魔法、それとも?1
夕飯を食べ、風呂に入り――自分の部屋に戻ってから、俺は着替えて部屋を抜け出す。
「……よしっ」
万が一、親に部屋を見られた時の為、ベッドに毛布を仕込んで身代わりである幻影を重ねた。それから腰に前世同様布を巻き、長い髪を帽子に収めて俺はビニール傘を手に取った。
(暑ぃ……今日も、蒸すなぁ)
まだまだ暑さの厳しい時期だ。本音を言えば、Tシャツ一枚で外に出たい。
(とは言え、女だってバレると今以上に舐められそうだしな)
実際、子供ってだけで馬鹿にされる。最強の魔法少女、なんて言われつつも俺が性別の解らない格好をしているのはその為だ。
まあ、親父の漫画のルーンみたいな格好なんて冗談じゃない。コスプレで人気らしいが、あんな格好なんてしたら間違いなく恥ずか死ねる。
俺から言わせれば、こんな細っこかったらもっと薄着でもバレないと思うんだが、椿は許してくれない。
そんな訳で、俺は夏でもTシャツの上にもう一枚シャツを着たり、ベストを着たりして体型を誤魔化している。
(どうせ女なら、もっとグラマーだったら……って、それはそれで鬱陶しいか)
中身は男なんで、胸や尻につい目がいくのは理解出来る。ただそんな視線が、自分に向けられると思うと正直、ゾッとする。
やれやれ、とため息をつきながら俺は部屋の窓を開けた。
「風の翼」
そして、外で待っていた椿の姿を確認すると――窓の縁を蹴り、いつものように魔法を使ってふわり、と地面に降り立った。
※
新学期から数日経ち、ようやく椿の囲み取材は落ち着いた。
流石に、家まで付いて来ないとは思ったが万が一のことがある。そんな訳で、今夜は夜回り再開だ。
「とは言え、今夜は平和だな」
「不満……では、なさそうだな」
「当然。世の中、平和が一番だろう?」
トン、と肩にビニール傘を乗せながらの呟きに、椿が反応する。
元々、戦闘狂な訳じゃないが四月の事件以来、俺は日常のありがたさを痛感した。
(……こいつとも、今まで通りだし)
声に出さずに続け、チラッと隣を歩く椿に目をやる。
好きだと言われたが、結局、俺はこいつに返事をしていない。気まずくなるか、と内心ヒヤヒヤしたが椿は答えを急かしてはこなかった。
(ガキのくせに大人だよな、こいつ)
正直、転生前は自分のことで精一杯で、恋愛なんてまるで考えられなかった。
ただギルドの男達を見ていた限り、もっと年上の男でも色恋に盛っていて、実際に行動に出なくてもかなり挙動不審だった。
(俺には、ありがたいけど)
そう結論を出して、俺はさっきまでの話の先を続ける。
「まっ、平穏の為にも安全第一火の用心だけどな」
「標語か」
「ぶった切って話を終わらせるな、椿」
言葉では咎めたが、すぐに俺は笑った。
……だけどいつも通りのやり取りは、現れた男により終わりを告げた。