幽玄の王 第52話 01[zero ichi…絶望の底]
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十五年前の話…
十五年前
シロッコが仲間を背負って歩いていた。
その後ろをジンも同じく仲間を肩に抱えて歩き続く。
シロッコが背負っている仲間に
「あと、少しだ…だから」
背負う仲間の男性が微笑み
「ありがとう…」
と、一言を告げて息を引き取った。
「おい!!!!!!!!!!」
と、シロッコは叫び背負う仲間の男性に…いや、天に召された仲間を呼ぶ。
ジンも右肩に抱える仲間の女性に
「しっかりしろ! 後…少しで」
仲間の女性は微笑み
「アンタの事…好きだったなぁ…」
と、一言を告げて事切れた。
シロッコとジンは、怒りを抱えたまま帰還した。
この作戦を考えたのは…シロッコとジンがいたギルドのトップ達だ。
シロッコとジンが二十歳の頃、コーレル時空は大不況になった。
それが原因で仕事がなく、二人はソルジャーになった。
待っていたのは使い潰しの戦場だけ。
生き残っても、次々と危険なダンジョン探索や攻略に放り込まれて…多くいた仲間達が死んでいった。
この時代、ソルジャーとなった者達に人権なんてなかった。
使い捨てにされる者達。
命というパスポートをすり減らして、生き残って…何度も何度も死地へ送られる。
この悲惨な現状が原因で後々に、ソルジャーになる者達が激減、更にランク上昇への渇望もなくなり、ソルジャー不足が起こるが…それは後々の事だ。
ジンとシロッコが仲間の遺体を抱えて帰還したが、上司の男が二人を見下して
「死んだのか…ソイツらは…使えないなぁ」
ジンとシロッコは怒りの顔を隠して俯く。
上司の男がジンとシロッコをあざ笑い
「キサマ等は、生き残って良かったよ。使える。次の任務があるので、急速回復装置に入って休め」
何度も何度も、上司の男は人を、ソルジャー達を使い潰す。
これが当たり前の時代、人は幾らでもいる。ムダにいる人間を使い潰す事が正しいとされた絶望の時代。
絶望の世界で、生き残ったソルジャー達の怒りや憎しみが蓄積していった。
こんなヒドい状況でも、ソルジャーを辞める事はできない。
何かしら…社会に対して成果のない者に生きる価値はない…という修羅、地獄のような時代。
誰も助けようとしない。
誰も、誰も、誰も、親さえも…
ソルジャーを辞めれば、次はない。
世捨て人、ホームレスになってのたれ死ぬか、犯罪者になって一生刑務所か?
そんな絶望の時代にシロッコとジンは生きていた。
だが
「テメェ! ふざけるなよ!」
と、二人の上司に食ってかかる小宮とソンがいた。
小宮とソンは、シロッコとジンと同年代だ。
小宮とソンは、仲間を使い潰す、二人の上司が赦せないのだ。
怒りを上げる二人にシロッコとジンは、少しだけ…心が救われる。
だが、上司の男の周りにいるソルジャー達が、小宮とソンを離して、上司の男が
「お前達は、甘すぎる。我々以外は、所詮、使い捨てが効く歯車でしかない。部下を大事にするヤツは、破滅するぞ。部下や下は使い潰すのが正しいやり方だ」
小宮が叫ぶ
「ふざけるなよ! みんな、同じ人間だろうがぁぁぁぁぁ!」
ソルジャーの世界には、圧倒的な格差と差別がある。
二百年前に王の隣にいたとされる王の系譜の子孫と、それ以外の者達。
王の系譜の子孫達は、それ以外のソルジャーを使い捨てるのが当然とする風潮が当たり前。
圧倒的な階層のピラミッドを変える事は出来ない。
それが、人の本質なのだから…。
支配する者達と、その下にある圧倒的多数の奴隷群。
それを変える事はできない真理なのだ。
それから十五年後
その上司だった男が、とある喫茶店で…シロッコとジンに頭を下げるが。
その顔面に水が入ったコップを投げつけるシロッコ
「お前に従うくらいなら死んだ方がマシだ!」
現状は完全に変わってしまった。
圧倒的なソルジャー不足、かつて栄華を誇ったギルド達の九割はソルジャー不足で倒産し統合、片手に数えるだけの巨大なギルド組織しかない。
不況になればソルジャーになる者が増える…事はなかった。
ジャバラスの封印を活用したエネルギー増殖炉のお陰で、その不況の負担をカバーする方法も生まれて、ソルジャーになる者達はいるが…Eランク止まりで、それ以上になる者達はいない。
ソルジャーランクの価値は、マキナや様々な機器が使える免許に変わった。
もし、ジャバラスの封印のエネルギー増殖炉が無くても、シロッコやジンが別のエネルギー生成方法を探し出して、現状は今の通りになるだろう。
ソルジャーに対するイメージや社会的な立場の悪化。
その原因は、シロッコとジンのようにソルジャー達を使い潰したトップ達が原因だ。
因果応報、自分が人を使い潰して、後々に自分達が捨てられる。
当然の末路であり、莫大な資産やお金を持っていても…誰も相手にしない。
ジワジワと権威や権力を失っていく。
ソルジャー協会という行政の力が強くなり、シロッコやジンの世代だったソルジャー達の補償が言われるようになり、更に現状は悪くなっていく。
何時の時代も、何かにツケを押し付けて、それを未来で支払わせる。
愚かな結末は、変わらない。
今、善人でも過去には、とんでもない悪人だったのは、良くある話だ。
ジンとシロッコの上司の男の名は、ダイアード
XXランクの一人であるアルラ・カイゼル・白皇の父親だ。
ダイアードの下には誰もいない。
シロッコとジンがいた時代にソルジャー達を使い潰した結果、誰もいなくなった。
お金や資産は莫大にある。だが…誰も相手にしない。
超富裕層の一人だが、誰も隣にいない。
そんな彼に、とある人物が接触する。
「こんにちは…」
ロードの王、ウルだ。
そして、ダイアードはウルから…真実を聞いた。
「あああああああ!」
絶望した叫び声を上げるダイアード。
ダイアードは、自分達が…王の系譜の子孫達がやってきた大罪を知り、絶望の底に…
ここまで読んで頂きありがとうございます。
アナタに幸せが訪れますように…
次回、ランクの再審査