桜の木の下2
「恨めしげに見るな。せっかくの見た目が、台なしだぞ」
「うるせぇよ、このマッチョ野郎」
痛いところを突かれて、俺はジトリと目を据わらせた。
俺はクォーターではあるが、身長はむしろ小さい。しかも華奢。まあ、変にあちこち出っ張られても複雑だが。
そして、唯一の取りえのように言われた見た目は――困ったことに、ますます美少女になっていた。
背の半ばまである栗色ストレートヘアと、同色のまつ毛に縁取られた大きな瞳。無駄に良いこの容姿のせいで、俺は色々と苦労する羽目になったんだ。
(告白とか隠し撮りとか変質者とか……ったく、思い出してもムカつくぜ!)
おかげで俺は、出来るだけ椿と一緒に行動することになった。
それこそ自画自賛になるが(目つきと性格は悪いが)眉目秀麗、更に文武両道の椿といれば、大抵の奴は気後れして近寄ってこないからだ。
とは言え、周りを気にする生活は少し、いや、かなりストレスがたまるので。
「椿、今夜、やるぞ」
「解った」
二人だけに通じる言葉を交わして、俺達は校舎へと歩いていった。
……どうせまた、ポモナの計らいで同じクラスだろうからな。
※
魔法で、光を作ることは出来る。
だが、魔力は無限じゃないんで勿論、照明なんかには使わない。バテたら真っ暗なんて、不安定すぎるからな。
でも、薪や油も無料じゃないから、テルスでは大きな街や酒場以外では夜が早かった。
だから地球みたいに、夜の九時過ぎても明かりが点いてるなんてなかったから――ここみたいに、街灯の明かりも届かない方がなじみがあったりする。
「ぐはっ……!」
呻き声、その少し後に鈍い音が上がる。
暗闇の中、桜の木を背に俺はトンッと肩にビニール傘を乗せた。
そして、声の主――地面に転がった、知らない男を見下ろした。
……そんな俺に、それから気絶した男にヒラリ、と花びらが舞い降りてきた。
「……って、言っとくけど、ストレス発散の為のオヤジ狩りじゃねぇからなっ!?」
「貴様、誰に説明している?」