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リバース!  作者: 渡里あずま
第一部

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11/73

俺は百合さんではないっ!

 転生前、異世界(つまり地球の)知識って言われた時は漠然と「言葉とか、最低限の一般常識?」くらいに思ってた。

 ……だが、やっぱりポモナの大盤振る舞いは健在で。


(首席楽勝な脳みそって、何なんだよ……あー、昨日は恥ずかしかった)


 そう、ついつい試験(エスカレーター校でも一応、受験と言うか進級試験はある)でオール満点を取っちまったので、俺は昨日の入学式で新入生挨拶を任されてしまった。

 おかげで馴染みの顔ぶれにだけじゃなく外部生、更には上級生にもジロジロジロジロ見られるようになっちまった。


(中等部のが、まだマシだったな……一年坊主からのスタートは辛いぜ)


 早く成り上がりたい……そう思う俺の横に、椿の姿はない。授業が終わった後、各運動部の先輩方から勧誘を受けたあいつは「キッチリ断る為に」体育館に向かったからだ。


(自分に勝てた奴の部に入ってやるとか、どんだけ上から目線なんだよ)


 とは言え、上げ底された俺には負けるが流石、神童。中等部の時も同じ条件を出したが、結局、椿は俺と一緒に三年間帰宅部だった。だから、明日からもまた一緒に帰ることになるだろう。

 そんな訳で一人、先に帰ることになった俺は「声かけんじゃねぇよオーラ」を出しながら教室を、そして校舎を後にしたんだが……。


(…………あ)


『ソレ』に気づいたのは、十分くらい歩いた頃だった。

 別にやましいことではないんだが、ついキョロキョロと辺りを見回す。そして、誰もいないのを確かめると――俺は『ソレ』に誘われるままに歩き出した。


「可っ愛いなー、お前!」


 公園、と言うか広場にあるベンチで。

 黒ぶち模様の野良猫を撫で回して、俺はそのモフモフ感を堪能していた。

 男のくせにと思われるかもしれないが、俺は動物が大好きだ。猫や犬は勿論だが、前世で踏まれた馬も好きだったりする――椿には、真顔で「どMか?」って尋ねられたけどな。


(はー……癒されるー)


 笑顔で頬ずりしていると、不意に喉を鳴らしてくれてた猫がピクンと固まった。


「あっ……」

「……ルーンちゃん?」


 そしてスカートの膝を蹴り、走り去った猫を見送る俺の耳に、聞き覚えのない声が届く。

 ……声に覚えはないが、紡がれた名前にはバッチリ覚えがあった。

(また、親父の漫画関係か)

 こっそりとため息をつきながら、顔を上げた俺だったが――声の主を見て、思わず目を見張った。


『ルーンちゃん』って言うのは、親父の漫画『魔法少女マジカル☆ルーン』のヒロインである。

 確か名前が『春花はるか』で『はるるん』ってあだ名からつけた筈だ。

 そんなキャラの名前で俺を呼んだ痛い野郎は、男にしては高い声だった。

 ……当然だ。だって、俺の視線の先にいたのは俺より年上らしい『女生徒』なんだから。


 そう、彼女は俺と同じセーラー服を着ていた。

 長めのショートカットに、高い身長。制服を着ていても解る、抜群のプロポーション。

 美人って言うかカッコ良い感じだけど、目が丸いからきつい感じはしない。

 持ち上がり組だと、先輩でも顔くらいは知ってる。特に、こんな目立つ娘なら一度見たら忘れないだろうが――全く覚えのないところを見ると、高等部から入った外部生だろうか?


「……あの?」

「ごめんね、邪魔しちゃって」

「いや、大丈夫です」


 申し訳なさそうに謝ってくる相手に、俺は慌ててそう返した。

 だってこの娘、肩落としてすっげぇションボリしてんだぜ? 確かに猫との触れ合いが中断したのは残念だが、俺は義父さんから「女性は守るべきもの」って教えられてる。そう、たとえテルスの女性に(魔力で)全く敵わないとしても。

 そんな俺に軽く目を見張り、次いで女生徒は笑ってくれた。

 だがそれに一安心した俺の手を取り、彼女はメガトン級の爆弾を落としてくれた。


「やっぱり、君は僕が思ってた通りの娘だ」

「えっ……」

「僕は、辰巳晴香たつみはるか。突然だけど、僕とつき合って欲しい」

「…………どこへ?」


 相手が男口調なのも驚いたが、自分がこんなベッタベタなボケをかましたのにも驚いた。

 いや、だって、僕とか言ってるけど女の子だし、俺も今は女だし……誰か、嘘だと言ってくれっ!

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