闇闇1
目の前で、高らかに――と言うより、狂ったように笑う男に俺は眉を寄せた。
男、と言ったが年は二十歳前後くらいなんで、青年って言う方が正しいだろう。そしてさっきは気づかなかったが、俺はこいつを知っていた。
「宮藤……?」
そう、椿が口にした名前。
二年くらい前、俺達が警察に渡した通り魔だ――チッ、未成年だったから釈放されやがったか。
心の中で舌打ちした俺の前には、宮藤がいる。
黒髪に、黒い服と黒いデニム。白い肌と黒ずくめの中、その額の真紅――炎の文様が、鮮やかに映える。
(焼死体はコイツかよ)
晴香さんの話だと、貰ったカプセルを飲んだら魔法を使えるようになったって聞いた。ったく、どこの馬鹿がこの阿呆に……。
「って、待てコラ!」
内心、ボヤいた俺の前で宮藤が踵を返す。声をかけるが当然、止まる馬鹿はいない。
もっとも、黒城さんから離れてくれたのはこっちにとっても好都合だ。そう思いながら、俺は宮籐の後を追いかけた。
闇に溶けてしまいそうな、宮藤の背中を追いかける。
あいつが逃げ込んだのは、少し走った先にあった廃工場だった。そんな宮藤を捕まえる為に、俺も中へと駆け込んだその時だ。
「捕まえた……炎の牙!」
足を止めて振り向きながら、宮藤が呪文を唱えて拳を振るう。刹那、呪文に応えるように炎が俺へと放たれて――避けた俺の背後、壁へと打ちつけられたそれは、消えずに廃工場を燃やし出した。
「……俺も、焼き殺す気かよ?」
「それもあるけど、こうすればあの坊やが入って来られないだろう?」
宮藤の答えに、今度は俺は隠さずに舌打ちした。
俺や目の前の奴は火の属性があるから、魔法の炎には簡単に焼かれないが――椿は違う。
「だからって、ここまですんなよ……イカレ野郎が」
「相変わらず、口の悪いガキだな」
燃え広がる炎の中、余裕たっぷりの相手に俺は眉をしかめた。
宮藤の態度の理由は、俺の魔法を封じたと思ったからだろう。
悔しいがそれは正しい。風だと逆効果だし、水も広い場所ならともかくこの廃工場じゃ駄目だ。すぐに沸騰し、水蒸気爆発を起こしてしまう。
(闇の渦だと、魔力は吸い取れても火までは難しいし……どうすっかな)
「同じことが出来れば、俺はお前なんかに負けないんだ!」
次の手だてを考えていた俺に、宮藤が高らかに言い放った。