幽玄の王 第29話 ウワサが歩き出す
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レイが知らない所で、レイの話がウワサが…
とあるのソルジャー協会の本部ビルでは、ウワサが飛び交っていた。
ソルジャー協会の女子職員達が
「聞いた? デス級の二人が…仕事を一緒にした人がいるって」
「ええ…聞いたわ」
「ここの人らしいわよ」
「ええ…本当に? それじゃあ…もう、上の方は…」
「さあ…でも、もしかしたらランクの再審査に来るかもしれないわね」
「どうかな? そのランクで十分と思っているなら…来ないかもよ」
そんなウワサ話をする職員の隣を二人の男性が歩いて行った。
「あ、おはようございます」
と、女子職員が挨拶する。
「おはようございます」
と、男性が微笑み
隣にいる男性が
「おはよう」
二人は奥へ歩いて行った。
女子職員が二人を見て
「S級のジェインさんと、オウガさんが来ているって事は…」
メガネをかけた知的な男性、S級のジェイン・ソン・ラーズ
隣に大柄で長身の男性、同じくS級のオウガ・ロー・大河
二人は共にS級のソルジャーで、自身のソルジャーギルドの会社を持っている。
ソルジャーでもトップクラスの二人が、ソルジャー協会の会長、ゴウ・ローレンがいる会長室へ入ると、七十代前で大柄の体格が良い老紳士ゴウ・ローレンが座る席の前に鵜飼担当官が立っていた。
ジェインが
「これはこれは、鵜飼担当官。会長と…どのような話し合いで?」
と、尋ねる。
鵜飼担当官は静かに
「少し…私見を…」
オウガが
「その私見、こちらも伺いたいですな」
ゴウ会長が
「まあまあ、二人とも…そう慌てずに…今から話が始まる所でしたので」
ジェインが
「ゴウ会長、ウワサはご存じですよね?」
ゴウ会長は机の上に肘を置いて手を組み
「ええ…あの二人、ジンとシロッコが興味を持っている人物について…」
オウガは背筋を伸ばして
「ウワサによると、その人物は、エンジェルリンクスの会長からジンとシロッコに仕事を頼まれて、それに同行させていたら、途中で…アースガイヤ時空の聖帝ディオス達と合流、その後…仕事を共にした…と」
ジェインが
「私は、その人物はアントの楽園にて…ベイルス殿の手ほどきを受けた…とか」
オウガは鋭い視線をジェインに向けて
「ほう…アントの最終兵器の手ほどき…とは、つまり実力は相当であるという事か」
ゴウ会長が
「ウワサが尽きない人物と直に会ったのは、鵜飼くんだ。鵜飼くん…君の率直な感想は?」
鵜飼担当官は
「あまり、印象に残っていません。普通の、ごく普通の青年…それだけです。ただ、感じた力の雰囲気では…E級ではないが…自分と同じA級か、その上のS級でもない…と」
ジェインがメガネを押さえて
「短期間で成長した可能性がある。王の力を継承した者は、短期間でS級まで上り詰める前例は多くある」
オウガが淡々と
「話によれば、小宮殿のギルドの配下にいるとも…」
ジェインが笑み
「なるほど、小宮殿なら…ゆっくりと育成するのを考えて、我々に報告しないのも分かる」
ゴウ会長が微笑み
「お二人とも、まるでS級であるという想定でお考えのようだが…それは時期尚早ではありませんか?」
ジェインが肩をすくめて
「有能な人材が欲しいのは、誰しもが同じです。ルリ姫の足下を強化するのは…我々の仕事。他の王の血を受け継ぐ三姫に取られては…損害が大きすぎる」
オウガは鋭く
「我らのルリ姫は、四代王系の中で、最も戦力が少ない。
ジンを有するテイア・リー・アース
シロッコを持つアルラ・カイゼル・白皇
多くのS級を抱えるサラ・アメリス・カイゼル」
ジェインが
「戦力としてはS級を多く抱えるサラ女王の方が上、しかし、その戦力をひっくり返す力を持つテイア姫とアルラ姫も脅威、我らルリ姫は…S級は十二名と多くも、サラ女王より少なく、ジンやシロッコのような存在はいない」
ゴウ会長が溜息を漏らして
「力でソルジャーを図るのは早計だと思いますがね」
オウガが鋭い顔で
「もし、ジンやシロッコのように巨大な力を得て、そして…自ら他と組みしないとするなら…それは、どの組織や勢力にとっても脅威でしかない。世界が混乱するのは必至では?」
ゴウ会長が諭すように
「いいですか。我々は権力闘争をしている訳でもない。ましてやパワーゲームもやっている訳でもない。世の安定、世界の平穏の為に活動している。無用な争いの種をまくのは…いただけない。それに…ルールというモノがある」
ジェインとオウガが厳しい顔をする。
ゴウ会長が
「ランクの再測定は、個人の意思があってこそ成される。ムリヤリを押し通すと、ジンやシロッコの二人のような結果になり、それが後々に響いてくる。無用な争いを避ける為にルールがあり、それを越権するのは大きな問題になる。そこを分かっていただけたら幸いです」
ジェインがゴウ会長に
「しかし、新たな脅威が現れたら…」
ゴウ会長が鋭い顔で
「お忘れですかな…ジェイン殿。貴方の祖先、私の祖先、この場にいる全員の祖先がその新たな脅威という大義名分を持ち出して…過去にやった事を…」
ジェインは苦い顔をする。
オウガは鋭い顔で
「過去に囚われては、前に進めません」
ゴウ会長が静かな目線で
「過去は、愚かな己を戒める為にあって、囚われるモノではない。囚われていると思っているなら、それは自分の愚かな野心や欲望を通したい言い訳にすぎない」
静かにしていた鵜飼担当官が
「自らを戒めて、人としての道を歩む為に過去の汚点がある。それを忘れた瞬間、破滅しかない。そうやって、何度も我々は破滅した」
ジェインとオウガは黙ってしまう。
ゴウ会長は諭すように
「何度も何度も愚かな事を繰り返すのは、もう…ここで止めにしたいモノです。だから、アレスくんは…小宮殿は、黙っている。我々に出来る事は、見守るだけ」
ジェインが
「ですが、もし…本人が再認定を受けたいとして、ランクの再測定をした後なら…」
ゴウ会長が溜息をして
「ええ…それなら、ルール違反ではありませんので…」
オウガは
「ならば、いずれ…その時に…強大な力は、大きな運命を引き寄せるのですから」
レイのウワサが着実に広まっていた。
◇◇◇◇◇
宇宙港では、一人の男性が現れた。
身長は190とオウガと同じ大柄な体格、グラサンをした坊主頭の男性が荷物を引いて宇宙港を歩き
「久しぶりに帰って来たぜ」
と、目の前の男性、小宮に呼びかける。
小宮が
「急に帰ってくるとは…どうしたんだ? マルス」
小宮の弟、マルス・ラード・小宮が帰ってきた。
「悪いな兄貴、休暇ついでに…頼み事もされてよ」
小宮が弟のマルスに近づき
「なんだ? 頼み事って」
マルスが
「兄貴が…面倒みているヤツに、ウワサのヤロウがいるだろう」
小宮は溜息を漏らして
「そこまで…サラ女王の元まで広まっているのか…」
マルスが呆れ気味に
「女王様が見極めてこいってよ」
小宮は
「静かにさせて貰えないモノかねぇ…」
レイのウワサは、広まっていた。
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次回、杖のガルガンチュア その2