幕間 ~左衛~
その日、僕は部屋でとある資料に目を通していた。
『研究材料』による暴走と、それによる撤退。僕の『目的』からは外れていたが、技術には少し興味があったので資金提供はしていた。
(暴走は、想定内だったけどね)
ただ、調べてみると報告に一部、虚偽――と言うか、隠蔽があった。
『研究材料』はその通りだが、その対象が。
「左衛!」
と、ノックも無く入ってきた人物に、僕はつと眼鏡越しに目線を上げた。
無作法だとは思うが、部屋に入ることを許していなければそもそも部屋に入れる為の指紋認証なんてしない。
「どうしたんだい、明珠?」
「これっ、椿じゃない!?」
大きな目。肩までの黒髪の片方をシュシュで結び、制服のリボンはつけていない。
質問には答えず、ズイッとスマホの画面を見せてくる明珠と、その口から出た懐かしい名前に僕は軽く目を見張った。
「椿……?」
見ると僕達同様、成長はしているが確かに昔の面影があった。
けれど、僕が驚いたのは椿の隣にいる娘にも見覚えがあったからだ。
「……面白い、な」
「左衛?」
僕が支援していた『黒城真央』の研究をやめさせた、元凶。
『異世界人』ではなく、それでいて魔法が使える稀有の存在。
手元にある資料。そこにあった写真と同じ顔を見て、僕は眼鏡のブリッジを上げながら呟いた。




