あまりにも圧倒的に違い過ぎる。
ヴォオオオオオオオ
シシラスが雄叫びをあげる度に宇宙が震える。
それを最小限に抑えようとするシロッコとジンのサルヴァードの結界。
明らかにジャバラスのサルヴァード・シシラスが圧倒している。
シロッコが
「我ながら、どうして封印できたのか…謎だぜ」
ジンは
「ああ…全くだ」
シシラスがゼノギアラスに突進する。
それは津波であり、津波に押し潰される小さな島のようだ。
圧倒的で絶望的なシシラスを前に、ゼノギアラスは手を広げて待ち構える。
巨大な津波が衝突する小島。
それがゼノギアラスだ。
だが、ゼノギアラスは押し潰される事はなく耐える。
ゼノギアラスのコアにいるレイは、全身が軋む痛みに襲われていた。
圧倒的な力を持つ完全体のサルヴァード・シシラスに、初期のサルヴァードであるゼノギアラスが耐えている。
シシラスのジャバラスは笑み、何度もゼノギアラスへ襲いかかる。
全長三十万光年のシシラスから見ればアリのように小さなゼノギアラスが、その猛攻に耐えている。
その理由は、ジャバラスは分かっている。
レイは、聖帝ディオスの元で受けた師事を実行していた。
聖帝ディオスが
「レイくん。キミは自身の力の特性について、どれ程に理解している?」
レイは
「その、王の力を借りている程度だと…」
聖帝ディオスは首を横に振り
「王の力ではない。君自身が持つ無限収納ボックスという力、それは…巨大な…無限に近い器だ」
レイは驚く。
何でも入り取り出せる便利な収納庫程度の能力にそんな力があるとは…
聖帝ディオスが
「無限に近い器。つまり、果てしない巨大な力を受け止める能力を有しているという事だ。それはつまり…収束と加速も行える」
レイが困惑で
「収束と加速?」
聖帝ディオスは肯き
「巨大な力を受け止めて、己が力に変換する…そういう事だ」
それがジャバラスに勝つ為の方法。
ジャバラスの攻撃の全てを受け止める。
それを収束させて加速し、己が力にする。
巨大な超越存在としてのジャバラスの力を、レイは受け止めて収束、加速させている。
宇宙を破壊する程の力を何度も何度もレイは、ゼノギアラスというアンテナから自身の無限収納ボックス、無限へ流し込む。
その度に全身が引き裂かれるような痛みに襲われる。
身体がはじけ飛びそうになるのを耐える。
ジャバラスのシシラスは、更に力のボルテージを上げる。
獅子型だった肉体は立ち上がり、直立する鎧の獣人型となる。
そのエネルギー余波は、シロッコとジンの結界を抜けて、周辺の宇宙に星系サイズのエネルギー結晶を発生させる。
戦場を中心に数千万光年がエネルギー結晶の群生地となる。
ヴォオオオオオオオ
ジャバラスの人型となったシシラスが吠える。
ジャバラスの超越存在としての階位は、このコーレル時空を作り替えてしまう程だ。
これが九天君主の一角の力なのだ。
一柱で、宇宙を再創成する超越存在の力。
それをレイは受け止める。
そして、脳裏に不意に…自分の知らない記憶が流れる。
ジャバラスの力から記憶の一端が流れてくる。
それは、九つの者達と、それを従える存在、覇遵の記憶の一端だ。
ジャバラスと同じ全てを見通す第三の目を持つ覇遵。
”この世の全ては衆生、神も人も虫さえも、等しく皆、同じ”
覇遵の声が聞こえた。
レイが意識を戻した瞬間、天地をひっくり返す程の拳が迫る。
シシラスの一撃がゼノギアラスに落ちてくる。
それを受け止めるゼノギアラス。
巨大な隕石を受け止める枯れ木の如く無謀に見えた。
だが、レイは
「ここで、負ける訳には行かないんだ!」
シシラスの一撃を受け止めた。
流れてくる無限大のエネルギー。
レイは、収束と加速を繰り返し…
「うああああああああ!」
ジャバラスのエネルギーをトリガーにして、神化する。
ゼノギアラスが光の爆発となり、全長三十万光年の光の渦となり、姿を再構築する。
それは、胸部に光の渦を持ち、光の渦から翼が広がる鎧の巨人、レイのサルヴァードの完全体、サルヴァード・レイゼノスだ。
全長三十万光年のシシラスと同じ、全長三十万光年のレイゼノスが立つ。
レイゼノスの渦がシシラスの放つ力の全てを回収する。
そして、己が力に変換して加速する。
シシラスのコアにいるジャバラスは嬉しそうに笑む
「ついに…完成したか…」
レイゼノスとシシラスが向き合い、同時に最大力を載せた拳を放つ。
お互いにエネルギーが渦巻く拳撃を同時に放ち、ぶつかる。
その衝突で、コーレル時空の全体が歪む。
もう、シロッコとジンの結界が突き破られて、巨大なエネルギー同士の衝突が起こる。
それでも、レイゼノスがシシラスのエネルギーを吸収、自身に加速させる。
拮抗が崩れるのは直ぐだった。
レイゼノスの一撃がシシラスの一撃を呑み込み、シシラスに迫る。
シシラスの腕を破壊して、足も両腕も、残るは胸部という所でレイゼノスは攻撃を止めた。
ジャバラスが
「なぜ、止めた?」
レイゼノスのレイが
「もう、アナタは…」
そう、ジャバラスは終わる寸前だった。
ジャバラスが笑み
「その優しさ、良し。汝の称に相応しい。人路皇王よ…」
と、告げるとジャバラスは末端から結晶となり砕け始める。
「良き、終わりであった。満足だ。ありがとう…若人よ…」
と、ジャバラスは全身が結晶となり砕けて終わった。
そして、シシラスに残ったエネルギー、コーレル時空を滅ぼす程の力はレイのレイゼノスが吸収し、そして…レイの中に九天君主の権能の一つ、超座が吸収された。
ジャバラスが終わった後、光が広がる。
それは、クリスタル症の終わりを告げる光だった。
◇◇◇◇◇
レイがジャバラスと戦っている最中、クリスタル症の患者を診ている病院は大忙しだった。
「早く! 担架を持ってこい!」
と、声を荒げる医師。
次々と結晶から解放される患者達。
姉のアスカと妹のスイは、母親が入っている結晶を見つめていると、亀裂が入る。
そして、砕けて母親が解放される。
アスカとスイは、解放された母親を抱き締めて、医師が近づき急いで担架に乗せて検査へ回した。
その医師の中に病院の院長もいた。
「彼の言った通りになった」
そう、レイから
「母さんを、クリスタル症を終わらせます。だから、後はよろしくお願いします」
ジャバラスがもたらしたクリスタル症の悲劇が終わった。
◇◇◇◇◇
レイは、レイゼノスで宇宙にいるとシロッコのゼンペストと、ジンのラーゼオンが来て
シロッコが
「終わったな」
ジンが
「お疲れ」
レイは微笑み
「ええ…しんどかったです」
「はははははは」と三人で笑っているが…三人のサルヴァードの周囲に、同じサルヴァード達が何柱も現れる。
別の宇宙の王達のサルヴァード達が駆けつけて、三人のサルヴァードを包囲する。
「三人とも、抵抗はしないで欲しい」
と、告げるサルヴァード、エルディオンのディオス。
他のサルヴァード達も静かにレイ達を見つめると、レイ達は大人しく両手を挙げた。
それにディオスは笑む
「まあ、そうだろうね」
レイとシロッコとジンの三人は、大人しく捕縛された。
レイとシロッコとジンは、笑っていた。
助ける人達を助けられたのだから。
満足でしかない。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
アナタに幸せが訪れますように…
次回 裁定