一難去って…
俺達の通う木犀館学園高等部には、小体育館と運動部の部室が入ってる『柊館』と、図書室や文化部部室が入ってる『桂花会館』がある。
「はい、杏里ちゃん」
「……どうも」
「今日は貰い物だけど、明日は僕が作ってくるね」
昼休み、その桂花会館の一室で。
俺は晴香さんから、可愛くラッピングされたクッキーやカップケーキを差し出されていた。
「あ、お弁当も作るね。そうしたら三人で食べられるし」
「俺も餌付けする気か?」
「どちらかと言うと、お礼かな? 君のおかげで、この空き教室が手に入った訳だし」
そう、うちの学校は三人以上から同好会が作れる。
そんな訳で晴香さんは、俺と椿の名前を使って『幻想文学同好会』を立ち上げた。翌年も継続するなら、何らかの実績は必要だろうが――まずは、人目を気にせず話せる場所を確保した訳だ。
……あの後、晴香さんはすぐに目を覚ました。
そして、話を聞いて驚いた――何でも公園で、知らない女に渡されたカプセルを飲んだら魔法が使えるようになったらしい。
「ロングヘアーの、すごい美人だったよ……あ、勿論、杏里ちゃんには負けるけどっ」
「ハハ……」
力説する晴香さんに、俺は乾いた笑いを浮かべた。別に、そういう気配りはいらない(男なんで)。
でも、俺の魔法について黙っててくれるって言ってくれたし、友達にもなってくれたから、まあ、結果オーライだろう。
「ただ、見たことはないけど……杏里ちゃんのことは、調べてるんじゃないかって思うよ?」
「……えっ?」
「だって、君に近づいた僕を利用してるから」
そう言われてみると、確かにタイミングが良すぎる。ただ、俺も晴香さんが会ったって言う美人には、全く心当たりがないんだが。
「お前は女に弱いからな。しっかり立ち向かえよ」
「ちょっと! そこは、杏里ちゃんを守るべきだろう!?」
そんな俺に、いつものように椿が指示を出すと――俺が口を開くより先に、晴香さんが言い返してくれた。
(友達になったから、誤解は解くべきだよな)
心配してくれる気持ちは嬉しいが、俺と椿はそういう仲ではない。そう言いかけた俺は、だが次の瞬間、耳を疑うことになる。
「好きだからと言って、甘やかす必要はなかろう」
「ってそれ、威張って言うことじゃないよね?」
「俺は、事実を述べただけだ」
「何だか、色々と残念だね。君って」
キッパリ言い切った椿に、晴香さんがツッコミを入れている。
いつもなら、俺の役目だが――あまりにも予想外だったので、呆然としてしまった。
(スキ? 隙とか鋤じゃなくて……えっ、好き?)
動揺のあまり、脳内で一人ボケツッコミをしてから、俺は本題を切り出した。
「Like、だよな?」
「Love、だな」
「……はぁっ!?」
尋ねると言うより、そうであってくれと願う俺に対して。
さっき以上にキッパリと、椿は言い返してきやがった。




