魔法のコトバ2
そんな俺に、キッパリと椿が答えた。
「ならば、使い続ければいつかは魔力切れしてあの文様も消えるな……反撃したくないんなら、相手を消耗させろ。それなら、お前にも出来るだろう?」
……確かに、それはその通りだ。
だから椿に頷くと、俺は蔦の内側から外側へ風の刃を振るった。それから同じ要領で、椿の蔦も切り裂いてやった。
いきなり拘束を解いた俺達に、晴香さんはまた首を傾げた。そして、額の文様をまた光らせる。
「やっぱり、僕から離れるんだ」
「いや、縛られて一緒にいるのは問題ありますから!」
言いながら、俺は持っていたビニール傘を離した。いくら魔法が使えるとは言え、丸腰の女の子相手に武器は不公平だ。
(魔法は、俺も使えるんだし)
「緑の呪縛!」
再び、巻きついてこようとした蔦を今度は魔法の炎で焼き尽くす。ちなみに、俺の魔力なので近くで使っても焼かれはしない。
それが癪に障ったのか、晴香さんは数回、同じ魔法をくり出してきた。その度、風や炎で振り払う俺に、無表情ながらもムキになったのか蔦の動きが変わる。
「緑の鞭っ」
「うぉっ!?」
呪文通り、鞭のように蔦がしなり、俺の足元を狙う。
置いていくのも何なので、ビニール傘を手に取り、俺は椿へと放り投げた。そして地面を蹴り、近くの広場を目指して走り出す!
(夜回りが役に立ったぜ)
幸い、この辺りの地図は頭に入っている。縛られるだけならまだしも、攻撃されるなら路地裏より広い場所の方が良い。それに今更ではあるが、この魔法合戦を誰かに見られる訳にもいかない。
(えっと、あとは……)
ポモナを呼ぶ気はない。もしもの時(対魔法って仮定はなかったが)の為の力と知識を、俺は貰っているからだ。
だから、頭の中でこういう時の対処法を探しながら、俺は目的地に駆け込んだ。晴香さんと椿は、ちゃんとついて来てる。
(よし!)
そして俺はクルリと振り返り、咄嗟に止まれなかった晴香さんの肩に手を置いた。
「……っ!?」
そんな俺と、晴香さんを中心に渦巻く闇。
無表情だった顔に、戸惑いの――そして、驚きの表情が浮かんだ。
今、俺がくり出したのは『闇の渦』って魔法だ。
ブラックホールみたいに光すらって訳じゃないが、魔力は確実に吸い込む。縋るように見つめられたのは、宿っていた魔力が消えていくのを感じたからだろう。
その目を真っ直に見返して、俺は言った。
「晴香さん。俺は物じゃないし、Mじゃないから縛られたり叩かれたりしても、心はあんたのものにならねぇよ」
「嘘をつくな」
「空気を壊すな、椿」
全く、あいつはどれだけ俺をどMだと思ってるんだ。
直ぐ様、ツッコミを入れてきた椿に言い返し、俺は言葉を続けた。
「俺達、やり直さないか?」
「……えっ?」
「しっかり腹割って話さないと、お互いのことなんて解らねぇよ。だから、最初から……もっと、心が近づくように」
……そう、心は力ずくじゃ手に入らない。
親に疎まれ、捨てられた俺は心を凍らせてしまってた。そんな俺の心を溶かしてくれたのは義父さんの言葉だった。
「お前といたら楽しそうだ……なぁ、俺と一緒に暮らさないか?」
魔法じゃなくて誰でも、この世界でも使える『力』だったんだ。
※
「本当、に?」
「あぁ」
否定じゃなくなった言葉に俺は渦巻く闇の中、長い髪を揺らしながら晴香さんに頷いて見せた。
そんな俺の見ている前で、晴香さんの額から緑の文様が消える。
それから目を閉じ、その場に崩れ落ちた晴香さんの体を受け止めて、俺は闇の魔法を解除した。