流されて魔法少女2
長い髪を帽子で隠し、動きやすいようにTシャツとジーパンに身を包む。
腰のスカーフは、前世の名残だ。野宿の時の敷物、あるいは怪我した時の包帯代わりに布を巻いてたんで、こういう格好の時はないとどうも落ち着かない。
ちなみに転生前、俺は義父さんから剣の稽古を受けていた。魔法には敵わないがもしもの時、少しでも自分の身を守れるようにだ。
そのおかげか、頭だけでイメージするより、剣(まあ、日本では銃刀法に引っかかるんでビニール傘だが)を媒体にする方が、無詠唱で魔法が使いやすかったりする。
「お前の親父さんの仕事、好評みたいだな」
「ゲッ……」
放火犯を倒した後の、帰り道で。
コンビニに貼られていたポスターは、アニメ化された親父の漫画だった。
断っておくが職業差別をしている訳じゃない。愛する妻子の為に、一生懸命働く親父は立派だ――調子に乗るから、本人には言わないが。
だが、ヒロインが(少女漫画絵になってはいるが)自分そっくりとなると、誰だってこの反応になると思う。
(……あの日、差し入れを届けたのが運の尽きだったぜ)
三年前、おふくろに頼まれて親父の仕事場に、食事や着替えを届けにいった。
そうしたら、ちょうど親父の担当編集者さんと鉢合わせして――その女の勧めで、親父は俺をモデルにした魔法少女漫画を描き出したんだ。
「まあ、似てるのは見た目だけだがな……高校でも、最初のうちは覚悟しろよ」
「……解ってる」
当然、少女漫画のヒロインなんで漫画では普通の女の子(主に喋り方)だ。
だがどうも見た目が似ているせいか、キャラと俺と混同する奴がいる。そして実際の俺を否定したり、逆にキャラを押しつけてくるようになった――ただでさえ、女ってだけで面倒臭ぇのに。
「なら、良い。ふざけた輩は鉄拳制裁で黙らせろ。後始末は俺がする」
「良いのか、それ!?」
咄嗟にツッコミを入れた俺だったが、平然とした椿を見ていると知らず笑みがこぼれた。
こいつは、初めて会った頃から変わらない。こいつの前では、俺は『俺』でいられる。
(年下のガキなんだけどな……照れ臭いから、言わねぇけど)
この異世界でこいつに出会えたことを、俺は密かに感謝していた。
……そんな俺は、気づいてなかった。
椿と二人で歩いている俺を、見てる奴らがいることに。