疑惑1
「おはよう、陸谷さん!」
「……おはよう」
昨日、巻き込んでしまった黒城さんが笑って挨拶してくれた。
椿によると、黒城さんには「友達と二人で偶然、通りかかった」って話したそうだ。だから、昨日助けたのが俺だとはバレていない筈である。
……そう思っても、ついついヒヤヒヤしちまうんだけどな?
そんな俺の密かな苦悩には気づかず、黒城さんは友達らしき女の子達の方へ行った。あの笑顔とか、揺れてる髪とか――癒されるよなぁ、犬みたいで。いや、猫も勿論、可愛いけど。
……少々、ズレた感想を抱きつつ、微笑んでいた俺は気づかなかった。
俺の無防備な顔を見た野郎どもが、傍らの椿に威嚇され、慌てて目を背けたことに。
昼休みは、すっかりお馴染みになった桂花会館へとやって来た。
「廃工場が吹っ飛んだって聞いて、驚いたよ……杏里ちゃんが無事で、本当に良かった」
そう言うと、晴香さんは俺を抱きしめてきた――いやいや、この柔らかさとか良い匂いはちょっと!
焦っていると、椿が俺から晴香さんを引きはがしてくれた。それを見て、色んな意味で(反応の違いとか、椿の手を煩わせたりとか)申し訳ないと俺は素直に反省した。
そんな俺達に、晴香さんが手作りの弁当やデザートを差し出してきた。
おふくろの弁当も美味いが、晴香さんのハンバーグも絶品だ。椿も同感らしく、黙々と食べている。
「あのさ、僕、思ったんだけど」
そんな俺達が、それぞれ昼飯を平らげたタイミングで晴香さんが口を開いた。
「養護教諭の田神先生、怪しくないかな?」
いきなり切り出された内容に、俺は目を丸くした。そんな俺の疑問が顔に出たのか、椿が口を開く。
「黒城と一緒にいたのは、クラスメートも見ているぞ」
「でも、二人が仲良くなったのは……保健室に、盗聴器とかしかけてれば解るよね?」
唇を尖らせて反論する晴香さんに、俺はハッとした――確かに、晴香さんの言う通りだ。
だが、椿の考えは少し違うようだった。
「教師では放課後、お前達が校外の公園で話しているのを見るのは無理だ」
「抜け出したのかもしれないだろ? 昨日もいなかったんだよね?」
「あ、うん」
話を振られて驚いたが、本当のことなので俺は頷いた――だけど。
「だとすると、やっぱり俺が巻き込んだんだよな」
俺が、黒城さんと話さなければ怖い思いをさせずに済んだ。そう思って落ち込んだ俺に晴香さんがしまった、と言うように口を押さえる。
晴香さんって、思い込んだら一直線だよな。それはそれで可愛いけど――そう思った俺は、続けられた椿の言葉にハッとした。
「早いか遅いかの違いだと思うぞ……謎の女は、お前の力を狙っているだろうからな」
「…………は?」
晴香さん以上に唐突な発言に、俺は思わず間の抜けた声を上げた。
そんな俺の視線の先で、デザートの手作りプリンを食べながら椿が話し始めた。




