幕間 ~永愛~
そもそも、私は両親を知らない。知識としてはあるが、生まれてすぐに捨てられた私は親の顔も名前も知らない。
だから、名前をつけてくれたのは左衛で。一緒に、ご飯を食べてくれたのは明珠で。
物心ついた頃には今のように無表情で寡黙だった私に、何かと声をかけてきたのは亮だった。
「んー? 何だ、永愛?」
左衛や明珠は、何も言わなくても私のことを理解して世話を焼いてくれた。
けれど、私が八歳の時にこの『施設』に私達同様、実験体としてやってきた亮は違った。いや、通じてはいるのにわざと私に『言葉』を使わせた。
「その服、変です」
我ながら可愛げも容赦もないことを言っていると思うが、亮は怒らずにいちいちツッコミを入れたり、笑い飛ばしたりした。思うがままに振る舞っても、亮は絶対に私を嫌わない。
そんな亮は、けれどどこにも行く当てのない私達とは違う。高校を中退し、家出もしているが本当の親も家もある。
「血が繋がってるのと、好きになれるかってのは別だぜ? で、まあ、家出してこの身一つだからな……稼ぐのに手っ取り早いと思ったし、失敗したらそれはそれだなって」
亮に会ってから、今まで意識していなかった血の繋がりや家が気になり出した私に、亮はあっさりと実験体になった理由を告げて肩を竦めた。
年上のくせに、死すらあっけらかんと受け入れる亮は、真っ当ではないかもしれないが――嘘のない言葉も、結果的に超能力を得て帰れなくなった事実も、ひどく私を安心させた。
性質こそ違うが亮は私と同等、いや、どれだけ水を放っても消せない炎を燃やし続ける亮は、私以上の超能力者だ。
そんな『絶対』の存在である亮が負けたことが悔しくて、私は亮を倒した相手に挑んだけれど――よりによって、亮と同じ方法で負かされるなんて思わなかった。