約束はしたけどな?2
(あれじゃあ、水の柱で包んで……ってのも、難しいか)
蒸発する時に多少、湿気で不快感は与えられるかもしれないが、ダメージまでにはならないだろう。いっそ骸骨野郎がアフロとかなら、頭がより爆発して精神的ダメージにはなるかもしれないが。
(俺が、水で体を包んでも……近づけはするが、火は消せない)
そう、あの炎を消せばあとは肉弾戦で解決出来る。
我ながら単純この上ないと思うが、とりあえず方向性が決まったんで俺は水での攻撃を止め、代わりに自分の体とビニール傘を水で包んだ。
「おいおい、粘っても消せねぇって」
骸骨野郎の呆れたような声を無視して突進し、地面を蹴る。
そして相手の懐に飛び込んだ瞬間、まとった水が蒸発したところで――俺は、今度は風の魔法を発動した。風の渦を作り、俺達二人を包み込んだ。
「なっ……ぐぅっ!?」
刹那、炎が消えたのに骸骨野郎が驚いて声を上げる。そんな相手の鳩尾にビニール傘を叩き込むと、骸骨野郎はその場にしゃがみ込んだ。
火を消すには、水の他にもう一つ、燃やす為の燃料になる酸素を奪うって方法がある。つまりは魔法で一時的に真空状態を作った訳なんだが、何とか成功して良かったぜ。
とは言え、すぐまた炎を出されたら大変なんで、今度は相手のうなじに手刀を落とす。
「……っ」
「よし、落ちたな」
横たわった骸骨野郎が気絶したことを確認し、俺も帽子を脱いでその場に座った。
水をまとって、近づいたが――炎は、完全に遮れなかった。帽子や服は焦げてるし、顔や腕も火傷してヒリヒリする。
「杏里!」
普段とは違う、感情を――怒りを露にした声で、椿が俺の名前を呼ぶ。
「あぁ……平気平気。今、治すから」
「何?」
「いや、考えたんだけど……考えてみりゃ、魔法で怪我って治せるんだよな。そうすりゃ、ポモナに心配……はかけるけど。呼ばなくても、何とかなるだろ?」
「……ふざけるな!」
とりあえず、自分の指を切ってみて治せるのは確認している。
さて、治療するかと思ったら――不意に、椿に怒鳴られた。
「馬鹿なお前がそんなことをしたら、図に乗って無茶ばかりするだろうが……ふざけるな、馬鹿っ!」
「……椿」
「解ったら、さっさとあの幼女を呼べ!」
「はいっ」
ビシッ、と天を指差して言う椿に、俺は慌てて返事をした。思わず背筋を伸ばしてしまったくらい、我ながら良い返事だ。
(……って、言うか)
椿でも、こんな子供みたいな(いや、高校生って十分子供だけど)言い方するんだな。




