魔法のコトバ1
「どうした?」
「……いや、何か」
今夜も、いつもみたいに訓練に来ていたが。
犯罪者や変質者に会うこともなく(まあ、流石に毎回は遭遇しない)めぼしいところを見回ってさて、帰ろうかってなった時。誰かの視線を感じ、俺は右肩に傘を乗せながら振り向いた。
それから、そこに立っていた相手を見て思わず声を上げた。
「晴香さん?」
一昨日同様、深夜まではいかないが十時は過ぎている。だけど、目の前の彼女は今日の昼と同じセーラー服姿だ。
そして、同じなのはここまでだった。
晴香さんの顔からは、笑顔が消えていて――その額には、知識として知っている『文様』があった。
「緑の……文様」
「何?」
「向こうの世界の……テルスでの、魔法の一つだ。無機物に自分の魔力を宿して、一時的に光らせたりに、使う……」
そこまで言って、俺は言葉を止めた。そしてまさか、といっそ願うような気持ちで晴香さんを見た。
そんな俺に返されたのは、
「……緑の呪縛」
「っ!?」
この世界では聞かない筈の呪文。そして晴香さんの声に応えて、俺と椿を拘束した緑の蔦だった。
「……これで、君を手に入れられる」
「俺は無視か」
身じろぎする俺の頬に、晴香さんが手を伸ばしてくる。相変わらずな椿は、俺もとりあえず無視しよう。
「晴香さん」
「僕の傍にいて、笑っていてよ……お願いだから」
呼びかける俺の声には答えずに、晴香さんは無表情のままそう言った。
「その為に、こんなことを?」
頬を撫でられながら、めげずに話しかける俺に椿が眉をしかめるのが解った。無視されて怒った……んじゃなくて、俺が反撃しないからだろうな。
そう、魔法を使えば簡単にこの蔦は外せる。
だけど、晴香さんは無機物じゃないから――こうして話せる相手だから、いきなり攻撃はしたくなかった。
「……晴香さんが良いんなら、俺、笑いますよ?」
「えっ?」
「友達なら一緒にいるし、笑うでしょ? ただ、俺は『ルーン』じゃないから」
俺の言葉に、晴香さんが首を傾げる。表情は変わらないが、不思議そうに。
(そんな変なこと言ったか?)
昼間、幻滅されたから友達云々も撤回されたと思ってたんだが。そう思って見返した俺の視線の先で、晴香さんが口を開いた。
「……嘘だ」
「ちょっ!」
いきなりの否定に、思わずツッコミを入れる。だけど、続けられた言葉を聞いて俺は口を閉じた。
「僕こそ、君が思ってるような人間じゃない。つまらなくて弱い。きっと、すぐにがっかりするよ」
淡々とそう言った晴香さんの、額の文様が淡く光った。
刹那、それに応えるように蔦が増し、戒める力が増したのに俺が眉を寄せたその時だ。
「あの文様とやらは、魔法陣みたいに誰かが描いたものか? 遠隔操作で、魔力は継ぎ足しされるか?」
「いや、魔力を込めたらその魔力の属性に合わせて出て……魔力の補充は、離れてたら出来ない」
椿からの質問に、俺は戸惑いつつも首を横に振った。こいつは一体、何が言いたいんだろう?




