幽玄の王 第5話 侵食の罠
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ナイトレイドに侵食されるレイだが…
レイは次々と目の前に現れるモンスター達を狩る。
どれもがAランクからBランクのエネルギー系のモンスターだ。
それを瞬時に倒してエネルギーとして吸収する。
「は、はははははは!」
今までにない高揚感にレイは、乗っ取られていた。
何時もそうだった。力がない。荷物を運ぶだけの運搬係。それに満足していなかった。
前線で戦う者達に憧れていた。どうして、自分は…こんなにも弱いんだろう…って苦しんでいた。
全てを圧倒する無敵の力に、レイは取り憑かれようとしていた。
それは、レイと融合した者の戦略だ。
レイの本来ある優しい気質を侵食して、作り替える為に用意した罠の快楽。
人は、快楽を得ると変容する。
快楽の動物に落ちた瞬間、それはレイをレイでなくなる。
ナイトレイドを使う度に、レイの身体に変化が起こる。
175だったレイの身長が伸びている。肉体も変容を起こしている。
ナイトレイドによる侵食で、レイは改造されて行く。
180近くに身体が大きくなったレイ。
それさえも気付かないレイ。
このまま…呑み込まれるだろう…と、ソレは…ほくそ笑む。
だが、レイの目の前に小さな子供のクリスタル・ウルフが現れる。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!」
と、レイは小さな子供のクリスタル・ウルフまで殺そうとした。
ダメよ。レイ…
と、脳裏に止める声が聞こえた。
母親だ。
優しい母親の顔がよぎり、レイに呼びかける。
レイの記憶が揺さぶられる。
命は尊いの…
幼いレイが捕まえた虫を逃がすように告げる母。
意識が呑み込まれそうになったレイにブレーキが掛かる。
レイの意識を侵食しようとしたソレが止まる。
「オレは…何を…しようと…」
レイは、ナイトレイドの両手を見つめる。
それは、モンスターの体液にまみれて汚れた手だ。
そして、自分がやった事を思い返す。
そして、後ろを振り返る。
後ろには、膨大な数のモンスターの屍達、そのエネルギーをレイのナイトレイドが吸収していく。
「こんなの、ダメだ…こんなの…バケモノだ。モンスターと同じだ」
と、強い後悔がレイを包む。
レイを侵食しようとしたソレが、再びレイにモンスターの快楽を蘇らせる。
レイは…それに嫌悪して
「ダメだ! それは…人じゃあない!」
レイの脳裏に父親の記憶がよぎる。
レイ、本当に強いって事は…誰かを守れるって事なんだぞ!
と、大切な事を教えてくれた父親。
「そうだ。オレは…オレは!」
侵食しようとしたソレは、レイを侵食しようと快楽を呼び起こす。
「誰だ! オレの中にいる。誰だ!」
レイの中心、ナイトレイドのコアにあるソレが、レイを侵食しようとしているそれの姿を如実にする。
レイの心は、ソレを捉えた。
レイを侵食しようとした、ソレは
まさか! 不可能だ! その素養があろう…とも! ハイパーグレードの!
「おおおおおおお!」
と、レイは右手を掲げると、そこには光の剣が握られる。
レイは、それで自分の胸部を刺した。
ナイトレイドのまま胸部を刺して、侵食しようとしたソレ、システムを砕いた!
侵食しようとしたシステムがレイの中で粉々になると、レイにとある人物の記憶が流れ込む。
それは、ダンジョンという存在を作った最強の王の記憶だった。
強大な力を持ち、絶大な叡智を持っていた、最強の王
彼は孤独だった。
それが当然として、孤独のまま、誰も寄せ付けず
彼の半身であった彼女も、唯一愛してくれた彼女も、寄せ付けなかった。
その結果、多くの裏切りが生まれて、最強の王は死んだ。
その死に際に、自身の権能と叡智を適正者にインストールするシステムを、ダンジョンが生じる力に組み込んだ。
そう、レイのような適性者を侵食して、同じ存在を作り出す為に。
ゴースト・トリガー・プロジェクト
レイのナイトレイドに亀裂が入る。
ナイトレイドがレイの心によって生まれ変わる。
ナイトレイドの赤金から白と赤の全身鎧のギア、セイントグリッドへ
それはレイのギアの強化版のようだ。
白と赤のギア、腕部と胸部に脚部、背中には飛行機のような翼を持っている。
そして、レイによって新たに創造されたインストール
コントラット
誰かを守る為に誰かに力を分け与える。
レイの優しさが生んだ新機能だ。
レイはクリスタル・ウルフの子供を見つめる。
コントラット
と、力を発動させる。
クリスタル・ウルフの子供は、まだ…ダンジョンのシステムに縛られていない。
モンスターから光の獣に変わり、レイを守るガーディアンとなった。
まだ、小さいがレイの手助けは出来る。
レイはガーディアンになった光の狼の子を抱き寄せると、レイの中に収納された。
その瞬間、ダンジョンが崩落する。
いや、変容を始める。
壁という壁が砕け散って、巨大な宇宙空間のような世界が出現する。
その空間の中心には、歪な触手を伸ばす巨大な狼のモンスターがいた。
その全長は百メートルを超えている。
ヴォオオオオオオ!
ダンジョンを作っているダンジョンのコアであり、ダンジョンのマスター。
レイ達はダンジョンがどうして出来るのか? 原理を知らなかったが資源として活用はしていた。
ダンジョンの原理をレイは知った。
このダンジョンのコアであるマスターがいるからこそ、ダンジョンが構築される。
ダンジョンとは、このダンジョンのマスターが作る異界なのだ。
ヴォオオオオオオ!
ダンジョンのマスターは雄叫び、レイへ襲いかかる。
レイは応戦する。
ダンジョンのマスターが作る異界は、ダンジョンのマスターが絶対だが、それをレイは超える。
ダンジョンから異界となったそこで、無数の攻撃がレイのセイントグリッドへ襲いかかる。
隕石、閃光、巨大なエネルギーの奔流。
それを全て、レイのセイントグリッドは切り裂いて、一直線にダンジョンのマスターへ向かう。
ヴォオオオオオオ
ダンジョンのマスターは、セイントグリッドを顎門で噛み砕こうと向かってくるが、レイの方が早かった。
鋭い刃の光となってダンジョンのマスターを一刀両断した。
ダンジョンのマスターは真っ二つに裂かれて倒されて、膨大なエネルギーを放出する。
それは、外の場所、レイが入った初心者のダンジョンに影響を与える。
ダンジョンが光に包まれて、構造を失っていく。
レイはダンジョンのマスターの構築した異界から解放されつつ、そのエネルギーが身体に吸収される。
そこに見たのは、ダンジョンのマスターの怒りだ。
自分達を作った創造主、最強の王を殺された事による憎しみだ。
ダンジョンは人を、この世界にいる人間を憎んでいる。
自分達を創造してくれた父を殺した者達を許せない。
そんな悲しみをレイは感じつつ、ダンジョンのマスターのエネルギーを受け取ると、ダンジョンのマスターが最後の意思に、王に仕えた力達の五つをレイに教える。
理由は、分からない。
でも、もしかしたら…救って欲しいという願いなのかもしれない。
レイは、着地して空を見上げる。
消失して光になるダンジョン、教えられた力の五つ
剣、槍、翼、盾、杖
剣のグラファラス
槍のオルフェウス
翼のグルファクシ
盾のイージス
杖のガルガンチュア
そして、レイの中に新たな力がインストールされた。
メビウス・リアクターとゾディファール・セフィール
レイは…自分に与えられた意味を考えるのであった。
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次回、マキナを手にする。