第105話 アニエスの脅威
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あらすじです。
シュトリが捕まり、それをエルギアに似たゴーレムのアニエスが取り込んで、事態は悪化、ディオス達は撤退し、星麗独立を掲げる青年達に星麗総統府は占拠されたが、エニグマのキャロルがその青年達の命を対価にアニエスを更に進化、禍々しい悪魔のようになったアニエスによって首都ウォウルは占拠された。
シュトリを掴んだレイドのゴーレムは、天高くシュトリがいる右手を掲げる。
その場景がディオスへ届く。
「なんだ?」
ディオスは眉を顰め、ディオスと対峙しているアズナブルとキャロルはニヤリと笑む。
ディオスは直感的に、何かをするつもりだ!と察して、急いでシュトリの元へ向かおうとするも、その先をアズナブルが塞ぎ
「おっと…ここは見ていて貰おうか…アーリシアの大英雄よ」
「クソ!」
と、ディオスは悪態を付く。
リュートとヴァハの相手をしていたアニエスというエルギアのようなゴーレムは、リュートとヴァハに向かって紫電の光線を発射。
「クソ!」
リュートを抱えるヴァハは、全力の紅いドラゴニックフォースを放出して盾にする。
紫電の光線に戸惑っている間に、アニエスというゴーレムが、レイドの掲げるゴーレムの右手まで来る。
「離せぇぇぇぇぇぇぇぇ」
シュトリは、魔法を使って捕まる巨手から逃げようとするが…そこへ、アニエスというゴーレムが来て、その胸部を開く。
胸部には沢山の触手のような配線があり、その触手の如き配線が、シュトリを掴むレイドのゴーレムの手を呑み込んだ。
「ワァァァァァァァァ」
シュトリの叫びが響く。
それを総統府の傍にある秘密裏口から出てきたシュウレイが見て
「いやぁぁぁぁぁぁぁ シュトリーーーーー」
悲鳴を上げる。
同じく傍にいたラードルが
「ああ…シュトリーーーーーー」
息子の名を叫んだ後、シュトリを呑み込んだアニエスというゴーレムは、胸部から何かを吐き出した。
それがラードルの隣にいるブンシュウの足下に落ちた。
ブンシュウは落ちた物体を見て驚愕する。
「な…これは…七十年前に失われた星麗王家の神器…」
と、白く輝く弓を拾った。
シュウレイはブンシュウの拾った弓を取り
「シュトリを返せーーーーー」
シュウレイが弓の弦を弾いた瞬間、シュウレイの体から赤い光が放たれ、シュウレイの背後で紅い鳥の神獣となり、弓の引いた所には光の矢が構築、シュウレイは、その光の矢をアニエスというゴーレムに向かって放つ。
光の矢は真っ直ぐ飛び、アニエスというゴーレムに当たった。
その矢がゴーレムの中に消えた次に
『あ…シュウレイ…』
と、ゴーレムからシュトリの声が放たれる。
それに気付いたキャロルは、ナトゥムラを蹴り飛ばし、瞬間的な速度で光の矢を放ったシュウレイに来て
「消えろ!」
その鉤爪の手でシュウレイを切り裂こうとしたが…
「やらせるかよ!」
ヴァハが飛んで来てキャロルを襲う。
ヴァハの紅いドラゴニックフォースの一閃によってキャロルは弾かれ
シュウレイとラードルにブンシュウの傍にリュートが来て
「ここはお下がりください!」
「イヤ!」
と、シュウレイが拒否する。
シュトリを取り戻す気のシュウレイに、ブンシュウが
「すまん、シュウレイ」
と、シュウレイに触れて
”サルダリウス”
軽い雷のショックでシュウレイを気絶させ
ブンシュウはシュウレイを抱え
「逃げるぞラードル」
「……」とラードルは悔しそうな顔をして「分かった…」
シュウレイを抱えたブンシュウはラードルと共にここから逃げ出した。
それにリュートも続いて離れる。
逃げるシュウレイ達に、キャロルはフッと笑む。
「笑っている場合じゃあねぇぞ!」
ヴァハが、新たなドラゴニックフォースの一撃を加えるも、キャロルは軽々と避けて
「アニエス! ゼウス・アックスを放てーーーー」
アニエスというゴーレムが両手を広げ、その両手と全身から膨大な量の稲妻を放出。
稲妻が、正確にディオスとヴァハを狙い。
「く!」と、ディオスは防護魔法で雷から身を守りながら退却。
「おんどりゃああ」と、ヴァハは自身の紅いドラゴニックフォースで圧しながら、アニエスに迫るも
アズナブルが来て
「ご退場願おうか…」
流星となったアズナブルがヴァハに攻撃
その衝撃によってヴァハは、総統府の外に弾かれた。
ヴァハはドラゴニックフォースに身を守られながら道路を転がり、数台の魔導車をクッションにして壊した。
止まってなんとかその場に立つヴァハにリュートが来て
「ヴァハ、退くぞ」
ヴァハは項垂れ
「了解…」
リュートはヴァハの肩を持って退却する。
ディオスは、アニエスの雷から身を守りながら総統府の外へ後退。
そして、大量の魔法陣を発動させてアニエスを破壊して、シュトリを助けようとするが…
「おっと、いいのか? 無理矢理に助けると取り込んだヤツの身の安全は保証しないぞ」
と、キャロルが告げた。
総統府の離れた周囲に浮かぶディオスに、ナトゥムラが来て
「ディオス、一旦、撤退するぞ」
ディオスは展開した魔法陣達を仕舞って、ナトゥムラと共に撤退した。
ディオス達が去った後、デモの人々が総統府に来た。
総統府の窓から、総統府を占拠したデモの仲間が顔を見せ、来る仲間達に笑顔と手を振った。
デモ隊達は、それに勢いづき、総統府の周りを囲った。
独立がなされた! 星麗国、ばんざーい
我々が勝ったんだーーーー
そう歓喜する者達を横目に、総統府の警備をしていた者達は、負傷した仲間を連れて総統府から去る。
総統府には、星麗地区の独立を掲げる青年達しかいない。
シュトリを取り込んだアニエスのゴーレムが総統府の屋根に着地する。
そこへ、この運動を指揮したリーダーの青年が来て
「この力がある限り、我々の勝利は確実である。今こそ! 星麗の独立を! 我々の国を作るのだーーーーー」
総統府を囲む一万数千の若者達。
アニエスが跪くと、その両肩にアズナブルとキャロルが来た。
リーダーが
「我らを支援してくれた偉大な後援者に、賛辞を!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
と、皆が喜んでいるそこへキャロルは残虐な笑みを向け
「おめでたい奴らだ…」
意外な言葉に周囲が黙る。
キャロルは続ける。
「自分の正義がなされと、勘違いしたバカ共よ! 利用し易かったよ。お前達は本当にバカだなぁ…我々の真の目的も知らないで、ちょっとのぼせてやれば、簡単に利用される。さあ…自分が正しいとする夢見がちな愚か者達には…我らの道具として活用してやる」
パチンとキャロルが指を鳴らした瞬間、総統府を中心として紅蓮の魔法陣が広がり、総統府の周囲を囲む木々のラインまで、その魔法陣が覆う。
それは悲鳴に変わった。
ぎやあああああああああああ!
不様で藻掻く悲鳴を上げて、一万人数千名が全身から紅い筋を放出して、枯れて行く。
その中にレイドとララーナもいるが、二人は何かの力に守られて全く異変がない。
レイドどララーナは冷徹な視線で枯れていく若者達を見つめる。
レイドとララーナに助けを求めて手を伸ばすも、その手をレイドは払って
「愚かな連中だ」
偶々、その魔法陣の外にいた数十名は、仲間が枯れて行く様子に驚愕して怯え固まる。
キャロルは人の命を道具に変えるアクワ・ウェータの外法を使い、一万数千人の命を搾り取って、それをゴーレムのアニエスに注ぐと、アニエスの白銀の機体が深紅に染まる。
深紅のアニエスの機械体から、膨大な量の触手の配線が伸びて総統府とその周辺を呑み込んで巨大な物体へ変貌する。
触手の配線が巨木の幹の如く伸びて、総統府周囲の質量を取り込んで変異、赤黒い翼と機械の体を持つ人型巨木へ変貌。
それが天高く伸び完成した。
悪魔の様相をする人型機械巨人の上半身と、配線の幹によって出来た下半身を備えるそれは、牙の生える顎から光線を飛ばして、周囲にあるウォウルの高い建造物を破壊した。
悪魔の機械の如きそれは、周囲に特別なフィールドを放出して、ウォウルの都市を包囲した。
完成したアニエスの状態にキャロルは笑み
「これで終わりだ。後は…」
アズナブルも仮面の下にある口を細めて笑み
「後は、星麗とロマリアの堺に、私の無人兵器部隊が待機している。膠着状態が続くだろう。そして、ゆっくりとこの国を我らの傀儡にするまで…」
事態が進み夕方、ディオス達は街の公園に作られた仮設総統府施設のテントにいた。
ディオスは腕を組み、イスに座って目を閉じている。
そこへ、ナトゥムラが飲み物を持って来て
「よう…ちょっとは落ち着いたか?」
「ああ…ありがとう」
とディオスは受け取って飲んでいると
そこへリュートが来て
「事態の説明をして欲しいと…」
「分かった」
と、ディオスはイスから立ち上がった。
作戦会議室になっているテントに来たディオス。
そこには、ブンシュウ、ラードルにシュウレイ、リュートとヴァハ、イルドラにヴァンスボルトがいた。
ディオスはナトゥムラと共に来て
「イルドラ様…ロマリアからの援軍は?」
イルドラは難しい顔をして
「星麗とロマリアとの間に巨大な飛空艇が止まっている。そこから膨大な数の飛行兵器が飛び出して、援軍の行き先を塞いでいるようだ」
それを聞いてディオスは
アズナブルの野郎か…。
ブンシュウが
「なぁ…聞きたい事がある。総統府の上空に現れた翼のあるゴーレム、アレは何なんだ?」
ヴァハが
「多分、千年前にアリストス共和帝国で試作機として作られた兵器です」
ディオスはそれを聞いて
「千年前…エルギアの試作機か」
ヴァハは肯き
「二機作られた試作機は実験に失敗。自爆させられ西大洋に墜落。一機は回収されが…もう一機は行方知れずだったが…」
ディオスが
「それが発見、使われたと…」
「ああ…」とヴァハは頷いた。
ラードルが
「エルギアとは? 試作機?」
ディオスが
「ゼウスリオンの元となった超魔導兵器です。その元となったエルギアの試作機は、ゼウスリオンと似ているので、実質的にゼウスリオンと同じと思った方が良いでしょう」
ラードルは、強力な超魔導兵器があるという事に驚き
「なんと言うことだ…」
と、呟いた後、
シュウレイが
「ねぇ…何で、シュトリがその兵器に取り込まれたの?」
ディオスは渋い顔をして
「実は…ゼウスリオンの動力システムとして設計されたアニマのデータが、アリストスから盗まれたのです。アリストスから派遣された二人は、そのアニマのデータを奪還、及び破壊を目的に星麗に来たのです」
リュートが頭を下げ
「申し訳ない。我々が一歩遅かった為に…こんな事に…」
シュウレイが
「その、アニマというのと、シュトリがどういう関係で?」
ディオスが
「アニマというシステムは、王家に伝わる力、ジンや神獣技、ドラゴニックフォースといった特別な力を取り込んで増幅、ゼウスリオンの動力とします。その為にシュトリさんが取り込まれたと…。ですが…その前に、それを動かす代替えがあった筈…」
ブンシュウがハッとして、傍にあったアニエスから出てきた、星麗王家縁の神器の弓を手にして
「もしかして…この、今まで失われていた星麗王家の神器が…」
ディオスはそれを見て
「それは、長らく星麗王家に使われていたのですか?」
ブンシュウが肯き
「星麗王家に伝わる神獣技スザクの力を上手くコントロールしたり増幅する力があります。残滓として神獣技の力が残っているのは間違いない」
ディオスは肯き
「でしたら、アニマの代替えになります」
ナトゥムラが
「だったら、このままこの神器を使っていれば良いんじゃないの?」
ディオスが
「それだと、増幅する出力が起動程度しかないだろう。だから…」
ヴァンスボルトが
「だったら、ここにいるシュウレイ殿やブンシュウ殿、もしくはロマリア皇家のラードル殿でも十分では?」
ディオスは右手を顎に当て
「おそらく、それでは思い通りに出来ないでしょう。シュウレイ様もブンシュウ様もラードル様も一つの神獣技しか使えない。ですが…シュトリ様は、二つの王家の神獣技を持っているのでは?」
ラードルが
「はい、力こそ、それ程ではありませんが…」
ディオスが
「アニマのシステムは、王家の秘技を受け取って増幅して動力とする装置、その動力を使う装置の操縦権限も、秘技の主が絶対。アニエスの操縦権限もシュトリ様のモノになるが、なっていない。その理由は、シュトリ様のダブル秘技の所為にあります。おそらく、アニエスのアニマは、シュトリ様の両王家の秘技を同時に発動させている。その所為にシュトリ様による操作権限が半分になっている。そこを介入してアニエスを自分達の思うままに操作していると思われます」
ラードルが
「取り戻す方法は…」
ディオスは「あります」と確信して答える。
「取り戻すには、シュウレイ様のお力が必要でしょう」
「私…」とシュウレイは自分を指さす。
ディオスは肯き
「シュウレイ様が、神器で弓を使ってアニエスに攻撃した瞬間、アニエスからシュトリ様の声がしました。つまり、アニエスを動かしているアニマのバランスが崩れてシュトリ様へ操縦権限が移行したんです。ですから…シュウレイ様が神器を使って更に強い力を叩き込めば、アニエスの操縦はシュトリ様になって、シュトリ様を脱出させ、自分が破壊する。それで全て片付きます」
イルドラが
「決行は何時だ?」
ディオスは
「明日、直ぐにです。早くしないと、シュトリ様が危ない」
ブンシュウが
「作戦は?」
ディオスが作戦を説明する。
それを聞いて、全員が肩を落とす。
イルドラが頭を掻いて
「やるしかあるまいて…」
ヴァハが
「もう少し、味方がそろってからでも…」
ディオスが
「通信以外、変異したアニエスが張った結界にこの街は覆われて外界と遮断されている。期待しない方がいい」
ヴァハが「はぁ…」と溜息を漏らして
「はいはい。やるしかないのね」
そして、作戦決行の朝が来た。
元総統府のそこへ、ディオスが両脇にナトゥムラとヴァンスボルト、リュートにヴァハを伴って現れた。
悪魔変異したアニエスの下には、キャロル、アズナブル、レイド、ララーナの四人がいる。
キャロルがディオス達に
「おやおや、こんな朝早くにもう、迎撃に来るとは…早い事だなぁ…」
ディオスが
「とっと片付けるに限るからなぁ…」
キャロルがディオス達へ向かいながら
「どうした? もっと味方を増やした方がいいんじゃあないかのか?」
ディオスは右の眉間を上げて
「そうだな、だが…十分だ」
悪魔変異したアニエスの周囲に紅い朱雀と青い青龍が昇る。
紅い朱雀は星麗王家、ブンシュウの神獣技。
青い青龍はロマリア皇家、イルドラの神獣技、リヴァイアサンである。
赤と青の神獣技が、元総統府の周囲を強力な結界で覆った。
その中に、ディオス達とアニエスを従えるエニグマ達が閉じ込めれた。
アズナブルが肩を竦め
「なるほど…特設リングか…」
ナトゥムラが
「お前等と決着を付ける為のステージだ。感謝しろよ」
”フェンリル神式”
と、神格フェンリルをその身に纏わせ、光の巨狼を纏う。
ヴァンスボルトが
”バルバト神式”
と、武技の神格バルバトである光る巨人を纏う。
「やれやれ」とヴァハは呟き、紅いドラゴニックフォースのドラゴンのオーラを放出させる。
「いくぞ!」
リュートも同じく黄金のドラゴニックフォースを展開、ドラゴンのオーラを放ち、臨戦態勢に入った。
ディオスは両手を広げ、体内生成魔法の力で浮かび上がる。
「さて…準備はいいか! エニグマ共…。今度こそ、キサマ等の終わりにしてやる!」
こうして、両者の戦いが始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ありがとうございました。




