幕間 ~晴香~
「はぁ……」
昨日、杏里ちゃんと会った公園のベンチで、僕はため息をついていた。
“ごめんなさい、晴香さん。俺、『ルーン』にはなれないです”
謝った杏里ちゃんに、僕は反論出来なかった。
……宝生君を庇う為とは言え、彼女の言葉に一瞬、でも確かに僕はガッカリしたからだ。
「女に、この辰巳グループを任せられるか」
職業に、男女の差はない――ことになっている。
でも、僕の父親は女の僕には『跡継ぎ』にはなれないって否定して。思うだけじゃなく、子供の僕に面と向かってそう言って。
そんな父親に認めて貰うのに、僕は勉強を頑張るだけじゃなく、男みたいにふるまうようになった。
(本当は、可愛いものとか甘いものとか好きなんだけど)
実の親にも否定されるのに、他人に理解されるとは思えなくて――誰にも、本当の自分なんて見せられない僕だけど。
陸谷先生の漫画を読んで、ルーンちゃんを眺めている時だけはすごく癒されるんだ。
明るく、優しく、一生懸命で。女の子らしくて可愛いんだけど、凛々しくもあって。 妖精って言うか天使って言うか、とにかく彼女は僕の理想そのものなんだ。
「やっぱり、漫画の中にしか……実際には、いないんだな」
呟いてもう一度、ため息をついた僕の耳に。
「諦めてしまうの? せっかくのチャンスを逃してしまうの?」
聞き覚えのない声がしたのは、その時だった。
……上げた視線の先で、紅い唇がキュッと笑みを形造った。