星の乙女密室消失事件
王国の貴族社会にはいくつかのタブーがある。
その中の一つが、他人の容姿を揶揄することだ。
そんなことをすれば、社交界からつまはじきにされる。
しかし、王子に婚約破棄され辺境地に追放されることが決まった者には、社交界での扱いなどは知ったことではない。
オリビア伯爵令嬢は、王子から婚約破棄宣言された上に、その婚約者の座を奪った星の乙女につき飛ばされる。
「あーら。なんですか、その不満そうな顔は。王子の新しい婚約者となった私に、何か言いたいことでもあるのかしら?」
勝ち誇り嘲り笑う星の乙女。
オリビア伯爵令嬢は、静かに言った。
星の乙女のコンプレックスを直撃する一言を。
「この貧乳女」
「星の乙女が密室から消えたですか?」
追放されてから半年後、オリビア伯爵令嬢は辺境領民の前で心配そうな顔を作る。
「事情はよくわかりませんが、無事だといいですね」
「なんと、お優しいのですか。オリビア様は理不尽な追放を受けても何一つ文句を言わずに、さらに追放した相手を気遣うなんて。オリビア様は星の乙女が憎くないのですか?」
「最高の復讐は相手を許すことです。この辺境地に追放されてきたとき、私は憎しみの思いに囚われてました。ですが、この辺境地であなた方とふれあった時間が、私の心を変えたのです。本当にありがとうございます」
「なんと、もったいないお言葉」
部屋に戻り辺境領民の目がなくなったオリビア伯爵令嬢は、大笑いする。
「ひゃーひゃひゃ。あの星の乙女のバカ、また痛い目にあいやがった。最高、最高よ。今日はいい気分で眠れるわ」
この辺境地でオリビア伯爵令嬢の本性を知る唯一の従者が、あきれる。
「あれだけ星の乙女をけおらせて、まだ足りないんですか」
「そりゃあ、そうよ。あいつに貧乳女と言った時のけおりぐあいは最高だったわ。さあ、領民達に星の乙女が消えた詳細を聞いてきなさい」
「自分で聞けばいいじゃないですか」
「私はここでは聖人君子で通っているのよ」
従者は命令に従い、辺境領民から詳しい話を聞いてくる。
「聞いてきましたよ。不思議な話なんですけど、出入りを厳重にチェックされているはずのお城から、星の乙女が姿を消したそうです」
「なにそれ?」
「お城の星の乙女の部屋に賊が侵入したそうなんです。その賊は捕えられたんですけど、星の乙女の安否を確認しようとしたんですが、お城のどこにもいなかったそうです。出入り口は厳重な監視がされているので、お城の中にいるはずなのに、どれだけ探しても見つからないそうなんですよ」
「それは不思議ね。もう少し、詳しく話してちょうだい」
さらに詳しい話を聞いたオリビア伯爵令嬢は吹き出す。
「ああっ。なるほど。わかったわ。これ、犯人、私よ」
「オリビア様が密室を作ったのですか?」
「密室は偶然そうなっちゃっただけよ。ただ、今回の騒動を引き起こしたのが私なのよ」
「どういうことですか?」
「城から追い出される前に、私はある仕掛けをしていたのよ。あの城で私に何かしようとする奴は、王子の婚約者の座を奪い取ろうとする奴だろうからね。私に何かあった場合は、その黒幕は私のいた王子の婚約者のための部屋に来ることになる。だから、私はあの部屋の備え付けの紅茶の缶に、激辛香辛料をふりかけておいたの」
「あれ?オリビア様、毎日紅茶を飲んでいたじゃないですか」
「仕掛けをしていたのは手前から二番目の缶よ。私がいた時は、手前の缶がなくなったら、三番目の缶を一番目に持ってくるを繰り返していたの。それを知らない、私の後の部屋の主は、やがて二番目の缶を使うことになる」
「意地が悪いですね」
「星の乙女はその激辛香辛料入りの紅茶を夜中に飲んだ。悲鳴を上げて床を転がりまわる星の乙女。その物音で城の警備兵が駆けつける。部屋の中には、声が出せない女が床を転がりまわっている。服装で判別されている貴族は、寝間着姿では本人だと判定できない。警備兵には、その部屋にいる不審者が星の乙女か賊なのかわからない。だけど、判断する材料はあった」
オリビア伯爵令嬢は従者に、一冊の本を手に取って見せた。
それは、オリビア伯爵令嬢が婚約破棄の体験を文章にして、この王国のベストセラーになった本。
従者は真相を理解する。
「警備兵はその女を星の乙女ではありえないと確信してしまった。警備兵は激辛香辛料でしゃべれない星の乙女を賊として捕えて牢に入れた。その後に、いくら星の乙女を探しても見つかるわけがない。ひゃーひゃひゃ。星の乙女の奴、いまごろ牢の中でけおりまくりでしょうね」
「お、男どもが!スケベ男どもが!どいつもこいつも、私を実際に見るとあらかさまにがっかりしやがって。あの本読んで勝手に期待しやがって。くそが。くそ男どもが!くそが。あのくそ女。ふざけた本を書きやがって」
オリビア伯爵令嬢による、婚約破棄回想録。
婚約破棄宣言をされてしまった私は、王子に抗議しようとしました。
ですが、王子が新しく婚約者としようとする星の乙女を見て、これは仕方がないと思ったのです。
男性はそういう女性が好きなものですから。
星の乙女はとても大きなおっぱいの持ち主でした。
おわり




