表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

第四章「はじめての声」

文字だけのやりとりが、

「声」に変わる瞬間。

それは、ただ便利になるだけじゃない。

ふたりの距離を変える、静かな革命。


耳に届くその声が、

自分の想像以上に優しかったとき――

気づかずにいた気持ちが、少しずつ形になっていく。


「……あ、聞こえる?」


その一言で、空気が変わった。

Kuroの声は、画面の向こうから思った以上に近くて、

穏やかで、でも少し緊張していた。


Reiは返事をする前に、深く息を吸った。


「うん……聞こえるよ、Kuroくん」


自分の声が震えていないか、不安だった。

ヘッドセット越しに聞こえる自分の声も、

彼の声も、どこか不思議な実感があった。


(ああ、ほんとに“誰か”なんだ……Kuroくんって)



その夜、ふたりはランクマッチには行かず、カスタムルームで軽く遊んだ。


「Reiって、いつも落ち着いてるよね」

「そんなことないよ。内心いつもテンパってるから」


Kuroの冗談混じりの声に、Reiが笑う。

その笑い声が、Kuroのイヤホンに優しく響いた。


(文字じゃ伝わらなかった“間”とか、“声の色”とか…こんなに違うんだ)


ただのチームメイトじゃない、

「誰か」として存在してることを、Kuroは初めて実感していた。



ゲームが終わると、ふたりはそのままマイクを繋いで雑談を始めた。


学校の話、部活の話、

好きな映画や音楽のこと。


「夏休み、もうすぐだね」

「うん。今年は、なんか特別な気がする…かも」

「俺も。……Reiがいるから、かな?」


沈黙。


その一言に、Reiの心臓が跳ね上がる。


けれどそのまま、自然に流れた会話。

声があることで、気持ちは伝わるようで、まだ伝えられなくて――

ふたりは、その曖昧さに少しだけ安心していた。



通話を終えたのは、夜の10時過ぎ。


「……また、話そうね」

「うん、また。」


通話が切れても、Reiはしばらくその場から動けなかった。

胸の奥が、ぽかぽかと熱い。


画面の通知を見る。

「Kuroがログアウトしました」


その文字に、なぜか小さくため息をついた。


(明日も、ちゃんとログインしてね)


言えなかった言葉を、心の中で繰り返した。


ついに、ふたりが「声」で繋がる第4章。

この章から、物語の雰囲気は明確に変わり始めます。


声の温度、間の感覚、照れと沈黙。

そうした繊細な感情の揺れが、これから何度もふたりの関係を動かしていきます。


次回は、現実世界で少しずつ“Rei”と“凛”の気配がリンクしていく、

すれ違いと伏線の章――どうぞお楽しみに。


――綾城 透夜


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ