俺、転生(性)!2
「いってきまーす」
梅雨が明けた七月。幼稚園が終わった俺はカバンを家に置き、スモッグを脱いで近所の神社へと向かった。
別に、俺が信心深い訳じゃない。目的地は、神社の裏手にある広場だ。神社自体も閑散としてるから、人気がなくて最適なんだ。
そんな俺の横を、車が通り過ぎていく。
「……鉄の塊が、動いてる」
ポモナに聞いた時には、信じられなかった。
だけどこの世界は、彼女が言った通りの技術がたくさんあった。ポモナがくれた知識で何となく仕組みは解ったし、何より実際に見れば受け入れるしかない。
(魔法がなくても、この世界の人間には別の力があるんだ)
それは、元々が魔力無しだった俺を安心させる考えで。
だが、今の俺には魔法が使えるから――万が一の時に備えて、訓練しなくちゃいけない。
※
青空の下、目的地である杉の木の下に俺は腰かけた。
人はいないが一応、周りを見回してから口を開く。
「……朱の灯」
刹那、俺の声に応えるように立てた指の上に炎が現れた。
この世界には魔法がないので、誰かに教えて貰うことは出来ない。だから、ポモナは俺に魔法の知識も与えてくれた。
「雷の矢」
そう言うと炎は言葉通りに光へ、そして掴んだそれは矢のように細い形へと変化した。
魔法は、体内にある魔力を具現化させたものだ。そして、よりイメージしやすいように言葉で導く。
ちなみに、前世では炎・水・地・水・光・闇の属性のうち、一つか二つ使えるのが普通だが、俺は全部使える――本当に、ポモナは大盤振る舞いしすぎだと思う。
「……何の手品だ?」
「っ!」
油断した。つい考え込んでいたせいで、人が近づいていたことに気づかなかった。
まずい、と思いつつ顔を上げた俺だったが次の瞬間、自分の目を疑った。
(俺っ!?)
驚きすぎて錯乱した訳じゃない。
だけどもう一度、見直しても現れた声の主は、俺――正確には、前世の俺だった。
日本人なんで肌や目の色こそ違うがツンツンの黒髪と言い、目つきの悪さと言い、ガキの頃の俺とそっくりだ。
「手品じゃないのか?」
俺の驚きに気づいているのかいないのか、俺似の男の子は質問を変えてきた。
やばい、ここはさっさと会話を打ち切らないと。
「そう! 手品、手品なんだっ。スゴいだろ?」
「嘘つけ」
「……って、解ってるならいちいち聞くなよな!? 俺の罪悪感を返しやがれっ」
だから答えたのに、即座に否定された。思わず怒鳴ってしまった俺に、男の子が軽く目を見張る。しまった、見た目とのギャップをすっかり忘れていた。
戻る道は一本。
だがその道は、目の前のこいつに塞がれている。
……けど、それは『普通に』考えた場合だ。
「風の翼!」
「っ!?」
言葉と共に跳躍し、遥か頭上を飛び越えた俺にギョッとした視線が向けられる。
それには構わず、俺は数メートル先に降り立って駆け出した。幸い、追って来なかったので一気に距離を引き離す。
……だから、俺は知らなかったんだ。
「面白い奴だな……かぼちゃパンツ」
男の子――もといエロガキが人のドロワーズを見て、そんなことを呟いていたことに。