第106話 首都ウォウルの戦い
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あらすじです
ディオスは悪魔の如きゴーレムのアニエスよりシュトリと、星麗首都ウォウルを奪還する戦いを始める。エニグマとの戦闘、そして、ディオスの作戦とは…
アニエス事変、最終話です。
ディオスは、シュトリを悪魔のようになったエルギアのゴーレムのアニエスから取り戻す戦いを始めた。
ディオスはゆっくりと浮かび上がり、力を解放した四人を下にする。
キャロルが
「飛んでどうする? アニエスの張っているフィールドでは、魔法陣が展開出来ないぞ」
ディオスはフッと笑み魔導収納から皮袋を取り出し、中身を右手に握る。
それは、紫に輝く菱形の結晶達である。
「オレが、その対策をしていないと思うか?」
ディオスは、それをバラ撒くと、紫の結晶達は砕けて粒子となってディオスの周囲を浮遊すると、魔法陣が展開される。
「これはなぁ…特殊な魔導石の粒子だ。これが周囲に霧散されていると、その粒子が魔法陣を展開するのを補完する。幾ら、魔法陣展開を阻害する力があっても、これによって魔法陣が幾らでも展開出来るんだよ」
ギリッとキャロルは噛み締める。
そう、この男は、忌々しい程に強い。
我々の対応策を圧倒する方法を作り出す。
ディオスの足下にいる力を発動させる四人。
狼の神格を纏うナトゥムラ。
武技の神格を纏うヴァンスボルト。
紅いドラゴンのオーラを展開するヴァハ。
同じく黄金のドラゴンのオーラを展開するリュート。
四人は静かにエニグマの連中を見つめる。
エニグマは…
アズナブルは、光の魔力を纏う起動戦闘状態。
その部下、レイドは漆黒の鋼鉄ゴーレムを纏い。
ララーナは、浮かび周囲に巨大な剣達を周回させる。
キャロルは、その身から何時もの金糸が飛び出し、巨大な黄金の獅子のゴーレムを纏う。
ディオスはパチンパチンと指を鳴らす。
まるでそれがカウントのように、時を刻む。
その間、ディオスが展開する魔法陣が増えていく。
そして、ディオスのカウントが途絶えた瞬間、爆発した。
ゴオオオオオオオオオ
互いの雄叫びが響く。
一斉に、巨狼フェンリルが大地を削って疾走、それに武神の巨人バルバトも続く。
応戦するのは、光の力と化したアズナブルとレイドのゴーレムだ。
両者が衝突、膨大なエネルギーの衝撃波が来る前に、ヴァハとリュートのドラゴニックフォースが来て、それにララーナの巨剣群とキャロルの巨獅子が衝突。
二段大爆発が周囲を包む。
元総統府を包むリングを形成する、イルドラとブンシュウの神獣にその負荷が襲う。
イルドラが
「全く、加減を知らん者達じゃ」
ブンシュウも戦いによって放たれる膨大なエネルギーが外に漏れるのを防ぐに苦心する。
そこは、閃光の世界だった。
戦いの場となった元総統府は完全に跡形もなく消滅。
凶悪で巨大な魔導エネルギーであるナトゥムラとヴァンスボルトの神格を前に、アズナブルとレイドは苦しい顔をする。
ありとあらゆるモノを噛み砕く力の牙を剥くナトゥムラのフェンリル。
万の種類の武器を光で構築、叩き付け爆発させるヴァンスボルトのバルバト。
レイドは何度もゴーレムが潰されようとも再生させ向かい。
アズナブルは止まっては負けると、光の強力な流星のままで走る。
キャロルとララーナの方も同じである。
紅いドラゴンのオーラが強烈なオーラの突きを放ち圧倒、黄金のドラゴンが強烈な光線咆吼を連射、ララーナの魔力を弾く巨剣群が糸も簡単に粉砕され、次々と新しい巨剣を召喚するしかない。
キャロルの黄金の獅子ゴーレムも攻撃に圧倒され、手が出せない。
キャロルは思った。
ドラゴニックフォースはこれ程までに巨大ではなかった筈…なぜ…?
不意に、空を見上げると、膨大な数の魔法陣を展開するディオスの魔法陣の内、四つの巨大な魔法陣が動いて光を放っている。
「まさか!」
キャロルは、ドラゴニックフォースを使うヴァハとリュートを睨むと、そう…リュートとヴァハの右腕にある呪印が光っている。
キャロルは戦慄した。
そう、ディオスがドラゴニックフォースの力をアシストして何倍にも高めている。
そして…アズナブル達と戦うナトゥムラやヴァンスボルトも同じく右腕の呪印が光っている。
ディオスの強大なアシストを受けているのだ。
「クソがぁぁぁぁぁぁ」
キャロルはディオスに向かって飛翔。
「アニエス! 援護しろーーーーー」
自分達の遙か上にある悪魔のようなゴーレムのアニエスが、周囲に紫電の塊を発生させ、地面へ放つ。
ディオスはアニエスとキャロルの攻撃に挟まれるが…フッと笑み。
”グラビティカノン・オーバー・レイン”
ディオスの発動させている魔法陣の一つから、超重力の光線が雨の如く放たれる。
膨大な超重力の光線達が、アニエスの紫電を呑み込み、それにキャロルの黄金巨獅子ゴーレムは弾かれ地に落ちる。
上空にいるアニエスも、その攻撃を浴びて揺らぐ。
そして、ディオスは次なる手を打つ。
”グランギル・カディンギル・フルレイン”
ディオスが背負っている魔法陣の集合体が蠢き、組み合わさるとそこから地上へ豪雨の如き、極太の光線が降り注ぐ。
圧倒的襲撃にエニグマ達はたじろぎ防戦となる。
それの攻撃はナトゥムラ達四人にも届くも、極太の光線がナトゥムラ達に触れた瞬間、反射してノーダメージ。
ディオスのアシストである。
極太の光の攻撃の中で悠々と四人は動き、攻撃を加える。
「アニエスーーーーー」
アズナブルは叫ぶ。
アニエスはアズナブル達を助けようと、紫電の光球を構築して、ディオスに降り注ぐが
”ブラックホール・アビス”
ディオスは漆黒の超重力の塊を作って、アニエスへ放った。
その漆黒の塊がアニエスの攻撃全てを呑み込んで、アニエスの傍で爆ぜた。
強大で強烈な閃光がアニエスを襲い、アニエスは振り回される。
キャロルは苦々しい顔をする。
こちらが有利なのに、気付けばディオス達の方が圧倒的に勝っている。
脳裏に、マッドハッターが言っていた。
ディオスが、自分達に対しての逆風だと言われた事を思い出した。
圧倒的優位で、ディオス達がエニグマを圧しながら、ディオスは別の方を横見する。
それは…自分のいる高さにある建物の頂上だ。
そこに、星麗王家の神器の弓を構えているシュウレイがいた。
その隣には、もしもの護衛の為にラードルもいる。
シュウレイのいる建物の側は、ブンシュウが結界を張っている方向である。
シュウレイは神器の弓の弦を弾いて、その狙いをディオスより上にいるアニエスに向ける。
アニエスは今、ディオスの攻撃に対する応戦で全くシュウレイ達を捉えていない。
シュウレイは神器の弓に星麗王家に伝わる神獣技の力を込める。
引いた弦との間に、紅い矢が構築される。
それを確認したディオスは、更なる強烈な攻撃に入る。
”セブンズ・グランギル・カディンギル”
ディオスの周囲にある魔法陣達が七色の閃光を放つ。
埋め付くばかりの七色の光線の槍が地面と空へ降り注ぐ。
もう、そこはデタラメに輝く爆発の世界だった。
混戦としたアニエスを閉じ込めるリング。
アニエスは、完全に防戦一方となる。
そこへ、シュウレイは、力を込めた矢を放った。
ディオスの作戦は単純なモノだ。
エニグマ達を自分達で相手にしている間に、シュウレイがその神獣技を貯めた力をアニエスに放って、シュトリを解放する。
シンプルなモノだ。
シュウレイの力が込められた。
紅い矢が、ブンシュウの防壁を突き抜ける。
同じ王家の力なので、干渉する事は無い。
シュウレイは願う。
お願い、シュトリを返して!
シュウレイの矢がアニエスに刺さる。
ガクンとアニエスが揺れる。
それにディオスは
「シュトリ―――― 聞こえるか! 支配権がお前になった筈だ! 脱出しろーーー」
ガクガクとアニエスが不様に動く。
そして、アニエスの胸部からバキンとシュトリが飛び出した。
「ああ、はぁ…」
息が苦しそうなシュトリ、それを見たディオスはベクトの瞬間移動でシュトリの駆け付ける。
アニエスは、シュトリを取り戻そうと手を伸ばすも、ディオスの方が早くシュトリを抱え
「光熱核魔法」
”グランギル・フレア”
アニエスの胸部に光が集中圧縮して臨界を迎えた瞬間と、同時にディオスはシュトリを抱えたまま、そこから脱出。
アニエスが強烈な光で加速した超高熱爆発に包まれ蒸発した。
シュトリを取り戻したディオスは、地面に着地、そこへナトゥムラ、ヴァンスボルト、ヴァハ、リュートの四人が来た。
ディオスがシュトリを降ろして
「さて…もう雌雄は決したぞ…。無駄な抵抗は止めて投降したらどうだ?」
余裕のディオス達を凝視するエニグマ達。
ディオス達はエニグマの四人を見つめる。
次はどう出るか?
そう警戒して見つめていると、アズナブルの懐にある小型魔導通信機が震え、アズナブルが取ると、そこに文字があった。
それを見たアズナブルはフッと笑み。
「残念だが…我々の相手をする暇はなさそうだぞ」
「はぁ?」とディオスは顔を顰める。
空から唸る低音が響く。
ディオスはその音がする右を見た次に「な!」と驚きを漏らす。
それはアズナブルが使う千メータの巨大な空母型飛空艇が五艦も並んでこっちに向かっていた。
更に
「おりゃあああああああ」
アズナブル達の後ろにある神獣の力の防護リングが裂けた。
裂いたのはシェルブリッドだった。
「よう、おひさ。そんでもってじゃあね!」
シェルブリットは目くらましの閃光弾と煙幕弾に、手榴弾を投げて周囲を攪乱、その隙にアズナブルにレイドとララーナ、キャロルの四人は逃走、エニグマ達は消えた。
ディオスは渋い顔をして
「クソッタレが」
ナトゥムラが
「ディオス。アレを何とかするぞ!」
アレとは首都ウォウルに向かっている巨大空母型飛空艇の五艦を指さす。
「やれやれだぜ」
ディオス達の活躍によって、五艦の巨大空母型飛空艇は、装備している無人兵器達を放出する事無く破壊、首都ウォウルの傍にある無人の平野に墜ちた。
その後、エルギア型試作機のアニエスに取り込まれていたシュトリは、体を検査され、異常が無いとして日常に戻った。
そして、今回の事態の原因となった独立を強行した青年達の多くは犠牲となり、極少数の生き残りは、星麗地区にいる事が出来なくなって国外へ消えた。
星麗地区の独立に対する気運は完全に消えてしまった。
だが、ブンシュウとラードルの計らいによって、そのような考えを潰すのは良くないのでは?として、学者達で構成された星麗地区の独立か?ロマリアのままか?を議論して考える場だけは残した。
星麗地区の飛空艇空港から帰る時、空港のロビーで
イルドラが
「色々と世話になったぞディオス。また、頼る事があるかもしれん。その時は」
「ええ…その時は…」
と、ディオスは頷いてイルドラと別れた。
リュートとヴァハは
「じゃあな、アーリシアの大英雄様!」
と、ヴァハが手を振り
「グレンテル様、色々と勉強させて頂きました。アリストスの来た時は是非、我らの元へ」
とリュートはディオスと握手して、ヴァハとリュートはアリストスの飛空艇へ向かった。
ディオスは肩をほぐしながら
「やれやれ、色々とあったなぁ…」
色々と疲れていたディオスにナトゥムラが
「帰ったら、王宮に行って報告書を山と書かないといけないぞ、こりゃあ」
「面倒くせぇ」
と、ディオスはぼやいて、ナトゥムラとヴァンスボルトと共にバルストランへ向かう飛空艇へ。
その移動中、高い橋渡しの廊下から
「ディオス様ーーーーーー」
呼ぶ声がして、ディオスはそこを向くと、シュウレイがシュトリと共に見送ってくれた。
「ありがとうございましたーーー」
と、シュウレイは手を振り、シュトリはお辞儀していた。
「ああーーーー」
と、ディオスは手を振り返した。
ディオス達は飛空艇に入って、飛空艇がゆっくりと空へ昇り出発し、ディオス達は下部のある展望ロビーに来て飲み物片手にテーブルに寛いでいると
「そういえば…シュトリとシュウレイ…仲が良かったですね。何か…特別な関係なんですねぇ」
と、ディオスが呟いた次に、
ナトゥムラが
「え、今更…」
「え?」
と、ディオスは目が点になった顔を向けた。
ヴァンスボルトが額を抱え
「ディオス殿。二人は恋人同士ですぞ。あれ程、分かり易いのもありませんぞ」
「マジで?」とディオスは驚きを見せる。
全く気付いていなかったのだ。
ナトゥムラも額を抱え
「お前のその鈍さは、犯罪レベルだぞ…」
「お、おう…」
ディオスは困りそれを隠す為に飲み物を口にする。
ヴァンスボルトが
「ゼリティア様が結ばれるのを苦労したのが、理解できますな」
ナトゥムラが
「お前…もの凄い超魔法技を持っているのに…そういう所が鈍いよなぁ…」
ディオスは眉間を寄せて
「まあ、人間、都合良く全てが揃っている事はないから…」
ディオスは内心
はぁ…オレ、こういう所ダメだよねぇ…。
やっぱ、クリシュナやクレティアにゼリティアの誰が傍にいないと…。
自分が妻達と別つ事が出来ない事をシミジミ感じるディオス。
と、暢気に思いながら帰路につくのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次話があります。よろしくお願いします。
ありがとうございました。