終わり、始まり3
「え、何でだ? 皆、使えないなら今のままで」
「駄目ですよ! また乗り物に轢かれたり、高いところから落ちたりしたら、あたし……あたしっ」
「ま、待て! 解った、解ったから泣くなっ」
途端に目を涙で潤ませた女の子に、俺は慌てた。どうやら俺の死はこの子に相当、衝撃を与えてしまったらしい。
(……まあ、緊急以外は使わなきゃいいんだよな、うん)
自分に言い聞かせるように思った俺に、さっきまでの涙が嘘のように女の子が笑う。
「それなら、多少のことなら大丈夫なように体を強化してー、あ、運動神経を高めて知識を与えれば、より危険から回避出来ますよね? えっと、あとは……」
「……ほどほどでいいぞ?」
「ポモナ!」
「えっ?」
「あたしの名前です。これで、あたしはあなたのものです」
「って、それ、使い魔契約!?」
霊的存在が、主人と認めた存在に真名を捧げることで契約は成立する。
俺は魔法が使えないので知識でしか知らないが、仮にも神がここまでサービスしてくれて良いんだろうか?
困惑する俺の左頬に手を伸ばし、女の子――ポモナはさっきまでとは違う、花みたいに綺麗な笑みを浮かべた。
「ここまで、じゃないです。あなたに呼ばれないと力は貸せませんし、老化による『死』からは守れませんから、せめて出来る限りのことはさせて下さい」
刹那、ポモナの触れたところが暖かくなり、俺は光に包まれた。
「異世界の名は『地球』です。アンリさん、あなたの第二の人生に幸いあれ」
※
「ただいま、エリカ! マイスイートハニー!!」
「お帰りなさい、あなた」
……頭の上で、交わされる会話。
男の声がうるさかったが、嬉しそうなんで止めたら野暮だ。そう思っている間も、二人の話は続く。
「俺のラブリーエンジェルは、もう眠っちゃったのか……せっかく、ぬいぐるみを買ってきたのに」
「枕元に置いておきましょう。明日の朝、目が覚めたらアンリも喜ぶわ」
そんな女性の声と共に、俺の横に何かが置かれた気配がした。第二の人生でも、俺の名前は変わらないらしい。
……でも、ぬいぐるみ? 第二の人生って、本当に赤ん坊からのスタートなのか?
首を傾げた俺の耳に、信じられない言葉が届いたのは次の瞬間だった。
「でも、アンリも立派なレディだからな。そろそろ、リボンや洋服も買ってくるよ」
ち ょ っ と 待 て ?