幕間 ~椿~
『杏里ちゃんは預かった。左衛と一緒に来ないと、杏里ちゃんの無事を保障しないんだからね?(笑) byあけみ』
朝、杏里の携帯電話から俺にこんなふざけたメールが届いた。
そして、明珠が杏里の首に手を回し、頬をくっつけた自撮り写真が添付されていた。
「……女に、ベタベタされやがって」
現世では同性だが、杏里の前世は男性だ。そんな訳でつい、舌打ちが出てしまう。
明珠とは、俺が『施設』にいた同じ頃に、どこかから連れて来られた奴だ。何か事情はある(幼児なのに、親の気配がまるでなかった)筈だが、当人は到って呑気だった。左衛を旦那に、俺をペットにしておままごとをしていたくらいだ。
(黙って寝てればいいと言われたから、引き受けたが……いや、問題はそこじゃない)
もう一度舌打ちをして俺は学校へ、そしてすでに登校しているだろう左衛の元へと向かった――断っておくが、脅しに屈した訳ではない。楽をして『施設』に送らせる為だ。
校門に到着し、さて、教室に行こうと――はせず、俺は周囲に視線を巡らせた。そして、少し離れた場所に停まる一台の車を見つけると、そちらへと足を向けた。
「左衛」
名前を呼び、遮光フィルムの貼られた後部座席を叩くと、窓が開いて微笑む左衛がその顔を見せる。
「よく解ったね」
「一度、教室に行ってから抜けるのは面倒だろう?」
「正解」
「だったら、さっさと乗せて俺を連れて行け」
睨みつけて言うと、左衛の笑みが深くなった。そして腕時計を見て「あと五分」と言う。
「明珠は、スッキリ話すのが苦手だから。五分、ここで待ってから出発しよう」
「左衛」
「安心してよ。椿にも、僕達が彼女を欲しがる理由を説明するからさ」
「……説明も何も、あいつの『力』が欲しいんだろう?」
「結果的にはそうだけど、それにはちゃんと理由があるんだ」
引き延ばされるのが嫌で、話を遮ろうとしたが――思いがけないことを言われて、椿はつ、と眉を寄せた。
「彼女が『テルスの魔法』を使えることに、意味があるんだ」
そんな椿に、左衛は以前、杏里から聞いた異世界の名前を口にした。




