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テンプ…レ?
石畳の上、暴走する馬車の前にその女の子は突然現れた。
そう、飛び出したんじゃない。本当に唐突に、馬車の前に現れたんだ――って、のんびり考えてる場合じゃないぞ、俺っ!
「……っ」
俺は女の子に駆け寄って、その小さな体を突き飛ばした。耳に虫でも入ったのか、御者が必死に止めようとしても馬は止まらない。抱えて逃げる余裕がなかったからだ。
結果、入れ替わり残された俺に蹄が容赦なく振り下ろされる。
あいにく、鎖帷子や肩当ては役に立たなかった。
痛みと言うより、衝撃を感じたのを最後に――俺は、意識を手放した。