2
今朝は、葵ちゃんが自分の机の前で泣いてた。
雑巾で机を拭きながら、泣いてた。
昨日のことで泣いてるんだって思った。
だから謝らないとって思った。
莉奈ちゃんが「にゃーって言ったら喜ぶよ」って言った。
だからわたしは「にゃー」って言った。
ネコの手もちゃんとつけた。
葵ちゃんが手を上げた。
人をぶつ時の上げかただった。
でもぶたないで、そのまま下げた。
また、机を拭く。
わたしは自分の席に戻った。
莉奈ちゃんが来て、わたしのことを褒めた。
どうして褒められたんだろう。
わたし、また失敗したのに。
葵ちゃんは、忘れ物が増えた。
先生に注意されることが増えた。
保健室に行くことが増えた。
休み時間に教室にいることが減った。
笑うことは、なくなった。
今日、葵ちゃんは学校に来なかった。
先生が、腹痛でお休みって言ってた。
わたしはお見舞いに行きたいって思った。
だけど家がわからなかった。
先生に聞いたら、教えてくれなかった。
でも、放課後に咲ちゃんが教えてくれた。
覚えるのは苦手だけど、紙に書いて教えてくれた。
なんとか覚えた。
道に迷ったけど、なんとか着いた。
ちゃんと表札を確認して、それからチャイムを押した。
おばさんが出てきた。
葵ちゃんのお母さんだと思う。
わたしはがんばってしゃべったんだけど、やっぱり上手にしゃべれなかった。
葵ちゃんのお母さんは、変な顔をした。
わたしはどうしようって思って、それでプリントのことを思い出した。
咲ちゃんから預かった宿題のプリントを見せた。
葵ちゃんのお母さんは「ああ」って言った。
プリントを渡したら、ドアが閉まった。
お見舞い、できなかった。
今日も葵ちゃんはお休みだった。
わたしはもう一度、葵ちゃんの家に行った。
葵ちゃんに会いたかったけど、葵ちゃんのお母さんと上手にしゃべれなくて、できなかった。
今日も葵ちゃんはお休みだった。
何か持っていってあげたいけど、お腹が痛いから食べ物はだめだと思った。
それに、お金がなかった。
何も持たないで、葵ちゃんの家に行った。
プリントを渡して、帰った。
お母さんに相談した。
それで、折り紙のつるをあげることにした。
折り紙を貰って、お母さんに教えてもらって、がんばって作った。
でも、上手にできなかった。
今日も葵ちゃんはお休みだった。
わたしは持ってきた折り紙で、つるを作った。
みんなが聞いてきたから、「つるをつくってる」って言った。
そしたら、手伝ってくれた。
みんな楽しそうだった。
ずっと作ってたら、「なんで?」って聞かれた。
わたしは「千個つくる」って言った。
そしたらみんな、変な顔になった。
手伝ってくれなくなった。
また失敗したんだって思った。
だけど、何を失敗したのかわからなかった。
今日も葵ちゃんの家に行った。
今日も葵ちゃんに会えなかった。
早くつるをあげたいって思った。
早く元気になってほしいって思った。
家でつるを作ってると、お母さんが手伝ってくれた。
「仕事はいいの?」って聞いたら、「休憩」って言ってた。
お母さんは、あっという間に1個作って、仕事に戻った。
お母さんはすごいなって思った。
寝る時間になった。
でもわたしはもっとつるを作りたかった。
お母さんにそう言ったら、許してくれた。
いつもより長く起きて、わたしはつるを作った。
今日も葵ちゃんはお休みだった。
つるを作ってると、みんながたくさん話しかけてくれた。
嬉しかったけど、つるを作りたいからあんまりしゃべれなかった。
にゃーって言われて、にゃーって言うのも、あんまりできなかった。
詠美ちゃんがつるを落として踏んだ。
すぐに「ごめん」って言ってくれた。
わたしは、泣いちゃった。
いいよって言いたかったのに、泣いちゃった。
それからは、誰も話しかけてこなくなった。
今日も葵ちゃんの家に行った。
今日は少しがんばって、葵ちゃんのお母さんにお願いした。
でもやっぱり、葵ちゃんには会えなかった。
夜に家でつるの数を数えた。
23個だった。
千個作るのは、無理だと思った。
悲しくなった。
涙が出てきた。
もうずっと葵ちゃんに会えない気がした。
葵ちゃんの病気が治らない気がした。
千個作りたいのに、作れない。
何をしたらいいのか、わからなくなった。
お母さんに、「どうしたの?」って聞かれた。
「千個も作れない」って言った。
お母さんは何も言わないで、手伝ってくれた。
いっぱい作ってくれた。
わたしは、1個も作れなかった。
お母さんのつるは、きれい。
わたしのつるは、きれいじゃない。
わたしもお母さんみたいに上手に作れたらいいのにって思った。
今日も葵ちゃんはお休みだった。
葵ちゃんに来てほしかった。
つるを作るのはやめた。
かわりに、どうしたら葵ちゃんが元気になるかって考えた。
わからなかった。
今日も葵ちゃんの家に行った。
今日もプリントを渡して、すぐにドアが閉まった。
わたしは帰ろうとして、でも帰りたくなかった。
どうしても葵ちゃんに会いたかった。
だけどどうしたらいいのかわからなかった。
それで、ずっと家の前にいた。
暗くなるまでそうしてたら、葵ちゃんのお父さんみたいな人が帰ってきた。
葵ちゃんのお父さんは、わたしを見て変な顔をした。
葵ちゃんのお父さんが家に入った。
少しして、葵ちゃんのお母さんが出てきた。
葵ちゃんのお母さんは、「帰って」って言った。
わたしは帰った。
帰ると、お母さんがいなかった。
テーブルの上に、おかずがラップをかけて置いてあった。
今日は、お母さんが夜の仕事でいない日だった。
幸人にいつご飯を食べるか聞いたら、「そのうち食べる」って言った。
わたしはレンジでおかずを温めて、幸人を待った。
幸人が来る前におかずが冷めたから、もう1回温めた。
お腹が空いた。
でも今日は、誰かと一緒に食べたかった。
だから待った。
もう1回冷めて、もう1回温めた。
5回ぐらいやったら、寝る時間になった。
ご飯を食べないで寝たら、お母さんが心配する。
わたしは一人で食べた。
いつもはおいしいおでんが、あんまりおいしくなかった。




