今更ながらに
俺の父さんは、体が弱かったそうで。その療養先で、父さんと母さんは知り合ったらしい。
地球と違い、身分制度があった前世の世界・テルスで父さんは貴族(だから療養が出来た)で、母さんは平民でしかも魔盲(魔力がなく、魔法が使えない人間のこと)だった。
だから当然、父さんの正妻とは認めて貰えなかったが、屋敷の一室が与えられて(とは言え、外出が出来ない辺りで今思うと軟禁だが)俺は母さんとひっそり暮らしていた。
何となくしか覚えていないが、父さんともたまに会っていたような――母さんと二人で父さんの部屋に呼ばれて、枕元で話したり頭を撫でて貰ったような気がする。
だけど、俺が三歳の時に父さんは病気で亡くなり。その後を追うように、母さんも亡くなって。
俺が六歳の時、魔力測定の儀で母さん同様に魔盲だと解った時――実の祖父母と父さんの兄(つまりは伯父)は、俺を魔物が住む辺境の森へと捨てた。
そこで俺は冒険者ギルドのマスターだった義父さんに拾われ、それなりに明るく楽しく過ごしたし。
その後、馬車に轢かれてここ地球で『第二の人生』を過ごすようになったので、俺としては「前世の俺、よく悲観したりグレたりしなかったな」と己の図太さに感心するくらいだが。
高校進学後の騒動で、地球人とテルス人の間に生まれる子供には魔力が無いと知ったのと。
「アラーイアラーイ、ウマリスカ」
日本語の「痛いの痛いの飛んでいけ」のように、子供をあやす習慣のある外国での言葉を流すコマーシャル。
……そのうちの一つ、フィリピンで使うタガログ語が俺が怪我や病気で苦しかった時に、母が口にした『おまじない』と同じで。
魔盲だと思っていた母さんが、テルスに転移した地球人だったんじゃないかって――俺は、今更ながらに思い至った。