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リバース!  作者: 渡里あずま
第一部

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13/73

憧れの君2

「座ってもいいかな?」

「他にも席は空いているぞ」


 尋ねてくる晴香さんに答えたのは、俺じゃなく椿だった。

 ちなみに私立ではあるが、うちの学校の食堂はレストランみたいな丸テーブルじゃない。長テーブルだし、生徒会用とか決まった席がある訳でもない。

 あ、一応、主張してみたのは携帯小説とは違うってことな?

 椿から、こんなのがあるって読ませて貰った。王道学園物の他、チート転生物も読んだけど――異世界が結構、テルスと似てて噴いた。あれ書いてるの、一人くらいは俺と同じ転生者だと思う。


「僕は、ここに座りたいんだ」

「そうか。じゃあ、俺達は失礼する」

「彼女は置いていってよ。まだ昼休みなんだから」


 ……なんて、俺が現実逃避している間にも、椿と晴香さんの会話?は続いていた。

 相変わらず無表情な椿と、にこにこ笑ってる晴香さん――どうしよう、怖い、怖すぎる。


「こいつは、漫画のキャラクターとは違うぞ……同じだと思って近づいてるなら、馬鹿だし迷惑だ」

「ちょっ……椿!」


 言ってる内容は間違ってない。でも年上とは言え、女の子にきつすぎる……ってか、俺と同じ顔で女の子苛めるなよ複雑だから。

 そう思って晴香さんを見たら、変わらず笑顔のままだった。ちょっ、強いなこの娘!


「……お姫様を守る騎士」

「何?」

「君のことだよ、宝生君。皆、そう噂してる……でも僕、それこそ漫画じゃないと無償の愛って信じられないんだ?」


 笑いながらそう言った晴香さんに、椿は無表情のまま反論しなかった。


「……当然だろ?」


 代わりに言葉を返した俺に、晴香さんは笑うのをやめた。


「こいつは、損得無しには動かない。そんなこと解ってるし……俺も、世の中そういうモンだと思ってる」

「杏里ちゃん……」

「ごめんなさい、晴香さん。俺、『ルーン』にはなれないです」


 頭を下げて、立ち上がる。

 そして俺は弁当箱を、椿はどんぶりの乗ったトレイを手に歩き出した。



 ……晴香さんの思ってるのとは少し違うけど。

 椿は、俺を最強の魔法少女にしたくて一緒にいる。そして俺は『俺』である為に、椿と一緒にいる。

 確かに無償の愛なんかじゃない。バリッバリのギブアンドテイクなんだ。


「お前は、魔法少女って言うよりヒーローだな」

「あぁ? 損得上等って言ってる奴のどこがだよ?」


 そう言って、肩越しに振り向いた俺の前で――椿の口角が微かに、だけど確かに上がっていた。


「俺はお前に救われた。それに『お前といて楽しい』と言うのも、立派なメリットだろ?」

「……そう言うことが言えるなら、もうちょい手加減しろよな? 特に、女の子には」

「却下する」


 すぐ無表情に戻った椿に、俺はやれやれとため息をついた。

 ま、これでこそ椿だからな。

 それからすぐに思い直し、俺は笑って教室へと歩き出した。

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