桜の木の下1
日本人の顔は、俺には基本、平たく見える。
とは言え、流石に見分けはつくんだが――魔法を見られたあいつの顔は、近所でも幼稚園でも見ない顔だった。だから、俺は魔法を使って逃げたんだ。
……ああ、それなのに、それなのに。
「また会ったな」
「ドチラサマデスカ?」
「相変わらず、嘘が下手だな」
翌年の小学校の入学式。セーラー服を着た俺は桜の木の下で、ブレザーを着たあいつと再会した。
その隣にいる女性には、見覚えがある。魔法を使ったあの神社で、初詣に行った時に甘酒をくれた神主の奥さんだ――ってこいつ、あの神社の息子か?
「あら、椿。陸谷さんのところのお嬢さんと、いつの間に仲良くなったの?」
「……秘密だ」
「まあ、杏里ったら。隅に置けないわね」
ウフフ、と笑う母親の隣で俺はダラダラと汗をかいていた。
こいつが握ってる秘密は、そんな可愛らしいものじゃない。
「じゃあ、教室に行ってくる」
そう言うと、椿と呼ばれた男の子は俺の返事を待たずに手を掴み、教師と思われる女性の方へと歩いていく。
そこで、俺はふと引っかかった。
(何でこいつ、こんなにチビなのにしっかりしてんだ?)
まさか、俺と同じ転生者か?
そう思った俺の疑問は、けれどすぐに否定された。
「貴様、何者だ? あの手品もだが……何故、神童扱いされる俺と会話が成立する?」
神童――つまりは、天才って訳か。まあ、普通の六歳児は成人男子と話なんて出来ないよな。
(素直に、ごまかされては……くれなそうだな)
それに制服で解る通り、ここは私立で更にエスカレーター校だ。これから、下手すると大学まで一緒の奴に嘘をつき続けるのは正直、キツい。
「実は……」
だから、俺はかいつまんで事情を説明した。
……そのせいで、また面倒なことになるとは知らずに。
※
俺、陸谷杏里。十五歳。
あの日と同じように、セーラー服を着て桜の木を歩く俺は、今日から高校一年生である。
「エスカレーターだから、顔触れは変わらんがな」
「椿、俺の心を読むな。そして、野暮なことを言うな」
そんな俺の隣には、同じく成長した椿――ブレザーから詰め襟に変わった、宝生椿がいる。
ガキの頃もだが、最近、ますます前世の俺に似てきた。武道をやっているせいか背も伸び、体の厚みも増し、男らしくなってきた……畜生、羨ましい。