きっかけ1
昼休みはのんびり、おふくろの弁当と晴香さんのおかずを食べて。
午後からの授業は、体育だった。しかも、男女揃ってマラソンって――初っ端からキツいな、おい。
そう思ったのは俺だけじゃないらしく、生徒からはブーイングが起こる。まあ、でも、俺らみたいなガキが文句を言っても教師には通用しない。
だから、邪魔にならないように髪を首の後ろで束ね、俺は他の同級生達と一緒にグラウンドを走り出したんだが……。
「きゃっ!」
いきなり聞こえた悲鳴に、俺はギョッとして顔を上げた。
見ると、俺の前を(周遅れで)走っていた娘が、派手に転んでいた。どれくらい派手かって言うと、顔面からグラウンドに突っ込んだくらいだ。
放っておけなくて、俺は転んだ同級生に肩を貸した。
それから、保健室に連れていくと教師に言って、二人でその場を後にした。
「失礼しますー……って、いないのか」
ノックをしたが返事はなく、保健室のドアを開けても養護教諭はいなかった。
(まあ、鍵かかってなかっただけいいか)
そう結論づけると、俺は同級生を椅子に座らせて薬や包帯の入っている棚を物色した。当然、こちらは鍵がかかっていたがその辺りは魔法で何とかなる。
「ちょっと、ごめん」
一応、断ってジャージの裾を捲くった。
それから、擦りむいている膝を手当てした後、顔も擦りむいてないかと思って顔を上げた。
……そして、ジッと見つめられていることに気がついて、軽く目を見張った。
「ご、ごめんなさい! 何だか、夢みたいでっ」
「……えっと」
「あっ、陸谷さんが薄情とか、そう言う意味じゃなくて……いや、あの、本当にごめんなさいっ」
「落ち着いて……ってか、謝らなくていい」
目の前で必死に言い募る同級生に、俺はそれだけ言った。そんな俺に目を丸くしたかと思うと、同級生はふにゃっと笑った。
ツインテールに、大きな目。
クルクルと言うか、コロコロ変わる表情――髪型が耳に見えるせいもあるかもだけど、何か犬みたいな娘だな。
「あの、あたし、黒城真央って言います」
ほのぼのした気持ちになっていると、同級生――黒城さんはそう名乗って、ペコリと頭を下げた。
……名前まで何か、犬みたいだって思ったのは内緒な?