きっかけ2
「俺は」
「陸谷杏里さん、ですよね……知ってますよ、同じクラスになるのは初めてですけど」
そう言われたところを見ると、俺と同じ持ち上がり組か――こんな癒される娘が、同じ学校だったなんて。
「いつも、宝生君と一緒にいますし」
だけど、続けられた言葉に俺はハッとした。
これって、黒城さんも椿目当てってことか? だとしたら、俺はどっちに味方したら良いんだろう? ってか椿、本気でリア充だな。爆発しろ。
……心の中でボヤいた俺は、悪くないと思う。
「二人とも、美形な上に何でも出来て……何だか、雲の上の人達みたいで。だからこうして話せるなんて、本当に夢みたいです」
そんな俺に、黒城さんはクシャクシャに撫でたくなる笑顔で言った――落ち着け、俺。相手はれっきとした人間の女の子だ。
「夢なんかじゃないし、雲の上とかにもいない……俺も椿も、黒城さんと同じ高校生だぞ?」
いや、まあ、俺は中身オッサンだし、椿も『普通』って言うと語弊があるけどな?
だけど、距離を置かれると寂しい。それは、椿も同じじゃないかって思ったから、思いきって言ってみた。
「……陸谷さん」
「だから、出来れば敬語はやめて貰えると嬉しいんだけど……駄目かな?」
手当てをしながらだったから、背の高い俺の方が黒城さんを見上げる格好になった。
おそるおそる、そう尋ねた俺に黒城さんがブンブンと首を横に振った。
「ううんっ。駄目じゃない……あの、よろしくね、陸谷さんっ」
そして笑顔の黒城さんに、俺も笑って頷いた。
※
授業に戻り、放課後、家に帰り。
夕飯や風呂を終えた後、俺は家を抜け出した。
一階ではまだ親父達が起きてるが、部屋の窓から抜け出すので問題ない。更に万が一、部屋を覗かれても困らないように、魔法で身代わりは置いてきてる。
……そして椿と合流し、夜回りを始めたんだが。
「キャーッ!」
悲鳴が聞こえたのに、俺と椿は顔を見合わせた。
それから声のした方へと駆けて行き、角を曲がったところで――目にした光景に、俺はギョッと目を見張った。
視線の先にいたのは、尻餅をついたまま後ずさろうとしている黒城さんで。
「触るな!」
そして、彼女に伸ばされた手から庇う為に俺が滑り込むと、目の前の男はクッと唇を歪めて言った。
「見つけた……ハハッ、見つけた、見つけたぞっ!」