終わり、始まり1
目を開けた時、最初に見たのは涙に潤んだ青い瞳だった。
「……い、ごめ……なさいっ」
「泣くなよ……大丈夫だから」
泣いている女の子にそう言ったところで、俺は気を失う前のことを思い出した。
年は七、八歳くらい。踝までの長い金髪巻き毛と、涙に濡れた丸い頬――服がゆったりとした白いローブに変わっていたが、俺が助けた女の子だった。
咄嗟に頭を撫でてやりながら言ったが、派手に馬に踏まれた割には体のどこにも痛みはない。実際には、馬車に轢かれずに済んだんだろうか? だとしたら、気絶した俺って間抜けだな。
そう自己嫌悪に陥ったところで、俺は今、自分がいるのがさっきまでいた街じゃないことに気がついた。
白い部屋。照明などは見当たらないが、不思議と光溢れる場所。
「あれ?」
治療院だとしても、何だか妙だ。首を傾げる俺の前で、女の子の顔がクシャッと歪む。
そしてますます泣き出したかと思うと、女の子はとんでもないことを言い出した。
「大丈夫じゃないです……だってあなた、あたしのせいで死んじゃったんですもんっ」
「は!?」
俺、アンリ・ガルフィード。二十二歳。
死んじまったってことは、俺ってば享年二十二歳になるのか?
「そうなんです、若い身空で」
「って、俺の心の声に答えるな!」
思わず逃避しちまっての呟きなんで、余計に恥ずかしい。
だから身を起こしながら怒鳴ると、ようやく泣き止んだ女の子が目を見開いた。
あ、まずい。また泣くか?
「あ、あたし、そんな子供じゃないですもんっ」
「いやいや、子供だろ?」
どう見ても子供な相手に、今度は俺が突っ込みを入れた。
……ってか、また俺の心の声と会話を成立させてるよ、この子。
(ンな、解り易いか、俺?)
誓っても良い。声には出していない筈だ。
そんなに顔に出まくっているのかと、両頬をペチペチ叩く俺を見上げて女の子が言う。
「み、見た目はともかく、神ですから! もう、かれこれ数千年は生きてますからっ」
「…………」
何 で す と ?