勝っても負けても2
「そこのお嬢ちゃん! オレにはちゃんと、亮って名前が……っ」
「あ、そう言う情報は別にいらない」
「酷っ!」
「これ以上、無駄口を叩くと物理的に黙らせるぞ」
相手に名乗られると、こっちも名乗らなくちゃいけないからな。そう思って俺が制すると、漫才のようなやり取りに焦れたのか目を据わらせた椿が口を挟んできた。
まあ、話は聞けていないけど最悪、ポモナに聞くのもありか――そんな俺の考えが顔に出たのか、骸骨野郎が慌てたように口を開く。
「春頃、あんたにちょっかいかけてきたお嬢ちゃんがいただろ? 彼女のスポンサーと俺の『ご主人サマ』は、同じだ」
「……って、ことは」
「そ、目的はあんたのその魔法って訳……とは言え、オレらは別に異世界とやらに興味はないけどな」
「えっ?」
あっさりと言う、骸骨野郎――亮の顔を、俺は思わず見返した。
(どうしてだ? 確かに異世界への入り口は閉じたし、そもそも異世界に行くのにリスクはあるが)
それでも、黒城達がテルス人を連れて来ていたんだから全く不可能って訳じゃない。
それこそ、どこまで知っているか解らないが、ポモナに新しい入り口を開けさせるって方法もあるにはあるんだ。
目の前にこうして超能力者がいるから、あえてリスクは侵さないって考え方かもしれないが――それならそれで、俺からは手を引いて貰えないだろうか?
「……随分と、よく喋るな」
そんなことを考えていると、椿が低い声でそう言った。元々、無愛想ではあるがここまで不信感丸出しなのも珍しい。
(って、そうか。こいつが、本当のことを言ってるとも限らないんだよな)
全くのデタラメだとすれば、簡単に白状したのも頷ける。そう思ったのが顔に出たのか、亮は疑問を振り払うように両手を上げた。
「嘘じゃないって! 元々、勝っても負けてもオレは話すことになってたしっ」
「何だと?」
「だから、オレは案内役なんだって! 勝ったらあんたらを連れてって話したし、負けてもこうして話してあんたらに来て貰うつもりだったのっ」
「……どこにだ?」
いつの間にか、亮は俺とじゃなく椿と話していた。そして、尋ねた椿にニヤリと笑うと。
「『施設』だよ。昔、あんたがいて、オレらが『作られた』場所だ」
亮はそう言って、立ち上がると――最初に会った時同様、笑いながら走り去った。
「どう言うことだ?」
……追いかけなかったのは、今の話からするとまず椿に話を聞くべきだと思ったからで。
椿も、同感だったんだろう。一つ息をつくと昔、俺と会う前にいた『施設』の話を聞かせてくれた。