憧れの君2
「座ってもいいかな?」
「他にも席は空いているぞ」
尋ねてくる晴香さんに答えたのは、俺じゃなく椿だった。
ちなみに私立ではあるが、うちの学校の食堂はレストランみたいな丸テーブルじゃない。長テーブルだし、生徒会用とか決まった席がある訳でもない。
あ、一応、主張してみたのは携帯小説とは違うってことな?
椿から、こんなのがあるって読ませて貰った。王道学園物の他、チート転生物も読んだけど――異世界が結構、テルスと似てて噴いた。あれ書いてるの、一人くらいは俺と同じ転生者だと思う。
「僕は、ここに座りたいんだ」
「そうか。じゃあ、俺達は失礼する」
「彼女は置いていってよ。まだ昼休みなんだから」
……なんて、俺が現実逃避している間にも、椿と晴香さんの会話?は続いていた。
相変わらず無表情な椿と、にこにこ笑ってる晴香さん――どうしよう、怖い、怖すぎる。
「こいつは、漫画のキャラクターとは違うぞ……同じだと思って近づいてるなら、馬鹿だし迷惑だ」
「ちょっ……椿!」
言ってる内容は間違ってない。でも年上とは言え、女の子にきつすぎる……ってか、俺と同じ顔で女の子苛めるなよ複雑だから。
そう思って晴香さんを見たら、変わらず笑顔のままだった。ちょっ、強いなこの娘!
「……お姫様を守る騎士」
「何?」
「君のことだよ、宝生君。皆、そう噂してる……でも僕、それこそ漫画じゃないと無償の愛って信じられないんだ?」
笑いながらそう言った晴香さんに、椿は無表情のまま反論しなかった。
「……当然だろ?」
代わりに言葉を返した俺に、晴香さんは笑うのをやめた。
「こいつは、損得無しには動かない。そんなこと解ってるし……俺も、世の中そういうモンだと思ってる」
「杏里ちゃん……」
「ごめんなさい、晴香さん。俺、『ルーン』にはなれないです」
頭を下げて、立ち上がる。
そして俺は弁当箱を、椿はどんぶりの乗ったトレイを手に歩き出した。
※
……晴香さんの思ってるのとは少し違うけど。
椿は、俺を最強の魔法少女にしたくて一緒にいる。そして俺は『俺』である為に、椿と一緒にいる。
確かに無償の愛なんかじゃない。バリッバリのギブアンドテイクなんだ。
「お前は、魔法少女って言うよりヒーローだな」
「あぁ? 損得上等って言ってる奴のどこがだよ?」
そう言って、肩越しに振り向いた俺の前で――椿の口角が微かに、だけど確かに上がっていた。
「俺はお前に救われた。それに『お前といて楽しい』と言うのも、立派なメリットだろ?」
「……そう言うことが言えるなら、もうちょい手加減しろよな? 特に、女の子には」
「却下する」
すぐ無表情に戻った椿に、俺はやれやれとため息をついた。
ま、これでこそ椿だからな。
それからすぐに思い直し、俺は笑って教室へと歩き出した。




