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にゃー子  作者: 泉野 戒
2/4

今朝は、葵ちゃんが自分の机の前で泣いてた。

雑巾で机を拭きながら、泣いてた。

昨日のことで泣いてるんだって思った。

だから謝らないとって思った。

莉奈ちゃんが「にゃーって言ったら喜ぶよ」って言った。

だからわたしは「にゃー」って言った。

ネコの手もちゃんとつけた。

葵ちゃんが手を上げた。

人をぶつ時の上げかただった。

でもぶたないで、そのまま下げた。

また、机を拭く。

わたしは自分の席に戻った。

莉奈ちゃんが来て、わたしのことを褒めた。

どうして褒められたんだろう。

わたし、また失敗したのに。



葵ちゃんは、忘れ物が増えた。

先生に注意されることが増えた。

保健室に行くことが増えた。

休み時間に教室にいることが減った。

笑うことは、なくなった。



今日、葵ちゃんは学校に来なかった。

先生が、腹痛でお休みって言ってた。

わたしはお見舞いに行きたいって思った。

だけど家がわからなかった。

先生に聞いたら、教えてくれなかった。

でも、放課後に咲ちゃんが教えてくれた。

覚えるのは苦手だけど、紙に書いて教えてくれた。

なんとか覚えた。


道に迷ったけど、なんとか着いた。

ちゃんと表札を確認して、それからチャイムを押した。

おばさんが出てきた。

葵ちゃんのお母さんだと思う。

わたしはがんばってしゃべったんだけど、やっぱり上手にしゃべれなかった。

葵ちゃんのお母さんは、変な顔をした。

わたしはどうしようって思って、それでプリントのことを思い出した。

咲ちゃんから預かった宿題のプリントを見せた。

葵ちゃんのお母さんは「ああ」って言った。

プリントを渡したら、ドアが閉まった。

お見舞い、できなかった。



今日も葵ちゃんはお休みだった。

わたしはもう一度、葵ちゃんの家に行った。

葵ちゃんに会いたかったけど、葵ちゃんのお母さんと上手にしゃべれなくて、できなかった。



今日も葵ちゃんはお休みだった。

何か持っていってあげたいけど、お腹が痛いから食べ物はだめだと思った。

それに、お金がなかった。

何も持たないで、葵ちゃんの家に行った。

プリントを渡して、帰った。


お母さんに相談した。

それで、折り紙のつるをあげることにした。

折り紙を貰って、お母さんに教えてもらって、がんばって作った。

でも、上手にできなかった。



今日も葵ちゃんはお休みだった。

わたしは持ってきた折り紙で、つるを作った。

みんなが聞いてきたから、「つるをつくってる」って言った。

そしたら、手伝ってくれた。

みんな楽しそうだった。

ずっと作ってたら、「なんで?」って聞かれた。

わたしは「千個つくる」って言った。

そしたらみんな、変な顔になった。

手伝ってくれなくなった。

また失敗したんだって思った。

だけど、何を失敗したのかわからなかった。


今日も葵ちゃんの家に行った。

今日も葵ちゃんに会えなかった。

早くつるをあげたいって思った。

早く元気になってほしいって思った。


家でつるを作ってると、お母さんが手伝ってくれた。

「仕事はいいの?」って聞いたら、「休憩」って言ってた。

お母さんは、あっという間に1個作って、仕事に戻った。

お母さんはすごいなって思った。


寝る時間になった。

でもわたしはもっとつるを作りたかった。

お母さんにそう言ったら、許してくれた。

いつもより長く起きて、わたしはつるを作った。



今日も葵ちゃんはお休みだった。

つるを作ってると、みんながたくさん話しかけてくれた。

嬉しかったけど、つるを作りたいからあんまりしゃべれなかった。

にゃーって言われて、にゃーって言うのも、あんまりできなかった。

詠美ちゃんがつるを落として踏んだ。

すぐに「ごめん」って言ってくれた。

わたしは、泣いちゃった。

いいよって言いたかったのに、泣いちゃった。

それからは、誰も話しかけてこなくなった。


今日も葵ちゃんの家に行った。

今日は少しがんばって、葵ちゃんのお母さんにお願いした。

でもやっぱり、葵ちゃんには会えなかった。


夜に家でつるの数を数えた。

23個だった。

千個作るのは、無理だと思った。

悲しくなった。

涙が出てきた。

もうずっと葵ちゃんに会えない気がした。

葵ちゃんの病気が治らない気がした。

千個作りたいのに、作れない。

何をしたらいいのか、わからなくなった。


お母さんに、「どうしたの?」って聞かれた。

「千個も作れない」って言った。

お母さんは何も言わないで、手伝ってくれた。

いっぱい作ってくれた。

わたしは、1個も作れなかった。

お母さんのつるは、きれい。

わたしのつるは、きれいじゃない。

わたしもお母さんみたいに上手に作れたらいいのにって思った。



今日も葵ちゃんはお休みだった。

葵ちゃんに来てほしかった。

つるを作るのはやめた。

かわりに、どうしたら葵ちゃんが元気になるかって考えた。

わからなかった。


今日も葵ちゃんの家に行った。

今日もプリントを渡して、すぐにドアが閉まった。

わたしは帰ろうとして、でも帰りたくなかった。

どうしても葵ちゃんに会いたかった。

だけどどうしたらいいのかわからなかった。

それで、ずっと家の前にいた。

暗くなるまでそうしてたら、葵ちゃんのお父さんみたいな人が帰ってきた。

葵ちゃんのお父さんは、わたしを見て変な顔をした。

葵ちゃんのお父さんが家に入った。

少しして、葵ちゃんのお母さんが出てきた。

葵ちゃんのお母さんは、「帰って」って言った。

わたしは帰った。


帰ると、お母さんがいなかった。

テーブルの上に、おかずがラップをかけて置いてあった。

今日は、お母さんが夜の仕事でいない日だった。

幸人にいつご飯を食べるか聞いたら、「そのうち食べる」って言った。

わたしはレンジでおかずを温めて、幸人を待った。

幸人が来る前におかずが冷めたから、もう1回温めた。

お腹が空いた。

でも今日は、誰かと一緒に食べたかった。

だから待った。

もう1回冷めて、もう1回温めた。

5回ぐらいやったら、寝る時間になった。

ご飯を食べないで寝たら、お母さんが心配する。

わたしは一人で食べた。

いつもはおいしいおでんが、あんまりおいしくなかった。

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